『アルテリア施設の攻防』

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 とある企業の高官の汚職記録の一つである、証拠テープレコーダーの再生記録、流されるその声は多分にノイズが混じっていた。

『…・・―――では、その…へ、んは―――宜しく、たの、み――セントさん』

『あぁ、問題……貴方方は利益だけを………壊からの復興に――――だから―――』

 雑音とノイズ混じりの会話記録、再生され始めた最初こそ何を言っているのか解らなかったが、進むにつれ次第に鮮明になっていく。

『ええ、では約束どおりに其方がご所望された件は手配しておきましょう』

『感謝します、例の武器弾薬並びに弾頭を宜しくお願いします。しかしこれで貴方が一気にその椅子を高みへ行かせる事が出来ますな、我々も光栄ですよ。』

 この若い方の言葉には何とも心許ないことを言っている。どう考えてもこの二人はお互いの利害条件が一致しただけであることをテープレコーダーの音声だけでも丸分かりである。そして更に会話は進む。

『しかしあのAFだけでは、そちらのネクストを仕留めきれるかどうか、何分速度自体には難を抱いておりますので』

『その辺の問題なら大丈夫ですよ、こちらから止めは向かわせますので。』

『ははは、それは頼もしい限りです。ではこれで失礼しますよ?』

『ええ、それでは…』

 テープレコーダーはここで終了している。そしてそのテープを再生していた人物は自動で巻き戻されたテープを睨みつけている。睨んでいた目を机の上に置かれている数枚の分厚い物や薄いもの、クリップボードに纏められた資料に移しそれを手に取る。

 一番最初に手にしたのは薄い資料で奇しくもこの時からテロリスト組織に加担し始めた一人のリンクスと活動を活発化させたこのテロ組織がほぼ同時期に行動を開始していたと言う報告書だが、これが一体何の意味があるのかとその資料を放り投げるように机の上に投げ捨てる。

 次に分厚い資料を手に取り枚数を捲って行く。内容は彼らに横流しされた兵器類に武器弾薬、用途不明の弾頭、人員に物資、その他多数諸々を含んだ品々。その中でも特に目を引いたのはネクストパーツと一隻の量産型AFランドクラブと分解された状態でその組織に流された多数のAFの一部一部のパーツ郡だ。長期に渡ってとは言えよくもまぁこれだけの、夥しい数のパーツと物資を大々的に横流しして一度として発覚しなかったなと逆に感心してしまう。終いにはネクストパーツ、一機を丸々組み立ててもまだもう二、三機は余裕で組み立てられるほどの量も渡しているのだ。しかもこの資料を見る限りデータ等からも確信できるわけだが汚職を働いた高官と幹部は一企業に留まらず複数の企業に同様の取引をしていることが解っている。先日強奪されたAFは恐らくその高官か幹部が手引きしたのだろう。でなければAFをそう易々と強奪できるわけが無い。

 しかもその汚職を働いた企業の高官ないし幹部は解っているだけでも、少なくてもGA、インテリオル、トーラス、オーメル、アルゼブラに籍を置く者だと判明し、それら大企業を含めた大多数の中小企業にまでその枝葉が伸ばされている。即ち自らの出世欲や物欲に目が眩んだ屑は有象無象に居ると言うことが証明されてしまった。

 目頭に手を当てて大きく溜め息をつくその人間、当然である。今挙げた企業の中にオーメルとトーラスが含まれている。特にオーメルは政治手腕に優れていることは周知の事実、オーメルが手引きすれば過半のことは情報操作され隠蔽若しくは改竄され尽している筈だ。事細かに細部にわたって。そうなると立証も立件も難しい。

 更に悪いことにトーラスも一枚噛んでいる。トーラスは自分達の研究の成果を確かめるためならそれがテロリストだろうが、イレギュラーだろうが自分達の実験兵器を渡している。しかもコジマ技術に特化しているから尚のこと性質が悪い。オーメルと競合関係とは言え、純粋な意味合いからも若干トーラスの方がコジマ技術で勝っているといって言い。その際たるが『ソルディオス・オービット』だ。安心できることにこの『ソルディオス・オービット』だけは流石に横流しされていないことは解っており、ホッと胸を撫で下ろす。

 しかしながらどの高官、幹部がその汚職を働いたのかすら巧妙に隠されており絞り上げるだけも一苦労だった、今のところ、このテープレコーダーに音声を録音されている間抜けなGAの高官だということは突き止めている。じきに捕まるだろう。

 だが問題はこの取引を持ちかけた人物だ、確実に主要人物であることは間違いないのだが一体どうやって網を掻い潜って企業の高官、幹部と接触し彼らからの手引き及び手助けを受けてその膨大な横流し品を何処に集約させているのか、何をするつもりで集めているのかは全くの不明。ただテロリストであることには間違いはない。何をするにしろテロリストが行うことは言うまでもなく『テロ』だ。最大の問題はネクストにAFまで所有していると最悪、それらで直接テロ行動を起こしかねない。そうなってくると必然と早急な察知が求められてくるが、オーメルが絡んでいる。彼らの管轄化の都市なら感知が遅れたと言って見殺しかねない。彼らならやりかねない。

 ハァ、とまた大きく溜め息を着く。胸ポケットから煙草とライターを取り出して火を着けようとすると横から年代物と思われるジッポが差し出される。

「!!?」

 だがこの人間は驚愕する、今この部屋に居るのは自分だけである。ならばこの手は一体誰なのかと思案するがその手の持ち主は「吸わないのか?」と尋ねてきた、取り合えず煙草に火を着けて大きく吸い込み紫煙を吐き出し、冷や汗を垂らしながらようやく言葉を出す。

「君は誰かね?」

「ハッ、今から死ぬ人間に答える必要あんのか?」

 その言葉と共に冷たくてごつごつとした歪な感触が後頭部の一点に突きつけられる。銃だ、一体どうやって入ってきたのか気になるところだが今は自分の命を案じることが優先だ。

「あぁ、それとこの部屋の監視カメラやら諸々は施設ごと機能を停止しているから妙な真似をしてもお前が死ぬだけだぜ?ったく骨を折らせるなよ、俺は三流だから準備に時間を食うんだよ。」

 そう言うと激鉄が引き起こされる音が聞こえると数発が自分の足と肩をその場で撃ち抜かれ鮮血が室内を赤く染め、悲鳴を挙げてしまう。しかし準備したといってもいくらなんでも全てを機能停止など有り得ない。となると誰かが手引きしていることになってくるが今自分が所属している組織がオーメル傘下であることを思い出す。その瞬間顔から血の気が引いてくる。まさかこんな所まで腐敗が進んでいるとは思いもしなかったからだ。

「どうやら気付いたみてぇだな、まぁ良かったじゃねぇか。ニヴルヘイムへの良い土産話が出来てよ?」

 男はそう告げると引き金に掛けている人差し指の力を強くし引き金を強く押し込む。そして乾いた音が一発室内に響き渡り脳漿と目玉、鮮血が飛び散りこびり付く。男はそれを充分に確認すると部屋を足早に出て行こうとして何かに目が止まったのか足を止め、振り返りその目が止まった物に近づきそれを荒っぽく手にする。ネクストパーツ一覧のようでそれを抜け目なく確認すると邪な笑みを浮かべ、満足したようにその資料を血の海に投げ捨てると今度こそその部屋を出て行った。


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 中近東の広大な砂漠の上を飛行している一機の人型兵器三機ぐらいなら余裕で運べる大型輸送機、その目的地はアルゼルラ領の山脈地帯だがそこに着くまでは、この眼下に広がる広大な砂漠地帯と廃墟と化した都市の残骸と成れの果てを見なくてはいけない。所々に戦闘痕やら破壊され放棄されたAFの残骸なども確認される。ただし無駄にAFを所持、生産しているのはGAだけなので必然とランドクラブの姿ばっかりなわけだが。その大型輸送機の待機室に二人の男女が席を向かい合っている。

 男のほうは体格が良く褐色の肌に焦げ茶の整っていない短髪、そして黄土色の瞳で歴戦の戦士を窺わせる雰囲気でジッと席に座っている。対する女性のほうはボブカットされた赤い髪の先端を脱色して白くしており瞳の色は青、服装は黒を基調としたピッシリとしたスーツに眼鏡をかけている。ネクタイは締められておらず胸元は開いている。これがリンクスでないのなら今頃は超有名モデルでもやっていてもおかしくないほどセクシーな美人だ。

 最もフィルドドとしてはそこよりも無表情で先程からこちらを観察しつつ何やら人型の小型マシンを動かしている方が気になる。AMSを使っているのか、かなり機敏な動きをする。その人型マシンの動きと彼女、今回こちらの依頼を受けてくれたリンクス、テア・リンクスを観察しながら出撃直前での自分が所属している武装組織『Carcharias』の参謀ファングとのやり取りを思い出す。

 今回はアルゼルラ領地の山脈に存在する小規模では有るが一応アルテリア施設である『ポーテンシー』を襲撃、同施設を破壊後そのまま戦線離脱で作戦は完了となる。更に前回エンタピオとフィルドドで強奪したAFイクリプスも同行させている。

 戦略としてはイクリプスが敵戦力を引き付ける、若しくは目を釘付けにさせている間にフィルドドとテアでアルテリア施設に突撃し破壊するという、所謂『電撃作戦』である。スピードと火力が物を言ってくるのが電撃作戦である。圧倒的な速度と火力で敵を潰し一気に侵略するのはどの戦場に於いてもセオリーといえる。また敵陣営がネクストを配備していた場合イクリプスでは数分と持たない。その点も考慮して速やかなる目標の破壊が求められる。

 だがしかし何処か引っかかるところがある。その『何処か』という疑問を上げればキリが無い。元々自分はアルゼブラ専属でありはっきり言ってしまえば、彼らからしてしまえば『よそ者』である。そんな自分にこんな大役を預けるだろうか?他にも小規模とは言え仮にもアルテリアだ、いくら企業がその存在を秘匿しているからと言って全てを隠せるわけが無い。特にブラックゴート社の手にかかれば直ぐに露呈するであろうことだ。最も利益にならないのなら露呈する必要性は総じて無いが。第一全てのクレイドルが落ちているのにも関わらず更に防衛部隊と配備されているであろうネクストや彼が自分に対して隠していることや教えないことも含めると、やはり疑問だらけだ。自分の実力は認めてもらっているがそのほかの点はどうだか…

 あの男、ヴィンセントは信用できない男だ、自身ですら『駒、道具、消耗品』扱いにする。初めから使い捨ているつもりだと酷使した上でとんでもない切り捨て方をする。その行為を目撃してきたからこそ余計に疑問が沸き上がる。

 しかし今ここで行うことは疑問を挙げることではない、言われた作戦を遂行することだ、そうでないにしろ自分には戦う理由がある、いや寧ろ復讐と言った方が当てはまるのだが。

 とここで意識を眼前に戻す、目的地まではまだかなりの距離があり、だからと言って何か彼女のように暇を潰せるような物は持っていない。しかし本当に器用な動きをするロボットだ。先程から様々な動きをしているが目の前に猿が居るかのような錯覚さえ覚えさせる。

 ロボットを見ていたら不意に彼女と目が合う。彼女は微笑んで返してくるがその真意が全くわからない。第一この容姿を持っているにも拘らず何故リンクス等やっているのかすら見当がつかない。先程まで大量の疑問を挙げていた所為か彼女に対しても要らない疑問が浮かび上がってきて少々イラついてしまう。気分晴らしでもするかと思い彼女に話しかける。

「テア・リンクス、と言ったな。君がさっきから動かしているそのロボットは何だ?」

 話の内容や持ち掛ける話題などそっちのけ。要はイライラを少しでも解消出来ればいいのと、この待機しているだけの退屈な時間を潰せれれば良いだけなので適当な話題を振る。

「リンクスで構わないわフィルドド。この子は私がネクストに乗る良く練習していたの、今では大切な私のパートナーなの。」

 そう言うと彼女は目を合わせてきた。この青い瞳に瑞々しい白い肌、靖端な顔付きで掛けている眼鏡がちょっとしたアクセントになり、その美人振りを遺憾なく発揮させている。

「パートナーか。俺にもいたな。最も亡くなったがな。」

 その言葉を聞いても表情を微動だにしない、いやこんなことを言っても反応できる方が難しいし、反応が欲しくて言ったわけではない。直ぐに話題を切り替える。

「いやすまない、くだらない事を言ってしまったな。ところでリンクス、君はどうして我々の依頼を請けた?イレギュラーの依頼だ、君の立場はカラードに登録した所謂企業公認の正規のリンクスだ。我々に加担したら何かと面倒だろう?」

 この問いにも全く表情を変えようとしない、話し方も抑揚が無い。しかしそれでもまともな反応を見せてくれるだけでも有り難い。

「この行為に何か意味があるのか、意味があるからこのような事を行う、だからそれを試してみようと思ったのです。」

「その為に、試すためだけに、世界を敵に回すことも厭わないと?」

 それに対してコクリと静かに頷く。登録された以外のデータを見る限りでは彼女は依頼達成率97%を誇る元イレギュラーだったという。今更世界を敵に回すことに対して何も感じないのだろう。それこそ、これこそ聞く意味が無かったなと自らを一笑する。

 第一、元アルゼブラ専属である自分にこそ聞くべき質問、言われるべきことであるなと思わず苦笑いしてしまう。

「何がおかしいので?」

 その突然苦笑いしているフィルドドを不思議に思ったのか、操作していたマシンの動きを止めて聞いてくる。初めて人らしい仕草を見せたなと感心しつつ口を開く。

「いや、そもそも君は元イレギュラー、そして俺は元専属、今君に聞いたことは寧ろ俺が聞かれるべきことだったな、とそう思ったら顔に出てしまっただけだ。」

「そうですか、ただ私も敵が多い身の上なので仮に加担しなかったとしても、変わることはありません。それに私も貴方にお聞きしたいことがあります。」

 フィルドドは初めて彼女から聞かれる質問が何かを期待して目を合わせる。相変わらず綺麗な瞳だなと思いつつどんな質問が飛んでくるのかを頭の中で考えた。

「なぜ貴方はイレギュラーになられたので?専属なら多少自由が無いだけで何不自由なく生活が出来たと思うのですが?」

 唐突に、しかも自分にとっては核心を聞いてきたので思わず眉間に皺を寄せてしまう。恐らく今の自分は自分でも見たくないほど怖い顔をしているのだろうなと思いつつ彼女を睨みながら語り始める。

「――――――君の言うとおりだ、確かに専属なら何不自由の無い生活も出来たし、その気になればいくらでも贅沢を満喫できただろう。だが俺にとって『そんな』ものはどうでもよかった。」

 フィルドドの顔付きがだんだんと悲しみを孕んでいく。それはまるで恋しく大切な物を失った子供のような顔であった。

「先も言ったが俺より先に亡くなった友人が居てな、えらく優秀な軍人でもあり人間としても優秀だった、何より俺の大切な友人だった。そいつと俺の妹が目出度く結ばれた。その矢先に戦争が起きてな、連中はそいつを戦場に置いてけぼりにし、その時クレイドルに居た、生まれたばかりの赤ん坊を抱いていた妹すら切り捨てた。自分達の身の保身と権益のためだけに助けられる筈の多くを見捨て、切り捨てるべき多くを切り捨てなかった、だから俺はアルゼブラを、企業を見限りイレギュラーになった。ありたいに言えば『復讐』だ。守ってくれなかった企業に対してな。」

「――――その時、妹さんが味わった絶望を彼らにも味合わせようと?」

「ああ、その通りだ、しかしこんな昔話を初見の君に話してしまう俺もどうかしているな、全く以ってどうにかしている――――」

 その言葉を皮切りに窓を見つめ、恋しそうに空を眺め始める。そして会話はそこで終わってしまい形容しがたい気まずい空気が流れ始める。それからフィルドドは一切こちらを向こうとはせず、ただ窓に映る空を眺め続けるだけ。流石に聞いてはいけないことを聞いてしまったかと後悔するがそれはこれから起こることを考えるとそれ所ではない。テアはこれから起きる戦闘に備え、心から戦闘準備を始めるのだった。


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 輸送機が降下目的ポイントへ近づき、機長が待機室にアナウンス放送を入れる。

「リンクス、もうじき降下予定ポイントに到達する。準備をしておいてくれ。」

 そのままアナウンス放送を切り、機長はそのまま操縦に専念する。そして放送を聞いた二人はすぐさま立ち上がり、自分達のネクストに乗り込む。途中から各々でパイロットスーツに着替えた両名はそのまま別々のところで待機していた。フィルドドは待機室でジッとしつつ目を瞑り瞑想して精神統一し心を落ち着けていた。テアは自機の傍らに移動し例の人型マシンを動かしていたときに、その機長からのアナウンス放送が入り即座にネクストに搭乗した。

 そして少し遅れてフィルドドも自機に乗り込み機動を完了させる。そしてテアのネクストにフィルドドからの通信が入る。

「リンクス、先はすまなかった、忘れてくれ。」

 テアはその言葉にただ黙って首を横に振る、その様子にフィルドドは首を傾げる。

「いいえ、その事を聞いてしまった私が悪いんです、お気になさらず。それにこの作戦が上手く行かなかったとしてもそれは貴方に非がある訳でもありませんし、私のせいでもありません。この世に絶対何てものはありませんから。」

「そうだな、その通りだ。」

 テアは静かに語る。それはフィルドドも同意だ、もしも絶対と言う物があればこの世界での絶対は間違いなく『企業』だ、そして『絶対』である『企業』なら妹も友人も守れた筈だし、何より世界はこんな鉄火と闘争で満ち足りて肥えていない筈だ。彼も彼女も至って普通の自らが心のどこかで望んでいる平和な生活と人生を満喫できている筈ななのだから。

 そこにタイミングを計ったかのように機長から連絡が入る。

「リンクス、降下予定ポイントに入った、これよりハッチを開放する。この辺はやたらと風が強い、流されるなよ?」

「了解した。機長ここまでご苦労だった、デスパレードこれより状況を開始。降下する!」

「テア・リンクス、Telomere、同じく降下を開始します。」

「これより本機は君達の降下後即座に現空域からの離脱を行う、よって回収ポイントを予め指定しておくことは出来ない。すまない、私から言えることはこれだけだ、リンクス武運を祈る!」

 この言葉を聞いてから両機はデスパレード、Telomereの順で降下していき輸送機は両機の降下を確認してから旋回し現空域を離脱していった。それを確認するまでも無く両機はPAを展開、機体姿勢を整えOBを発動、一気に加速し亜音速にまで到達しすれ違う雲を切り裂きながらゆっくりと降下していく。

 雲を切り裂きながら突き進みつつ、降下していくと荒れ果てた広大な砂漠とその先に聳え立つ同じように荒れ果てた山脈が確認できる。あの山を越えた先に、その山中に隠されているのがアルテリア施設『ポーテンシー』だ、それを破壊することが今回の最優先重要事項だ。眼前に立ち塞がる障害はことごとく排除するのみである。

 そこで一旦OBを停止させそのままゆっくりと降下していきMBを吹かしながら地面に降り立つ。デスパレードは軽量機のため、そのまま慣性で地面を抉りながら停止し、Telomereは重量機のため慣性はあれどデスパレードほどではなく大きく地面にその足をめり込ませながら着地する。

 突然の襲撃に敵部隊はしどろもどろで対応に困惑しているとテアは迷うことなくグレネードを発射、前方の敵は轟音と共に木っ端微塵となる。上空に居た敵戦闘ヘリもフィルドドが撃ち落すとアルテリア施設目指して強行を掛ける。

「……」

 このときテアは言いようの無い不安に駆られていた。その不安は恐らくフィルドドも感じているものと同じだろう。依頼を請けて、そしてここまで来て本当に今更だが最早パイプライン程度にしか利用価値の無いアルテリアを襲撃する価値と必要性があるのだろうか?

 答えは『否』

 何かしら企業の、このアルテリアを所有しているアルゼブラが新型のAFを製造していて、それを強奪、或いは破壊するものだ、だがそれらしい情報も無く、そうするらなそうすると伝えてくる筈だ、だとしたら何のために?

 その疑問を払いのけるようにブザーが響き渡り敵機の接近を知らせる、前方から接近してくるのはアルゼブラの新基準型EKHAZARタイプのネクスト、逆関節タイプのみがこちらに向かってきている。

「フィルドド、敵が見えました。」

「こちらも確認できている。だがたった一機だけか、イクリプスが上手く誘導してくれているみたいだな。」

「そのようですね、ならばここは私が引き受けます。フィルドドはアルテリアを。」

「了解した。」

 フィルドドはそう短く返答するとOBを発動させ突破を図る。それをさせまいと逆関節ネクストが攻撃を仕掛けようとするところをSALINE05とOGOTOを数秒のずれで発射、グレネードの爆風と巻き上がる土煙で視界を塞がれたところに数秒ずれで放った分裂ミサイルが全弾命中する。

 直撃を受け、頭部カメラをこちらに向けて睨みつけてくる。機体外見が有機的で生物に見えなくも無いのがアルゼブラ製ネクストの特徴だ。緑色なもんだからその有機的な特徴に拍車を掛け、イナゴかバッタにも見えなくも無い。つまりこれを一言で言うなら『生理的に受け付けれない気持ち悪い色』である。搭乗者の意向なのか本当に気持ち悪い色味をしており絶妙なまでに生理的に受け付けがたい色合いをしている。

 これの搭乗者は余程ゲテモノが好みらしいが武装はいたって普通。しかし敵の強さは解らないがやることは一つだ。障害はすべからず排除するのみである。テアは操縦桿を握り締め、両腕の銃器を敵に向け発砲し戦闘を開始した。

 テアに敵ネクストを任せて自分はアルテリアを一心不乱に目指しているが、進めば進むほど言いようの無い不安は音を立てて頭を染めていく。AMSによって脳を圧迫されている感覚も後押しして、それはより一層強くなっていく。いくらイクリプスが引き付けていると言ってもこの数の少なさは異常だ、敵の部隊展開の遅さははっきり言って酷い、第一ネクストだけしか来ないのが腑に落ちない。腕に自信が有っても流石に無傷で、それも二機をアルテリアに通さないなんてことは先ず出来ない。

 施設に近づくにつれ敵部隊も、いや小隊とすら呼びにくいほど数を減らしていく、自分が撃破しているから減っているのではない、明らかに最初から少ないのだ。このパイプラインを使って確保されているエネルギーは高い物だろう。その施設の守りがここまで薄いなんてことはあっていいのだろうか?ここは山脈で攻めるのには苦労するがノーマルや通常兵器郡に該当されることであって、ネクストには攻め難さはどの地形においても皆無と言っても過言ではない。

 現状が更に不安を大きくしていき、頭の中にある男の顔が浮かび上がってくる。まさか?否、そうする意味は?自分達の戦力を削る意味は?無い、だが『やらない』と言う保障は欠片としてない。やりかねないなどと言う言葉は甘い、『やる』男だ、ならば、だとしたら出てくる答えは一つに絞られてくる。フィルドドは知らず知らずのうちに無意識になっており警報機がけたたましく鳴り響いていることに気が付くと慌てて正面に意識を向けると何かがおかしいと思った。

 警報機は鳴り響いているのと対照に前方に敵機が一機たりとて居ない、ならこの警報は一体?そんなとき轟音と共に何かが迫っていることを察知し頭部カメラを前方の空中に向ける。

 そこに映ったのは炎上し機体が大きく大破し、コントロールを失いグルグルと回りながら墜落していっているイクリプスの姿。この姿を捉えたフィルドドはすぐさま構える。この地帯一体に戦力を集中させ、ここに誘き出して各個殲滅するためにワザとネクストを一機しか送らなかったのか、とそこまで考えて暫くその場に留まるのだが一向に何も出てこない。ならばイクリプスが来た方向に全戦力を回したのか?いや、防衛の戦略を考えればそれは愚か者の行う攻めるにしても守るにしても最大の愚行だ、ならば一体なんだ?

 疑問が疑問を呼び、顔中冷や汗だらけとなり玉粒の汗がダラダラと流れ落ちる。そこのPAが自然減衰していっているのが肉眼で確認できた、チリチリと青緑色のコジマ粒子がPAを維持できなくなりつつあるのがはっきりと目に見えた。計器を見てみれば今現在この場所には高濃度のコジマ粒子が散布されていることもわかった。しかし高濃度のコジマ粒子など撒きに来れば一発でばれる、ならば自然とゆっくりとであるがその濃度を上げたことになる。

 この瞬間にフィルドドは目を大きく開く。こんな状態を引き起こせることが出来るのはネクストか、その技術を用いた特殊兵器、そしてAF。

「………売ったのか、この俺を…!この俺を売ったな!?ヴィンセントォォ!!」

 男の名を叫ぶと同時に眼前の高い山脈から白く破れた傘を連想させる形をした浮遊物体がその姿を現す、フィルドドはこれの姿を確認するまでも無く機体を180度半反転させ残っているKPを全てOBに注ぎその場から離脱を図るが上空から雨の如く降り注ぐコジマミサイルによって離脱を阻まれる。大きく下を打つと仕方なく眼前のAFを見据える形で急速後退をかけながら離れていったが如何せん荒れ果てた山脈地帯、その山肌に思い通りの機動を行えずに途中から背を向けて速度を上げて滑走していく内に斜面の終わり、山の麓から戦闘光が見えた、フィルドドは更に速度を上げた。

 高い機動性を生かした三次元戦闘で思ったよりも苦戦を強いられていたテアだが、着実且つ正確に攻撃を当てていき装甲の薄い専属ネクストを追い込んでいく。思ったよりも撃破に時間がかかりそうだ、そう思っていたときにフィルドドから通信が入る。

「フィルドド?アルテリア――」

「そんなことはどうでもいい!!今すぐここを離れるぞ!!」

 自分の質問を押しのけて、息を荒げて鬼気迫る勢いで撤退を促してきた。

「離れる?一体どういうことですかフィルドド、説明をしてください。」

「売られたんだよ俺は!一刻も早くここを離れるぞ!」

 その言葉と同時にPAが自然減衰を始める、これに大きく舌を打つのが聞こえフィルドドの機体は180度反転させ両腕の銃器を構える。そして山脈から破れた傘を髣髴とさせる独特の形をした物体がその姿をゆっくりと現す。

 AFアンサラー、対AF、対ネクスト戦を想定した最新のコジマ技術が詰め込まれたインテリオル=オーメルの共同開発した最新型AF。その展開される高濃度のコジマ粒子は臨床実験クラスの汚染レベルを誇る。もしこれが都市部付近ならば位置都市をコジマ汚染で都市に住まう人々全てを殺せるほどであろう。武装も充実しておりアサルトアーマーを始め、翼部分からの大出力レーザー、コジマミサイル、多連装垂直ミサイルで重装しており先ず並のリンクス、AFは近づくことは困難であろう。また遠距離からの破壊も困難を極める。ライフル弾ですら迎撃できるほどの高性能な迎撃システムを装備しておりこれにより必然と遠距離戦闘機体でも嫌でも接近することを余儀なくされる。

 このことからも過去ORCA旅団に与した一人のリンクスが駆るネクストによって撃墜されたという記録以外でこのアンサラーを撃破できた者はいない。つまり遭遇することは避けるにこした事は無い。戦闘になれば撃墜されることは必然となってくる。

 テアもアンサラーを確認した瞬間、銃器を構え身構える。敵専属ネクストはさっさと離脱したらしくもう姿が見えない。来るかと思っていたが攻撃してくる気配が無い。しかしあまりの高濃度のコジマ粒子によって装甲が少しずつ削られていっている。もしもこのまま嬲り殺すつもりなら一か八かで特攻をかけたほうが余程マシと言える。

 しかしその時だった、上空から敵性反応がレーダーに映り、二機はその頭部カメラを上空に向け光学カメラの倍率を限界まで上げその接近してきている物体を捉える。まだ米粒ほどにしか見えない。しかしこのタイミングでどうして敵の増援なのだろうかとテアは疑問に思っているが、フィルドドは違った。

「このタイミング、しかも敵、まさか…!?」

 フィルドドの動揺は何処から、何に対して来ているのか解らなかったがその米粒だった敵の姿は相当な速度で落下してきているらしく、その機体カラーリングを確認できる距離まで縮まった。真紅以外には僅かに見える黒以外の色はなく、また遠目でも解るほど重装した重量ネクストだということもわかった。

 そこでその紅いネクストは右腕のグレネードを構え、こちらに向け発射した。PAの無い状況下でグレネードの直撃は当たり所によっては即死クラス、即座に回避行動を取り着弾地点から離れる、幸い爆風によるダメージも避けることも出来た。そしてその紅いネクストは速度をろくに緩めずに、勢いもそのままで地面に轟音を立てて着地する。その際に足が地面にめり込むんでも全く気にせずに何事も無かったかのようにゆっくりと歩き出しこちらにそのカメラアイを向けて睨みつけてくる。

「やはり、バスターアックス…!!」

「さっさと死んでおけば良いものをフィルドド…そうすれば俺が出払うことも無かったという物を…」

「態々殺しに来たのか、ご苦労な物だな」

 フィルドドはライフルをその紅いネクストに照準を合わせる、テアも同様にライフルを持ち上げ照準を合わせる、二機からの同時にロックオンされているというのに動じる様子が無い。それどころか向けられてくる敵意は増すばかりである。

 増援として来た敵の機体構成は重装した重量級でその積載量に物を言わせて高火力武器をしこたま積み上げている。どう見ても機動力は低い。少なくともフィルドドの機体なら押し切れるであろう。普通の状態ならの話だが。今現在高濃度コジマ粒子によるコジマ汚染によりPAは元より機体にもダメージが及んでいる。しかも多少なりとも弾薬を消費しているのだ、今ここで迂闊に動いて状況を悪くするわけには行かないが生き残るためにはどうしても敵増援として来たバスターアックスを撃破する必要があった。

「どうした?来ないのならこちらから行くぞ?」

 そのままもう一度グレネードを構え、同時にミサイルを発射する。撃たれたのは近接信管でもろに食らうわけには行かない、特にフィルドドの機体はそうである。そしてミサイルはフィルドドに向けて発射され、彼はそれを必死に撃ち落す。

 だが追加の連動ミサイルも発射してきた。厄介なことにMUSKINGうM02は合計で片方16発、二つ合わせえて三十二発を延々と発射され続ける。ここで近接信管と組み合わされると最早撃ち落すよりも回避したほうが懸命だ、フィルドドは回避運動を取るとこちらに背を向けてテアのTelomere目掛けて突進していった、何とか迎撃しているが立て続けに連射されてくるミサイルと近接信管がそれを許さなかった。

 近接信管と連動ミサイルを乱射しつつ、力ずくで距離を推し進めるバスターアックスに対してテアは動じることなく単調な攻撃をかわし、ライフルとグレネードで応戦するがグレネードだけを避けてライフルは意に介さず突き進んでくる。その分厚い装甲はPAが無くとも大した傷がつかず、まるで猛牛の如く押し寄せてくるバスターアックスを見ても眉一つ動かさない、今度はマシンガンとミサイルで一気に削ろうとしたときだった。

 静観していただけのアンサラーがここぞとばかりに攻撃してきたのだ、高出力レーザーを左足に直撃し融解してしまう。もしPAがあってもレーザー系はPAを貫通してしまうため、仮にPAがあったとしても恐らく融解してしまっただろう。左足を唐突に失い、バランスを大きく崩しその隙を狙うかのごとく腕と背中のグレネードを展開、そして体勢を崩して一瞬とは言え隙を作ってしまったTelomereに対して情けをかけることなく二発のグレネードを叩き込む。

 轟音と共にテアのTelomereだった機体は運よくコアパーツへの直撃を避けることが出来たが既に機体機能は停止しており、頭部カメラからはカメラアイが消えていた。しかしまだ完全に停止しているわけではないようなのだが、通信を通してテアの笑い声が聞こえてきた。

「ウフフフフフフフ……」

 まるで幽霊のような笑い声に少々引いてしまうフィルドド。彼女の容姿を見たことのある人間ならとてもではないが想像できない、何で撃墜されて笑うことが出来るのか不思議でならなかったが、逆に彼女が生きているという安堵感もあったのも確かなことである。

「なにをボッーとしている?お前は確実に死んで貰うぞフィルドド…」

「俺を売って何を手に入れた?」

「今から死ぬお前には関係の無いことだ…それに安心しろ、お前の抜けた穴には代わりがちゃんと入るからな」

「俺より腕のある人間でも見つけたか?」

「なにを馬鹿な、お前より腕は劣るが腕だけが奴の信頼を得れるわけではない、少なくとも『替え』は信頼に足りるそうだ…」

「ふっ、それで俺が不要になったわけか?」

「どうだろうな、奴は必要最低限の情報しか与えてこない、俺もその『替え』がどんな奴かは知らん。だが今お前がここで死ぬことには代わりは無い、そういうわけだ」

 この言葉を聞いてデスパレードを構えさせる。それと同時に両背中の武器もパージ。両腕の武器のみし徹底的な高機動戦闘に最適化させる。重ショットガンと通常型ライフルのみ。両方とも専属時代から長らく愛用してきた武器だ、土壇場でこの二つは最も信用できる。相手はアンサラーとバスターアックス、少なくともどちらかを相手にしても無傷ではいられない。

 先手必勝、動いたのはデスパレードだったがそれより先に動いたのはアンサラーだった、コジマミサイルを四発動時に発射し、更にワザと逃げ道を作っていた、その逃げ道の先に待ち受けてのはバスターアックス、そのまま地面を蹴り上げ宙に浮いた瞬間QBを使い肩を体より前に突き出しそのままタックルを見舞いデスパレードを吹き飛ばす。

 壁に激突しコックピット内で小爆発が起き破片が体に突き刺さる、吐血し視界が霞むその眼前にゆっくりと歩いてくる真紅の機体。

「おさらばだフィルドド。心配するな、お前が見たかった『企業が打倒された』世界は俺達が叶えてやる。だから死ね」

 その言葉と共にコアにグレネードを突きつけたと思ったら、勢い良く腕を引き絞りその長い砲身をコアに突き刺す。轟音と共にコックピットを叩き潰し彼の即死は揺るがないだろう、だがそれだけで留まらず引き金を引き更なる轟音と共にデスパレードは木っ端微塵になり重ショットガンが地面を転がる。

「安らかに眠れ」

 バスターアックスのリンクスは指で十字架を作るとテアのネクストと残骸と成り果てたフィルドドのデスパレードが確実に大破したことを確認してからその場を去った。同時にアンサラーもその巨体を山脈の向うへ消していったのだった…

反省
………………………………………(ぁ
もう、何が書きたいんでしょうか私は…(涙)酷いなおい、いくら『どうすれば何とか落とせるか』を思案してこれはねぇぞ私…、駄目だ暫くの間休止したほうが良い。次の話の土台をきちんと構築するんだ私。
本当にもうこっちはズッタズタだなもう……(涙)

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