『THE BAKANSU!!(昼)』

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 熱く射す日差し、雲一つ無い汚染されまくっているとは思えないほど清々しい何処までも広がる青い空と青い海。多少水位が上昇しているとは言え、それでも国家解体戦争以前からリゾート地で栄えてきたこの地域には戦争の影響はさして受けることなく、そして逆に超資本主義社会が手助けする形となり結果このリゾート地はリゾート地としてより発展することとなる。

 肥えに肥えた企業の上役達が日々の喧騒と打撃を忘れたいためだけに次々と資本と資金を費やしていき、どんどん開発していった。その結果水位が上昇したことなど微塵も感じさせないほどより華やかなリゾート地にへと開拓された。

 同時に普通なら一般人でも極一部、裕福な人間つまり一般的にセレブと呼ばれる人種しか簡単に立ち入ることは出来なかった。しかし世界情勢がそうさせたのだ。一般人でありながらその世界情勢の左右を握っている人種、傭兵も簡単に立ち入る事が出来るようになったのだ。それは生まれを全く問われない職業だからこそ容易にこのリゾート地にも来れる。

 しかし世界の汚染が進むにつれて、まだ多くあったリゾート地も減少し最終的に今現在残ったこのリゾート地など数少ない場所や地域は一般人にも解放されその結果、昔のハワイなどを髣髴とさせるような賑わいと人口密集率を見せている。

 そしてその傭兵と言う職業を良いことに滅多に来れる事のないリゾート地にバカンスに来ているリンクスが居た。貯金も含めて高級ホテルの最高級スイートで泊まれるほどの余裕はあったが、そこまでして高い部屋に泊まりたいというわけではなかったし何よりバカンスを純粋に思う存分に「これでもか!」と言うくらいにまで堪能したいだけなのでその必要は無かった。

 本当なら一人は寂しいがそれは職業柄仕方ないことと自分ひとりで納得している。だがしかしそれでも年頃と言うこともあり一緒に居てほしいと願うのは彼女の年齢なら至極当然のこと。実際父親も今日のバカンスには一緒に来てくれると約束してくれていたのだが突然の仕事で結局自分一人だけの一人旅となってしまって内心落ち込んでいる黒く長い髪の先のほうだけを緩く三つ編みにした少女、有澤専属リンクスの天恒勇。

 彼女は最初大荷物をホテルに持ち込み周囲の視線も感じたがそれを物ともせず、チェックインを始めたのだが従業員から怪しまれること数十分。いやこれは仕方ないといえばそこで終わりなのだが、幾らなんでもこんな16歳の少女がたった一人でこんな高級リゾート地にやってきたのだ、これはオカシイと思われても仕方ないのだ。それからと言うもののご本人確認やら身分証明やら偽証確認やらで到着してからそれだけでもうじき、一時間に達しそうなところでようやく全てが終わり通常通りのチェックインを済ますことが出来、自室の鍵を渡されてそこまでエレベーターで行き宛がわれた自室の鍵を開けて中に入り持って来た大荷物をもう待ちきれないと言わんばかりに放り投げた。一体その華奢な体の何処にそんな馬鹿力があるんだと聞きたくなるがそれは野暮だ。

 そんな大雑把に投げた大荷物の封を解き、中から可愛らしいワンピースタイプの水着を取り出し、ついでに綺麗に丸め込まれた何かのポリ袋みたいなものも取り出す。そしてその取り出したものを、封を解いた荷物郡からこれまた小さな可愛らしい鞄を取り出すとそれに必要な物だけを押し込みOBでも発動したかのように部屋を飛び出していった。そう鍵も掛けていかずに――――。気持ちは解らなくもないが……無用心にも程がある。

 ホテルに遅れて到着した170cmぐらいで黒髪ロングの美女、ベアトリーチェは内心浮かれていた。勿論それを表に出すような人柄ではないし歳でもないしキャラでもない。だがそれでも今回のように彼女からの突然の呼び出しは大体彼女自身が楽しむためだけの物であり、自分はついで扱いが若干多かったりもするがそれでもちゃっかり自分も堪能していることがあるのから口には出さないし顔にも出さないし心で思っても愚痴ることは無い。

 そうして予め彼女、ダンテから指定されていたホテルに入ると男性人の視線が同じ方向に向けられている、ああまたこれかと思いながらその視線の中心に居る女性、自分とは対照的な金髪ロング、それでいて若干小柄な女性のダンテはベアトリーチェを見つけるやいなやいきなり走ってきて飛びついてきた。

「もう遅いですわ、やっと来ましたのねベアトリーチェ。私が呼んだのですからもう少し早くに来てくださいな」

「はぁ…なんでそんなに最初からテンション高いのよアンタは」

「決まっているではありませんか。バカンスですよバカンス?これ以外にテンションが高まる理由などありませんわ」

 思わずもう一度溜め息を吐いてしまう。彼女の私生活は一体どんな物か想像ができないが恐らく自分とは正反対の生活なのだろう。はっきり言うがもしも傭兵業と娼婦などやっていなければ完全な引き篭もりである。毎日何もしないでグウダラな生活リズムでマンガ、ビデオ、ゲーム。自信は無いが恐らくそれだけで一日を終わらせることができる自分を容易に想像できるのだからきっと出来てしまうのだろう。最もそれの一体何処に問題があるのか教えてもらいたいのだが。

 とにかく何時までも抱きついて離れないダンテを無理矢理引き剥がしフロントに向かって歩いていく。その時エレベーターから殺気とも取れる物凄い何かがロビーを駆け抜けていきそれは神速であった。あまりのスピードに良く見えなかったがダンテも同じ反応で「あれ?どこかで見たような?」と言う顔をしているが即座にどうでも良くなりササッとチェックインを終わらせて自分達に宛がわれた部屋に向かった。横に居るダンテを見ると部屋に到着した瞬間襲ってきそうな気がするのは恐らく気のせいにしておきたい。どうせなら満喫してからにして貰いたいと切に願うベアトリーチェであった。

 多くの人々が浮き浮きとした雰囲気だからこそ、逆に浮ききっている人物が居た。その男性は髪の所々が跳ねておりライオンを連想させる彼はレオン。普通に目立つ人物だが今彼を包んでいる沈みきった雰囲気は周囲の人間から避けられており、彼を中心にサークルが出来てしまう。それが今彼の心情を満たしている感情を刺激しより一層落ち込ませる。

 ブラックゴートサンディエゴ強襲事件、GAが核弾頭を使ってハワイを占領し国家を復活させたユナイテッド・ステイツに対して使用しようとしたGAに対し突如ブラックゴート社が反旗を翻し強襲、核弾頭を破壊した事件である。このときレオンはブラックゴート社に雇われたリンクスを撃破した直後に雇い主のGAを裏切ってしまっている。裏切った理由は言っていない、いや寧ろ言えないが正解だ。いえるわけが無いのだ。言った瞬間笑われるか呆れられるのが目に見えている。それどころか理性と知性と冷静な判断を求められる職業についている人間とは思えない発言だといわれて全てを失いかねない。

 だがそれでもその裏切り行為は恐らく方法に伝わり知られていることだろう。つまりレオンは自分の首を絞めたのだ。自由である代わりに金を貰い貰った分の仕事はキチンとこなす、それが傭兵としての最低限のモラルとマナーだ。だがレオンはそれを破った、傭兵としての矜持を保てなくなったのだ。それは傭兵としての存在理由と存在意義を捨てたも同然である。だからこれからどうしようかと悩んでいる。

 本当なら自宅で篭って、それをこれからどうしようと自問自答していたいのだが大事な作戦、それも土壇場で裏切ったのだ。傭兵一人を『事故死』させることなど大企業なら至極簡単だろう。見せしめとして殺されるのは流石に勘弁なのでこういった人が混雑する場所を選んだ、ここなら簡単に殺される心配が無いからだ。

 だが悩み事を持ってきてそれを考える場所としては最大級に向いていないだろう。騒がしすぎる。しかもどのホテルに泊まるか全く考えておらず適当にうろついていたが周囲の視線が鬱陶しくなってきたので目の前にあったホテルに入ろうとすると突然自動ドアが開いた瞬間を狙ったかのように一人の人影が物凄いスピードで飛び出してきた、これには流石に驚いて振り向くと時既に彼方、その人影が海目指してまっしぐらに人混みも何のそのと言わんばかりに突き進んでいくのを「何だアレ」と思いながらホテルに入っていく。当然ながらそこでもどんよりした雰囲気は周囲の視線を釘付けにすることになり溜め息を吐いてしまったのであった。

 海、それは大小問わずであらゆる人々に影響を与える偉大な存在。空、どこまでも伸びていくその光景は何色にも染まる幻想的で人々に影響を与える偉大な存在。そして砂浜で大多数の人々が動き犇きあっている。ビーチで肌を焼いている人や海で思う存分に泳ぐ人物、ナンパに運動、サーフィンなど多種多様、人それぞれであり十人十色である。

 そんな中で相当に周囲からいたい視線を受ける人物が居る、長身でそれなりに鍛えている身体はその周囲に居る自分のパートナーとその友人のことも考えると至極当然のことかもしれないが何分慎重さと対格差があり過ぎる。さっきも警察官やらホテルのチェックインの時やらで大変な目にあった。年齢もあってか信用されるのに相当な時間がかかりそれだけでも疲れ果ててしまったユウだが、恋人のラビス、その友人のフェルは疲れるどころか益々遊ぶ気満々な雰囲気だ。女性ってのはこういう時力強いなと感じてしまうユウ。

 本来なら知り合いだらけで家族と言っても過言ではない人数だったが数人が仕事が入り急遽断念、結果三人だけなのだが……それ以前の問題として低身長な面々が揃い自分だけがその中で突き抜けてしまっているため目立って仕方ない、ある意味抜けた数人に感謝している。フルメンバーだと完全に浮だってしまい結果自分は普段以上の苦労を強いられるからだ。普段からサリアに振り回されてストレス性の神経痛を胃に感じているのだ。ここにきてまで腹を痛くしたくない。

 そして正面には数多くの人間が居る。中にはナイスバディな女性も居る。その女性にほんの一瞬だけ視線をやったら隣から殺気を感じる。慌てて空を仰ぐがその殺気が止まる事がない。紺と白を基調にしたワンピースタイプの可愛らしい水着とその隣の白を基調にしたパレオ付きの同じワンピースタイプの水着を着た少女が二人、ユウに軽蔑の視線を送る。

 彼とて立派で健全な男子だ。プロポーションがプロポーションの二人だ、しかも普段から付き合いのある面々は七海を除けば全員スレンダーな体系だ。申し訳ないがもういい加減そういう年頃のためはっきり言うとそっち方面で言えば少々物足りないと心の片隅で思ってしまっている。

 とは言え、このままでは公衆の面前で私刑にされかねない、彼女は今回愛銃を置いてきているとは言え素手でも充分人一人は撲殺できる。さて本のちょっと魔が差しただけでこれだ、どうやってこの状況を切り抜けようかと思っていると遥か後ろから殺気にも感じ取られる鬼気迫る何かが迫ってきていることを直感で感じ取ったユウは即座にラビスとフェルを抱きかかえその場から離れてから後ろを振り向くと黄色と黒を基調にしたワンピースタイプの水着に片手に浮き輪を持った少女が待ってましたという表情を浮かべていた。

「うぅぅうぅぅうぅぅううううぅううぅぅ………!!」

「「「う?」」」

「ミィィィィイィィイィイイィダァァァァァーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」

 少女は高々と右腕を突き上げてその怒声をビーチに響き渡らせると周囲の顔を気にすることなく、我が物顔で海に向かって突撃し海に飛び込む。その近くに居る人間の迷惑など顧みずに。

「あれって…勇ちゃん?」

「あれ?知っているの?」

「うん、大分前になるけどミッションで一緒になって友達になったんだって…あれ?」

 尋ねてくるユウに説明していると1勇が居た場所に勇が持っていたはずの浮き輪が落ちていることに逸早く気が付く。そして不安が一気に頭の中を過ぎり勇が飛び込んだ地点に目を向けると

「ガボッガボッ……お、溺れ…りゅ・・!!」

 たった今その場に豪快に飛び込み、そして豪快に溺れている勇を見た三人は慌てて海に飛び込み勇を回収する。水を飲んでしまったらしく意識が無い、そこでラビスが人工呼吸処置を行うと口からピュ〜とギャグの如く水が飛び出る。「いやなんだこれ」ではあるが一応的確且つ迅速に行ったので勇はすぐに意識を取り戻した瞬間又しても海に突撃しようとするのでユウが肩を固定する形で押さえ込むと反動で勇の後頭部がユウの額に直撃し二人ともその場で伸びてしまう。慌ててラビスが足の裏を叩いて二人を起こした。

「いったぁぁ〜〜〜い!!」

 と目覚めた瞬間悲鳴を挙げるが何より痛いのはその下じきにされたユウである。勇は問題なさそうだがユウは未だに意識が安定しないのか頭を数回横に振り回している。しかも周囲の視線はもっと痛い、取り敢えずラビスとフェルは意識がしっかりしないユウと今にも海に飛び込みそうな勇を引っ張ってこの場からの戦線離脱を図る。

 ひとまず引っ張って来て冷静になってもらったところで談笑を始める。

「じゃようやく落ち着いたところで紹介するね?彼がリンクスのユウ、それで彼女がユウのオペレーターをしているラビス」

「よろしくね二人とも。僕は有澤専属リンクスの天恒勇、勇みって気軽に呼んで良いよ。とにかくよろしくね二人とも」

 勇はそう言うとユウの手を掴んで握手するとそのままラビスにも握手をする。ラビスと長い間一緒にいるユウも女性に対しての抵抗力があるという訳ではない。どっちかといえば彼の場合は長いこと一緒に居るとこに慣れているだけであり決して女性に免疫があるわけではない。その為握手された際に頬を若干赤らめてしまう。無論それを見逃すラビスではなく再び少々の殺気を帯びた痛い視線を送られる。勿論彼女達の水着だけでも充分頬を赤らめることが出来るのだが何分普段から見慣れてしまっているため失礼な言い方だが刺激が足りない。

 又しても窮地に陥るユウだったが先程の一撃がまだ利いているのか少々ふらついてしまい、危うく倒れそうになってしまう。そこをすかさずラビスが支えるが流石に身長差があり押し潰されてしまう。しかもユウが足のくじき方を間違えてラビスに覆いかぶさる形となってしまう。

「あっ…」

 思わず声を出してしまい直ぐに離れる。落ち着け落ち着けと深呼吸するユウとラビスを見ながら勇とフェルはニヤニヤしていた。

 そんな如何にも初心で微笑ましい光景の少し離れたところでは今海岸に瑞々しい白い肌を波にさらわせて波うちを楽しむ一人の女性にチョイチョイ視線を移しながら周囲を見回し警戒している男がいる。

 金髪碧眼のその男は取り敢えず海パン姿でいるがガンマンハットを目深く被り長時間立ち尽くしているため周囲からは奇人の目で見られているがそんなことをお構い無しにまだそこに立ち続けている。直立不動とはこのことだが良い感じに肌が焼けてきている。そしてその首は忙しく世話しなく動き回る。

「いやぁ…美人ばっかりだ。実に良い。これで今日の夜テアが一緒に添い寝してくれるってんなら尚良いんだがな」

 その言葉が聞こえているか聞こえていないのかテアは呑気に波打ち際で波にさらわれる感覚を楽しんでいる。その白い素肌に赤いビキニが良く似合い更に黒いパレオが丁度良いアクセントとなっている。何が言いたいのかというと。

「いいねぇ、実にそそるぜ」

「お馬鹿なことを言っていないでちゃんと報酬分働いてくださいよクーガー」

 こちらを振り向きながら抑揚のない言葉と共に見つめるテアの姿は正しく美しい曲線を描いている。思わずその姿に見惚れつつも黙って頷くレイヴンを見て再び波にさらわれる感覚を楽しみ始めた。

「波は不思議…楽しいわ」

 ただ単に波にさらわれる事の何処が楽しいのかよく解らないが言っていることに反してAMSを使って確実に操縦しているロボットに目を送ってみるとプロ顔負けのサーフテクニックで見事にサーフボードを乗りこなしている。

 クーガーはどうも疑問に思う。雇い主のテアはゆっくりしたいのだろう、だからナンパしてくる人間を追い払うために態々自分を雇ってまでバカンスに来ているわけであるのだがこれでは逆にゆっくり出来ないのじゃないかと思う。AMS適性が絶望的なクーガーから言わせればプライベートの時ですらAMSに繋がっているなどとてもじゃないが出来ない。しかもあんな高度且つ的確細やかに動かし続けるにはAMS適性が相当高くなくては無理なことだ。それを考えるとテアのAMS適性の高さを正直羨ましく思う。

 しかしながら、やはりあんなことしてて安らげるのだろうか?私生活からこんな事をしているのが彼女なりの日々の送り方なんだろうが彼女だけを見ればとても様になるのだが、そこにロボも入れると全部がぶち壊される。思わず溜め息を吐いてしまう。そろそろ退屈してきたからだ。と丁度その心境を悟ってくれたのかナンパに来た男数人が屯っている。ようやく仕事かと思いながらテアに群がっている男たちに向かって行った。

 クーガーがテアに絡む連中を相手にしている場所より又更に離れた場所では男女問わずで思わず見惚れている女性二人組みが居た。

 片方は太陽の光で艶やかに光り輝く金髪を靡かせて、その豊満な体を惜しみなく押し出しその綺麗な白い肌に合わせた白い水着はあたかも彼女の肌を一体化しているように見え、非常に妖美で悩ましい。

 そしてもう一人は同じく太陽の光で艶やかな黒い髪を靡かせて、白い肌に黒の水着を合わせることによりその綺麗な肢体とラインをクッきりとさせ彼女の美しさを満遍なく見せ付けている。それも勿論非常に妖艶で悩ましい。

 既に十数人がダンテとベアトリーチェの肢体を見ただけで股間に手を押さえる者がいる始末。そこにダンテの微笑が加わった瞬間正面に立っていた男性陣が一斉に背中を向けて前かがみになる。中には急いで海の中に飛び込んで誤魔化す者もいるほど。

「やはり海は楽しいですわ、ねぇベアトリーチェ」

「アンタの場合別の意味で楽しんでいない?」

「まぁそこは気にしてはなりませんわ。ささっ。そこに横たわってくださいな。折角綺麗なお肌が台無しになってしまいますわ」

「え、あたしが先にアンタの」

「だ〜めですわ(妖笑)」

 この妖笑した時は何を言っても無駄だということを過去実証済みなので渋々従うことにする。因みに逆らった場合はこういう開放的な場所であろうと、逆に燃え上がるタイプらしく行為に浸ろうとする。つまり逆らった場合の方が圧倒的に危ないということである。なお作者としては欲を言えばその逆らった時の方を是非拝ませていただきたい。

 取り敢えず用意しておいたビーチパラソルとシートを敷きその上に横たわる。ベアトリーチェが自分でビキニの紐を外そうとするがダンテがそれを止める。

「ダメですわ、こういうのも外すのが愉しいのではありませんか」

 もうダメだ、完全にスイッチが入ってしまっている、とベアトリーチェも完全に諦めて成すがまま、されるがままを覚悟する。と言っても彼女自体も満更ではない。ただ黙って従うのは癪に障るというか悔しいというか、とにかく理由がないとダメなのだ。

 ビキニの紐を鼻歌歌いながら外していく。横たわっているベアトリーチェの胸が砂地に押し当てられ僅かながらはみ出ている。普段大体ダンテに視線が集中し隠れがちだが彼女自身も相当胸が大きい。野郎連中の厭らしい視線が注がれるのを肌で感じるが別に見られて恥ずかしい体をしているわけではないので見られることに問題はないが「あまりジロジロ見ると法外な視聴料取るわよ」と思わず言いたくなるほど視線が集中している。

 ビキニの紐を外した当の本人ダンテはと言うと未だに鼻歌を歌いながら持ってきたバックを漁っている。とっくの昔に見つかっていてもおかしくない筈だがこの場面でも楽しんでいるなと直感する。それを考えたタイミングで日焼け止めクリームを取り出す。それを手の平に適量を出しその手をベアトリーチェの背中に塗っていく。

 非常に手馴れた手つきで隅々まで塗ったぐっていく。が・・・。

「ん、ちょっと…どこに手を入れているのよ」

「何処にって『何処に』ですわ♪」

 背面の隅々まで塗り終えて次は紐を結ってバトンタッチするのだが、因みに表の方は流石に事前に塗っておいた。真昼間からでは敵わない。しかしそれにも関わらずダンテはベアトリーチェの砂地に押し潰された豊満な両方の胸に両手を突っ込んできたのだ。予想外ではないにしろ突然のことにそっちの声色が少しだけ漏れてしまう。ダンテにいたっては満面の妖笑でこれっぽちも悪く思っていない、彼女にとってこの状況ですら『一環』に過ぎないらしい。長い付き合いで今更ではあるが改めて再確認及び再認識察せられた。

「あれ?お姉さん達何しているの?」

 自分も少々その気になっている時に聞き覚えのある少女の声に思わずその興奮もお互い萎れてしまう。その声のした方向に二人で顔を向ける。そこには黒と黄色を基調にしたワンピースタイプの水着を着た勇と見慣れない少年と背丈の小さすぎる少女が二人居る。ダンテは『ソッチ』の趣味のある少年だと思い、ベアトリーチェも『ソッチ』の趣味のある男か兄妹かと勘違いする。世の中広いからそういう趣味のある人間はウンザリいる。

 勇達の視線は二人は何をしているのか興味津々で、ダンテはこのまま胸に入れている手を動かして真昼間から性教育を実習をしても良いかと思い腕を動かそうとするがここでベアトリーチェに睨まれ手を抜く。その時に丁度胸の部分の一番敏感な部分をワザと触り、引っかかるように引き抜く。思わず完全にスイッチの入った声を出してしまい周囲、特に男性陣が前かがみになる男で溢れかえった。目の前に居る純朴そうな男子を除いて。そして耳元でこう囁く(今夜たっぷり愉しみましょう)と。その言葉で赤めていた顔を更に赤めてしまう。

 今何をしているのかさっぱりな勇達に先程までの妖美な笑顔を消して、何時もの人の良い笑顔を作る。

「ふふっ、お久しぶりですわねお嬢さん。お友達も御一緒に私たちと遊びません?」

「遊ぶって、何して遊ぶつもりよ?」

「何を言っているのですかベアトリーチェ。ビーチバレーにお互い一緒に泳ぐなど、ヤれることなど沢山あるじゃないですか」

「いま何となく一部一言だけイントネーションと意味の違う言葉に聞こえたけど…いいわ。聞くのも面倒だし」

 ベアトリーチェはそう言ってソッポを向く。赤くなってしまった顔を見られたくないというのが本音だがここでこの顔を見られるわけには行かない。そういうことで明後日の方向に顔を向ける。

 取り敢えず論議の結果、浅瀬ではあるが海に入りそこでビーチボールを楽しもうということになった。普段どおりの顔に戻したベアトリーチェは砂浜でその行為を静観すると言って聞かずその意思に従い彼女だけがビーチパラソルの下でビーチボールをただ見ているだけの状態でそれ以外のメンバーはビーチボールで楽しそうに遊んでいる。

 勇、フェル、ユウ、ラビス、ダンテの順で巡る巡るボールを回していく。そして一巡していく度にユウも含めた男性陣、そして女性陣の視線が段々とダンテに集約されていく。

 ボールが彼女に回るたびに、その目のやり所に困る肢体を隠すことなく惜しみなく見せ付ける。そしてユウとは一つ違いなだけなのだが身長もスタイルも大差があり過ぎて今までそのスタイルとプロポーションに全く気にすることはなかったが、今ダンテの肢体を見ると嫌でも自分の貧相ッぷりを気にしてしまう。スタイルはともかく何で身長はこんなに小さいのだろうと。

 フェルも同様であった。身長はラビスよりもあるのだが残念ながらスタイル、プロポーション共に失礼だが物足りない。ボールが回った時のダンテと自分を何回も見比べてしまう。そして少々テンションが勝手に下がってしまう。

 そんな中で勇の番でボールが回った時だった、何を考えたのか勇はボールに手を伸ばさず、手を差し出されなかったボールは小さいながらも波に着水した時に波紋と水飛沫を立てて海面に落ちてプカプカと浮かぶ。そして勇は何を考えているのかワナワナと震えている。

「い、勇ちゃん…?」

 フェルが恐る恐る尋ねるが勇は無言を貫き、周囲にはリゾート地にも関わらず静寂が支配した。ただ空気を読まないで騒ぐ馬鹿ップルと波打ち際の音だけがこの場を支配していた。

 そして勇の視線がダンテを嘗め回すような視線を送り海に隠れている足の脛の部分から綺麗なラインを描く太股を登り、腰周りとその付近、そのまま腹にいき臍、腰のくびれ、そしてそのたわわで豊満な胸をいき鎖骨と首、そして頭の天辺まで、まじまじと見続ける。その上で自分の体を同じように見ていき、やがて震えが止まる。そして突如ダンテに向けて人差し指を突き出す形でダンテを指差す。

「……………………………………うぐっ、見事だな!!ダンテ!!しかぁぁし自分の力で勝ったのではないぞ!!そのビギニの性能(?)のおかげだということを…う、ぅぅ…どちくしょおおぉぉぉ〜!!」

 何処かで聞いたようなセリフを残し、勇は『う゛わ〜ん!!!!!』と大声で泣きながら、またしても遥か彼方へ走り去ってしまう。しかも浮き輪を持っていくのを忘れて。

「あ、い、勇ちゃん何処に行くの!?」

 そんな勇を案じてかフェルも勇の後を急いで追うが、どういうわけかOBを発動させたネクスト並みに速く後姿を捉えるのが精一杯だった。気のせいか飛び散る涙と水飛沫がOBを発動させた場合の発光するコジマ粒子にも見えなくもない。

 取り残された残りの面々は気まずいムードでどう動こうかと思案していたがそれはラビスとユウのみで、ダンテはケロリとした顔で、

「ここではなんですし、私たちは商店街にでも行きましょうか?」

 と申し出てきた、ベアトリーチェは何時の間にか持ってきていた道具を全てしまい帰り支度を済ませている。なんて手際の良さなんだとユウとラビスは感心するが、それ以上にこの状況下で平然とそういう発言が出来るダンテに驚いていた。大物かもしれないとユウとラビスは心底思った。なお今夜一人寂しい野郎共はダンテをおかずにしたのは言うまでもない。

 テアにナンパしてきた男共と口論をしている時に後ろから『う゛わ〜ん!!!!』と言う変な雄叫びとも叫び声ともつかない泣き声に反応すると逸早く何かが急接近してくるのを察知しそこから退くと向こう側から宛らOBを使っているのかと思わせるほどのスピードで走る勇が口論していた男たち数人をまるでボウリングのピンのように弾き飛ばす。しかし勢いが止まることはなくそのまま遥か向うまで走り去ってしまった。ついでにその後を追いかけてきた少女が吹き飛ばされた男共を踏み潰していく。

「あれは……天恒勇か…!こんなところで出会えるとはとんだサプライズだ」

 感心しているクーガーを余所目に何事もなかったかのようにテアはロボを操縦しつつ波にさらわれる感覚を楽しんでいる、大物だな、とクーガーは心底思った。


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 リゾート地の目玉は言うまでもなく海である。しかし海だけが名物ではない。多くの人々が海目当てで観光に来ているが逆に他の多くの人々は商店街、つまりリゾート地でお買い物がメインの観光客だって居る。綺麗な桜色のロングヘアーを靡かせつつその手で薄い青色の髪で目元が隠れた青年をその容姿に似合わず、ズリズリと引きずっている。なお青年は全力で拒絶して足を踏ん張っている。

「ほぉらお兄ちゃん・・!いっぱいたのしもぅねぇ〜…!!」

「やめてよクレン、僕は静かに本を読みたいだけなんだから…」

 そう言って片手に小説を持っている青年は心の奥底から全力で拒否しているが、腕を掴んでその華奢な体で兄を引っ張っている妹は聞く耳を持たず更にズルズルと商店街の奥地へと引き摺って行く。

「ダメだよお兄ちゃん、引き篭もってちゃ治るものも治らないよ!?」

「で、でも、ひ、ひっ、人がこんなに沢山居るし…!」

「ウダウダ言ってないで、それとも」

 今まで引っ張っていた腕を離し、愚だつく兄に振り返ると人差し指をゼクの顔の前にビッと立てる。

「可愛い妹の頼みが聞けないの?」

 力強い眼差しで唯一にして最愛の妹の頼みとあらば断れないから渋々来たのだが、やはり過去の事件が原因で人間恐怖症に陥り今でもこの状態だから本来なら自宅で引き篭もって小説か本を延々読んでいたいのだがそんなことをすると生活できなくなる、何よりゼク自身の人間恐怖症を直せなくなるという理由で何かとゼクを外に無理矢理引っ張り出しては連れまわす、しかもクレンはお決まりの言葉「可愛い妹のお願いが聞けないの?」で毎回それで付き合わされている。

「それにか弱い少女一人にさせて、重たい荷物を運ばせるつもり?」

「そ、そんなつもりはないよ」

「じゃあ何時もみたいにお願いねお兄ちゃん」

 満面の笑顔でニッコリ微笑むとクレンは再び振り返りスタスタと歩いていく。自分はどうもあの笑顔に弱いらしいと思わず大きく溜め息を吐いてしまう。そうしている内にクレンはどんどん先に進んでいってしまっている。慌ててその後を追いかけるゼクのその姿は何とも微笑ましい光景だった。

 栗色の長いストレートヘアーを涼やかにそよぐ風がそのサラサラと靡かせて買い物袋片手に歩くクレオはどうも周囲の人間に溶け込めずにいる。他人と自分は違うということを理解しているのだがどうしても違和感を感じてしまう。その違和感が難なのかを理解するのに難儀している。一体何処でこの違和感を覚えているのだろうかと思い思わず立ち止まり周囲をせわしなく見渡す。

 注意深く、それこそ一人一人を注視して行く。何処も彼処も特段変わった所がない。だがそれでも自分と同じように一人の人間も居る、だがそれでも自分との違和感を覚えてしまう。一体何処に違いがあり違和感を感じせざるを得ないのかを考え込み悩んでしまう。

 と、その時後ろから声を掛けられていることに気が付き慌てて後ろを振り向くと片手に持っていた買い物袋を当ててしまう。

「あ、ごめんなさい、ついボッーとしてしまって…」

「いや、気にしなくて良いぜ?俺としてはこんなところで一度しか会っていないが顔見知りに会えると思ってなかったからな」

 振り返ればフォーマルスーツに身を包んだ一度だけだが、以前ミッションで知り合ったリンクス、ヴァレリオ・ザントだった。

「貴方は、こんなところでお会いするとは思いませんでした」

「それは俺も一緒だ。商売でならお得意さんのリンクスは結構居るが、傭兵としてのリンクスは殆ど知らないからな」

「商売?なにか営業でも?」

「ああ、俺は副業で、というより元はこっちで食っていたんだがな、途中でリンクス始めたんだ。こっちの方が儲かると思ってな」

 ヴァレリオが差し出した名刺にはしっかりと武器、パーツの仲介屋としての名義が記載されており、リンクスとは別のアドレスなどが記載されていた。

「そういうお方でしたか、ということは、ここにはお仕事で?」

「ああ、まぁ商売を兼ねた休息だな。お得意様も今日はここに来るって言っていたんでね。社会人としての基本だが仕事のときはどんな場所でもスーツって決めているんだ」

 小柄だがスーツをピッシリと着こなしている。背丈が小さい分体格ががっしりしており背丈の小ささを感じさせない。

 だがクレオはこうして話してもらっていても、やはりどこかで違和感を感じてしまっている。この違和感は一体何なのだろうかと思い思わず俯いてしまう。これを見たヴァレリオは顔を傾ける。何か不味いことでも言ったのかと思い怪訝な顔付きになり心配したのか声を掛けてくれる。取り敢えず大丈夫ですと返答するがそれでも顔色は暗いままだ。

「すみません、ヴァレリオさん、私やることを思い出しましたのでこれで」

「そうか、残念だな。どうせなら飯にでも誘おうと思ったんだが。無理に引き止めるのもアレだしな。じゃあな」

 そう言ってクレオは早足でその場から立ち去ってしまう。それを見つめるヴァレリオは何かしたかなと左頬から首筋にまで伸びる傷跡をポリポリと掻く。取り敢えず自分があれやこれや考えても仕方ないと思いまた歩き出す。実際今言ったことは正直な話割と真面目であったが誘ったとしても疚しい心とか抜きで誘いそのまま終了するつもりだった、それに誘っても今は先客が居る。残念ながら全部においてまたの別の機会となる。

 スタスタと歩いていき、途中の安そうな何処にでありそうな喫茶店に入る。店内に入ると取り敢えずきょろきょろと店内を見回す。そして奥の方に居るにも関わらずやたらと目立つ男女が居るのを確認するとそこに向かって歩き出す。

「失礼、貴方が今回俺にコンタクトを取ってくれた人かな?」

 持っていたコーヒーをテーブルに静かに置くとその男はヴァレリオを見つめる。

「意外と若いな、聞いた話だけだともう少し老けている印象があったんだがな」

 少し茶がかかった髪に左側の一部を紫に染めている男は唇を歪める。顔色は良いとは言えず蒼白に近い。もう片方の長く美しい桜色の髪の女性は無表情で淡々とPCを弄っている。

「立っているのもなんだ、座ってくれヴァレリオ・ザント。今日君にはビジネスで来て貰ったんだ。その当人が何時までも立ちっぱなしと言うのも面白くないだろう?」

 確かに喫茶店で何時までも立ち尽くしているのは目立つし怪しいことだ、顔色の悪い男の言うことに従い相対するように席に座る。

「で、お宅ら一体何者かな?突然俺のPCに名称不明で来たと思えば、そこに載っていた内容が『商売してほしい、直に会ってな。指定する日時と場所にすんぷん違わず来てくれ。快諾を待っている。』なんてふざけた内容のメールを送ってくるには理由があるんだろうな?」

「単刀直入に言うとね、私はテロリストだ」

 この言葉を聞いた瞬間持っていたコップをテーブルに置き席を立とうとする。

「何処に行く気かな?」

「帰らせてもらう、悪いが商売する相手は選ぶんでね」

「そうか、なら君の好きにしたまえ。最も…」

 男が手を挙げると赤外線レーザーが向けられていることをハッキリ解るように見せられる。苦虫を噛み潰したような顔で顔色の悪い男を睨みつける。殺気を込めて睨んでいるのだが睨まれている本人は涼しい顔でコーヒーを飲んでいる。仕方なく席に戻り水の入ったコップを手に取り口に運び一気に飲み干す。

「それでいい。ここに来た瞬間から君には拒否権は与えられていない。君が無傷で無事にここを出るには私とビジネスをして、こちらの注文を請けてそれを発注してもらう。ただそれだけだ。それとも死の商人が武器を売る相手を選ぶとでも?」

 死の商人、それはあながち間違えてはいない、自分のやっていることは企業のやっていることの延長でしかなく、そして売った武器で人が死ぬのだ。だからこの男の言っていることは間違えてはいない。しかしこのテロリストに言われると非常に腹立たしい。彼等テロリストが最大の死の商人と言っても過言ではない。そんな連中の言うことに従わらねければならないことが一番腹立たしい。

「そう怖い顔をするな、こんな事でもしなくては君はまともに話も聞いてくれないだろう?それに君は悪魔でも売る側であり、私は買う側だ。そして少しでもフェアにするためにこちらの足元を見て高額にしてくれても構わない」

「ほぉ、良いのか?法外な値段にしても良いんだぜ?」

「こちらは既に卑怯な手を講じている。私としては穏便に事を終わらせたいしそれは君とて同じだろう?」

「ついで聞くが…もしも俺が断っていた場合はどうなっていたんだ?」

 この問いに対して顔をニヤニヤさせながら再び手を挙げて店員を呼んだ、それと同時に店の外で歩いていたカップルの男性の方が突然頭から血飛沫を出してその場に脳漿をぶち撒けて倒れこむ。そしてその飛び散った血飛沫と農相が店の窓ガラスに飛び散り付着する。外も内も大混乱を起こし騒動となっている。ヴァレリオも口を空けて呆然としているが顔色の悪い男は何事も無かったようにコーヒーを啜る。

「さぁ、ビジネスをしようか?」

「てめぇ、無関係の人間を殺すってのはどういう了見だッ!?」

 この答えに対して男はクスクスと笑い声をだし、体を震わせている。そしてヴァレリオに顔を向けるがその表情は完全に兇刃の物であり同時に始めて人間らしい表情を見せる。

「ヴァレリオ・ザント、俺の兄はこの世界と企業と偽善者が殺したいほど嫌いなんだが、困ったことに俺は企業に支配されることを選び、飼い殺される家畜であることを選んだ一般大衆が殺したいほど嫌いなんだよ。つまりなんら無関係の一般人を目の前で射殺しても俺は何とも思わない、そもそも自由意識を無意識レベルで失っているも同然であり同義である有象無象の家畜一匹殺しても何とも思わないし、寧ろせいせいするんだ俺は。ここまで言えば解ると思うがこれ以上断るなんて行為をしないほうが良い。君に死なれるのは困るが無関係の一般大衆をこの場で皆殺しにすることなんて俺は何とも思わない」

 顔から血の気が引いていくのが解る。今彼を殺したのは間違いなく自分、そしてこの男は間違いなく狂人であると。これ以上下手なことは聞かない方が良いし従ったほうが身のためだ。でないとまた無関係の人間をこの男は無意味に殺しかねない。

「解った、話し合おう。だからもう殺さないでくれ」

「フッフッフ…賢明な判断をしてもらい何よりです…ミスター・ヴァレリオ…」


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 この事件がある一方で同時刻、別の場所、ここでも微笑ましい二人組みが一緒に歩いていた。片方は小さいとも大きいともいえない無表情で黒い髪を肩ま伸ばした寡黙な青年とプラチナに近い色の髪を少し緩めのウェーブをかけた常に目を瞑っている女性、そしてその女性が握っている手綱を先にはゴールデン・レトリーバーがその手綱を握っている女性に合わせるようにゆっくりと歩いている。

「すみませんグレイさん。私の我が侭に付き合っていただいて」

「いや……別に構わない。俺も…その、暇だった…」

 フローチェは弱視のため見えていないが、寡黙な青年が頬を赤らめて恥ずかしそうに顔を俯かせている。二人ともリンクスであり互いに交際関係である。あるミッションで知り合い、グレイことΣが彼女を庇った時に彼は自分の中に生まれていた感情をその瞬間に無意識に感じ取った。その後彼女の誘いを受けてとあるハロウィンで今のように一緒に歩いて楽しんだ、そしてお互いに、お互いの気持ちを理解しあって今に至るわけである。

 そして目が見えなくても、決して不自由と言うわけではなく、見えていない分不確かな物だったのが彼女には確かなものとして映っているらしく別段見えなくて困ることといえば自分の色や自分の着ている服程度で特に不自由はないとの事。

 と言っても見えないことによる危険は沢山ある。例えば信号。こればかりは盲導犬であるヴィーヴォに頼らなくてはいけない。彼が止まってくれなくては自分はそのまま飛び出してしまい交通事故にあってしまうからだ。

 そうでなくても道行く人々は道を開けてくれる人も居るが、中には余所見、若しくはワザと見ていない振りをしてフローチェにぶつかる輩が居る。フローチェ自身は目に障害を抱えているという問題からぶつかってしまっても『見えていないのに普通の人と同じ道を歩いているのだからぶつかった方じゃなくて、彼女の方が悪い』と言うことになってしまい、結果彼女が謝る形になる。

 しかし最近はぶつかることもなくなったらしい。理由は簡単後ろに居るΣが殺気を交えた睨みを利かせているからである。実際の死地で活動している人間の気迫というものは一般人からしてみれば殺気にしか感じれないため、またその辺のチンピラでは話にならないため迂闊にぶつかろうとしようものなら逆に殴り飛ばされかねない。よって最近Σと居る時は特にぶつかることがなくなったのである。

 そして暫く歩いてフローチェを時たま見ると、そのプラチナに近いウェーブの掛かった髪を見ているとまるで女神を連想させる。そして更に太陽の光でキラキラと輝いているように見えるのだから余計にそう見えるのだ。

「………きれいだ」

「グレイさん、今何か言われました?」

「あ、いや、なんでもない、なんでもないんだ…」

「ふふっ、変なグレイさん」

 クスクスと笑うフローチェを見ていて、赤らめていた頬を余計に真っ赤にするΣ。今ぼそりと小声で言ったが言葉が聞き取れたわけではなそさそうだが、音自体は耳に届いてしまったらしく突如こちらに振り向いたフローチェに驚き、動揺してしまう。

 正直言って動揺している自分に驚いている。アスピナ機関で感情を奪われ無くして以来、人らしい反応も考えも浮かばず、唯一メグに教えてもらった『守る』ことだけが自分の行動理由であり存在意義であり信念でもあった。それ以外をまともに考えることが出来なかった。だが変わった、フローチェことリノン・ノースウェルトに出会ったあの日から自分は変わった、今では動揺することも出来るほど自分は人としての感情を取り戻すことが出来たのだ。だからきっと恐らく自分の命よりも彼女を守ることを際優位線にするだろう。もはや彼女の死は自分とって全てを失うことに等しいのだから。

 そうしてスタスタ歩いていると直ぐ側の道路の向こう側からサイレンを鳴らして猛スピードで自分達を過ぎ去っていったパトカーが目に入りそのまま過ぎ去って言った後をジッと見つめていた。

「何でしょうかグレイさん、こんなに気持ち良い日なのにパトカーのサイレンだなんて」

「解らない……ただ、何かあった、それしかわからない…」

 怪訝な顔で振り向こうとしたフローチェが足を躓き倒れそうになるのをΣが慌てて彼女の腕を掴み自分の腕の中に抱き寄せた、これ以上にないほど顔同士が近づきお互いの息が掛かるほど接近した。

「「あ…」」

 思わず心臓が高鳴り、鼓動が早くなるのを神経を伝ってどの感覚よりも真っ先に伝えてきた。血液の流れが速くなり心拍数が上がる。そして同時に顔に熱が帯、今まで以上に体温が上がるのがわかった。それはフローチェも同じようであり顔が真っ赤である。薄っすらと赤く染まった頬は綺麗な桜色であり思わず見惚れてしまう。だがここでヴィーヴォの鳴き声で現実に引き戻されお互いに慌てて少しだけ離れる。物凄く時間を短く感じたが恐らく長い時間あの状態だったのだろう。周囲の視線が刺さるように当たっていることを感じ取れることが何よりの証拠。嬉しいことに「羞恥心」というのも取り戻せつつあるらしい。だが今は恥ずかしがることよりもこの場を離れたいと切に願い
、それがフローチェにも伝わったのか、この場を離れることにした二人だった。時間を見ればまだ明るいが午後5時28分、二人揃って腹の音を鳴らして近くのペット同伴可能なレストランに入ったのは言うまでもなかった。

後書き
はい、前半終了です、次回は夜です。そして今回バカンスだというのに変なのが二人出してしまいすんませんでした。で、ネタバレですが次回にも変なのが出てきます。ご了承を。

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