『業者達の苦悩』

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 今回の話はこの二人の何気ない会話から始まる。

「で…話ってぇのは何だ?ミゲル。」

 とあるバーカウンターで話す男が二人、片方は金髪で片方の髪をヘアピンで止めている。そしてもう一人は整えられていない黒髪に一部だけ紫に染まっており左頬に目まで届く大火傷が目を引く。その大火傷があるほうは何か不機嫌そうに尋ねる。

「んだつれねぇなハーケン。昔からの仲じゃねぇか。」

「昔からの仲ってぇのはなぁ、最低でも四、五年の付き合いがあって初めてその言葉が生まれるんだよ。」

 その言葉にミゲルは「へぇへぇそうですかい」と投げやりに答えるとハーケンは「さっさと用件話せや」と催促してきた。

「おぉっと、そうだったな。実はな…今回も横流しをやろうって話だ。」

 その言葉にハーケンは「またかよ」と言うと明らかに不機嫌な顔をする。それには理由がある。このミゲルとハーケンが知り合ったのは約二年前、まだハーケンが裏の業界でコツコツと卑怯に姑息に生活していたときに知り合った気質の業者でもあり同時に横流しなどを行う器用に表裏を使い分けて生きているチャラけた男である。そのとき銃を横流ししてもらいそれ以降からの付き合いである。それからと言うもののちょいちょいその話を持ち掛けてきて時折協力しその儲けを分けてもらっていた。

 しかしリンクスになって以降、それは流石に不味いと解っているのでそれには手を出してこなかった。にも関わらず話を持ちかけてきたのだ。何かあるなと感じ話だけを聞きに来たのだ。

「そう嫌な顔するなって、今回手助けしてくれりゃお前はガッポリ儲けるんだからよ。」

「で、その横流しするぶつってぇのはなんだ?」
そう聞かれるとミゲルは「ニッヒッヒ」といやらしい笑いをしてから口を開く。

「聞いて驚くなよ?07-MOONLIGHTだ。」

 思わず口に含んでいた酒を噴出してしまい全員から睨まれる。07-MOONLIGHTといえば今は亡きレイレナードが開発した強力なレーザーブレードである。当時その専属であったアンジェと言うリンクスのために開発された専用レーザーブレードであり高出力で今現在もその高い攻撃力はレーザーブレードの頂点にいる。しかしレイレナードが壊滅した今それを造っているのは当時そのグループにいたインテリオル・ユニオン、そしてレイレナードに居た多くの技術者が流れ込んだオーメルである。最も後者はもっと別のものを開発するのに躍起になっておりそっちなど意に介していない。よって今現在はインテリオル・ユニオンが発注されてから生産しそれを購入者へ届けるという形をとっている。理由は造り置きしていても問題ないが高出力故に組み込める機体が限定されてくるからである。そうして自然と希少価値の高いパーツへとなっていった。そうつまり今ミゲルがやろうとしていることは『人様のパーツに手を出す』と言うことである。

「おい、まさか俺にそれを運ばせようなんざ思っちゃいねぇだろうな?」

 まさかと思い、それを聞いてみる。するとミゲルは「何でわかっちゃたんだ?」と言う不思議そうな顔をしていたが、その顔がハーケンの堪忍袋の緒を切ったらしくハーケンが服の中にしまってあった銃に手を忍ばせるとミゲルが慌てて謝罪してくる。ちなみにハーケンの銃の腕は良くない。スナイパーライフルを使っているのは彼の必要以上の用心深さと合わさって相性が良いからである。無論ネクストに乗ってもそれは変わらない。ただしこの距離なら心臓を打ち抜くことぐらいは出来る。

「なら俺は断るぜ。」

 何時もの如く断られるだろうと予測していたミゲルではあるが、まさか持ち出した地点で即断られるとは思っていなかったらしく呆気にとられ口を開けて「いくらなんでも早すぎねぇか?!」と聞いてくるミゲルに対しハーケンは「卑怯者でもこそ泥紛いだきゃしたかねぇ」と言い残して酒代を払ってその店を後にする。その様子に悪態をつきながら「しかたねぇな」と言って携帯端末を取り出し何かを操作し出した。これが今回の事件の始まりである。


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 レッドバレー、GA勢力下に置かれている交通の要所である。今まで何回かユニオンなどが輸送部隊の突破を試みている。時には失敗し時には成功している。そしてここの特徴といえば中央に位置する広大な湖である。その湖の中でジッと我慢の子で息を潜めている漆黒のネクストが居た。重量二脚ネクストのネメシス、そのリンクスであるウェルギリウスは頭の中で作戦前の会話を反芻していた。

 ぼさぼさの黒髪、一部だけが紫に染められ左頬にある大火傷が印象的な柄の悪そうな男が今回の依頼主だ。今回何故ハーケンからの依頼を受けたかと言うと砕いていってしまえば報酬金額、詰めて言えば作戦内容だった。

「あいつの話を即断ったてぇのにしつこく端末使って詳細よこしやがってな、頭に来たから潰すことにした。んでま作戦なんだがありたいに言えば奇襲だ。目標はレッドバレーを通過していくようだから待ち伏せポイントは分かれるが最も効率よくやるならトンネル入って少し経ったら出口か入り口ぶっ壊して足止めすりゃ良い。大型トレーラーじゃなきゃコンテナ梱包された物二つなんざ運べるのはノーマルかネクストに限られるからなぁ。」

「ですがそうしたら回収が出来ないのでは?」と尋ねると「あっ…」と呟く。少し間を置いて「悪魔でも今のは例えだからよ?」と焦って言い返し目が泳ぐ。詰めが甘い、と思うがそこはそこ。詰めは甘いがこの男の卑怯ッぷりはある程度知られているからだ。とにかく生き延びるためなら卑怯な戦い方も辞さないと聞いている。実力はたかが知れているがその用心深さと姑息さが合わさって非常に鬱陶しいらしい。そもそも自分と同じくスナイパーライフル持っている地点でねちっこいタイプなのだなと思えた。

 そこはさておき結局は現場にいくあんたの判断だ、と言われる。「どっちに転ぼうが報酬は払うのに変わりはねぇからな。」と嫌味を言っていた。確かにそうなのだが壊してしまうと残念ながら最も損をするのは購入者である。希少性の高いパーツであるが故に高額パーツ、残念ながら破壊された場合は涙を呑んでもらうしかない。しかし相手もネクストを雇っているはずだが厄介なのはそこではない。貴重なパーツがために武装勢力も接近しているらしい。しかも独自情報によればイレギュラーがご丁寧に二機も来るとの事、もし本当なら手早く作戦を終わらせる必要がある。最悪の場合向こうにもよるが利害が一致しその一時だけ手を組み三対一の超絶不利な状況に陥るからだ。そうなれば足を止めた瞬間に敵ネクストを撃破、あるいは撤退させ物を回収して戦闘領域から即時撤退を行うのがベストである、そして今現在の湖の中でジッと待ち構え、そして目標が現れたことに気付きディスプレイに目をやる。するとレーダーに赤い光点が遥か上空に居ることを示していた。どれと同時に映し出された情報は「No.35」と映し出されていた。ウェルギリウスは心の片隅で舌打ちをする。間違っていなければ相手は武器腕ミサイルの軽量二脚ネクスト、アイオロス。上空を飛び続け頭上からミサイルで攻撃してくる撃破するにしろ戦うにしろ時間のかかる相手だったからである。何故なら重二脚の自分の機体ではASミサイルの回避は困難だからである。もっと言えばNo.15、マッハを撃墜した相手だ。数字では自分が上だが相性が悪い。そう思いながら機体を浮上させ目標の先の岸壁にグレネードを撃ち込んだ。


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 作戦開始前、とある荒野に建設されている建物にアネモイは居る。背中ほどまである赤いポニーテールを揺らしながら窓から覗く空を見る。空が好きだからクレイドルから降りて汚染された大地に来たのだ。来た最初はその汚染度に咳き込み辛い思いをしたが今はなんら苦ではなくなった。人間の体は不思議なものだ。これを馴れと言うのだろうか。
そんなことを考えていたとき後ろから声を掛けられる。振り向けばショートヘアーの金髪に片方だけをヘアピンで留めているのが特徴的な男が近づいてきた。

「よぅリンクスさん、俺が今回の雇い主ミゲルだ。よろしくな。」

 言葉の何処かに軽々しさを覚えながらもこちらも返答する。

「宜しくさミゲル。あたいはアネモイってんだ。」

軽く挨拶をすると早速仕事の話を催促する。

「それでその横流しする物ってのはどうやって運ぶのさ?」

「あぁ〜、それなら問題ねぇ。コンテナ梱包してあっけどあんた次第でネクストで運ぶもあり。ここに置いてある大型トレーラーでもあり。どっちか――」

「じゃトレーラーで。」

 言い終わるよりも早くアネモイはトレーラーで運んでもらうことを要望した。理由は一つ。機体重量が重くなり上空を飛びづらくなるからだ。それに伴い機体速度も遅くなりさらには軽量機であるアイオロスはより辛くなる。もっと単純に言えば『空を飛べなくなる』だからである。だからこそもし頼めるのであれば速攻で頼もうと考えていたわけである。そして話し終わらずにトレーラーを頼まれたミゲルは呆気にとられる。その様子にアネモイは「どうかしたさ?」と顔を傾げながら尋ねてきたので慌てて「いいや、なんでもねぇ」と答える。

「と、とにかく了解したぜ。ただ見れば分かると思うがトレーラーにゃ武装なんてしてねぇから護衛は頼むぜ?積荷になんかあったらこれ事態が台無しだからよ。」

「その辺は任せろ。先行して倒しておくさ。」

 その返答に「頼んだぜ」と一言言ってトレーラーへ走っていくミゲル、どうやらこの横流しは彼の独断によるものらしい。道理で他の人間がいないわけだとアネモイは自分ひとりで勝手に納得する。
そうしてトレーラーを出したミゲルを見送った後で一見飛行機にも見てとれる白色の愛機アイオロスに登場しシステムを起動、同時に耐Gジェルでコックピット内を満たして準備完了。建物から出て上昇、少し経ってからPAを展開、同時にOBにコジマ粒子を集約、そしてエネルギーバイパスを接続し点火。一気に加速し先に出ていたトレーラーを追い越し遥か先を先行し索敵を開始する

「一応仕事とは言え、その当事者と同じ仕事している私は微妙な気分さ。」

 そう、同業者のパーツの横流しを手伝うのはかなり気が引ける。よってアネモイは機体改良の資金稼ぎが必要だったといえコソ泥紛いの仕事にはあまり気乗りしていない。それから暫く経過し敵らしい姿は何処にもなくそのまま順調に事は進みレッドバレーへ差し掛かる。そこで断崖伝いに細い通路を進んでいることを確認したとき、二つの轟音が鳴り響いたことに気が付き後方に機体を180℃回転すると行くも戻るも出来なくなり立ち往生しているトレーラーの姿と水面から浮上し飛び出してくる敵ネクストの姿があった。

 突然目の前の岸壁に攻撃され慌てて急ブレーキを踏むとトレーラーは金属と摩擦する音を立てながら無事止まったが眼前は崩れ落ちた岸壁で完全に塞がれてしまい更に後ろにももう一発撃ち込まれ退路を断たれた。そのことに大きく舌打ちをすると直ぐに回線を先行し上空を飛行しているアイオロスに繋げる。

「おいリンクス!!何で敵の存在に気が付きやがらねぇ!?さっさと迎撃しやがれっ!」

 通信越しですら思わず耳を塞ぎたくなるほどの怒声、恐らく間近にいたらもっと喧しいのだろうなとアネモイは思いながら高度を維持したまま敵ネクストに接近する。そしてディスプレイに映し出された情報は「No.21」、アネモイは直ぐにコンピュータに情報を引き出させる。ネクスト名はネメシス、リンクス名はウェルギリウス。間違ってなければ任務遂行に忠実で手段問わずで依頼を完遂しており企業からの信頼が篤い人物、しかし一部同業者たちからは『人形』と呼ばれ嫌われているが逆を言えばそれが彼女の実力だということ。しかし状況はこちらに有利。何故なら遥か上空を飛ぶ自分は一方的にミサイルで攻撃できるだけでなく向こうが上空にいる自分に対して有効な武器は右腕に装備しているスナイパーライフルのみ。それ以外は仰角の関係からまるで役に立たない。

 因みに何故アネモイがウェルギリウスの存在に気が付かなかったというとウェルギリウスは作戦離脱ラインギリギリまで潜水し対するアネモイは同じように作戦離脱ラインギリギリを飛行していた。前者はトレーラーの存在を確認できれば良いが後者は距離が離れすぎている上に相手が稼動に必要な必要最低限しか動かしていなかったことが起因しておりそれでレーダーに映らなかったのである。つまり索敵が遅れ後手に回ったのは完全にアネモイが高度を上げすぎていたことが原因である。しつこいようではあるが当の本人は元々乗り気ではない。すると機体に衝撃が走りバランスを崩す。見てみれば遥か下方から武器を構えて狙撃してきている。驚いていると2発目が叩き込まれ更に姿勢を崩す。これは流石に不味いと感じ回避行動をとり応戦する。大量のミサイルが下方にいるネメシス目掛けて突っ込んでいく。ウェルギリウスも回避行動に入っているが全発と言わないが直撃した。この調子で撃っていけば比較的楽に終わるかもと考えていた矢先であった。突如としてウェルギリウスに向かって二発のグレネードが撃ち込まれ自分にはミサイル郡が迫ってきていた。それをASミサイルで迎撃するが何発かは食らってしまった。

「何さ、何なのさ!?」

「くっ、この見計らったかのようなタイミング…遠方から此方を見ていましたね。」

 アネモイは困惑し事態が呑み込めずにいたが、事前に聞かされていたウェルギリウスは最悪の状態に顔を顰める。レーダーを見るとそこには赤い光点が二つあった。

 丁度二機が戦闘を始めたときに現場に到着することとなった二機のイレギュラーネクスト、片方は緑を基調としたカラーリングで二丁ライフルに両背グレネードキャノン、片方は黄色を基調としたカラーリングで全身をミサイルで武装している。

「兄貴、いいタイミングでこぎつけたみてぇだぜ!!」

「だな、グッドタイミングだ。日頃の行いが良いお陰だぜ。」

「状況は俺らに有利!!やるからには派手にやってやらぁぁぁ!!」

 そう叫ぶと緑のネクストは両背のグレネードキャノンを展開し足を固定、ASミサイルの被弾を受け動きが硬直しているネメシスに照準を合わせる。そしてもう片方の黄色のネクストは有利に事を進めているアイオロスに向け両腕に装備しているハンドミサイルのロックを完了させるとそのままトリガーを引き肩部連動追加ミサイルも合わせて大量のミサイルがアイオロスを襲い、緑のネクストが放ったグレネード二発はネメシスの付近に着弾し爆風を巻き上げる。二機が予期せぬ事態に困惑し視線をこちらに向ける。そこに緑のネクストのリンクスが通信を開く。

「その積荷は俺達が頂いていく!!!だから成仏してクレや!!」

 そのリンクスは興奮しているのかそれとも地なのか分からないがあまりの五月蝿さに思わず顔を顰める。そしてその緑のネクストは被弾し損傷したネメシス目掛けてOBを使って突進してきた。

「てめぇの相手は、この俺様だぁぁぁぁ!!!」

「ああぁもう、鬱陶しいですねこのネクスト。」

 OBで一気に距離を詰めた緑のネクストは一定の距離を開けて両手に持ったGA製最新型の通常ライフルを乱射してくる。

 この最新型とは聞こえはいいが実際はGAの特色を詰め込んだ物で大鑑巨砲主義をライフルに置き換えたようなものである。このライフルの特徴といえば他のライフルを圧倒する総弾数である。その為重量こそ嵩張り軽量機には向かないが中量機や重量機等と相性が良い。その火力と総弾数は圧倒的な脅威にも映る。

 戦っているウェルギリウスは至って冷静であったがここで違和感が浮かぶ、撃ちまくっているはずなのだが何故か被弾が少ない、たった今当ったが一発のみ。先程から数えて合計たったの八発、弾幕では負けるがこの敵は『数うちゃ当る』と言う馬鹿むき出しの考えで戦っていることに気付く。何故ならネクストと限らず他の機動兵器にはFCSで自動照準でロックされマニュアルで狙いを定める必要はないからだ。その証拠にネメシスのスナイパーライフルや左肩のチェインガンはチビチビとであるが確実に命中し敵の装甲を削っている。しかし最新のパーツのみで構成されてるだけに意外と硬い。幸いグレネードは使ってこない。敵の頭の中にはライフルを乱射するということしか辞書にないようである。

 ウェルギリウスは大きく溜め息をつくと相手のマガジンが空になるのを待ちつつスナイパーライフルやチェインガンで攻撃し少しずつ距離を詰めていき狙っていたタイミングが来た。ウェルギリウスはOBを発動、急加速しその開いていた距離を一気に詰めると敵はマガジンに再装填が終わったらしくライフルを構えてくるがむざむざ撃たせる馬鹿はいない。グレネードを展開し一発直撃弾を見舞い動きと視界を封じ更にAAの射程距離に入りPAを維持していたコジマ粒子を周囲に全解放、同時に大爆発を引き起こしそれでもダメージを与える。無論発光により視界を塞ぎ両者のPAを剥ぎ取る。しかし完全に後手に回った敵ネクストは回避も取らずに何を考えてかその場に立ち竦んでいた。こんな考え無しの馬鹿はいない。ネメシスは左腕を大きく引き絞るように腰の捻りもいれる。そこでようやく視界が確保できてこちらの様子を見た敵ネクストは大慌てで回避運動を取ろうとするが遅すぎた。

「う、嘘だろ言う!?あ、あぁアニキィィィィィィィィィィ!!!!!」

「依頼遂行の邪魔です、さようなら」

 酷く冷めた冷徹な、非情さを秘めた声で敵に別れを告げる。それと同時に左腕を敵ネクストのコアに突き立てる。その瞬間断末魔と共に大規模なコジマ爆発が起こりその突き立てられたコアは大きくひしゃげ、コックピットがあると思われる部分は完全に吹き飛ばされ溶解している。その左腕に装備されている射突式コジマブレードはコジマ技術開発の競争に躍起になるオーメルが開発した実験兵器である。その破壊力はご覧の通りである。そして屠った敵の残骸を一瞬だけ見るが直ぐに興味がないといわんばかりに視線をそらす。その視線の先には上空からミサイル攻撃を行うアイオロスともう一機の敵ネクストであった。

 緑のネクストがネメシス目掛けてOBで突っ込んでいく様子を確認したアネモイは残るもう一機は自分が相手をしなくてはいけないだろうと確信する。武器腕ASミサイルを装備したネクストにもっとも友好的なのは至近距離で常にショットガンをばら撒くことである。しかし相手も同じ全身ミサイル機体、戦闘スタイルが一緒の方が戦いやすいと考えたのだろうが先ず相手は通常腕だ。となればハンドミサイルを撃ち尽しても最悪格納している格納武器で応戦してくる可能性もある。だがそれ以上に問題なのはその種類豊富なミサイルだ。例によってハンドミサイルを撃った直後に両背の種類違いのミサイル、更に肩の連動ミサイルを発射してこちらを消耗させてくる。武器腕のASミサイルは残弾があっと言う間に心許ない数になってしまう。対する相手はハンドミサイルを撃ち尽して即パージ、格納してあったハンドガンを取り出しこちらの放ったミサイルを迎撃し始めた。この展開は不味いと思った矢先に向こう側で青緑色の大爆発が起きる、それと同時に先程のボルテージの高い男の悲鳴と断末魔が聞こえてきた。

「なっ!?ゴルバド!?おい、返事をしろゴルバドォォォォ!!」

 いくら呼びかけても応答はない、代わりにアネモイから残り僅かなASミサイルと左背中の誘導ミサイル、肩の連動型分裂ミサイルが後方から叩きこまれ大きくよろける。それに対し自身の弟――勿論そんなことは知らない――を殺された敵ネクストは頭に血が上り冷静さを欠いてそのままハンドガンを乱射しながらアイオロスに突っ込んでくるが再び後方から、今度はグレネードとチェインガンを撃ち込まれ大きくぐらつく。そしてそのうちの何発かがメインブースターに直撃したらしく推力を失いそのまま地面へ急降下、悲鳴を挙げながら地面の大きく尖った起伏に激突しそのまま稼動していたジェネレータ内に貯蓄されていたコジマ粒子が暴走しそのまま膨張、結果機体を内側から押し上げる形となり機体はそれに耐え切れず破裂、コジマ爆発を引き起こし原型を留めなかった。

 そして最初と同じように対峙する二機だが双方共に消耗が激しい。特にアイオロスはほぼ全弾を撃ってしまい残っているのは僅かな弾数しかない両背のミサイルと肩の分裂ミサイルだけである。それに対しネメシスはチェインガン以外はまだ余裕があり戦闘継続は可能であった。しかし機体損傷は人のことを言えないネメシスはアイオロスに通信が入る。

「敵ネクストに通達します、私の目的は貴女が輸送しているその物の奪取にあります。しかしお互いに、特にあなたはもう戦えるような状態ではありません、積荷の引渡しを所望します。」

 返答次第ではと見せ付けるようにスナイパーライフルの照準をアイオロスに向ける。しかし返答は実に軽快なものだった。

「いいさ、別に構わないさ。」

 この返答には思わず言葉を失う。普通例え戦えなくとも嫌だとか、攻撃の姿勢を見せるものだがあまりの即答振りに困惑する。

「元々あたいは乗り気じゃなかったんだ、それにあんたの言うとおりもう戦えるような状態じゃない。積荷は好きにするさ。」

 そういうとOBを使用して一気に戦闘領域を離脱していくアイオロスを見て呆気に取られ呆然としてしまうウェルギリウス。そのサッパリとした性格は本当にリンクスなのかと思わせるほどであった。しかしイレギュラーとの戦闘はあったが最終的には相手は依頼放棄し離脱して行ってくれた。これで後は積荷の回収のみである。そして頭部カメラアイを大型トレーラーに向ける。接近する際には一応PAの展開を解除しておく。これで一応は運転している中の人間は汚染されないはずである。運転手は何か言っているようであるがそんなことはお構い無しにトレーラーを持ち上げ分岐点まで持っていき降ろすと通信を開く。

「おいてめぇ!!なにをする――」

 言い終わるより早く目の前でスナイパーライフルを一発、威嚇として目の前の地面に発射する。兵器に乗っているとそう言った轟音などは余り気になることはないが生身の人間がそんな対機動兵器用の武器が発する轟音など堪えられるわけがなく耳を押さえ蹲っている。

「これは警告です、これ以上ごねる気でしたら容赦はしません。私が受けている依頼内容に貴方に、運転手に関することは記されてはいませんでしたので。」

 この言葉に屈したのか運転手、もといミゲルは悪態をつきながら「好きにしやがれっ!!」とやけくそになり、明後日の方向を向いた。これにほっと胸を撫で下ろすウェルギリウス。流石に画面越しとはいえ生身の人間が弾け飛び内臓を飛び散らせる惨事は出来る限り見たくはない。見て良いものではないからだ。

 コンテナは最初からネクストでも牽引していけるように専用の大型チェーンフックが装備されておりそれを背中の牽引用フックに引っ掛けるとそのまま加速し大きな音を立てながら、砂煙を上げながらトレーラーの視界から消えていった。当のミゲルは悔しくて堪らないのか何度も何度も足でトレーラー内のあらゆるものを蹴り飛ばしていた。


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「依頼人、こちらウェルギリウスです。目標の積荷を回収しました。」

「了解、ご苦労さん。それとイレギュラーも結果的にとはいえ撃破してくれたみてぇだから上乗せしとくぜ。あぁそれと積荷は指定ポイントに置いていってくれ。後は俺が処理する。」

「解りました。では」

 そういって通信を終わるとディスプレイに指定ポイントが表記されそこに向かう。そこまでの道中は何も無く平穏に通過していく。行けども行けども荒れ果てた荒野ばかり。飽き飽きしていた途中で指定ポイントに到着し積荷を降ろす。そしてその場をOBを使って離脱していった。

 その後ハーケンがミゲルの業者に連絡をいれ、当の横流しをしようとした本人は解雇された。そして路頭を彷徨うミゲル。

「くっそ〜、なんだってこうも不幸続きなんだよ〜。」

 路頭で酒を飲みながら通行人にぶつかりつつも千鳥足で前を進んでいく。そこに遥か向こう側のビル屋上から太陽光に当たり反射するスコープ、黒光りする銃身、そしてそれを構える一人のスナイパー。

「悪く思うなよミゲル、これも俺の仕事だ。」

 そう言うとスナイパーは引き金にかけている人差し指を引く。するとスコープ越しに見えていたミゲルの頭に弾丸が突き刺さりその撃ち出されたままの勢いでミゲルの脳を突き破っていき、一秒と満たないうちに彼の後頭部から弾丸が出てきてそのまま地面の道路にと貫通する。それと同時に撃ちぬかれたミゲルの脳と頭蓋骨が後頭部から冗談のように噴出し、そのまま地面に倒れる。彼の後ろを歩いていた通行人は返り血を浴び真っ赤に染まってから何が起きたのか状況を把握してから悲鳴を挙げる。その様子を確認したスナイパーはその場を後にする。その特徴的な左頬の大火傷を空気に晒しながら。

あとがき
はいはい〜。今回エンゲージ・アサルトにおける初作品となります。まぁ例によってマンセイ気味ではございますが(汗)。何はともかく、今後も先ずは大量に所持しているキャラの削除を優先して今後も単発式でじゃんじゃん出してじゃんじゃん殺させようとしています(笑)え?ミゲルは?あっはは。元からこの予定でしたね(待て)では次回で。

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