『未確認AF撃破』

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 旧ピースシティエリア付近のGA基地に急遽種集された一人の男、大柄で白髪しかない見た目の割にはフサフサな髪と顎に蓄えた同じ白髪の顎鬚を弄りながら専属リンクスである強羅は正直様々な意味でイラついていた。

 専属となると確かに優遇処置も多く与えられる特権も数多いが、突然の呼び出しも多く今回も突然の呼び出しで休日を満喫していたところを強制召還され、サンディエゴ基地に到着した瞬間輸送機に投げ込まれそのまま、この旧ピースシティエリア付近のGA基地に問答無用で下ろされたのだ。それもまるで物を投げつけるような感じで。

 こういう場合は大抵ろくでもないことである。特に自分のこの扱いの乱雑さが際立って酷い時は経験上、十中八九ろくでもないことである。取り合えず待機していてくれと言われたのでブリーフィングルームで不貞腐れて椅子に腰掛けて暇そうに待っているとドアが開く音が聞こえ、そちらに顔を向けると見覚えのある腰まで伸びたエメラルドグリーンの髪と青い瞳を持った女性のその顔は引き攣っている。

「おうメグじゃねえか。なんでぇお前も呼び出し食らったのか」

 蔵王は機嫌が良くなった様な声で話しかけるが女性の顔は未だに引き攣っている。

「――よりにもよって貴方と協動ですか蔵王、はぁ…」

 メグは嫌悪を示す大きな溜め息を蔵王にも聞こえるようにワザと大きくついた。その溜め息に反応して椅子から立ち上がる蔵王はこめかみに青筋を浮かべている。

「なんだその溜め息は!!?会って早々『はぁ…』はねぇだろぅが!!」

「ではお尋ねしますが、過去私を含めたGA専属と社員に対し幾度と無くセクハラを働いたのは何方ですか??」

「うっ…それは」

「そして再三に渡り幾度と無く撃退されても、めげずに懲りずにセクハラを働いて私を含めた女性陣から上に訴えられて裁判沙汰になって謹慎処分喰らっていたのは何処の誰ですか!?」

「………」

 メグの口から述べられていく数々の罪状は全て強羅の行った犯罪である。無論直接触る等という行為はしなかったがそれでも挙げればキリが無いほどセクハラしたため上に訴えられ何とか免れたが数ヶ月の自宅謹慎を命じられていた。

 メグの怒涛の反撃に口答え一つ出来るわけない強羅は黙り込んでしまい、椅子に静かに座り落ち込んでしまう。誰の目から見ても沈んでいたがメグは気にすることも無く少し離れた椅子に座る。

 それから暫くは気まずい空気が流れ、再びドアが開くと長身で細身のセットされていない黒髪の少年とその少年の妹だろうか、遥かに小さい背丈に小豆色の髪にサイドポニーに纏めたケンリッジブルーのリボンが特徴の少女が入室してきた。その二人を見たメグが口を開く。

「あら?貴方達大分前だけど会ったわよね?」

「え?あの失礼ですがどこかでお会いしましたか?」

「ユウ、この人はブラックゴートの射撃大会にも出ていたGA専属のメグ・ウィゼスさん」

「ま、こっちで顔見た程度だから直接の面識はお互い持っていないのが普通だけどね」

 両手の平を顔の鼻と同じ位置に持ち上げてワザとらしく肩を少し揺らす。しかし三人の会話に全く入り込めずに孤立している強羅は一人取り残される、三人で何やらいい雰囲気で会話を始めだしてしまって、また更に置いてけぼりを喰らい「ショーがねぇな」と小さくボヤキながら頭を掻き毟り再び不貞腐れて座りなおす。

 とそのタイミングを見計らったように当基地のGA高官が入室してきた、強羅にとってはささやかな救世主である。高官に向け任務の話をして欲しさに思わず見つめてしまう強羅の視線に気が付いた高官はドン引いた表情で目を細め冷や汗を垂らす。それでも平常心を保って冷静に彼らの前に立ち、デスクの上に資料を置いて一回咳払いをしてから口を開く。

「コホン、先ずは休暇中であった強羅と突然の社命で寄越されたメグには謝罪しよう、そして今回の依頼を請けてくれたユウ氏とそのオペレーターのラビス氏に感謝する。ユウ氏とラビス氏は既に依頼文で確認済みと思うが強羅とメグにはまだ詳細を伝えていなかったな」

「おぅ、だからさっさと今回の仕事内容を教えてくれや、専属が二名もこの居心地の悪いエリアに呼び出される理由をな」

 居心地の悪いエリアとは、過去このピースシティエリアが幾多に渡り大小問わずで戦場になった場所で、その上更にはGA専属のNEW−SUNSHINE計画で低AMSでも高い戦果を挙げられる事を目指して開発されたネクストとそのリンクス、ドン・カーネルがあっさり撃破、死亡した地でもあるからだ。最も彼には恐らく大した期待はなかったのだろうが。

 強羅の棘のある発言に若干眉を寄せるが、直ぐに表情を戻し正面モニターのスイッチを入れ画像を映すと同時に室内を暗くする。
「今回の君らに与えられる任務はこの基地に向かってきている未確認AFの撃破だ、と言っても正確には『ソルディオス・オービット』の撃破なのだがな」

 この言葉を聞いた瞬間、強羅とメグはは立ち上がる。

「『ソルディオス・オービット』だと!?てめぇ正気か!?人選がおかしいだろ!!」

「よりによってあの『変態企業』が造った『変態兵器』の相手をしろって言うの?!しかも蔵王と一緒に!?」

「「ってか連れて来る前にそういう重要事項は先に伝えろ!!」」

 両者の同時の抗議に高官はバツが悪そうな顔で「すまない、だが緊急だったのだ」と言って渋々了解してもらうしかなかった。この抗議には理由がある、その理由は彼らの扱うネクストの機体構成にある。

 蔵王は重装タンク型、雷電をベースにしたGAの大鑑主砲主義を体現していると言える武装だが同時にエネルギー兵器とコジマ兵器に対する防御力は致命的であるといえる。その火力は真正面から受ければ微塵と化すだろう。一方メグはGA専属にあるにも関わらず寧ろトーラス専属と言った方が通じそうな機体構成な上にミサイルを一つも装備していない。その分防御力には目を張る物がある。

 どんな戦闘でも有効打を与えるには接近する必要があるが今回の相手はソルディオス・オービットである。しかも外見の割には高い機動力を誇るので一度ロックを外されると厄介である。しかも『機動力』が致命的なGAにとって、ミサイルは生命線である。強羅は装備しているが何分追尾性が低い連動ミサイルと速度の無い大型ミサイルではソルディオス・オービットの機動にはついていけない。総じて『機動力』を要求される相手となる。

 このことを解っていない高官ではあるが現状でまともに動くことが出来たのはこの両名のみである為、仕方なく呼び寄せたのである。実際居ないよりはマシであるが作戦の成功率を考えると少々不安が残る。それはユウとラビスも同じらしくそれを顔に出さないように努めているが微妙に苦い顔をしているのを高官は見逃さない。しかしそれでもやらねばならないと思い説明を再開する。

「まぁとにかく、誰かがやらねばならんのだ。説明を続ける。敵未確認AFの行進速度は通常のランドクラブに比べるとやや遅いものだが見過ごせることではない。敵さんも気付かれていることは承知の上だろう。恐らく敵の目標はこの基地だろう。だとしたら易々と黙ってやられる訳にはいかない。君たち三人と一人で敵AFを木っ端微塵にしてくれたまえ。以上だ。ブリーフィングを終了する。何か質問は?」

 この発言に全員が静寂を保ち、異論も質問も無いことを確認した高官は「あと四時間後に出撃となる。準備を万端に」と言い残して部屋を後にする。高官が去り部屋には静寂が訪れる。誰一人として口を開こうとはしなかったが、ここでラビスが鞄から分厚い資料を取り出すとそれを見始めた。

「ラビ?それは何の資料?」

「過去、数年前にも確認されたソルディオス・オービットの資料、有るだけ掻き集めた。無いよりマシだと思って」

 ラビスはそう言って分厚い資料、主に戦闘から得られたデータが集約されている資料をユウに手渡し、手渡されたユウもそれを入念にチェックしていく。

「ソルディオス・オービットが分離する前のキャリア代わりのランドクラブを破壊すればダメージが伝道して撃破出来るって言う未確認のデータもあるけど」

「数年前にGAにすら流れている情報だぞ?数年後も同じ欠陥抱えさせてるわきゃねぇな」

 ラビスの言葉を横から割って遮る強羅が顎鬚を弄りながら割り込む。
「でも、AFなんて欠陥だらけよ?ダメコンもままなっていないまま実戦配備されて撃破されたって言う話良く聞くしね」

「そうだな、お前が護れって言われたグランドハウルも欠陥だらけだったからな。初めて見たぜ?スピリット・オブ・マザーウィル以外で砲塔壊されてそのダメージが内部伝達するAFなんざ」

 この言葉に苦々しい記憶を呼び出されたメグは眉間に皺を寄せて険しい顔をする。今強羅が言ったのは当然ながら嫌味である。殺気が篭った視線を送るが当の強羅は気にするまでも無く言葉を続ける。

「まぁ、あん時は実戦テストだったからな。出来立てほやほやの新型AFがどんな欠陥持ってて、どんな改良点見つけられるか、その為にお前が駆り出されたんだからなぁ」

「人の失敗をこの場で態々引きずり出しますか貴方は?」

「失敗だって俺は多々しているぜ?ただミスの仕方とそれのケアの仕方がおめぇとは一線画しているだけだ」

 そう言うと強羅はドアに向かい部屋を後にする。険しい顔で睨み続けていたメグはその場で大きく溜め息をつく。一触即発の空気で異様な状態になってしまったことで取り残されてしまったユウとラビスはどうしようかとお互いが視線を合わせていたが、ユウが何かを思ったらしく口を開く。

「あのメグさん」

「何?」

 返されてきた声は明らかに不機嫌一色であり、その声色には殺気が篭りイラついていることが一目でもわかる。それでも何か聞いて気分を紛らわさなくてはいけないと思い冷や汗をかきながら言葉を続ける。

「そう言えば、僕もあの時チラッと見たんですがお隣に居た方は一緒じゃないんですか?」

「あぁ、Σね。残念だけどあの子は専属じゃないのよ、私と良く一緒に防衛の任務を請けることが多いけどね、あとついでに言うと兄妹でもないからね?」

「そうなんですか、てっきり姉弟かと思いました」

「そういう貴方達は兄妹じゃないの?」

 その問いに首を横に振る、では何かと思っていたがまさか恋人同士ではないだろうと思い冗談交じりに聞いてみれば「やっぱり僕、変質者に見えますか?」と聞いてきた、まさかそう言う関係だと思わなかったが、それ以上にメグは「この子は生涯苦労するだろう」と思ったのだった。

 一人ブリーフィングルームから出て格納庫に着いた強羅は機体チェックを行う、他の整備員達が慌ただしく動いているのを気にせず、黙々と機体状況を行いシステムやAMS調整を万端にしていく、今回の相手はソルディオス・オービットだ、手を抜けば一発喰らうだけも致命傷になりかねないので特にブースター関連のシステムは入念にチェックする。今回の作戦でガトリングキャノンは死荷重にしかならないだろうが、この基地は生憎と今ネクスト用のパーツが置かれていない、その理由は恐らくGAと対立している通称ユナイテッド・ステイツこと、スターアンドストライプスにある。

 この基地に運ばれる際にサンディエゴに寄ったがその当時の状況が異常だった、集結されている部隊はかなりの数にのぼり、ノーマルや旧型の大型兵器、数多くの艦船に夥しい戦闘機の数、更には先程は黙っていたがグランドハウルとランドクラブも配備されていた。それだけでなく強羅がサンディエゴ基地に到着してから飛び立つまでの間も続々と部隊が集められ増え続ける一方であった。

 どう考えても近いうちに大規模な、それも専属にすら通達していない大掛かりな作戦を行うつもりである。一度サンディエゴにステイツが雇ったネクスト三機が襲撃、配備されていたランドクラブ並びにギガベースを撃沈させ、同時に配備されていたノーマル部隊にも多大な被害を出したという。その時は当時GA側に雇われたネクストによって突破はされなかったようではあるが、それでも大問題である。

 テロリスト如きに最初から全力は出したくは無い、世界を統べる一つの企業としてのメンツもあることは重々承知の上である。しかしそれでもAF三隻を生贄の形を取って犠牲にするのはいただけない。もしももう少し考えれば人的被害はもっと抑えられただろう。長いこと戦場に身を置く強羅はそういった犠牲を多く払うような作戦を快く思わない。何故ならそれは解っててやったことなのだ、捨て駒が当たり前の軍人だとしても無駄死にさせるような作戦には憤りを隠せない、若い頃にその事を抗議して上官を殴り怪我を負わせて負わせて拘束された事もあった。

 どっちにしろ気に食わない、先程メグに嫌味同然の発言もこの苛立ちから来る半ば八つ当たり的なものだ、彼女には悪いことをしたなと思うと同時に彼女も何も知らされていないことにどうしても苛立ってしまう。このままだとイラついて作業に集中できないから外に出て一服しようと思いコックピットから身を乗り出すと下の方で整備班と話し合っているメグの姿が目に入る。

 彼女もまた入念に機体チェックを行い万端の状態にしている。あんなことを言った後だ、顔を合わすのは流石にバツが悪いだろうと思いもう一度コックピットの中に入ろうとするとメグに声を掛けられ行動を制止させられる。

「なんだメグ?文句ならきかねぇぞ」

 どうせ先程の発言に対する愚痴か文句を言われるのだろうと思ったがどうやら違うようで表情は暗い、何かあったかと思い下に降りて表情を伺うがどうも暗い、取り合えず外に出るかと言ってメグもそれに頷き二人は外に出る。

「どうした、さっきまでの怖い顔は何処に飛んだ?」

「いえ、先程は失礼しました、私の倍生きている貴方は私以上の惨劇を見ているはずですから」

「それだけであんなに沈んだ顔をする訳無いな。他にもあるんだろ?」

 強羅は胸ポケットから煙草とジッポを取り出し口に銜え、火を着け紫煙を吐く。ガラス越しで完全に外とは言いがたいが一応唯一外が一望できる場所なので、この部屋はこの基地の人間からは外と呼ばれている。一望できるといってもその光景は基地から先が不毛の大地で砂が吹かれる風で舞い上がり、荒廃した大地に廃墟と化した都市郡の成れの果てしか見えないのだが。

 そんな中で中央に置かれた空気清浄機に紫煙が瞬く間に吸い込まれていく。喫煙家にとって紫煙は何でか知らないが気分を落ち着かせてくれる。それが嗅げないのは少々残念なところである。

 その一連の動作でも俯いたまま顔を上げようとしないメグを見て先程の整備員とのやり取りを思い出し一つのことを確信する。

「機体構成だな?」

 この言葉に俯いたまま頷くメグを見て、はぁ〜と大きな溜め息を吐く。

 メグの機体は先程も述べたようにGA専属でありながらトーラス製のパーツを多用している。そういった点から当のGAから疎まれているのは言うまでもない。同じ重量級とは言え規格もコンセプトも何もかもが違うのだ。独立傭兵なら整備員も上の連中も何も言わないのだろうが、メグは専属だ、何を考えてあのような機体構成にしたのかは解らない。メグ本人が言う理由は『守る為』だというが別に『守る』ためならばGAの重量級でも充分である。だと言うのによりにもよって機体構成の殆どをトーラス製にしているのだ。

 先程のやり取りは恐らく機体の全体的な調整とバランスについてだろう、PA性能に偏る余り安定性は致命的である。実際衝撃武器に弱くスナイパーキャノンなどの直撃を受けると硬直してしまう。

 そもそもトーラスの元となったのはGAEとアクアビットだ。自分達に従わず敵対者と癒着したから粛清したのだ、そんな連中の開発したパーツを使っているメグを良く思うわけが無い、GA上層部と技術者連中からみれば面白くないのだ。技術者連中には『そっち』じゃ信用できないから『こっち』を使っていると見られてもおかしくなく、上層部には疎まれて良い顔をされない。最悪の場合本当の捨て駒として使われかねない。

 ただどうしても、やはり先程の自分の発言が最大の理由だと感じている強羅としては何か励ます言葉を考えるが良い言葉が思いつかず、頭を掻き毟る。今思えば彼女は何かを『守る』ことを『信念と誇り』としているからだ、つまり自分が言ったのは『侮辱』に繋がる。

 どうしたものかと頭を悩ますが、気が付けば煙草が殆どなくなっていることに気付き二本目を取り出そうとするがその手の動作を止めて煙草を戻して胸ポケットにしまう。

「メグ、さっきは悪かった。考えもなしにあんな事を言っちまってよ。」

「いえ、気にしないでください。事実ですので」

「そうだとしてもだ、お前を侮辱したのは俺だ、すまなかった」

 そう言うと強羅は立ち去ろうとする。それをメグは止めなかったがドアの目の前で強羅はふと立ち止まる。

「メグ、機体は万全にしとけ、それでもやばくなったら守ろうとせず格好悪く背中見せて逃げろよ?お前らは若いんだからな」

 それを言い残して強羅は今度こそ硝子張りの部屋を後にして格納庫に向かう。残されたメグは先程の暗い顔は消えて何かを固く決意したかのような顔つきに変わり外を見ていたが、直ぐに踵を返し自身も格納庫に向かう。

 他の整備員からの視線が集中している中、そんな視線を気にすることなく黙々と機体調整を行うラビスは最終調整を終わらせシステムを落とす。大切なユウが乗るネクストだ、手を抜くことは一切しない。自分の気が済むまでとことん調整を行い、彼が生き残るための自分が出来る最善を尽すだけである。その手際の良さはこの基地の整備員の仕事を奪ってしまうほどだが背の小ささからか届かない部分は手を貸してもらうしかないと言う実にシュールな事も起きた。

 そしてそのユキホタルの調整をラビスに任せ、そのリンクスのユウはラビスが持ってきていた資料をこの格納庫に来ても入念に頭に叩き込んでいた。OBを除けばネクストに導入されている技術を使用しているソルディオス・オービットの機動パターンは複雑で更にアサルトアーマーとプライラルアーマーも高濃度のコジマ粒子を使って展開している。

 それ自体がコジマタンクとも言うべき塊でもある、もっと厄介なのは飛行可能で自立していることだ、地上から攻撃を加える前にQBであっさりとロックを外されたと言う記録が残っている。それが前回は六機も確認されたのだ。多くの改修点が見つかり、それを直した上で再投入だろう。どっちにしろ厄介なこと極まりない。

 更に味方がタンクタイプと重量二脚タイプのネクストである。必然と空を飛んでもらいたいのだが両者の機体構成を見る限り、それは無理をすれば出来るが武装のことを考えると無理させない方が懸命だろう。特にメグ・ウィゼスのオールブロックはミサイルの類を一切装備していない。恐らく強羅と言うベテランリンクスも同じことを考えているだろうが、キャリア代わりとなっているランドクラブと格納されているノーマルACに攻撃してもらった方が良いだろうと考えていたところでラビスが視界に入り一旦資料を置く。

「ユウ、調整終わった」

「ありがとラビ。何時ものことだけど自分で調整するよりもラビにして貰った方が調子良いから」

「うん、私もできる限りの事をしたいから、ユウのために頑張るだけ」

 そう言って僅かに頬を赤らめて下を向くラビスの頭にそっと手を伸ばしクシャクシャと優しく撫で回す。それを甘んじて受けているラビスは何処か擽ったそうである。やるべきことを終えた二人は出撃時間まで休むことにし、休憩室に向かうのであった。


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 やや強めの風が吹き荒れて砂塵が舞い視界を僅かに茶色に染めて、一瞬で消えてはまたを繰り返す。まるで「いたちごっこ」をしている気分に錯覚してしまうが日が沈み始めて夕焼けになっているこのときは機体のブースター音とAMSを介して送られてくる情報を逐一確認しながら三角陣形で行進している強羅はどうも嫌な予感がしてならなった。

 理由は解らないが汗も掻いていないのに、このベットリと張り付くような油でも塗ったぐられたような言いようの無い嫌悪感と同時に背中に走る寒くも無いのに否応無しに感じてしまう悪寒を拭う事が出来ずに神経を必要以上に磨り減らしていた。

 今現在、ユウのユキホタルを先頭に右斜め後ろにオールブロックを、左斜め後ろに軍城の構成で行進しているが流石にタンク型ということもあり速度が遅い軍城に合わせる形でゆっくりと行進している。そんな中でその嫌な物を感じ取っているのは俺だけかと、強羅は思っていた。

 これは言うまでも無く歴戦の兵士や戦士が、その過程で得て培ってきた『経験』である。その経験が警報を鳴らしているのだ「危険」だと。しかし一体何が危険なのかが解らない。その危険さえ解れば後はどうとでも手を打てるが何一つ解らない状態で何を警戒しどんなを手を打てば良いのかなど解る筈がない。解れば苦労はしない。

 そんな中でも全員のオペレーターを務めてくれると言ってくれたラビスだけの声が緊張し静まり返っている三人のコックピットに響く。ユウとメグの二人はまだ若い、戦場の経験が薄いのは当然だ。だからこそ普段どおりに行動している。この危機感がただの杞憂であることを祈るばかりであった。

 とここでラビスから全員に目標の敵AFを確認できたらしい、残りもう少しでこちらも遠目であるが肉眼でその姿を確認できると言う。そしてその言葉の通りに少し進んで遠目で確認が出来た、遠くても解るそのシルエットは間違いなくランドクラブだ。

「よし、距離を詰め次第、各機三方向に散開しろ。オールブロックはAFに直進、俺はこのまま左翼、ユキホタルは右翼へ回り込んで叩き潰せ」

 二人から了解と短く返事が送られると同時に三機がある程度直進した後に強羅の指示通りに三方向に散開、指示通りにオールブロックは正面を進みユキホタルは右翼へ回り込む。両機は今まで抑えていた速度を通常時の最大速度まで引き上げるとあっと言う間に距離を詰めていく。対する強羅は焦ることなく通常通りの速度で左翼へと進む。そして三機がある一定のラインへ到達した瞬間、改造されたランドクラブからソルディオス・オービットが射出される。

「!!?」

 だがしかしここで強羅が感じていた嫌な物がわかった。ソルディオス・オービットの数が多いのだ。合計八機。前回破壊されたものは計六機、二機も増やされており機動性もデータよりも1.2倍辺り速くなっているとCPUが算出する。

「な、何これ!?ふざけないで!!」

 予想していなかったとは言えあまりの数の多さに困惑し上ばかりに見取られるオールブロックに機体下部に格納されていたノーマルACのGOPPERT−G3部隊が出現し一斉にレーザーライフルをオールブロック目掛け斉射、上ばかり見ていたオールブロックのPAを貫通し機体にダメージを蓄積させていく。

 しかし流石に重量機だけあってそのダメージ自体も微々たる物でしかなく、即座に振り返ったオールブロックがGAN01ーSSーGCを展開し、左腕の突撃ライフルも構えて目に付いたGOPPERT−G3を片っ端から蜂の巣にしていく。

 一方、片方に四機ものソルディオス・オービットに囲まれた強羅とユウは回避に手一杯であり、両者共に建物を盾代わりに使い直撃を避けるが、機動力に乏しい軍城はOBを使って一気に距離を取りながら右と左の永久軌道をそれぞれ違う方向に回転させて反転、永久軌道ならではの180度反転は戦車時代からのテクニックである。ネクストでは更に機敏で二脚のそれよりもある意味スムーズである。

「こんだけ離しても諦めずに撃ってきやがる、しかも精度が高いッ!」

 かなりの距離を取ったにも関わらず、ソルディオス・オービットは狙いを変えず軍城に狙いを絞り大型コジマキャノンを放ってくる。それをQBでギリギリで回避しつつ大型ミサイルと連動ミサイル、同時にグレネードを一機に叩き込み続けざまに二発の大型ミサイルを発射する。全弾を喰らったのにその装甲を大きく抉られても尚顕在している目標に対して大きく舌打ちする。

 囲まれて集中砲火を喰らわないためにOBを発動し再び距離を取るがその最中で右背中のGAN01ーSSーGCに直撃し暴発、原型を留めないほど拉げたガトリングキャノンを、すぐさまパージし機体状況を確認する。右腕の付け根にダメージが行っているらしく連動性が44%も落ちている。この状態ではグレネードは片方の命中しか見込めない。コア後方部にも言うまでもないがダメージがあり、背部は右腕以上の被害が及んでいた。

「クソッタレが…!メグ急げ、俺は長くは持たん!」

 メグに対してそう叫ぶと機体を反転させて先程と同様の事を行おうと再度突貫する軍城の姿は後姿は無残な状態であった。

 同時刻、右翼ではユキホタルが軍城と同様に四機のソルディオス・オービット相手にレーザーライフルで応戦しつつ、ひたすら回避行動を取らざるを得なかった。一機一機が発射直前のタイムラグと発射後の隙を埋めるように互いの連携を怠らなかったからだ。

「ラビ、状況は!」

「軍城が現在の総合損傷率34%、特に右背部が酷い、これ以上の被弾は機体稼動限界に達しかねない、オールブロックはたった今ノーマル部隊を殲滅完了して軍城の援護に回ってる」

「どっちにしろ、思った以上に速い…!」

「前回のに比べて発射のタイムラグが縮まっている、それにQBの速度が1.2倍になっている。今データを取り直しているからもう少し粘って」

「了解」

 そう言ってユキホタルを後退させながら連動ミサイルと両背部の散布ミサイルを展開、一機のソルディオス・オービットをロックし発射する。直後の極端なQB機動に連動ミサイルはついて行けず明後日の方向に飛んでいくが、散布ミサイルは確実に追尾しほぼ全弾が着弾する。しかしそれでも装甲を大きく拉げただけでまだ撃墜には至らない。ユウは焦りを感じながら再び回避行動に追い込まれる。

 その頃、ようやくGOPPERT−G3を全て片付けたメグの耳に入ってきたのは強羅の援護要請であった。

「ラビスちゃん、軍城の状態は!?」

「現在、右背部兵装のGAN01ーSSーGCにコジマキャノンの直撃を受け暴発、武器は大破。右腕にもダメージが及び連動性及び運動性が44%低下、更にコア右背部のダメージも深刻。」

「アリガト!」

 ラビスの冷静で的確な状況伝達に感謝しつつ、同時に軍城の置かれた状況が相当に追い詰められていることも明確に伝えていた。軍城は重装したタンクタイプでコジマ兵器とEN兵器に対しての防御力は儚いほど薄い。一発貰うだけでも軍城は致命傷となる。それを理解しているメグはOBを発動させてオールブロックを軍城を追いかけている四機のソルディオス・オービットに向けて加速させる。

 その内一機に集中砲火を加えながらOBで一撃離脱を行っている軍城を確認すると伝えられた情報以上に状態が悪い。右腕の付け根から内部がショートを起こしているらしく火花を挙げて悲鳴を挙げている。しかしメグは迷うことなく集中砲火を受けている一機のソルディオス・オービットに銃口を向けながら上昇し、拉げた装甲に近距離から攻撃を叩き込む。拉げた装甲を無数の弾丸が食い破って内装を砕いていき、とうとう内部爆発を引き起こし暴発、大爆発を起こし爆散して地上にその破片がバラバラと落ちていく。

「ッシャア!!」

「甘く見ないでね変態さん!」

 苦労した末にようやく一機を撃破し喜びの声を挙げるが、その瞬間軍城のショートを起こしていた右腕が内部の残り残弾に引火し爆発、黒煙を巻き上げる。

「!!」

 この状況を最も近くで見ていたメグは硬直し言葉を失うが、黒煙を突き破って出てきた軍城は大破、稼動するだけで精一杯の状態だった。

「クソッタレが…悪いがメグ、離脱援護を頼む」

「任せて!護る事だけが唯一の取り得なんだから」

 強羅はその意気込みに頼もしさを感じながらコックピット内にも及んだ爆発で流血する右頭部から流れる血で赤く染まる右目の視界に口の中も切ったらしく、口の中一面に鉄の味が蔓延する。激痛で意識を失いかけ、AMSの負荷とそれを介して送られてくる機体状況と情報がそれに拍車を掛ける。強羅はAMSにそれらの情報をシャットダウンするよう命令し今動かすのに必要最低限の機能だけを稼動させて戦闘領域からの離脱を図る。その間もオールブロックが派手に動き回り多少被弾しながらも必死に引き付けていてくれることに感謝しながら、軍城は戦線離脱した。

「軍城大破、戦闘不能、たった今戦闘領域を離脱、戦線離脱した、現在オールブロックが軍城の代わりをしている、同時にソルディオス・オービットを一機撃破」

「こっちは二機、向うは残り七機、厳しいな…」

 そうぼやくユウは、既に弾切れを起こしたライフルと連動ミサイルををパージして後退しながら、再度のミサイル発射の機会を伺っていた。先程から激しい攻撃は変わらずで回避するのがやっとだ。

「ラビが調整してくれてて良かった…」

 日頃のラビスへの感謝を今この場で述べてしまうほど、追い詰められる。そして何回か攻撃を凌いだあとに出来た一瞬の隙を逃すことなく両背のミサイルを一斉射し最初の一撃を与えた一機に直撃させようとする。あれ以降中々当てられず結果として連動ミサイルを撃ち尽してしまったわけであるが、それでも今回は逃さない。今度こそ全弾直撃し爆発し崩壊して四散して行くソルディオス・オービットは地面にその巨大な破片を落としていく。

「二機目のソルディオス・オービット撃破、残り六機」

 ラビスが現状を冷静に教えてくれるが、戦場に居るユウとしては、最早余裕が無かった。ミサイルすら撃ち尽してしまいパージした。残るは左腕の07−MOONLIGHTのみ。

「ユウ、少し時間かかったけどデータの解析終わったからそっちに転送するね」

 ラビスから転送された敵機動解析データをソルディオス・オービットの猛攻を回避しながら、チェックしていく。相当複雑化していたらしくデータ量が思った以上に多い。しかしそれでも正確なデータが記載されており、またラビスに感謝する。

「これならいけるかな?」

 無茶は承知、しかし純粋なスピードならこちらが上。ならば後は思い出すだけも腹痛を訴えたくなるほどのサリアの地獄の特訓の成果と、自身の反射神経の高さを持ってすれば無茶ではあるが不可能ではない。

 そう思ったユウは後退することを止めてOBを発動、一瞬の急加速で起きるGに押し潰されるがソルディオス・オービットはユキホタルの姿を見失い、即座にQBを使って方向転換をしている。どうやらそこの点だけは解消されておらず大回りすることでしか方向転換が出来ないらしい。これを好機と見たユウは機体を上昇させ、QBを使いつつ接近、今しがたQB直後で硬直している一機に目をつけその距離を詰め、ブレードを振るう。

 見事に突き刺さったブレードをそのままQBを使って無理矢理引ききると、溶断された内装がショートし引火、内部でチャージされていたコジマ粒子も暴発しそのソルディオス・オービットは粉々に砕け散った。

「ソルディオス・オービット撃破、残り五機」

 いける、このままこの調子で行けば残りのソルディオス・オービットも撃破出来ると確信していたユウに、突然として襲い掛かる衝撃。一体何かと思い画面に目をやれば右腕が大破していることを表示していた。

「ユウ、オールブロックが相手をしていたソルディオス・オービットがユキホタルに目標を変えた、急いでそこから離れて」

「オールブロックは、まさか!?」

「勝手に殺さないでよ…」

 ノイズ混じりに聞こえてきたのはメグの声だったが、言葉が途切れ途切れで呼吸も荒いのが通信越しでも直ぐに解った。

「ちょっと、ドジしちゃったから、ゴホッ!!ハァ、ハァ…あとお願いね、オールブロック離脱します」

 その直後に少し離れた所からOB光が見え、それがオールブロックの生存を確固たる物にしていたが通信の途中で聞こえてきた咳き込み方と呼吸の荒さを考えると恐らく直撃しコックピットにもその爆発が及んだのだろう、しかし何とか撤退できるだけの余力が有ったのは不幸中の幸いと言えるのだが、残り六機のソルディオス・オービットをブレード一本で全機撃破しろというのは相当の無茶である。

 それに気を取られていたせいで包囲されていることに気付くのに遅れ今度は一斉砲撃され、何発かを掠る。そのうち一発が足に当たり連動性と運動性を著しく低下させ、そのことにユウは焦りと苛立ちから普段つくことの無い大きな舌打ちをしてしまう。

 もう後が無い、これ以上の攻撃を回避する自信が無い、しかし何時までも攻撃をかわし続けても生存できる可能性も薄い。そうなのだとしたら一か八かでやってみる価値はあった。

 基地の方向に振り向き、眼前を塞いでいるソルディオス・オービット目掛けてOBを発動させ無理矢理突っ込んでいく。そのままコジマキャノン発射口に左腕を突き入れ、そのままSBでもう一回左腕に極端な負担を掛けながら無理矢理引き切る、そして二度目は耐え切れなかったのか左腕は肘から?げて無くなるが、同時にソルディオス・オービットも内装が燃え出し、地面にその巨大な球状の巨体を沈め爆発する。

 そしてユキホタルは何とかギリギリの駆け引きで勝ち、戦闘領域を脱出していくのであった。


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 旧ピースシティエリア近隣のGA基地に五体不満足な状態で到着した瞬間、片膝を着いて機能を停止させる。もう途中からPAは展開しておらずコジマ汚染の心配は無かったがそれでも特殊な防護服を着た部隊が簡易的な洗浄液を機体の上から流して機体に付着したコジマ粒子を洗い流し、コジマ汚染の心配がなくなったことを確認してから格納庫へAC運送用の大型キャリアで運んでいき、ハンガーに掛け固定する。そしてようやくコックピットから這い出てヘルメットを取ると汗だくで髪がグッシャリしていた、水滴が落ちるほどである。

 そんな中、向うから走ってくる遠目でも小さな人影を確認すると安堵の表情を浮かべる。

「ユウ、無事だった?怪我は無い?」

 若干涙目のラビスを安心させるために優しく頭を撫でるユウは今必死で平静を装っている。今すぐにでもこの場に倒れたいほど疲労が出てきたからだ。しかしその前に自分より先に離脱した二人を思い出す。

「ラビ、メグさんと蔵王さんは?」

「メグは比較的軽傷で済んだけど、機体は大きく大破して修理より新しいのを新調した方が良いって、蔵王の機体は勿論大破して同じような状態、でも蔵王自体は重傷でさっき軍属病院に運ばれていった」

「そっか、二人とも生きてるんだね、よかっ……た…」

 二人が生きていることに安堵してしまい、今度こそ緊張の糸を切らしてしまい極度の疲労から意識を無くしてしまいその場に倒れ付す。遠のいていく意識の中でラビスの必死に自分を呼びかける声が響いてくるが、無情にも意識は途中で途切れそのまま暗闇のまどろみの中に落ちてしまう。

 専属二名、強羅は重傷で暫く入院が必要、メグは奇跡的に軽傷だがそれでも機体は目も当てられない。そして雇った独立傭兵のユウは先程意識を失い医務室に搬送された、機体も中破。もう直ぐ大掛かりな作戦がサンディエゴで行われると言うこの大事な時期に専属二名を戦闘不能にしてしまった挙句、更には敵AFすら撃滅できていない事に高官は焦りを感じていた。

 もしも次の攻撃で撃破出来なかったらこの基地は破壊されGAの顔に泥を塗ってしまう。只でさえ余裕の無いこの状況なのだ、解雇で済めば最良と言えよう。最悪裏で始末されかねない。上層部からは再度の攻撃を仕掛けよ、と伝達されている。しかしもう一回雇うのは良いが到着する時刻を考えると、ギリギリだろう。それを考えたこの高官は早急に基地の防御を固めることにした。


後書き
え〜、先ずはお詫びを。まぁこんな形になっちゃいましたけど、タンク型のNPCを登場させている地点で何となくこんな展開になるんじゃないかな?って思っている人は…皆無だろうな…(ぁ
まぁ、とにかくこのミッションは次回も続きます。ただし、ここで言及しておきますが今回の参加者は次回欠場となります。大変申し訳ありませんでした。ではまた即座に次回に。失礼します。

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