『オーメル合同演習 中編』

●AM10:30 オーメル管理下演習場内 東区 オーメル陣 第一ハンガー内

演習二日目。午前中は参加したリンクス同士や企業スタッフが午後におこわなれる演習のミーティングをするために取られた時間となっていた。だが、グラムはミーティングルームではなくハンガーへと足を運ぶと自身の愛機の調整へとかかろうとしている。理由はミーティング自体が『無い』からだ。

二日目に行われるのは部隊軍事行動演習であり、一日目の機動演習に比べより実戦的なノーマルも交えた模擬戦となっている。それは機動演習の、ただの速さを競う『競争』のように好き勝手動くのではなく、互いに連携を取る必要があるのだ。そのためオーメル陣営に参加したリンクスであるグラムは同じくオーメル陣営である専属リンクス、ネヴァンとの作戦会議を行うつもりだった。

 だがネヴァンは9時のミーティングに現れなかった。不審に思いオーメルスタッフに確認を取らせたところ、『ネヴァンはミーティングへ参加する必要が無い。』という妙な回答までもらう始末…。

(…どういうことだ?)

 ネクストやノーマル搭乗用に置かれていたタラップを上りコックピットへ、そしてパイロットシートに腰を下ろしたグラムはAMSへ接続、機体システムを立ち上げるとキーボード状の画像が表示されたモニターの上へと手を置き、素早く指が動きだす。

(…なぜ必要無い?)

グラムの視界、その正面を様々な文字や数値、そして機体の状況を示した図が表示され、上から下へと流れていく。だがそれはモニターに映し出されているわけではない。接続したAMSがグラム自身の視覚へその情報を重ねているのだ。周囲から見れば彼は正面を向いたまま虚空を眺めつつ、ただひたすらにタイピングし続けている。

(あらかじめ作戦が決まっているわけでもない、ましてお互いに動きを知り合ったパートナーというわけでもない。戦闘ではほぼ初対面となる相手と何も相談せずに連携を取れというのか?)

 一通りの手順で全ての情報を確認すると、視界の中心に『Abnormality is not found.(異常は見つけられません。)』と表示が出る。だがグラムはそれを見る事無く、全ての情報をカットするとAMSの出力を落とした。

(こちらや、ネヴァンの力を過信しているのか? いや、いくらなんでもオーメルも馬鹿ではない…この広く公開された演習で企業専属が仮に敗北や大きく苦戦するような、無様な姿を見せることはオーメル自身にとってマイナスにしかならないことだ…。普通なら万全を期して戦い、完璧な勝利を、力を他企業に見せ付けようとするだろう。)

 グラムはAMSの接続ケーブルを引き抜くとシートへと完全に身体を預け、先ほどから考え続けている事に集中する。

(なのに、なぜオーメルはそのためのミーティングを行わない?…その理由はネヴァンにあるということか? オーメルの奇妙な行動や不自然に少ない情報から考えればそうなるが……もしやこの演習自体、主催であるオーメルの目的は力の誇示ではなく、ネヴァン自身にあるとでもいうのか…?)

 周囲であわただしく整備スタッフが走り回り、作業機械の駆動音が徐々に大きくなるとハンガー内を包んでいく。その中でグラムはただ、静かにオーメルの奇妙な行動について思考し続け一つの答えに行き着く。ネヴァンという人物…謎ばかりのこの人物は一体何だと言うのか…。だが一つの答えは次の疑問を生み、終わることのない思考の迷路へ彼を落としていくのだった…。




●PM13:30 オーメル管理下演習場周辺 砂漠地帯 東

 照りつける太陽と乾燥した空気…その両方が明るめの灰色に塗装されたキラービーポッドの装甲を焼き、表面温度を上げていく。マグタールは外気温の表示へと目を向ければ外は40℃と表示されていたが…これでもまだましなほうだ。

 度重なる企業同士の戦闘により汚染された世界は各地で急激な砂漠化を招き、気候は大きく狂ってしまっている。植物もなく、水も少ないこの砂の世界では場所によっては昼間50℃を軽く超えることもあれば夜には零下なんて正反対なところもざらだ。それはまるで人類の、いや生命そのものの存在を拒むかのような過酷な世界である。

だがいまそこにマグタール自身はいて、生きている。それをさせてくれているのは自身の体を包む鋼の人型、ネクストだ。外の劣悪で過酷な環境とは正反対に、コックピット内の温度は18度…暑くもなければ寒くもない。その中で視界に映る砂の海と揺れる陽炎を眺めているとひどく違和感を覚えた。

「…歪だな。俺自身も…同じで。」

 マグタールはその違和感を消し去るように首を振ると、小さく苦笑を浮かべつぶやく。この世界の汚染も自分がネクストに乗るという行為でさらに広がってしまっている。汚れていく世界、終わらない兵器開発、止まらない攻撃と報復のテロ、…それらを嘆き、否定する自分がその世界の歯車の一つでその行為を助長している一つの要因となっている。それらをすべて合わせ「歪」と思わず、なんというのか。

『…? 何か言いましたか?マグタール。』

 通信がオープンになっていたのか、彼のつぶやきを聞いたブリギットの顔が視界の片隅に表示される。

「いや、なんでもない。ちょっと考え事をしてただけさ。」

『そうですか…。』

 再び会話が途切れるが、ブリギットは通信回線を閉じる様子はなく。いまだ視界の片隅に顔を映した小さいウィンドゥが表示されている。マグタールはそこに見えた表情にAMSを経由してCPUへ秘守回線への切り替えを命令した。同時にウィンドゥの色が青から赤へと変化し。

『? マグタール?』

「勝手にすまない。だが…そっちこそ、どうかしたのかい?何か言いたそうだったが…。」

『ぁ、いえ……昨日のことです。改めて悪かったと思って…。ごめんなさい。』

 昨日とは、部屋で起こった「あの事」だ。彼が…いや、ブリギットが女性であるということ。不可抗力だったとはいえ、それを見てしまったマグタールは彼女に多少なりとも殺されかけたのだ。幸い誤解を解くことはできたようだが…彼女はそのことをまだ引きずっているらしい。

「気にしないでくれ。あれは俺にも問題があることだ。」

『で、でも…。私はあなたを傷つけようと…。』

「…それだけ、知られたくないことだったんだろう?それに結果的、俺は怪我もなにも負っていない。だから謝る必要なんてないんだ。」

『……。』

「…もうすぐ演習も始まる。作戦通り、二人でまずはテクノクラートのリュカオンを落とす。」

 マグタールが小さく笑顔を浮かべるとブリギットは小さくうつむくとそれ以上何もいわずに頷く。それを見るとすぐに話題を変えるように演習の話をし始めた。

「彼女のランクは5。この演習に参加したリンクス中二番目に高い実力を持っている。彼女を止めなければこちらのノーマル部隊など数分ともたずに蹴散らされるだろう。」

『分かっています。私が牽制し彼女の突進力を止め、マグタールが攻撃をする…ですね。』

「そうだ。幸い彼女のネクストは耐久力がそれほど高くはない。短期決戦でケリをつけ、残ったハーケンを俺が相手する間に君はノーマル部隊の援護へ向かってくれ。」

『了解です。』

 簡単な作戦確認を終えると秘守回線を解除し、通常回線に戻す。その瞬間、オペレーターからのコールがあった。映し出されたその顔は少し険しく、もしかして先ほどからコールしていたのだろうか…。秘守回線に切り替えていたせいで気がつかなかった。

『演習開始、−103カウントです。各ネクストは準備を開始してしてください。』

「了解…キラービーポッド、マグタール。演習エリア所定の位置へ移動する。」

 すぐに思考を切り替えるとキラービーポッドがゆっくり前進を開始する。それに合わせてブリギットの『TYPE-LANCEL』も移動を開始した…。




 『各部隊、エリア内所定の位置につきました。演習開始までカウント…10…9…8…』

  オペレーターが読み上げるカウントと画面中央に映し出されている数字がリンクし、変わっていく。それに合わせハーケンもAMSの出力を上げた、同時にかかるのはまたあの重い感覚。頭の中をぐっと押さえつけられるような…うまく例えて言い様のない負荷感だ。幸いなのは一日目に行われた機動演習のデータをみた整備スタッフがそれに合わせて調整してくれたこともあり、あの時に比べてれば多少はマシということ位だ。

『3…2…スタート!』

 開始と同時に飛び出したのはやはりリュカオンのヴィシュヌ。前方へのQBで一気に加速するとあっと言う間にハーケンとノーマル部隊を置き去りにして相手がいるだろう地点へ向けと走った。

「おいおい…いくら模擬とはいえ突っ込みすぎだぜ、あれと付き合う男は振り回されることは間違いねぇな。」

 その背中を見て苦笑をもらしつつ、ハーケンは感想をつぶやくと後に続いて移動を開始する。そのさらに後ろにはテクノクラートの「SHAHID」が12機、4機1小隊編成で続いた。

 今回の演習での作戦は足の速いヴィシュヌが先行、相手をかき回し混乱を生ませ、そこへハーケンのニーズヘッグとノーマル部隊が強襲をかけるというものだった。もとより機動力の高いネクストとノーマルでの連携は難しい。ノーマルではネクストについていくことができず、逆にネクストがノーマルに速度を合わせるには長所の一つである機動性が大きく損なわれてしまうのだ。またニーズヘッグの調整もだ完全ではなく、高機動戦闘に関しては不安要素が大きい。そのため、今回はノーマル部隊の援護を申し出いていた。

「まっ、せいぜい足をヒッパンねぇように尽力するぜ。狼さんよ。」

 通信回線はオープンになっているはずだが、リュカオンから返事はない。そう言っている間にも前方では爆炎と砲火が上がるのを確認した。砂漠という砂の海が風によって生み出す波打った地形。その間を滑るように走りつつ、大型ロケット弾と重ショットガンで攻撃を仕掛けるヴィシュヌ。

 片やローゼンタールのネクスト2機は1機が援護、1機が攻撃へと役割を分担して当たっているようだ。『TYPE-LANCEL』が小さくジャンプをしつつ右手のライフルと左背のチェインガンで牽制、ヴィシュヌの動きを抑えるとそこへ灰色の「TYPE-HOGIRE」が両背に装備した大型ガトリングキャノンで豪雨のような集中砲火を浴びせた。

 すさまじい集中弾にさらされヴィシュヌのPAが大きく減衰、爆ぜるように拡散し防御能力を失った瞬間、その装甲へ多数の弾痕が刻まれる。だがそれを食らい続けるほど彼女も馬鹿ではない。すぐに側面へ滑るようにQBしたかと思えば、四脚特有のすぐれた機動力で一気に走り、有効射程外へと退避する。

 それを遠巻きに眺めていたハーケンはガトリングキャノンを装備したネクストに見覚えがあることに気がついた。あれは確か以前のミッションで会ったことがあるリンクスのものだ。

「…あの時のクソ偽善者野郎の一人か。」

 そう、以前ハーケンが受けたミッション。俗にいう「アヴローラ・テロ」と呼ばれるあの大規模戦闘のとき、第三者側についていたリンクスだ。直接に戦ったわけではないが、確かに見た記憶がある。ネクストも数が多いわけではない。あの特徴的な大型ガトリングキャノンを二基装備した機体などそういないのだ。見間違えるはずがない。

 ハーケンは表情を歪めると自然と操縦桿を握る手に力が入っていることに気がつく。胸の中に生まれた感情は怒りとか、憎しみとか、そんなものだ。だが同時にある考えも浮かび、今度はその顔に小さい笑みが浮かべる。これはあの時の借りを返せるチャンスというやつだ…と。

「あの時は世話になったじゃねぇか、えぇ?…飼い犬野郎が!!

右手のスナイパーライフルを跳ねあげるとすぐに「TYPE-HOGIRE」に照準を合わせる。そのまま相手の射程外からの狙撃。初撃だったこともあり照準は少々甘かったが弾丸は「TYPE-HOGIRE」の装甲をとらえ、歪んだ傷跡を残した。

 その横槍に「TYPE-HOGIRE」は大型ガトリングキャノンでヴィシュヌへとかけようとしてた追撃の手を止めるとそちらへと向き直す。未だ大型ガトリングキャノンの射程外、一方的に攻撃できる状況にあるハーケンは手をゆるめることなく狙撃を続けた。小刻みに、時に大きく左右へとQBを併用してのフットワークを使って避ける「TYPE-HOGIRE」。

『お前は…あの時のリンクスか。』

 一般回線での通信から声が聞こえる。おそらくこちに接近してきた「TYPE-HOGIRE」からだろう。視界内に表示されるデータには「It confirms the airframe, and there is pertinent data. It is rank 48 and next "[Kira-bi-poddo]. "(機体確認、該当データあり。ランク48、ネクスト「キラービーポッド」です。)」と表示さる。

「そうだぜ、飼い犬野郎!!こんなところで会えるたぁなぁ!!あんときの借りもここで返してやるぜ。」

『…不要だな。そのようなもの。 俺にとってはすでにあのミッションは終わっている。』

「へっ!言うじゃねぇか……、ど頭かち割るぞ、クソ餓鬼がぁっ!!」

『やってみろ、マニアック(戦闘狂)!!』

 ニーズヘッグの攻撃が苛烈さを増し、それに対しキラービーポッド右手のロングレンジレールガンで応戦を開始した。そこへまた速度を上げて突撃、大型ロケットによる攻撃を仕掛けてくるヴィシュヌ。寸前のところで小さくジャンプし、回避して見せたキラービーポッドだが、今の状態ではニーズヘッグとヴィシュヌ、その両方を相手にいている状態になってしまう。いかにマグタールと言えどそれはあまりにも不利である。

『ちっ!?』

「どうした! 口だけ達者な飼い犬風情はその程度が限界なのかよ!!」

それを軽く挑発するハーケン。さらにニーズヘッグはその間にも常に横へ横へと移動し続け、ある場所でその動きを止めたのだ。彼に立ち位置、その後ろではテクノクラートとローゼンタールの両ノーマル部隊が今まさに戦っている最中だった。

とっさにロングレンジレールガンでの射撃をとめるマグタール。今の状態で遠距離狙撃をすれば命中できる確率はそれほど高くない。仮にニーズヘッグへ当たらず流れ弾がそのまま後ろへと走れば自軍のノーマル部隊に当たってしまい、フレンドリーファイアー(友軍機誤射)となってしまう。演習用で出力は抑えてあるとはいえ、それは危険すぎることだ。おそらくハーケンもそれを考えての位置取りをしているのだろう。

『マグタール!!』

 またヴィシュヌがキラービーポッドへ突撃をかけようとしたとき、その間へ『TYPE-LANCEL』が割り込むと正面から重ショットガンを受けた。激しい被弾音といびつに歪む装甲、頭部センサーユニットの保護ガラスが割れ内部で小さく放電を起こすがそれでもなお『TYPE-LANCEL』はチェインガンと散布型ミサイルで応戦。強引にヴィシュヌへ接近戦を仕掛けるとブレード攻撃を仕掛け、その突撃を遮った。

『ブリギット!?』

『こちらは抑えます!抑えて見せます!! だからあなたはあいつを!!』

 一瞬迷うかのように動きが止まるキラービーポッドだがすぐに飛んできたハーケンからの狙撃に反応すると回避、機体を反転させそちらへ向けてOBで移動を開始した。現状の不利を覆すには一対一の状況にもち込むしかないと判断したのだろう。

『3分で済ます、それまで耐えてくれ!』

 それがマグタールが彼女へかけてやれるとっさの言葉だった。

『了解!!』

 それをブリギットは勢いよく答えるとヴィシュヌとの戦闘に集中し、右手のライフルで攻撃を始める。

「3分だ?なめてんのか、餓鬼が。」

『…お前の相手180秒かけるつもりなど毛頭ない。』

「あん?」

『100秒で十分だ!』

 友軍機誤射を避ける射線をとるよう、側面へと回りつつ接近してくるキラービーポッドへニーズヘッグが武装をチェインガンへと切り替える。だがそれ以上の轟音を発するガトリングキャノンがその発射音を飲み込み、そしてニーズヘッグをも弾丸の雨が飲み込んだ。

 …テクノクラートvsローゼンタール戦闘結果。残ったノーマル数が3対5と演習自体はローゼンタール側が勝利するも、ネクストにおける損耗率はこちらのほうが激しく、ネクスト同士の戦闘ではテクノクラートに軍配が上がった…。




●PM13:45 オーメル管理下演習場周辺 砂漠地帯 西

 砂を舞上げ、またの赤いネクストが宙を舞う。そのまま地上を走る黒いネクストの真上をとると左手に持ったライフル、そして右背に装備されたグレネードで攻撃を仕掛けた。黒いネクスト、グラムの駆るストラーフはそれを緩急の付いたQBを駆使し赤いネクストのFCS(火器管制システム)による行動予測を裏切る動きで回避。

真下を通りすぎて背面をとったかと思えばすかさずQBターン。赤いネクスト、エレクトラのレッドドラゴンの背中へと突撃型ライフルを放った。数発が命中、だがすぐにレッドドラゴンは一瞬だけOBを起動、距離をとると反転し体勢を立て直した。

(なるほど、いい動きだ…。あの若さでこれだけ出来るとはな。)

 背面からの攻撃に対し反転して無理な応戦をせず、距離を取って自身の得意とするだろう戦闘距離から離れてでも相手にペースを握らせないようにする。それをとっさの判断でできる彼女はかなり戦い馴れたリンクスだ。

何があるかわからない戦場での出来事へ咄嗟に取るべき行動を一瞬で判断し、実行するには類まれない才か、圧倒的に経験が必要だ。おそらく彼女はその二つをそろえた人物なのだろう。

(できるならこのような茶番の場ではなく、戦場で出会いたかったものだ…。)

グラムは戦闘中だというのに、自分が小さく笑みを浮かべていることに気が付く。それだけ彼女の存在がうれしかったのだ。10も歳の離れた人物が自分と互角以上に戦えるほどに育っている。他者の成長を眺めるのが小さな楽しみである彼にとってこの演習中唯一の収穫だった。

(だが、まだ負けてやるほど私も老いてはいないのでな。)

 また距離を詰めてくるレッドドラゴンへ、ストラーフも接近、近接戦闘へともっていった。ライフルで牽制しつつ直前でジャンプし、また真上をとろうとするレッドドラゴン。グラムはあえてそれに合わせると同じようにジャンプし、空中でさらに接近してスラッグガンをたたきこむ。

 レッドドラゴンからの攻撃でストラーフも多少被弾するが、スラッグガンとでは一撃の瞬間火力が違う。こちらがPAで攻撃を減衰できているのに対し、レッドドラゴンはそのPAを大きく削られ、機体を丸裸にされた。ストラーフはそのまま空中でブレードを一閃。QBで右へと逃げようとしたレッドドラゴンの左腕を切り飛ばす。

『くっ!?』

 着地と同時にさらにQBでブレードのレンジ外へと離れるレッドドラゴン。グラムが追撃をかけようと武装制御をミサイルに切り替えようしたとき、「ビー!」っという耳障りな電子音が響いた。

『演習終了。繰り返す、演習終了。各ネクスト、ノーマルはファイアーコントロールをロック。通常モードへ移行してください。繰り返します、演習終了。各ネクストは―――』

 オペレーターからのアナウンスにレッドドラゴンをロックオンしていたカーソルが外れ、トリガーが反応しなくなる。グラムはゆっくりと操縦桿を握る手から力を抜くと地面へと機体を下した。

 いまだ鎮まることを知らない鼓動が激しく胸の内で暴れ、戦闘による興奮を冷まそうとしない。だんだんと感じる体の節々への疲労と神経へのAMSによる負荷からの解放に一息つくとレッドドラゴンへと視線を向けた。向こうもストラーフと同じように火器管制システムがロックされ通常モードになっているのだろう。だが頭部カメラはいまだストラーフのほうを見続け、離れようとしなかった。

(いまだ闘志十分…と言うことか…。)

 その様子にどこか満足そうな溜息を小さくもらすグラム。そして今度は視線を自機の後ろ側へと向ける。そこには黄色いオーメルカラーに塗装されたネヴァンの『TYPE-LAHIRE』が立っていた。機体の装甲に目立った損傷は…ない。綺麗なものだ。だがそれは当たり前だった。今回の戦い、ネヴァンは戦闘に参加せず一発も撃っていないのだから。

それは演習開始直前にオーメルスタッフからあった指示で「ネヴァンは戦闘に参加しない、あなただけで戦ってほしい。」というものだった。理由を訊くにも答える様子もなく、ただその指示の一点張り…。

(…目的はまず一つ…見えたな…。)

 だがそれでオーメル側のこの演習へと参加した目的が多少分かってきた。それはまずこの演習へネヴァンを参加させること。その理由はデータの収集だろう。だが収集すべき情報の対象は相手側のネクストなどではない。その対象はおそらく、グラム自身なのだろう。

 今もこちらからカメラを離すことなく立ち続けているネヴァンの『TYPE-LAHIRE』にそれを確信した…。




●PM19:20 オーメル管理下演習場中央商業区

 この大規模演習場中央には4つの陣営が共同使用可能な商業区が存在する。もちろんどの陣営に与えられた区画にもPX(商店)はある程度存在するのだが、ここと比べるとささやかなものだ。

 長期演習をも視野に入れて設計された演習場にあるこの共同商業区は言ってしまえば一つの大きなショッピング街と言えるレベルで、店や人がかなりそろっている。飲食店から衣服、美容室、病院、学校、協会、娯楽施設、バー…さらには目立たないようになっているが慰安所(早い話が風俗店に近いもの)まで存在しているほどなのだ。

 その中を利用するのももちろんこの演習場内にいる企業スタッフやノーマルパイロット、そしてリンクスである。彼らは昼間の演習から解放され、夜はここで自由に行動することを許されていた。そしてここにも一人…クレープ片手に歩くリンクスがいる。

 黒に一部だけ紫で染められた髪は整えられておらず、また左頬には左目までに届く大火傷のあとが見て取れる。周囲の男よりも若干ガッチリとした逞しい身体つきの彼はハーケンである。傭兵としての貫録とでもいうのか、それを見るほとんどの道行く人は彼が食べるクレープに思わず『似合わない』と口をそろえて言いそうな人物だ…。だが彼は大の甘いモノ好きなのだ…。昼間あれだけ派手に戦闘をした後にクレープの一つくらい自由に食べて何が悪い。

「さて…次は何を食うかなぁ…っと。」

 どうやらまだ満足していないようで、ぺろりと平らげたクレープの次に食べるべきものを探し首をせわしなく動かしている。右にはケーキなどの洋菓子店、左には和菓子店…まだまだ甘いものには苦労しそうにないようだ。早速和菓子店のほうへ足を運ぼうとしたとき、ボスんっと背中に何かがぶつかる感覚があった。

 衝撃自体はそれほどでもなく、軽くぶつかった程度のもの。ハーケンが振り返ればそこには買い物の紙袋を右手に、ジュースの缶らしいものを左手に持った女性が立っていた。ストレートに伸びたつややかな髪と、小さめで幼さの残る清楚な顔立ち…どこかのお嬢様と言う雰囲気があるその人物は胸にオーメル所属のオペレーターと言う身分証明書がつけられている。

「あ、ごめんなさい。よそ見をしていたので…。」

「いや、悪いなフロイライン、こちらもよそ見してい―」

 すぐに頭を下げる彼女。ハーケンはできる限りの優しげな笑顔を浮かべるように努力すると言葉を整えつつ話し始めた…のだが…。彼女の左手に持った感が目に入った瞬間その動きが止まった。

「…お前、何飲んでんだ…!?」

「へ?…これですか?」

 思わず地の声に戻るハーケン。それも仕方がないのが…彼女の手に持っていたジュースの名前…『味醂レモン −広東風フルーティテイスト仕様−』なるものはどう見ても怪しさ120%を誇るように思える。真っ赤な色にぬられた缶の表面をうねった黄色い龍が描かれていた(ここら辺が広東(中国?)風なのだろうか?)…。

…あえて言おう、絶対「美味しそう」とは見えない…と。

「さっきそこの自動販売機で見つけたんです。珍しいものだったんで飲んでみたんですけど…やっぱり美味しかったです♪」

 …やっぱり、と言うあたり…どうやら彼女にはこの絵柄でも「美味しそう」に見えたらしい…。さらに言うと右手に抱える口のあいた紙袋の中を覗き込んでみれば同じような飲料缶が山ほど…とりあえず名前は見ないでおく。

「あ、そうだ。ぶつかってしまったお詫びにお一ついかがですか?どれもおいしそうですよ?」

「わりぃな、フロイライン。ノーセンキューだ。」

 とりあえずハーケンは即答で断った。きっとそれが一番いい選択だったんだ…と彼は心の底から思うのだった…。




●PM21:41 オーメル管理下演習場 東区 

 夕食を終え、明日に備えて自身が与えられた部屋へ戻ろうとするグラムへ一人のオーメルスタッフが声をかけた。その見覚えのない人物は金髪、痩せ型な体型で肌は病人のように白く、どこかやつれた様な顔をしている男だ。新品のように汚れ一つないスーツの胸元につけられた認識票からオーメル内部の上位役職についている人物であることが容易に想像できる。その後ろには最新式の防護服に身を包み、突撃銃を携帯する二人の警備兵。

 彼はある場所へと案内したい、後についてくるようにと言うとグラムの返事も待たずに歩き出した。グラムは断ろうと口を開きかけたのだが、男の後ろにいた警備兵二人がグラムの後ろへと回りこみ、強引に『歩け』と言わんばかりの視線を向けてくる。どうやら拒否権はないらしい。

後に付いて歩くことほどなく、着いたのは自身のネクストが置かれたハンガーだった。男はそのまま中へ入っていくと黒いネクスト、ストラーフを通り過ぎ、さらに奥にあるエレベーターへと乗り込む。そのまま地下二階へと下がればさらに薄暗い通路を歩かされ、一つの部屋にたどり着いた。扉の前には先ほどと同じ警備兵が4名。全員が突撃銃を手に微動だにせず立っている。しかもよく見れば突撃銃の安全装置は解除されているようであった。

「気を付けたまえ、ここは無警告発砲エリアだ。」

「…そんなところへ傭兵一人連行して何を見せようというのか。こちらは明日に備え、あまりくだらない事で時間を無駄にしたくないのだが。」

 グラムの態度に警備兵たちが一斉に動き、銃を突き付ける。男はそれに苦笑を浮かべ手を振ると、ゆっくり全員が銃を引いた。

「面白いものだ。見て損はしないと思うよ。」

 男は笑みを浮かべてそう話すと扉を開ける。そして警備兵たちにここで待つように告げるとグラムと中へ足を踏み入れた。同時に空調が利きすぎているのか、ひんやりとした空気がグラムの頬を撫で、全身を包みこんでいく。改めて部屋の中を見回すと奇妙な空間であることがわかった。

 その部屋は四方20M以上の広さがあるのだが、置かれている物が極端に少なく何のための部屋なのか見当がつかない。唯一部屋の中心辺りに青い半透明な外見をしたサッカーボール大の球体とそれが置かれた台座がスポットライトに照らされていた。その横には白衣を身につけた一人の女性が立っている。

「…あら? ベライズ専務、なにかご用かしら?」

 彼女はこちらに気がつくと振り向く。その顔立ちはどこか幼さく、かなり若い人物のようであった。

「やぁ、ドルチェ主任。お疲れさまだ。 なに、今日はお客人に彼女を紹介したくてね。」

 ベライズと呼ばれた男はグラムのほうへ振り返ると満面の笑みを浮かべて言う。

「今日君に会わせようと思ったのは今目の前にいるネヴァンなんだ。」

「…目の前にいる…?」

 頷くベライズ。グラムはもう一度この部屋の中を見回したが部屋にいるのは自分とベライズ、そしてドルチェと呼ばれる白衣の女性だけしかいないようだ。彼の言い方ではもう一人、今回の演習パートナーであるオーメル専属リンクス、ネヴァンがいるらしいのだがその姿はどこにもない。

「ああ、失礼。もっと明確に紹介しよう。」

 ベライズが部屋中央の球体へと歩み寄るとそっと手を載せる。

「コレが『ネヴァン』だよ、グラム君。」

 ベライズの言葉に反応するよう、半透明な球体内部で数本の光がライン状に走る。同時に中心あたりにあったカメラレンズ状の部分がグラムへとゆっくり焦点を合わせるように動くのだった…。





 あとがき

マイ「どうもこんばんわ、皆さん。私を覚えていますでしょうか?知らない人はコシヒカリ執筆の『山猫達の夜戯』のあとがきを見てね♪」(⌒▽⌒)/
マイ「さてさて、なんで私がしゃべっているかと言うと…。コレがここまで書いた瞬間力尽きたからです。」( ̄□ ̄)/
米「…。」(||| _ _)_
マイ「おら〜、さっさと起きんかこの米〜。早くしないと水で洗って炊きあげちゃうぞ〜。」( ̄□ ̄)−●”(ゴワンゴワン
米「ううぅ…お願いだからフライパンの縦打ちはやめてくらさい…」(;△;)
米「ではとりあえずいろいろ報告から…」(T▽T)/


 しばらく更新も書き込みもしなかった私ですが(執筆はもともと遅いんです、すんません)、実は…PCがクラッシュしました。うわ〜い、今までの苦労が全部台無しだ〜\(T▽T)/

米「ふ〜仕事頑張った〜。さて、メールでも確認するかな〜」 PC→□\(−ε− )♪
米「そろそろ執筆も仕上げないといけないし…今日くらいはちゃんと動いてくれるといいんだけど…」□ (−▽−;)
(ウイイィィン………キュキュッ…ブー!!!)
米「!?」□ 煤i◎Д◎;)
(ガガガガッ、ガッ…ビ、バチッ! ………シーン…)
米「…。」□ …(○△○;)アルェ?

 ということがありました。原因は古かったこともありますが不明なので、泣く泣くあきらめ…新型を買うことでまた一から書き直す形となり今に至ります。…新しいのが来るまで半月以上かかってしまいました…。何より執筆中のデータ全部ぶっ飛んだのが痛かったです… orz

 では作品内の話へ。…相変わらず、無駄がなげぇ!!(ドーン
 ぶっちゃけいらねんじゃね?っと言うシーンが多々あったりすつような気がしますが…いや、いるんですこれ。いると思いたいんです…いくら削ってもなくならないんです…誤字と無駄文章…(シクシク
 前回がエレクトラ、マグタール視線が主だったのに対し、今回はグラム、ハーケン側の視線を主でした。というか今回のキーマンに近いのはグラムとマグタールだったりするので次回はこの二人が主になると思います。
その次がエレクトラでしょうか。マニングも現在ではそれほど重要視されないNPCですが後々重要に引っかかってくるキャラですので。
 ハーケンは…うん、今回は悪役です。(えぇ いや、だってほら…それっぽいキャラだし、ねぇ?(同意を求める目を) でもこういう人は絶対必要なんですよ。ついでに言うと今回のイセラ飲み物被害者担当(何 きっとあの後必死に進められ断りきれずに飲んでくれるに違いない。ハーケンは根はいい人だ、という勝手な脳内設定があったりします。(※作中では出しませんが)

(商業区であったシーン 妄想編)

ハーケン(以後「ハ」)「…し、しかたねぇな…じゃあ一本だけ飲んでやるよ。」(顔赤くツンデレ風に(ぇ
イセラ(以後「イ」)「ええ、とってもおいしいですよ♪」
ハ「…(ごくごくごくっ)…。」
イ「…(どきどきどきっ)…。」
ハ「………お…。」
イ「お?」
ハ「オ●レ●さああぁぁ(ry」


マイ「はいそこまで、やばいやばい。」(; ̄□ ̄)/
米「まぁ、最後のは冗談ですがね。実際にこんなこと怖くて書けません。と言うかネタわかってくれる人いるよね?」(−ω−;)
米「とにかくバタバタといろいろありまして、結局三部構成となってしまった今回。申し訳ないが続きます。次回のがきっと最終回です、お待ちください。重ね重ね執筆の遅れ、誠に申し訳ありませんでした。」m(_ _;)m

小説TOPへ