『レッドリバー攻防戦』


 『アヴローラ・テロ』

 数か月前、各企業管理コロニーにおける連続無差別な小規模爆破事件を発端とし、旧ピースシティエリアにて大規模戦闘へと発展した、反企業を掲げる独立組織による大規模テロ。

 同テロを行ったとされる組織『アヴローラ』に関しての詳細不明。
 企業より開示された僅かな情報を整理すると『反企業テロ組織』であるということだけがわかった。
 組織規模詳細不明、現在残党は企業管理下に置いて解体、解析中。
 構成人員一部詳細不明、現在幹部クラス2名死亡確認、2名行方不明。
 行方不明者2名の捜査はすでに終了、MIA認定。

 また旧ピースシティエリアにおける戦闘ではカラード管理下リンクスの活動を確認。
 この活動に関する企業からの活動許可、及び依頼は確認できておらず。カラード登録時におけるリンクス契約規定事項B−66に違反してのリンクス独断での行動と推測される。
 総数5。カラード登録リンクス、Nо20、No31、No46、No47、No48であることを確認。
 なおNo20はこの戦闘後帰還は確認できず。同エリアにて大破状態にある乗機ネクストのみを回収。MIAに認定。
 No31から48に関しては身辺調査、及び各人への取り調べを実施。現在にいたっても監視は続行し―――





 狭いアパートの一室にいるマニングは情報へ目を通すのをやめると、それが表示されていた携帯端末をベッドに投げる。少し硬めのスプリングは軽くはじき返してワンバウンド、また小さく宙へと浮かせれば再度落下してきたそれを受け止めた。

「…何度見ても同じか。」

 ため息交じりに椅子の背もたれへ身体を預けるようにのけぞる。薄汚れた天井には程よく古びて、本来の明るさを失い始めた蛍光灯が彼へと向け光を降り注がせている。それに若干目を細めると、テーブルから一枚の写真を手に取った。そこには青い髪の青年が映っている。

「カラード登録リンクス、No20ペルソナ・ノン・グラタ…本名ソイル・ロバルト。…推定年齢20代前半、性別男性、出身及び人種不明…、確認できた最後の姿は旧ピースシティエリアでの戦闘…。機体は回収するも遺体は確認できず、行方不明…。」

 先ほどと同様、何度も目を通した情報を呟く。こちらは彼が独自のルートで調べた情報である。リンクスの情報はかなり秘守性が高く、このように登録名以外多くの情報がわからないことなどよくあることだった。だが今回は多くの金を払ったおかげか本名を突き止めたことは大きな収穫と言える。

「……行方不明ってのは…仏さんになってると考えるより、まだ生きている…てぇ考えるほうが、いいな。」

 体を起こすと写真も先ほどの携帯端末同様、ベッドへと投げる。ひらりと空中で一回転した写真は器用に先に置かれていた端末の端にぶつかり、寄り掛かるような形でこちらへと青い髪の青年の姿を見せた。それを見たマニングはさらにテーブルに置かれていた愛用のカメラを手にし、ファインダーを覗き込む。写真にカメラで狙いを定め、さらに写真を撮るという形となっているのはどこか奇妙な光景だ。

「……こいつを追いかけたら、また面白い写真が撮れるかもな。…常に被写体を追いかけ続け、真実をフィルムに収める。それがジャーナリスト…。そうだろ?マギィ。」

 彼以外誰もいない部屋で、まるで誰かに語りかけるかのようにつぶやき続ける。それに答えるかのように、シャッター音だけが小さく鳴っていた…。





 真夜中のレッドリバーに響く銃声…いや、その大きさはむしろ砲撃音と言うほうが正解だろうか。人間のもつ銃火器のサイズを裕に超える大口径の弾丸が三本束ねた形となっているガトリング銃身から発射速度毎分1000発を超える速さで撃ち出されていく。その発射音はさながら、巨大な滝のそばにいるかのような激しいものであった。

 標的となっているノーマルがその身を守っていた合金装甲をただのクズ鉄へと変えられ、さらにその下にあった内部構造をさらすとほぼ同時に装甲と同じようになっていく。それはあまりにも一方的なものだった。

 ただ破壊されていくだけの戦闘。それに一欠けらの許容もなく、慈悲もなく。ノーマル対ネクストの戦闘はいつもこうなのだ。そして三機目のノーマルが爆散すると、残った二機は中破した一機を見捨てて離脱し始めた。それを追撃しようと動く青いネクストだったが、それはすぐに前へと飛び出してきた別のネクストに遮られ、止められる。

『追撃はしなくていい。』

「なんだ?まさか殺すのが嫌だとかぬかすんじゃないだろうな?」

 青いネクスト、エアレイドのリンクスであるヴェーツェルは目の間にいる淡青のリンクスへ食ってかかるような勢いで通信を返す。

『まだ一日目も始まったばかりだ。無理な行動は控えるのが得策だ。』

 そんな彼へ淡青のネクストに乗るリンクスは憶すことなく言い返してくる。そして生まれる沈黙と、そこに混ざる戦闘中の張り詰めた緊張。銃口こそ向けあっていないが二機ともシステムはいまだコンバットモード(戦闘形態)のままであり、画面中央にある照準カーソルはお互いに向けられたままとなっている。

『オペレーターより各リンクス。派手に動くのは良いがコジマ粒子の汚染に注意しろ。近くの野営地点にいる味方を自分たちが汚染しました、では面白くもない冗談だからな。中和剤を持って来ているとはいえ、屋外での効果はあまり期待できない。』

 そんなタイミングで入ってくる通信。同時にヴェーツェルの目前に映し出されたのは女性だった。歳はまだ若く二十代前半ほど。だが髪は元が金色らしいが、一部が白く変色し生気が抜けたかのようになっている。

「安心しろよ、ティメ。今はそこまで派手にヤルつもりはねぇ。」

『一応やるつもりはあるんだな。だが敵性勢力を相手にした話だけじゃないぞ。 二人ともあの時の決着でもつけたいなら、今はせめて素手でやれ。野外用の装備機材は準備しているとはいえ、それだけではネクストを常に完全状態で維持できるほど行き届いた整備は出来ないからな。無駄なことで消耗するのはやめろ。』

 未だに睨み合ったかのような形で向かい合っているネクスト。お互いに対し向けられた闘争心が消えないヴェーツェルと淡青のネクストパイロットへ、ティメは笑みを浮かべたまま言う。

「はっは、だってよ。どうする?ソイル。」

『……はぁ…。ティメ…普通そこはもっと積極的に止めるべきでじゃないのか…?』

 そんな様子にヴェーツェルも小さく笑うと照準カーソルをはずす。淡青のネクストパイロットであるソイルもため息交じりに、システムをコンバットモードから通常モードへ、移行するのだった。

 二人はレッドリバーの一部に仮設されたネクスト用の簡易待機所へ向かうと機体を準待機状態にしてジェネレーターの出力を落とす。同時に周囲から機体についたコジマ粒子を中和する薬液と水が振りかけられた。

 コジマ粒子は健康被害を及ぼす有害なものである。それをPAや機動性能に転用したネクストは短時間の戦闘であっても、動けば確実に周囲へコジマ粒子をまき散らし汚染してしまうのだが、その汚染範囲は自機でさえも例外なく含まれているのだ。

 機体の表面についたコジマ粒子は常に搭乗するリンクスの身体を蝕んでいく。それらからパイロットを守るために他社に比べ圧倒的な重装甲化とパイロット保護を図ったトーラス製ネクストフレームでさえ、それを完全に遮ることは不可能だった。

 常時身に纏うPA、高濃度のコジマ粒子を使用するコジマ系装備。そう言った武装を使用すればその危険度は数倍に跳ね上がる。それを完全に洗い流すことは不可能だとはいえ、少なくともある程度人体への影響を抑えるレベルにするにはこまめな機体洗浄が必要なのだ。

 数十分後、ようやく洗浄が終わりネクストから降りることができる状態になったことが通信で告げられた。ヴェーツェルはコックピットハッチを解放し外へと顔を出せば、すぐに感じるのは空気中に残る大量の水分と中和剤の独特の臭い。それはこの洗浄でも十分環境汚染になってるんじゃないか?と誰かに問いたいくらいだった。だがそうしなければならないのも自分がネクストを動かし、さらに背部装備のコジマミサイルを使用したことが原因なのだから…。

「俺がそれを言えねぇか…。」

 小さくつぶやきつつ、コックピットの傍に取り付けられた搭乗用のタラップで地上へと降りていくのだった。下に降りればパイロットスーツを身にまとった青い髪の青年が立っている。顔には左目を隠すようにされた医療用の眼帯が特徴的だ。

「よぉ、ペルソナ。いや、今はソイルか。…前よりはちったあマシな顔つきになってんじゃねぇか。」

「ああ、おかげさまでな。左目も傷はもう問題ない。」

 その人物はソイル・ロバルト…以前カラードランク20に属していたネクスト、ブルーテイルのパイロットであるペルソナ・ノン・グラタである。二人は以前、あるテロ事件で敵同士となり戦いあった仲だった。

 そんな二人はお互いに小さく笑みを浮かべる。それは友人に向けると言うより、互いに認め合っているライバルへと向ける挑戦的な笑みである。そんな二人へ近づいてくる人物がまた一人いた。

「久しいな、ヴェーツェル。お前は変わりないようだが、むしろそれは喜ぶべきことか?」

「さぁな。 そういうお前は少し変わったな、ティメ。」

「そうだな、少し髪が伸びた。…ついでに筋力は落ちたが胸囲は少し増したよ。」

 そう冗談を言って自身の髪をいじるティメ。彼女もまたソイル同様、テロ事件の際ヴェーツェルと一緒に戦った人物であるが、あの時に比べその髪は一部白く脱色したように金髪が薄れており、全体的に体格も痩せて細くなったような印象を受ける。

 その理由をヴェーツェルはすぐに理解する。あの時、彼女は特殊な大型MTに乗って出撃したという。そのMTはネクストの技術を取り込んだものであり、高性能なPAを搭載していたそうが…彼女の変化は明らかにそのコジマ粒子による高濃度汚染によるものだった。未だ症状は精神汚染にまで進んではいないようであるが、かなり無理はしているのだろう…。

「はっ、そいつはパイロットとして残念だが女としては喜ぶべきことなんじゃねぇか?」

 ここで変に気を使っても彼女は喜ばない。ティメはそういう女なのだ。例えあの時の短い時間であっても、一緒に過ごしたヴェーツェルはそれを理解していた。だからあえて、彼女に対し今まで通りに振る舞うのだった。

「やれやれ、どこにもいないと探してみればこんなところで集合か?」

 そんなとき、また新しい人物が歩み寄ってくる。その姿はどこか3人と比べれば異様なものに思えた。ネクストから降りたばかりであるソイルとヴェーツェルはパイロットスーツ、そしてティメは女性用のスーツ姿をしている。

 だが新しい人物、R・クーガーはパイロットスーツにガンマンハットを深めにかぶり、さらにどこか古めかしいリボルバーを携帯して口元にはアメカンスピリットと言う煙草を咥えていたのだ…。見方によってはまるで西部劇などの映画にでも出てくるガンマンのような風貌を思わせ、周囲をせわしなく動くツナギ姿の作業員たちと見比べればその姿はさらに異様だと再確認できる。

「…、すまない。先ほどは急な戦闘だったとはいえ、挨拶が遅れた。ソイル・ロバルトだ。今回そちらの行動支援を受け持つ。」

「私はティメ・アデン・テレスカヤだ。今回お前の要望通り、オペレーターを担当する。」

「クーガーだ。お互い頑張るとしよう。それにソイル。例の提案、二つ返事で受けてくれて助かったぜ。」

 一瞬、その異様さに呆気にとられていたのか。我に還ったかのようにソイルは手を差し出すと名乗り、ティメもそれに続く。それをクーガーは碧眼を細め笑顔を浮かべると握り返した。だが最後のヴェーツェルはそんな3人へ背を向けると休憩所として設置した仮設テントへ歩いて行ってしまう。

「おいおい?今回一緒に仕事しようって奴にあいさつもないのかい?」

 クーガーが『やれやれ』と言いたげに首をすくめる仕草をする。それにヴェーツェルは立ち止まると振り返った。だがその表情は先ほどまでソイル達と話していた時のものとは違う。

「…なれ合う必要はお互いにねぇ。前にもそこの坊主にも言ったが、…グダグダ抜かす前にてめぇの力を示してみろ。それで十分だ。」

 敵意とまではいかないが、強い警戒心。クーガーへと鋭く向けられた瞳がそれを物語っていた。

「OK。しかしなヴェーツェル。お前が俺の力を直接見る必要はないだろう?それは貴重な休憩時間の無駄使いだ。ゆっくり休んでた方がいい。それでじっくり休めたのなら、俺の力も分かる。違うか?」

 それにクーガーは動じる様子もなく、ただ笑みを浮かべてあっさりと返すだけだった。





 レッドリバーより数十キロ離れた地点、そこにはインテリオルの部隊が駐留している。その規模は中隊規模であり、ノーマルだけを見ても相当数の機体が集結していた。その中には先ほどのレッドリバーの戦闘から帰還した二機も含まれている。

その中央にある、作戦会議などを行うミーティングルームとして使用されている大型トレーラーの中でクレンはノーマルが持ち帰った情報を分析していた。

「…敵ネクストは3機。No31エアレイドと56シューター…。でも残り一機はカラードのランキングに存在しない。」

彼女が見ている映像の中央には淡い青で塗装されたTYPE-HOGIRLが映っている。武装も右手に初期型のライフルと左手にレーザーブレード。背中には小型ミサイルポッドと軽量型レーダーを装備しているのだが、何度確認してもこれとおなじ構成のネクストはカラードに存在していなかった。

 この機体の情報はインテリオルから教えられていない。ならイレギュラーと言うことになるのだろうが、ネクストを運用できる組織となるとその存在は多くなかった。それならすぐにわかりそうなものだが…再度データベースに同一機体の情報を確認してみるも回答は『Pertinent information doesn't exist.(該当情報は存在しません。)』という表示が出るばかりだった。

 ため息を漏らしつつ作業をいったん止め、先ほどまでの真面目な表情を解いたクレンは椅子へと完全にもたれかかる。

「…できることなら、お兄ちゃんのために少しでも不安要素は取り除きたいんだけどな…。」

 その顔には仕事のことを除き、純粋に兄を心配する妹の顔があった。そんな時、プシュッと音を立てて入口のドアが開く。急いで体を起こしたクレンが振り向けばそこに立っていたのは兄のゼクだった。先ほどお手洗いに行くと部屋を出ていったのだが…。

「あ、お兄ちゃん。おかえ―」

 表情をいつも通りに戻りつつ話しかけようとしたクレン。だがその時ゼクの顔が真っ青になっているのを見ると、すぐに慌てて立ち上がり駆け寄る。彼女がたどり着くよりも早く、崩れる様に座り込んだゼクをクレンは抱きしめた。その身は小刻みに震え、冷や汗を浮かべている…。

「…人、が…おおいな……ここ、は…。」

「お兄ちゃん、ごめんっ。やっぱり一緒についていけばよかったっ…!」

「うぅ、ん…大丈夫、だから…。」

 単にお手洗いに行くからと言う彼に遠慮してクレンはついていかなかったことを悔いる。それに出来る限りの笑みを浮かべて答えるゼク。彼はTaijin kyofusho symptoms (TKS)(文化依存症候群)の一つである対人恐怖症を患っており、過去のことから他者と接触することを極端に恐怖している。例外であるのは唯一の肉親である、妹のクレンのみ…。

 今だ荒い呼吸が収まらないゼク。そんな彼を、クレンはただずっと抱きしめ、落ち着かせるようにその背を撫で続けるのだった…。





 レッドリバー防衛の任務が始まってから5日目の深夜…。ヴェーツェルは自身の愛機であるエアレイドのコックピットに深く座り、座席を倒すと大きく解放された搭乗口の向こう側に広がる夜空を眺めていた。ふわりと夜風が吹くたびに、またコジマ粒子中和剤と硝煙の匂いが薄く感じられる程度に流れ込んで来る。

「ちっ……。ムカつく臭いだ。」

 それに苛立っていた気持ちをさらに掻き立てられ、小さく舌打ちする。昼間行われたはずの戦闘の臭いがまだ残っていると言うことは、それだけこの土地に臭いが染みついてしまっていると言うことなのだろう。今日までに行った戦闘は片手で数えられる数ではないのだ。

 相手はノーマルばかりであるが、数も多く昼夜問わず攻撃してくる。その上自分たちネクストと戦うより補給や整備のためにいるハロルドを積極的に攻撃してきているのだ。幸い自衛用にいるソイルのネクストもあり、今のところ被害はそれほど多くはないが…。こんな奴らと戦っていても面白くない。倒してもすっきりしない。ヴェーツェルが苛立つには十分だった。

「…面白くない。顔にそう書いてあるな。」

 そんなとき、ひょこりとコックピットをティメが覗き込んでくる。いつの間にここまで登ってきたのか…全くわからなかったヴェーツェルはまた舌打ちすると顔をそらすように向きを変えた。

「確かにお前向きのミッションでも相手でもない。面白くないと思う気持ちはわからなくもないさ。」

 そんな彼にティメは笑みを崩すことなく言うと右手に持っていたものを彼に向って軽く放る。咄嗟に受け止めたヴェーツェルは感じる冷たさに、手の中のものを眺め。

「………ノンアルコールビールか。こんなもんじゃなく、本物の酒のほうが飲みてぇな。」

「そう言うな。一応は戦闘待機中だ。」

 開きっぱなしのコックピットハッチへ腰をおろした彼女もまた同じものを持っており、飲み口を開けると早速口をつけ大きく喉を動かして一気に飲んでいく。その様子にヴェーツェルは呆けていたが、自分も蓋を開けると同じように飲み。二人はほぼ同時に口を離して一息ついた。

「ならその面白くもないミッションをなぜ受けたんだ?ヴェーツェル。 報酬だけを見れば他にもいい仕事は山ほどあるだろうに。」

「………決まってんだろ。」

 またすぐに、半分ほど残っていたビールの味しかしないそれを、ヴェーツェルは喉を鳴らして自分の体へと流し込む。そして空になれば手に力をこめ、クシャッと缶が音をたててつぶれた。

「俺はお前個人に雇われてるんだぜ? それに、あの時の報酬をまだもらってねぇしな。」

 潰れた空き缶を搭乗口へ向けて放る。ティメの横で一回バウンドした缶は乾いた音を立てつつ弾んで外へ、そのうち小さく下のほうでカランっと言う音が響いた。あの時とは、アヴローラのテロが行われる前に出会ったバーで交した契約のことだ。ティメが彼を雇うときの出した報酬…それは『彼女自身』であった。

「………それもそうだったな…。報酬が未払いでは、契約違反になってしまう。なら忘れてくれず、ここでお前と会えたことは喜ぶべきことだな。」

 彼へと顔を向けるティメ。月明かりに照らされたその顔は薄らと赤みを帯びているようだった。

「…なんだ?お前照れてるのか?」

「ふん、目でも悪くなったのか貴様。 単にこれで酔っただけだ。」

 にやりと笑みを浮かべるヴェーツェルへ、ティメは多少口を悪くすると顔を逸らして手に持っている缶を振ってみせる。アルコールが入っていないノンアルコールビールだと言うのに、いったいどうやって酔うと言うのか…。しばらくヴェーツェルは笑みを崩すことなく彼女を眺めていた。いつの間にか、苛立っていた気分がなくなっていることも気付かずに…。





 七日目。今日でGAから依頼されていた期限も最後だった。すでにハロルドの面々は撤収準備のために整備機材を解体し、トレーラーへ載せ始めている。そんな中、クーガーは自身のネクストの中でいつも通りのシステムチェックを行っていた。

 接続したAMSより返ってきた答えは『システムに異常なし』。だがクーガーは自分の愛機から感じる音に微妙な違和感を覚える。いつもより高く響く起動音、関節の上げる鈍く小さい異音、メインカメラやセンサーに時折はいる乱れや雑音。システムがまだ許容範囲内として無視する不具合をクーガーはしっかり感じ取っていた。

 起動音がいつもより高いのはここ数日で多少無理をさせジェネレーターに負荷がかかっているからだろう。関節の異音はネクスト特有の高機動から来る負担が蓄積したのか。精密な整備が受けなければならないがしっかりとした設備のない場所であるために行えず、複雑なセンサーには微妙なズレが生まれ始めている。

 今の状態、せいぜい通常と比べて稼働率は70%程度だろうか。確かに動くだけに関してはそれでも問題ない。だが戦闘になればそのちょっとしたものが命取りになるものだった。そしてこれを狙っていたのか、同時にコックピット内で響く警戒音にクーガーは小さくため息をついた。

「やれやれ、お客さんかい? まぁ、大体予想はできていたけどな。」

 ここ数日で相手は確実にこちらの消耗を狙ってきていた。そして最終的にもっとも消耗するだろう今日、残った全戦力で攻撃を仕掛けてくるだろう事も容易に予想できる事態だった。

 だからこそクーガーはソイルにある提案をした。それは『最低限必要な物資を受け取り別の場所に駐留する』っと言うものだった。これを行ったのにはヴェーツェルのエアレイドと固まった状態でいるところを狙われては厄介であるという理由からだった。

『R・クーガー。こちらへの多数の敵性勢力が接近しているのを確認した、迎撃に向かってくれ。』

 AMSを経由して視界の中で通信用に区切られた部分が生まれ、ティメの顔が映し出される。すぐに送られてきたマップデータに表示された敵性マーカーはクーガーのいる場所ではなく、一直線にソイル達の野営地点を目指しているようだったが、ティメの顔に焦りの色は見られなかった。

「OK、こっちは準備できてるぜ。そっちのはどうだ?」

『現在ソイルがハロルドの撤収を指揮しているが、敵との接触までには間に合わんだろうから防衛に回るそうだ。ヴェーツェルも迎撃に向かわせるためネクストに搭乗しているが、先ほどまで機体の整備をしていたためまだ最終調整が終わっていないらしく出撃には少し時間がかかる。』

「なら、それまでお客さんは俺が相手をしよう。」

 クーガーはネクストを発進させ、大きく跳躍。空から戦場を見下ろす。するとレッドリバーにある湖に沿って敷かれていた道路を多数のノーマルが移動しているのが見えた。その進行方向には多数の人間や車両がせわしなく動いているハロルド野営地点が見える。

「しけた客ばかりだが、沢山来られると面倒そうだ…オペレーター、今いる数から予想敵戦力はどれくらいか分かるか?」

 OBで湖を突っ切るように走りつつ、クーガーは最初に送られたデータから予測できる敵数を考え出す。今のところノーマルだけのようだが数が多い。ネクストと言えど弾丸も無限ではないので後続がいることも視野に入れて行動しなければすぐに弾切れになってしまうだろう。

 すぐにティメから送られてきた予想数値は自分が考えていたものと大して変わらないようであった。クーガーのネクスト、シューターの両手に握られていたハンドガンが最初の目標へと向けられる。

 気づいたノーマルがこちらを向くのが見えたが、遅い。次の瞬間には目前まで迫っていたシューターから弾丸を叩き込まれ、多数の穴を開けると機能を停止した。同時にOBを停止し、ノーマル達の進行方向へ強引に割り込む。

「Both hi and the outlaw. The cowboy came.(やあ、無法者共。カウボーイがきてやったぜ。)」

  通信回線をオープンにし、両手のハンドガンを構え直す。確かにその姿はカウボーイ…と言うよりガンマンを思わせるような雰囲気があった。一瞬ノーマル達は驚いたように動きを止めるが、すぐに先頭の一機がレーザーライフルを向け直してくる。短い発射音と発射光。だが打ち出されたレーザーはシューターを捉えることなく、地面に命中してその周囲を焼き、砂埃を巻きあげただけだった。

「Aging is that you are, and whether there is greeting either. It might be probably good. Then, are not you answering in an answer as it is here?(おいおい、挨拶も無いのか?まあいいだろう。ならこっちもそれ相応の返事で答えようじゃないか。)」

 又ネクストからの通信、ノーマルパイロットは同時にけけたたましい警告音も聞くことになった。敵の反応は―――真横。メインカメラがそちらを向くよりも早く、また近距離からハンドガンの攻撃を受け、頭部は粉々に吹き飛ばされた。





 ノーマル部隊に続き、遅れて戦場へと到着したゼクが見たのは混乱してバラバラに動く部隊と、その中を駆け抜ける一機のネクスト。妹のクレンから渡されていたデータからNo56のシューターであることがすぐに確認できた。

 だがゼクはそれを見ても今は何とも思わない…というより、思う余裕がなかった。戦場が近付き、それに合わせて自然と近づいてくるノーマル部隊やネクスト。その存在は重度の人間恐怖症であるゼクにとって、恐怖でしかなかったのだ。

 攻撃されるのが怖いのではない、そこにいるという存在が怖いのだ。ただそこに他人がいるだけで自分の心を掻き立て、掻き回し、そして恐怖させ、否応なく早くなる鼓動が中から彼を突き破るのではないかと言うほどに感じる。

 気がつけばゼクのネクスト、フルバーストは足を止めていた。

『っ、お兄ちゃん!? お兄ちゃん!しっかりしてよ!』

 オペレーターであるクレンの声が響く。だが鼓膜でそれを感じても、その声は一つもゼクの頭の中へと入っていかなかった。全身から冷や汗が流れ、足や腕がガクガクと震える感覚に支配される。もうこれ以上あの近くに行けない、行ったらだめだ…。心の上げる悲鳴にゼクは支配されていたのだ。

 だがノーマル部隊は彼のそんなことは知る由もなかった。フルバーストの姿を見つけた一機が援護を求めて接近してきた。敵のネクストにノーマルでは相手にならない、ネクスト対ネクストで対抗するしかない、当然の判断だ…。それを皮切りに一機、また一機とどんどんノーマルが近づいてくる。

 嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、いやだ、いやだ、いやだ、くるな、くるな、くるな、いやだ、ぼくのほうにくるな、こっちにくるな、ちかづくな、くるな、やめろ、だめだ、こわい、やめてくれ、こちに、こっちに――――

 頭の中で響く悲鳴に、ゼクは小さく首を振っての否定する仕草をするのだけが限界だった。そしてついに目の前まで一機のノーマルが迫った瞬間、彼の中で何かが切れた様な気がした…。

「っ〜、僕に…近づくなああ゛ぁ゛ぁ゛ーーーーーっ!!!」

 次の瞬間、目前のノーマルの胴体に穴が空く。穴の周囲は若干溶けており、かなりの熱量をもった攻撃が命中したことが見て取れた。そしてその穴を作った元凶、それはフルバーストが左手に持ったハイレーザーライフルだった。





「なんだ?」

 クーガーは自分が攻撃してもいないのに爆発するノーマルを見て首を傾げる。だが次の瞬間、爆発が産んだ黒煙の向こうから無数の攻撃が飛んで来るのを見て、すぐにシューターを走らせた。幸い判断が速かったために多少装甲の上を傷つけられる程度の被弾ですんだが、ノーマル部隊はそうはいかない。

 ハイレーザー、スナイパーキャノン、ガトリング、グレネード、そしてASミサイル…そんな多種多様な攻撃の豪雨にさらされ、何が起こったのかもわからず次々破壊されていったのだ。そしてそれを行っている者は―――

『うわあああ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛〜〜〜!?やめろおおぉ゛ぉ゛っ!来るな来るなくるなくるなくるなあああ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛〜〜〜〜!!?』

『お兄ちゃん!!お兄ちゃんしっかりっ、! ノーマル部隊!今お兄ちゃんに近づいたらダメ!はやく離れてっ!!』

 周囲へひたすらに攻撃をばら撒くだけの乱射魔と化したネクストだった。確か以前にカラードのランクで見たことがある、No54のフルバーストだっただろうか。通信回線がオープンになっている様で、聞こえてくる声からリンクスがパニック障害まで引き起こしているのがわかった。それを必死に眺めようと少女らしい声も向うの回線から聞こえるのだが、あまり効果はない様子。

 いったいどういうことか状況が飲み込めないクーガー。その間にもノーマル部隊はすでに半数以上がフルバーストの攻撃で破壊、撃墜されて湖に落ちたり、爆散したりしているようだった。だが一部のノーマルだけその混乱から逃れ、大きく迂回する様に移動するとまたハロルドの野営地点へ向かっているのが見える。クーガーは一旦フルバーストのことは放っておき、そちらの対応へ動こうとした。だがそのノーマル達にはすぐに違う方向から弾丸の雨が降り注ぎ、数秒と待たずにスクラップへと変える。

『なんだ、あいつは?味方まで攻撃してやがるが。』

 迂回するノーマルを撃破したのは最終調整で遅れていたヴェーツェルのエアレイドだった。その視線の先は既にノーマルより暴れまわるフルバーストに向けられているようだ。

「やっとご登場かいロメロ(色男)。ずいぶん遅かったじゃないか。お色直しはすんだのか?」

『…うっせぇよ、時代遅れ。それよりこの状況はどうなってる?』

 ようやく来たヴェーツェルへと冗談を飛ばすクーガー。それを彼は若干苛立ったような声で適当に言い返すと、ティメへの通信新回線をひらいたようだ。

『少し待て、相手方に連絡を取ってみる……。 ……………。 ……状況はわかった。相手側のオペレーター、クレンと言う少女が言うにはあのネクスト、No54フルバーストのリンクスであるゼクが暴走状態にあるようだ。どうも重度の精神疾病を患っているらしい。』

「どういうことだ?」

『詳しくはわからん。だがどちらにしろ今フルバーストが危険な状態であることに変わりはない。ヴェーツェル、迎撃しろ。だが殺すなよ。相手のオペレーターは搭乗リンクスの妹らしいからな。』

『ちっ、…めんどくせぇ。』

 エアレイドが大きく飛ぶと上空からフルバーストへと迫る。クーガーも援護すべきか考え、ハンドガンの残弾を確認すると残りはわずか数十発だった。フルバーストは見てもすぐわかるくらい重装甲の機体である。そんな相手にこの程度の数を撃ち込んだところで焼け石に水程度のものでしかない。やれやれと小さく首を振ると素直にフルバーストをエアレイドに任せ、シューターは防衛のためハロルドの野営地点へと移動を開始した。





 エアレイドが黒煙を上げる地点の全体を捉えることができる高さまで上昇するとその中心にはフルバースト、周辺には大量のノーマルが既に残骸となって転がっていた。すでに動く機体はない、にもかかわらずフルバーストの無差別攻撃は今だ続いており、さらに残骸を細かく破壊していく。

「殺すな、か…。面倒だが雇い主の命令じゃしかたねぇか。」

 ヴェーツェルは小さく呟くと一気に機体高度を下げた。同時に両背から一発づつ、計二発のコジマミサイルを発射。まずはいつも通りの戦法でコジマミサイルによる広範囲汚染を引き起こし、相手にPAを中和する事にした。

 放たれたミサイルはそのままフルバーストの近くへ着弾すると大きなコジマ爆発を引き起こし、同時に周囲へと高濃度のコジマ粒子を拡散させる。それはフルバーストとエアレイド両機のPAに干渉して減衰、機体のPA維持性能をあっさりと上回り消滅させた。

 そこでゼクもエアレイドの存在に気がついたのだろう。周囲への攻撃の手を一瞬止めるとミサイルの飛んできた方向へ頭部を向けた。メインカメラのレンズに映ったのは両腕のガトリングを向ける青いネクストの姿。降り注ぐ弾丸が激しくフルバーストの重装甲を叩く轟音がコックピットへ響く。

『ひっ!? あああぁ゛ぁ゛ぁ゛〜〜〜!? やめろやめろやめろぉっ、くるなくるなくるなくるなくるなあああ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛〜〜〜〜!!』

 又通信回線からゼクの悲鳴が大音量で聞こえてきた。その声は先ほどから叫んでいたためか枯れており、息使いにもヒューヒューという息切れに似た音が混じっているのがわかる。

 すでに周囲にノーマルがいなくなったためか、フルバーストはエアレイドのみに集中して攻撃を再開する。だがその攻撃は照準をつけているとは思えない、ヴェーツェルからすればただの雑な攻撃だった。エアレイドがいるだろう方向に向けてトリガーを引き続ける、そんな感じだ。

 その程度の攻撃ならば対して怖いものではない。ヴェーツェルは空中で器用にQBを使用するとエアレイドを前後左右へと踊らせ、優久と回避する。そして反撃のガトリングを叩き込むのだがフルバーストにはあまり効果が無いように見えた。

 すでに先ほどのコジマ汚染でPAはお互いに消滅しており、攻撃は直接機体へと命中している。だがフルバースト程の重装甲をもつネクストとなればガトリング程度の火力で撃破するには決定打になりにくかったのだ。逆にエアレイドは軽量高機動を求めたネクストであり、薄い装甲にフルバーストの高火力が当たれば一撃でも十分な脅威となる。

 その上、相手のパイロットを殺すなと言うティメの言葉、それがヴェーツェルに取れる行動をさらに制限する結果となっていたのだ。いつものヴェーツェルならそんなこと『知ったことではない』といい、たとえ妹が見て居ようがなんだろうが、戦場へと出てきた相手に容赦などするつもりはなかった。

 だが今回はティメが『殺すな』と言っている。彼女はヴェーツェルが認めた数少ない人物で、そして自分の雇い主だ。ならそれを守らないわけにはいけない…。傍若無人と言われる彼の中にもある、自分が決めた自分なりの最低限のルールがそうしなければならないと言っていた。

「…ちっ、面倒事は嫌いだが…―――」

 エアレイドがフルバーストの弾幕を潜り抜けると少し距離をとって着地。そのまま機体を屈ませ、すぐにでも跳躍する形をとりつつ背部左右に一基づつ装備したコジマミサイルを武装選択した。

「無茶ってのは嫌いじゃねぇ…!!」

 顔に小さく笑みを浮かべながら呟き、ミサイルを両方とも発射。同時にエアレイドはまた空へと飛びあがった。フルバーストは自分へと向かってくるコジマミサイルに気がつくと、またすべての武器の乱射を開始する。しかし先ほどから撃ち続けている分、すでに肩部装備のASミサイルは弾切れ。背部装備のスナイパーキャノンとグレネードキャノンも同様の状態であった。残されたのは右腕のガトリングと左腕のハイレーザーのみ。

 それでもトリガーを引くことをやめないフルバースト。そのうちガトリングの一発が片方のコジマミサイルを捉え、爆破。さらにその横を飛んでいたもう一発も広がるコジマ爆発に巻き込まれ、誘爆した。

『はぁっ、はぁっ、はあっ…ぼ、ぼくに…近づく―――』

「言いたいことはそれだけか?ガキ。」

 だがそれでヴェーツェルの攻撃が止まったわけではない。一瞬でも気を緩めたフルバーストのモニターには真上から高速で,間近にまで迫る青い影が映った。言うまでもなく、それはエアレイドである。

『っ!!? うわああああぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!?』

 再び恐怖に駆り立てられ、上がるゼクの絶叫。半狂乱になりつつも迎撃のハイレーザーが数発放たれ、エアレイドへと命中する。だがエアレイドはそれを避けようとせず、そのまま突っ込んでいきショルダータックルの要領で左肩からフルバーストへ激突。肩部の装甲が大きく潰れ、機体全体のフレームが歪んでいく音が聞こえてきた。

 そして密着したままガトリングを強引にフルバーストの膝関節へとねじ込み、トリガーを引く。いかにフルバーストが重装甲とはいえ関節までもすべて装甲で覆うわけにはいかず、そこは数少ない柔らかい部分と言える。数秒と経たずに激しく弾丸に叩かれた関節から火花とオイル、そして小爆発が起こりフルバーストはさらにバランスを崩した。

 だがエアレイドは止まらない。さらにOBを起動すると、機体に残されたエネルギー全てと、限界の出力で強引にフルバーストを押しながら進んでいく。膝関節を破壊されたフルバーストは踏ん張って耐えることもできず、そのまま後ろにあった岩壁へと激突。激しい衝撃がコックピット内のゼクへと襲いかかった。

『がっ、―っ、 ………。』

 短いゼクの悲鳴が通信から聞こえ、数秒。エアレイドと岩壁に挟まれたフルバーストは動くことなく、そのままメインカメラから光が失われると機能停止した。

『お兄ちゃん!? お兄ちゃん大丈夫!? お兄ちゃんっ!!?』

「…うるせぇな。ただ思いきりぶつけて、衝撃で気絶させただけだ。死んじゃいねぇ。」

 兄の安否を心配して半分泣いているかのような声になっているクレンへ答えつつ、ヴェーツェルはティメへの通信回線をひらく。

「言われら通り殺さないで止めたぞ。これでいいか?」

『ああ、問題ない。よくやった。』

「…次からはこんな面倒なことはごめんだぜ。もとより人助けなんて俺の色じゃねぇ…。」

 面倒くさそうにため息を漏らすヴェーツェル。そんな彼へティメは笑みを浮かべる。

『その割には必死だったようじゃないか、無茶な戦法までとって。 こちらで確認してる機体状況から見てもお前も動けないんじゃないのか?』

「お前の命令だったからそうしたまでだ。そうじゃなきゃやらねぇよ。 ちっ、…わかったなら早く迎えにきやがれ。」

 ティメの浮かべている笑みに対して舌打ちすると、一方的に通信を切った。実際、彼女の言うとおりエアレイドは動くことができなかった。今回のミッションではしっかりとした整備を受けることができなかったため、先ほどのタックルが機体へかなりのダメージとなったのだろう。駆動系や動力系に異常を示すサインが表示され、強制的に機能を停止させられている。いまコックピット内は非常灯の赤一色に染まっていた…。





 それから数時間後、GAの部隊が到着しレッドリバー防衛のミッションは完了した。

 ゼクは戦闘の際の負傷のため、ハロルドが撤退する際に保護し医療機関へと送られた。後日無事にクレンとも合流することができた様だ………。

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