Wiseman Report
『ギア・トンネル占拠者排除』

 遠くで起こった爆発の振動がトンネルを震わせ、それをACの振動センサーと音響センサーが波形にしてパイロットへ伝えてくる。トーラス社所属のAC部隊員たちはギア・トンネルのある分岐点手前で足止めを食っていた。

「おい、B小隊。…おい!!」

『た、隊長…さっきの爆発といい…もしかして残ってるのは俺たちだけですか?』

「…まさか…そんなはずは…。」

 隊長と呼ばれた男は必死で現状を整理し始める。それは少しでも自分を落ち着かせようとするための行動だったのかもしれない。ここ、ギア・トンネルに突入した部隊は自分たちを合わせて七つ…合計21機のノーマルACと一般兵器の構成だった。目的はここを占拠する所属不明の独立勢力の排除…簡単な任務だ。最初こそ占拠していた所属不明部隊相手に優勢にことを進めていた。

だが、しばらくするとやつらは奥へ撤退…変わりに状況は一変することになる。最初に通信が途絶えたのは一番先行して追撃していたD小隊だった。部隊同士で共有しているデータリンクで確認すると敵と接触したという通信を最後にわずか約16秒後…、小隊AC三機のシグナルが消えていた。わずか5秒少々で一機撃破された計算になる。

 その次はC小隊、次はG小隊と、所属不明部隊が撤退した方向へと追撃していた小隊が、その逃走経路にそって順々にシグナルを消失していく。そうして…最後に残されたのが今ここで足止めを食っているA小隊だった。

(…どうなっている?我々は追撃している…勝っているんじゃないのか?敵が撤退したのはわなだった?トラップ?いや、それなら一番先行していたD小隊ならまだしも、後続までそのまま罠にはまるとは考えにくい。じゃあ大部隊の援軍?だが、それなら動けばレーダーや振動センサーでわかるはず。それにACのシグナルが消える時間がずれるということは一機一機順々に撃破されということだろう。つまり相手はAC以上の戦闘力を持ったもの。そんなものは…。)

『た、隊長!?』

 頭の中を渦巻く不安、そのために否応なく荒くなってきていた呼吸、それさえも気がつかなかったほどに焦っていた自分に、小隊長の男は部下の声でようやく気がついた。同時に警報、すぐにモニターを確認すると先の分岐点に人影が見える。いや、正確には人ではない。手足、頭、胴体があるが大きさは10メートル以上ある。薄暗くてはっきりとわからない機影だが、隊長の男は確信していた。

「…ネクストか…っ!」

 ACは現在でも機動兵器の中で上位に君臨する。それを圧倒できるものなど限られていた。実力者が乗った同じAC、またはその戦闘力さえ飽和する圧倒的戦力差、そして…ネクストだけだ。

「A1よりA小隊各機!カウント無しで撃ち込むぞ、俺に合わせろ!!」

 焦りからまだ完全に抜け切らない口調での指示に部下達も鼓動が跳ね上がる。敵はネクスト、性能では負けている…。だがいくら機動力が高そうな細身のネクストといえど、この広いとはいえないトンネルではその得意とする機動力はうまく発揮できないはずだった。それに距離もそれほど離れていない。この状況なら回避し続けることは不可能だと考えたのだ。

「撃ぇっ!!」

先頭に立っていた隊長機が発砲、それにあわせ残り二機も一斉に装備している武装を発射する。通路を埋め尽くす、とまでは行かないが十分な弾幕がトンネル内を走り、ネクストへと向かう。だがその攻撃を、ネクストは狭いトンネルの制約がないかのごとく、あっさりと回避して見せた。ライフルやバズーカ弾はまるで軌道を先読みしたように、ミサイルはひきつけぎりぎりで回避する。いくらネクストが高い運動性を持っているとはいえ、その動きは異常に思える。

 だがそれでもACたちは攻撃をやめるつもりはない。やめたところでこちらが逆にやられるだけ…ならば反撃のすきも与えず、ただ攻撃し続けるしかないのだ。避けるネクスト、弾幕を張るAC、先にチャンスを見出したのは…ACだった。

ネクストは飛んできたミサイルを回避したのは良いが、その右側にはすでに壁。隊長は確信した。壁に追い詰めて避けられなくなった、なら後はそのまま集中弾を叩き込んでやればPAを持つネクストとはいえ耐えられないはず。勝てる、と。

 だがその予想はあっさりと裏切られた。壁に追い詰められたネクストはそのまま、まるで壁が地面であるかのように機体を横にし、左肩のQBを噴かし壁を走ったのだ。

驚きに声さえ漏らすことができない。ネクストに、そんな動きができるはずがない!!隊長の男はそう叫びたい気分だった。だが実際、目の前でそれを相手はやってのけたのだ。ネクストはそのまま壁を走って急接近するとそのまま隊長機後方にいたAC二機に右手のライフルと左背の軽量型グレネードを順々に叩き込む。

 そのまま隊長機の目の前に着地、同時に左腕が引かれすぐに突き出されるとそこに装備していた射突型特殊ブレードがACを貫く。その時、直撃し潰れるコックピットの中で隊長は確かに叫んだ。化け物めっ、と…。だがそれは誰にも聞かれることはなく。爆音にかき消されるだけだった…。




 ギア・トンネルには各所に物資搬入用のエレベーターがいくつか存在する。これは長大なトンネルの建設当初に資材を搬入するために使用されていたものであり、完成した現在では緊急時以外使われていないものだった。そのひとつ、周囲を砂漠と荒野にはさまれた地上搬入口付近に今は二体のネクストとトーラス社の機動部隊が展開している。

 一機目のネクストはランク25のレオン・マクネアーの駆るエルダーサイン、中量二脚タイプ。最新のレーザーライフルを主兵装にしており、そのほかの武装を見てもバランスよくなんでもこなせる万能型の機体といった様子だ。照りつける太陽に若干重層感のある黄のメインカラーが光り、どこか金色に見えるようである。

 もう一機のネクストはランク37の早瀬の壱号であり、全体的に青みかかったグレーの迷彩パターンで塗装されているが、最初の一機目に比べ太陽に照らされる分もっと黒い色に感じられる。武装はハンドガンにハイレーザーライフルを装備している…というより、その二つしか武装は装備されていないのだ。誰の目から見ても、総合火力は低い機体といえる。

「レオン・マクネアーだ、よろしく。」

「早瀬です、今回はよろしくお願いします。」

二体が並ぶ足元でレオンと早瀬はお互い名乗りあうと早速今回のミッションについての相談を開始した。今回は狭いトンネルという戦場であるため、ネクストの機動性はかえって仇となる可能性が高い。そこで、レオンは早瀬とお互いの連携についての話をし始める。回避が難しい分はお互いにカバーしあう動きをとることで、死角や弱点を補おうと考えたのだ。

もっともすぐに早瀬はレオンの支援に徹することを話、レオンもそれで行こうと返事をした。先ほどから見ているに、早瀬の壱号はあまり戦闘力が高い機体ではないとレオンは考えていたため、はじめから自分が前衛になるだろうと考えていた。

 次は相手側戦力についての相談を開始する。レオンは自分の携帯端末にトーラス社から渡されていたデータをいくつか入力しており、取り出すとそのデータを展開する。わかっている戦力だけでも、二体のネクストしいないこちらの比べ、所属不明部隊の数はかなり多かった。でも一般兵器やACは数など問題ではない。問題はイレギュラーネクストと、未確認の兵器のほうだろう。

「…ネクストやACのパーツですよね…これ?」

「ああ。見る限りGA系のGAN01−SSタイプのコアと脚部だな…だがコアにはAC用のコアも背面にくっつけてるみたいだし、脚部なんか二個をむりやりつなげてる。見るからにあり合わせだな…。」

「ですが、このレーザー砲は少し厄介ですかね。報告では一撃でACと撃破したそうですし。」

 未確認の兵器はレオンの言うとおりネクスト系のパーツを組み合わせてできた異形の機体だった。特に一番妙なのは本来頭があるべき場所に固定レーザー砲があることだ。ネクスト系コアにAC系コアを強引に連結させ、延長したぶん搭載するスペースができたのだろうが…見るからに不恰好だ。あとはアルゼブラ製のマシンガン武器一体型椀部を装備しており、こちらは近接防御用といったところだろうか。

「懐へ飛び込めばこっちは問題ないだろうが、トンネルという戦場だから接近するのが難しいな。それに…もう一機のイレギュラーネクスト…。」

 次に再生した記録はトーラス社AC部隊が白いネクストに蹴散らされるところだった。白いネクストはアルゼブラの前身、イクバール標準機ベースの軽量二脚タイプであり、運動性も機動性もかなり高いようである。だがもっとも問題なのはその特異な機動だった。ネクストが壁走りをするなど聞いたことが無い。

記録の最後にこのデータを残したAC部隊長の男が『化け物』と呼んでいるが、まさにそのとおりだ。映画やアニメじゃあるまいし…。レオンは小さく舌打ちするとこれとどう戦うべきは必死に考え出す。このミッションを受けてしまった以上、相手をしなければならないのだから…。




『リゾルート様。』

 部下からの通信に白いネクストに乗った男がゆっくりと目を開ける。同時に最低限にまで下げていたAMSの出力をあげると、後頸部にあるジャックへつないでいたケーブルから流れ込んでいた情報量一気に増す。ちりっと、視界が熱くなり、どことなく重く感じるのはAMS出力が少し過負荷気味に設定されているからだろう。最初こそ苦しんだこの痛みも、今ではそれほどではない。

「どうした…?」

『ネクストの反応を確認しました。おそらくはカラードかと…。』

「…飼い猫か…。」

 白いネクスト、マニトゥーワクの左右に控えていたACが前進を開始しようとする。だがそれをネクストの腕がさえぎった。

「私がやろう。ネクスト相手ではお前たちでは持つまい…その間に撤退準備、線路の断絶を終わらせておけ。」

『しかし、メルセゲルはいかがなさいましょう?』

 ACが後ろへと下がる。だが最後に残ったいったい一体の問いに、リゾルートは大きくため息をついた。さて、あのお荷物をどうすべきか…あれを持って下がるには時間が少ない。

「あれは自立制御でおいて来い。どうせドルチェの玩具だ…。接近するものを無条件攻撃する設定でいい。」

 指示を出し終えたリゾルートはマニトォーワクを歩かせ前進…AC隊が撤退し距離が離れた瞬間、QBを利用して一気に速度を上げた…。




 トンネルの中を進軍するレオンはおかしな感覚を感じていた。傭兵の家系に生まれたためだろうか、彼はこういった戦場の空気を読む才に秀でている。その感覚が、今はこの戦場がおかしいと告げているのだ。

 トンネルに入って数十分。レオンのエルダーサインを先頭に、その後ろに早瀬の壱号がつくポジションで前進を続けているが、いまだ敵との戦闘は散発的にしか発生していない。しかも少数のノーマルと、不規遭遇戦。相手もこちらを待ち伏せていなかったようで、とっさに戦闘態勢をとるが戦闘能力差があるノーマルでは備えもなくネクストを倒すことは難しい。

『この先、大きい通路に出ます。』

 後ろにいる壱号からの通信。彼は支援に徹するため、トーラスからあらかじめマップデータを受け取っていた。その通信を聞いたレオンは枝分かれした交差通路に出る手前でいったん停止、早瀬に左手を動かして合図を送ると同時に飛び出した。

「…待ち伏せ…も無しか。…一体どうなってるんだ?」

 少し拍子抜けしたようにエルダーサインが武器を下ろすと、壱号も続いて下ろす。もしかしたらもう撤退を開始したのかもしれない。レオンはそう考えると早瀬に進軍速度を上げるように伝える。仮に撤退中だとしても、ターゲットの全排除をミッションしている自分たちはそれを完全に確認、残っているものがいたらそれを片付けるまで終わりではないのだ。

 先ほどより少し大きめの通路をエルダーサインがブーストダッシュを開始、それに続くように壱号が動こうとした時、うす暗い通路の先で何かが光った。

「っ!? よけろ、早瀬!!」

『え?』

 咄嗟にエルダーサインが左肩のQBを噴かして横の溝へと入り込む。反応が遅れた壱号も同じように動こうとした瞬間、薄暗かった通路を一瞬で明るく照らし出す閃光が駆け抜けた。幸い通路の右側にいたエルダーサインを狙ったものだったのだろう。左側にいる壱号はフレアとQBなど、肩の一部をえぐられただけで済んだ。

 あわててエルダーサインと同じように横の溝へと逃げ込む壱号。PAがあるというのに減衰した様子も無く、装甲を閃光の形にえぐるほどの高出力。まともにコアに受けていたら今頃肩と同じように真ん中に穴が開いていたかもしれないと思うと、早瀬は背筋へと冷や汗が落ちる。

「ようやく伏兵か…。」

 ACの武装ではない。ネクストにしては出力が大きすぎるし、あの情報と武装が違う。レオンはゆっくり頭部だけ溝から出すとカメラの倍率を上げ、その正体を見る。案の定、霊の継ぎ接ぎネクストだ。今も本来頭部のある部分に設置された大口径レーザー砲の方針から冷却のために蒸気が上がっている。先ほど光ったのはその上部に配置された光学スコープのレンズがトンネルの弱い照明にでも反射したのだろう。

『な、何なんだあれか!?くそっ!』

 焦りの色をあらわにして毒付く早瀬。あんな出力のレーザーを被弾すれば仕方がない。それに対し、レオンは冷静だった。高出力のハイレーザー…ネクストの武装よりプロキオンなどの大型砲を強引に搭載したと考えるほうが妥当。なら発射にはタイムラグが大きいし、何より小型化した分余計にチャージなり、冷却なりに時間がかかるのではないか…?

「早瀬、俺が懐に飛び込む。援護しろよ…。」

『え? っ、ちょ、ちょっと!?』

 短い通信。すぐにエルダーサインが溝から飛び出すと、遠くでまた光った。エルダーサインがQBを使い、左側の壁へ激突するぎりぎりまで回避すると、先ほど隠れていた溝が大きく壁ごとえぐられる様子をサブカメラが捕らえる。あの様子では壁をたてにしていても無駄だったろう。

 レオンはすぐに前方へQB、次の発射の前に一気に距離をつめる。それを壱号は半分壁に隠れたまま、右手のハンドガンでの援護を始める。だが間合いが遠い。射程距離の短いハンドガンではほとんど意味のない。だが相手はその攻撃でさえ、どちらに標的を絞るべきか悩むような動きをするのがレオンには見て取れた。

 ようやく相手が接近してくるレオンを標的にしようとするが、遅い。レオンは砲門がこちらへ向くのもお構い無しにQBで距離をつめると左手を振り上げた。あっさりと砲身が中ほどで焼ききられる。

「戦場で悩んでんじゃねぇよ。この素人が!!」

 切り上げた左腕のレーザーブレードを、そのまま振り下ろす。回避らしい動きもする前に、継ぎ接ぎネクストのコアは上面からコックピットごと二つに切り分けられ、機能を停止した。

『やはり、玩具ではこの程度か。』

 ブレードの光が消えるのと同時に通信。早瀬はレーダーに映った機影を確認するとすぐにレオンに伝える。位置は…正面。すぐにエルダーサインが邪魔な継ぎ接ぎネクストの横に移動すると、通路の奥にあの白いネクストが立っているのが見えた。

「…はっ。大ボスの登場…ってか!!」

 エルダーサインがレーザーライフルを放つ。白いネクストはそれを問題ないといわんばかりの小さい動きで回避して見せた。だがレオンの攻撃は終わっていない。そのまま左背のチェインガンも展開すると、同時に攻撃を開始した。狭い通路、手数でまずは押しつつ様子を見る作戦だ。

 白いネクストはそれらを回避しつつ、少しずつ距離をつめる。トーラス側から渡された映像のとおり、接近戦に持ち込む気なのだろう。レオンはそのまま壁際に追い込むように攻撃を続ける。そこへ早瀬の壱号からも、ハンドガンとハイレーザーによる支援が加わったのでより簡単に追い込むことができた。

 レオンはそのまま壁を走ってくることを予想し、ブレードの準備をする。いくら壁を走れるという特異な動きでも、それは同時に何らかの無茶を押し込んでの強引な機動といえる。ゆえに次の動きに移るために自然と制限が生まれると考えたのだ。

 白いネクストが壁際に、そして姿勢をかえ壁に足をついた。レオンは壁走りが来ると備える。だが、その予想は大きく裏切られた。白いネクストは壁を確かに走った。だがそのまま、まるで壁が地面であるかのように滑らかな半円の天井まで滑るように移動したのだ。

「なっ!?」

『若いな…そうして、惜しい。』

 真上、レオンは咄嗟にブレードからレーザーライフルに切り替えようとするが間に合わない。だが、相手が先に狙ったのはレオンではなく早瀬だった。ぐるんっと、トンネルの壁に沿って一周した白いネクストはエルダーサインの背後へ降り、そしてすぐにQBで壱号へと距離をつめる。

 エルダーサインもすぐに振り返って援護しようとするが、壱号と白いネクストはすでに対角線上。仮に白いネクストがよければ壱号に攻撃が命中する可能性があった。背後からの攻撃でかわせるとは思っていないが、あんな動きをする相手。もし…、そう考えるとトリガーを引く指が鈍る。

 壱号は後ろへ下がりつつハイレーザーとハンドガンで寄せ付けまいと攻撃を続けるが、白いネクストにはあたらない。さらにただでさえ少ない残弾までもが尽きてしまった。そこへ一撃。至近距離から撃ち込まれたグレネードに頭部を、ライフルの集中弾に左腕を、そして射突型特殊ブレードが右腕と、壱号の戦闘力をすぐに奪っていく。

『くうっ!?機体損傷!!これ以上の戦闘の続行は不可能です!これより離脱を開
―』

 早瀬からの通信は最後まで終わるよりも早く、白いネクストの蹴りに吹き飛ばされて途絶えた。いくらネクストでも蹴りでコックピットをつぶせるとは思えない。おそらく激しい衝撃で気絶でもさせるための攻撃だったのだろう。

「何なんだよあのネクストは!? あの動き反則だろうが!!」

 残ったレオンはその背へ一気に距離をつめつつ、ブレードを振るう。背後からの不意打ち…卑怯だとは思っていても、そうせざる負えない相手だ、傭兵としての勘が叫んでいる。今落とさないと、次は自分が落とされる!傭兵してのプライドに賭け、なんとしてもミッションは成功させる!!自分だって同じネクストに乗っている…条件は、同じだ!!!

 気がつけばレオンは必死で自分を励ましていた。冷静さに欠けている…そんな状態での攻撃がどれだけ意味のないことか、そうわかった時にはもう遅かった。白いネクストはまるで背後に目があるかのように、ただ姿勢を低くし、頭部アンテナの一部を破損するだけで横なぎのブレードを回避する。そのまま低い体勢でQBターン、エルダーサインの左足に押し当てられた射突型特殊ブレードが貫き、横転させる。

「くっ!!?」

 足をやられ機動性が落ちた。これではもう戦闘できない。レオンは正面に立つ白いネクストに恐怖した。殺される、っと…だが白いネクストは彼に視線を一回向けるだけで、すぐに飛び越して行ってしまった。残されたのは、線路の上に横たわる片足を失ったエルダーサインと壱号。

「…っ、眼中にないってか…っ!? くそがっ!!!」

 プライドを傷つけられたレオンは、ただ力いっぱいコンソールを叩くことしか出来なかった。




 通路を走る白いネクスト、マニトゥーワク。その中でリゾルートは鼻に感じる違和感に手を添える。ぬるっという感覚に手を離せば、赤く染まり濡れている指。

「…やはりAMSの出力を上げすぎたか…。」

 AMSは優れた情報伝達、統合、そして操作システムだ。だが同時に神経系と直結している分かかる負荷はかなりのものだ。この適正は人によって異なるが、適正が低いものほど無理をすると神経に負荷がかかり、時折こうして毛細血管が破裂することもある。もう戦闘領域からだいぶ離れている。それを確認するとAMSに出力を下げるように命令を出した。

「ふん…だが、収穫はあったというべきかな…。次に会うときにまた楽しむとしようじゃないか…。」

 マニトゥーワクが停止すると、自分が来た通路のほうを向く。追ってくる様子はない。だが、確かに感じる。自分へと向かってこようとする若い青年の意思を…。それに対してただ男は、楽しそうな笑みを浮かべるだけであった…。

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