Wiseman Report
『新型試作VOB飛行試験』

 ヴァンガード・オーバード・ブースト
 通称『VOB』

オーメル・サイエンス・テクノロジーが主導で開発したネクスト対応強襲用大型外部ブースター。ネクストの全長を上回るほどの大きさであり、背部に取り付けることで通常のネクストが行うオーバード・ブースト、通称OBを上回る時速2000km級の速度での移動を可能にする。その性質上、専ら拠点強襲作戦や突撃作戦等ネクストを最前線へと即座に長距離移動、投入が必要なミッションに使用される装備である。

 しかし構造上衝撃に弱く、防御性能や耐久性能はよいとは言えず、またその超高速移動に際し機体制御性能が大きく低下するという弱点も存在しており、使用時間制限も長いとは言えず外部ユニットも使い捨てでありコスト面では疑問が残っている。

 だが今でもこれが使用されるのはその有効性が極めて高いからだ。この世界に存在する兵器で上位に存在するものといえば核、アームズ・フォート、そしてネクストなのだ。搭乗者しだいで一騎当千…文字通り単機で戦線を覆すことが可能な戦略級兵器…。核などの戦略級兵器が投下ではなくミサイル等での高速長距離運用を求めたのと同じに、ネクストもまた高速長距離運用へといたったのは自然なことだったのかもしれない…。




 オーメル・サイエンス・テクノロジーの管理する航空施設。大型機からスペースシャトルまで離着陸可能とする長大な滑走路や、電磁力航空機発射システムを備えた可動式カタパルト。さらに一度に30機以上の大型旅客機を収納が可能な大型格納庫と、充実した設備を整えた施設である。

 そこの一つ、本部管制施設から少し離れた位置にある建物で3人のリンクスと2人のオペレーターがオーメル・サイエンスの技師から説明を受けている。彼らは今回オーメルが開発した新型VOBの飛行テストの依頼を受けたリンクス達だ。オペレーターのうち一人はそのリンクスの専属、もう一人はオーメル社より実地研修の名目で研修中のオペレータである。

「―のように、新型VOBは従来型に比べ使用時間、高速飛行時の機体機動制御性能の向上が行われているものです。特に―」

 長々とした説明が続いている。カッパーブラウンの髪を無造作かつ見苦しくないように整えた体格のいい男、グラムは時計を見ればすでに始まってから30分近くたっていた。スペックだの新しい技術革新がどうだのと、まるでテレビに出てくる営業マンや通販番組の司会を思わせるほどによく口が動く技術者である。

「…やれやれだ。」

 あまりにも長いのでついにグラムは小さくため息混じりに呆れたような独り言をつぶやく。確かにスペックは重要なことの一つであるが、リンクスである彼が求めるのは性能よりも信頼性だった。いくら性能がよかろうと、安心して使うことが出来ない装備に頼るなど問題外なのだ。彼は以前までオーメルの専属であったが、それゆえにオーメルがどこかその点を軽視していることを知っており、半分呆れていた。それが今でもまだ直っていないというのだから、二重に呆れるというものだ。

「…リンクスはこれらを3つの試験に従い検証、データの収集に協力していただく形になります。では最初に…通常飛行試験にはランク35、アネモイ。あなたには指定されたルートを通常通り飛行していただきます。」

「ああ、わかったさ。一番簡単そうな役割をもらって、悪いさね。」

 赤みを帯びた髪をポニーテールにしている女性、アネモイは笑みを浮かべるとほかの二人のリンクスに小さく手を振る。それに対してグラムはたいした感情を持つことがなかったが、実力のほうでは興味があった。彼女は以前ランク15のマッハという男を撃破したことのある若手リンクスである。倍近いランク差のあるリンクスが上位リンクスに勝てるのは、何かしらの秀でた実力があるか、あるいは…。

「次にQB機動試験。こちらはランク27、ユウ。あなたは対空砲火の置かれた陣を単機突破していただきます。なお使用されるのはより実戦に近づけるため、実弾が使用されますので。」

「わかりました。…よろしくお願いします。」

 次に指名されたのはユウというリンクス。おそらく3人中一番若いのだろう。あまりセットされていない少しぼさっとした黒っぽい茶髪がどこか子供っぽい印象を与える。彼には今回のミッションで唯一、ラビスという専属のオペレーターがいた。彼の後ろの席に腰を下ろした彼女は鋭い切れ長の瞳に整ったかわいらしい顔立ちの美女だった。強いて言えば、少し身長が低い…。彼と比べると大型犬と子猫、そんな印象を受ける差があった。

「では最後に、戦闘機動試験。……ランク2、グラム。あなたには通常のミッションどおりVOBで飛行してもらい、戦闘していただきます。目標地点に到達するまでにいる航空部隊へと背後から強襲してください。」

 最後に呼ばれたグラム。だが技術者はどこか引っかかるように、一呼吸おいてから彼の名前を呼んだ。おそらくは自分が元オーメルの専属リンクスだからだろう。こちらは彼のことは知らないが、向こうは大概知っているほど有名…グラムからすればどうも居心地の悪いものだ。

「開始は30分後。先ほど呼んだ順番に開始しますので、まずは飛行試験の方、準備をお願いします。ほかの方は発進用カタパルトデッキのそばにあるハンガーへお越しください。」

 技師はそこまで説明するとさっさと部屋を後にする。自分の仕事はここまでと言うのか、あるいはデータを収集するための準備があるのか。代わりにスーツに身を包んだ男が一人、彼らを指定されはハンガーへと案内してくれた。

移動の間、廊下でグラムはすっと横に並んだ影に顔を向ける。そこにいたのはユウだった。

「僕の名前はユウです、同じ試験をするわけではないけど、よろしくお願いします。」

「…ああ、よろしくな。」

 見た目の幼さとは異なり、どことなくしっかりとした印象を受けるユウ。それに対しグラムはどこかやる気のない印象を与える声で答えた。必要のないことに力を入れない、そんな感じだろうか。それを気にする様子もなく、話を続けるユウ。

「ランク一桁の人と一緒にミッションを受けるとは思いませんでしたよ。僕はまだ27ですから。」

「首輪についた番号など、せいぜい目安になる程度だというのに…。」

 そんなユウにグラムはどことなく不機嫌な声へとかえる。実際、オーメルの依頼を受けたことで少しいらだっていたのかもしれない。いつもの癖でつい言葉の節々に毒が混ざった様な言い方をしてしまった。

「…たしかに、ランクと実力が見合ってない人間もよくいますね。」

「…間違ってはいないね、だけど綺麗過ぎるね…君達は。」

 ユウも、どこか不機嫌そうな声へと変わる。それに対しグラムはどこかはるか上から見た心境のようなことを口し。二人のピリッとする緊張感が通路の中を包み、案内していた男も一瞬びくっと、後ろを振り返るが見なかったことにするかのように前を向きなおした。

「まぁまぁ、そう変に緊張しあうことないさ。今回は敵ってわけじゃないんだし、みんなで仲良くやればいいさ。」

 そんな二人のことなどまったく気にした様子もなく、アネモイは二人の間にわざと割って入ると笑みを左右にそれぞれ顔を向け残し、そのまま追い越して先に行ってしまう。その様子にグラムもユウも、まるで肩透かしでも食らったかのように一拍、彼女の背を眺めるとお互いに気を落ち着かせるようにため息を吐いた。

「…ランク不相応に…強いリンクス?……サリア姉とか?…」

さらに二人の後ろで小さく疑問の声を上げるラビス。だがそれに答える人はいなかった。

 ハンガーには3人のネクストが運び込まれており、すでに一機には新型VOBが取り付け済みとなっている。おそらく最初の飛行試験を行うアネモイのネクストだろう。少々変わった形状の白いネクストの後ろにはその細身とは逆に、ごつごつとした無骨なラインのブースターがある。

「…あれがオーメル製の新型VOB……噂でこそ聞いた事があったけど…実物は私も初めて見た…。」

 それを見上げつつ、スペックと確認をしだすラビス。外見上従来までのものより装甲が追加された結果、大型化しているように見える。しかし実際は新型の軽量複合装甲が使用されており、全体重量はこれでも1、3倍程度しか増加していないという。また装甲各所に穴が開いており、ネクストのQB操作に連動して使用が可能なQBが内蔵されているのがわかる。

「…またリンクスで実験か…。」

 その無骨なラインにグラムは小さく毒付く。以前までVOBはよく整備不良を起こし、ミッション中火の手を上げたことが報告されていた。一部オーメルはリンクスを実験台にしているという噂まで出たが、頻発したことから否定する材料もなく、そのまま本意もわからぬままだった。

「ま、もし爆発しそうならパージするさ。」

 不安そうな様子をまったく見せないアネモイは愛機へと乗り込むと、すぐにAMSのジャックを頚部につなぐとAMSとの同調、起動を開始した。同時に、固定されていたデッキ事移動を開始し外に出れば、可動式の電磁カタパルトへと移動を開始する。それを見送ったグラムはすぐに自分のネクスト、フラウトの点検に取り掛かるのだった…。




・飛行試験

 ネクスト、ユキホタルの細かい調整を終わらせたラビスとユウは控え室へと向かっていた。

「自分で調整するよりもラビに調整してもらったほうが、自分にピッタリと合った調整になるから不思議だよ。」

「…ユウが乗るものだから…がんばった…。」

 問題なく調整が終わりラビスへとやさしく話しかけるユウに、ラビスは恥ずかしそうに頬を赤らめると小さく頷くとそのまま軽くうつむき加減になる。照れているのかと思うと、ユウは小さくありがとう、とお礼をつげ二人で控え室へと向かった。

控え室はハンガー内に置かれた一室だった。中に入れば来客用に準備したのだろうソファーと飲み物、そしてほかのメンバーが行っている試験内容が写されたモニターがある。その前で、先にこの部屋に来ていたグラムは目を放すことなく飛行試験中の白いネクスト、アネモイのアイオロスの動きを見ていた。

 すぐにラビスもモニターが見える位置まで移動する。彼女の目的は新型VOBを見ることだから、それはもう食い入るように見ていた。そんな様子にユウは飲み物からコーヒーを取り出すと彼女の元に持っていき、手渡す。おそらく集中して見入っていて、飲まないかもしれないが。

「推力に頼らず、空力を活かせ…。」

 そんな時、グラムのつぶやく声が聞こえる。独り言…おそらくは今試験飛行をしているアネモイに言いたいことだったのだろう。モニターの中でもその大推力をもてあまし、ふらついて飛行しているアイオロスの姿が映っていた。

 アイオロスは細身のパーツで構成された奇妙なネクストだった。武装はミサイルのみ…おそらく長時間の飛行でのミサイルによる攻撃を目的にしたものなのだろうとユウは思った。

 しばらく眺めていると、次第にアイオロスの動きが安定し始める。おそらく新型VOBの操作性に慣れてきたのだろう。先ほどから見るにVOBはメイン推力こそ同程度で速度も同じ、だがQBの反応が少しだけ遅く、その癖にこちらも推力がでかいためか大きく機体が横へと流れる様子が見られる。

次の試験で扱うユウにとっては注意しなければいけない点が多々みえていたその時、急に画面のなかでパッと明るい光が見える。次に赤い炎と高速で後ろへと流れる黒煙。

「っ、なんだ?」

「…新型VOB…左側上部にあるQBが火を噴いた…。」

 冷静に状況を見極めているラビス。整備不良?ミッションについての説明を受ける際に技師が試作品だといっていたが、まさかそのせいだろうか?

『ア、アネモイさん!VOBを切り離してます!!』

 オーメル社のオペレーターがあわてた声を上げ、即座にVOBをパージする。軽量複合装甲は四方へ開くと、内部に納まっていた推進機関を後方へとばら撒くように分解していく。アイオロスがVOBでついていた加速を利用し少し距離を開いた場所で飛行を開始したと思った瞬間、後方でVOBによる大きな爆発が生まれる。

『ははっ。流石にびっくりしたさ。』

 モニターのスピーカーから聞こえたアネモイの声には、あまり言葉通り驚いた様子がみられなかった。それをユウの横で見ていたグラムがつぶやく。

「勝負度胸はあるか…実力はともかく、良い事だ。」

「…少しは心配してあげないんですか?あなたは。」

 褒めるようなことを口にするグラムに対し、ユウはまた少しばかり敵意を見せる声でつぶやく。だがそれは独り言ではなく、完全に彼に対して言った言葉であった。グラムもそれを聞くと彼のほうを向く。その顔には、笑み。

「悪いね、安っぽい同情はしない主義だ。」

 言い切った男には何処か、すべてを知っているかのような貫禄があった。




・QB機動試験

 ユウのユキホタルが電磁カタパルトデッキから発進する。停止していた機体が次の瞬間その重さを強引に押し出されたかのように走り出し、空へと浮かび上がる。ユウはその加速が落ちるよりも早くAMSを経由してVOBの出力を上げると、すぐにでも爆発的な加速がユキホタルへと襲い掛かった。

「ぐっ!?」

 ユウとてVOBを使用したことがないわけではなかった。だが何度体験してもスタートの瞬間、一瞬で時速1000kmへと達するほどの加速は厳しいものであった。それはネクストの高機動加重緩和機構をもってしても完全に消し去れるわけではない。

周囲の風景が高速で流れる癖に正面だけがゆっくりとなり、視界が正面へ狭まり始める独特の感覚。少しずつそれに慣れかけたころ、通信が入る。相手はオペレーターのラビスだ。

『…ユウ…そろそろ対空兵器軍の射程圏内に入る……気をつけて。』

 レーダーを見ればルート上に多数の反応がある。ラビスが送ってくれた資料によると施設防衛用の対空レーザー砲、それに高射砲などが配置されていることになっている。特に対空レーザー砲は精度、出力ともに高く、不安定なVOBにとっては被弾すればただではすまない。

 ユウはぎゅっと、操縦桿を握る手に力をこめると意識を集中した。レーザーは早い、その速さは実体弾とは比べ物にならず、光速で飛んでくるといってもいい。それを避けるにはあらかじめ発射される前に射線上からに外れることが確実な回避方法だった。達人になれば高速戦闘中であっても銃口の方向と相手の呼吸を呼んで発射タイミングを感じ、回避するという。

 流石にそれは出来ないが、ユウはレーダーを確認しつつ対空弾幕の薄い部分を選択して飛行することにした。そうすれば自分を狙う対空レーザー砲も自然と絞られる。視界の端に見えたレーザー砲が光ったのを見るとユウはすぐにユキホタルへQBを命じる。一瞬の横への移動、その後にぐんっと、強引にすべるような移動が起こった。おそらく最初の移動はユキホタル本体のQBでの移動、その後のは反応した新型VOBのQBが連動して動いた結果だろう。やはり一呼吸こちらより遅い。

 同時に先に飛んだアイオロスの映像で予想した以上に、高い出力のため予定のコースよりも大分ズレが出てしまっている。ようは馬鹿力過ぎて加減が利かないのだ。ユウもこれは予想よりもなれるのに苦戦しそうだった。

『…ユウ、クライアントから…追加の指示が出た…。もう少し対空弾幕に近づいて飛んでほしい…だって…。』

「了解。」

 弾幕の薄い空域を飛んでいたユキホタルにクライアントから出た指示をラビスが伝える。確かに試験であるため、もっとデータを取るためにそうする必要があるのだろう。QBではなく、通常通り軽く姿勢制御するように方向を変えようとすると先ほどとは異なり、今度は滑らかで簡単にユキホタルはそちらへ流れる。そこでユウが感じたのは、えらくアンバランスな感じだった。QBを使えば早いが強引で扱いにくく、通常通り姿勢制御すればQBに比べゆっくりでも操作はしやすい。両立できない部分を無理やりくっつけた感じだ。

「確かに機動性や操作性はあがっているけど…くっ。」

 すぐに濃い対空弾幕が彼を襲いだす。右へ、左へ、下から襲い掛かってくるレーザーや高射砲を可能な限り回避しようと動き回る。QBは無駄に噴かすのではなく、回避するタイミングを見極め姿勢制御だけで回避ルートを飛行する。ほとんど紙一重に近い軌道での連続回避に、ユウは自然と奥歯を食いしばる。対空陣地を突破するまであと少し、ラビスからのその声に小さく笑みを浮かべた瞬間、衝撃が走った。

 すぐにユウは損害確認をはじめる。ユキホタルは問題ないが、VOBに被弾の警報が補助モニターと、AMSを通じて表示されている。幸い命中したのが高射砲だったらしく、軽量複合装甲で覆われたVOBブースター機関には問題はない。だが破損した装甲が大きく変形したため気流を乱し、その操作を一気に悪化させていたのだ。

『…っ!VOB右舷下方装甲に異常発生、操作性27%ダウン、…ユウ…パージする?』

「いや、大丈夫。…ラビ、もう少しだけやってみるけど、危険そうだったらそっちでパージをおねがい。」

 ユウは乱れたユキホタルの軌道を必死で修正しつつ答える。ラビスの言う数値以上にその操作性は悪化しているように思われた。いまだ続く滞空砲火がだんだんと薄くなっていく。あと少し、あと少し…ユウは極力軌道変更や強引なQBをやめ、その速度を維持したままの突破を試みる。激しい振動にまたはを食いしばったその時、対空陣地を突破したことをラビスが告げた。



・戦闘機動試験

 グラムが自分のネクスト、フラウトに乗り込み頚部へジャックを繋ぎはつなぐと機体の状況を確認する。システム面での問題はなく、VOBとの接続も良好。今のところ問題はないように思われた。あるとすればオペレーターくらいだろうか。

 今回専属のオペレーターがいるユウ以外の担当オペレーターはイセラというオーメル社より実地研修の名目で研修中の女性だった。年は若く、今回の参加リンクス中一番若いだろうユウと同じくらいだ。

「実地での研修が有用なのは認めるが、その相手を専属でもないリンクスにやらせるのはどうなんだろうな。」

『あ、ぇ、えと…よりさまざまな状況でのオペレーションに慣れておくため、必要なことだとは思いますけど…。』

 イセラはグラムの話に少し困ったようだが、生真面目に答える。そんな様子に小さくグラムは苦笑を浮かべると完全に準備が出来たことをつげ、イセラがカウントを開始する。実際、カタパルトデッキにカウントのための表示はない。だがグラムの視界にはAMSを経由して、正面にカウントが進む映像が表示されている。

『…3…2…っ…発進!』

 少しだけ不慣れなカウントのあと、がくんっと衝撃。加速を開始したフラウトがカタパルトデッキを離れると、グラムはすぐに出力を一気に上げVOBでの加速に入った。加速性は悪くない。しばらく飛行していると攻撃目標となる航空部隊の最後尾が見えてきた。レーザーキャノンを搭載したGA社製大型攻撃機、GAC6−GALAXYだ。移動速度はそれほど速くなく大きいため標的としては十分狙いやすい。

 グラムは両腕に装備した突撃型ライフルを選択すると同時にトリガーを引く。それに反応しライフル内部では薬室に焼剤と酸化剤を圧縮させ注入される。そうして、それを使って引火された炸薬はネクスト用武装の大口径ライフル弾をすさまじい速度で打ち出したのだ。

 命中し、表面にいくつもの大穴を空けれていく大型攻撃機。一機目が落ちるまでにかかった時間はわずか数秒、すれ違うころには火達磨になり地面へと落下していった。だがグラムの攻撃はやめることがない。VOBでの高速移動の中、冷静に相手と自分の位置を見極め、射撃が可能な位置を常に陣取ると確実にライフル弾を叩き込んでいく。

 だがグラムはすべてのターゲットを撃ち落す気はなかった。どうせ試験、ミッションならともかく、ある程度データを求めるだけならこれで十分と判断したのだった。だが見逃した攻撃機が彼を見逃すわけではない。後ろを取ることが出来た攻撃機は次々にレーザーキャノンをフラウトの背後に向け撃ち始める。

 だがそれを予想していたグラムはまるで後ろに目があるかのように、横へのQBを使っての回避に入った。むなしく横を通り過ぎるレーザーの光。中には前を行く他の攻撃機に命中する攻撃まである始末。
 
「予想より振動が多いな…機動性は高いといっても操作性にムラもある。やはりまだ試験レベルを超えていないか…。」

その中でグラムは冷静にVOBについて感想を口にしつつ、ミサイルを選択すると密集していた攻撃機を次々と落としていく。その数が半数をきるまで、かかった時間はわずか数分だった。

『す、すごい……ぁ、じゃなくて。ぐ、グラムさんOKです。必要数の撃破と情報の収集が終わりました。』

「ああ、わかった。では帰還する。」

 グラムは答えると即座にVOBの切り離しをAMSに命ずる。それに答えるように、VOBはフラウトの背中から離れると分解し、地面へと落ちていった…。




●試験結果
1、飛行試験
 通常飛行のデータを収集。試験は問題なく行われたが、途中トラブルにより新型VOB左側上部に配置されたQB部分より火の手が上がる。その後オペレーターの判断によりパージ、原因はおそらく整備不良と思われる。

2、QB機動試験
 対空陣地に対してのQBを使用した回避性能データを収集。QB使用時、左右への移動は通常のVOBに比べ大きく可能であるが、反面その出力から扱いにくいと思われる。また被弾した装甲の変形により大きく空気抵抗が発生、機体バランスを失うデータが見られた。この点への配慮も必要と思われる。

3、戦闘機動試験
 大型攻撃機編隊の背後より強襲、VOB使用時の戦闘データを収集。先の二つの試験であげた問題点があったが、問題なく完遂される。おそらくは搭乗者の技量が大きく関係したため、結果にデータにはムラが発生していると思われ。再度複数のリンクスによる再試験が必要と思われる。


 以上の結果を持って新型試作VOB飛行試験は終了、今度改良や問題点解消に取り掛かることとする…

―オーメル・サイエンス・テクノロジー  技術部―

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