Wiseman Report
『MISSION:AVALABCHE(前編)』

 GA管理下にあるコロニーのショッピング街。今日は休日ということもあってカップルらしい男女二人がブティックを覗いたり、青年たちが友人と共に映画館やゲームセンターで遊んだり、オープンカフェタイプの店で家族連れが食事をしたりと、そういう姿が多くみられる。

 そこを歩く少女もまたそのうちの一人であり、今日は大好きな母親や父親と共にここへ遊びに来たのだった。お気に入りの白い帽子をかぶり、この日を何日も前から楽しみにしていた少女は落ち着きなく、しきりに首を動かして周りを見渡している。

 視界が動くたび、楽しそうなものやおいしそうなものがすぐに目に入ってくる。そしてそこら中で自分と同じ位の子供の楽しそうな声が聞こえてくる。それを見るたび、聞くたび、少女はどんどんと好奇心が沸き立ち、自然と足が速くなり先へ先へと進もうとして父親たちから離れていくことにまったく気がつかないほどだった。

 それを父親は苦笑交じりに止めると、迷子にならないように手をつないで歩こうと言う。少女は父親の言うとおりに手を差し出すが、握ってもすぐに先へ進もうとぐいぐいと父親を引っ張って歩き出していた。普段以上の娘の力に少しだけバランスを崩しながらも付いていく父親。後ろでは二人の様子を眺めていた母親が小さく笑みをこぼした。

 父親と少女、二人がアイスを食べようと言い、アイス屋に向かおうとする。そしてショッピング街備え付けのゴミ箱の前を差し掛かったとき、そこに似つかわしくない轟音が響いた。

 何が起こったのか、理解できないまま自分が後ろへと押されるように転がり、地面へと倒れこむ感覚が母親を襲う。ただ倒れたと言うだけではない。全身にいまだ響く衝撃の残感、そして歪んだ視界に見える煙。一体なんだ…?体を起こしながら改めて呼吸をしようとすると体が思うとおりに動かず、煙を吸って咽た。

 咳をするたびに体が痛む。だんだんとはっきりしてきた視界には先ほどとは大きく変わったショッピング街が写った。周りの店の正面ウィンドゥがいたるところに割れて砕け、それを浴びたらしいカップルが顔から血を流しながら悲鳴を上げ蹲っている。地面へと倒れこんだまま動かない友人へ、青年が涙を流しながら何かを叫びゆすっている。

 そこで初めて母親は自分の耳が聞こえていないことに気がついた。ズキズキと痛む両耳。そっと手を当てるとヌルッとする感覚が指先にある。目の前に持ってくればそれは赤黒く液体。血だった。本当に、一体どうしたのか…。転んだときに自分は怪我をしたのか…。娘と夫はどこだろうか…。

 二人を探して母親が視線を動かすと、粉々になったゴミ箱が視界に入った。そしてその横には散らばっている赤い塊。その中に人の手を見つけると、ようやくそれが粉々になった人間の肉体だと理解できた。同時にこみ上げてくる震えと嘔吐感…。口元を手で塞いでそれを必死にこらえたとき、その中でひとつの赤い帽子を見つけた。

 見覚えある帽子。自分の記憶では確かその帽子は白かった。そしてそれをかぶっていたのは娘。でも今は赤い…。

「…っ…〜〜〜〜〜〜っ!!?」

 母親は自身が、自分がなんと発音しているのかわからなかった。たぶん悲鳴だろう。そして痺れた身体でふら付きながら立ち上がると赤い帽子へと走り出す。拾い上げた帽子には、先ほど自分が耳に触れたとき感じた血の感覚よりも温かく、もっと生々しいものが指先に触れた。

 それがどこの部分なのか、母親は理解できない。ただひとつ判っているのはそれが娘だった『もの』と言うことだけだった…。




「…これで爆破テロは16件目だ。」

 薄暗い会議室の中、数十人の男たちがぐるりと大きく円形に整えられた会議用の長テーブルへと向かい話し合っている。その全員がスーツに身を包み、首から認識票の入ったカードを下げていた。そこにはその人物の名前と所属が書かれており、右上に顔写真、左上に企業のマークが入っている。

「今回はGA管理下のコロニーか…前回はインテリオル管理下のものだったか。」

「ここ一週間だけで9件。…我々企業連傘下の、企業管理コロニーで散発的に起こっているよ。」

「GA管理下で3件、インテリオル管理下で2件、オーメル管理下で4件、アルゼブラ管理下で2件、ローゼンタール管理下で2件。アルドラ、トーラス、BFF各管理下で1件ずつ…。満遍なく起こしてくれたものだな。」

「やはり例の組織かね…?」

「ほぼ断定でしょう。犯行声明も出ているし、各企業施設や基地への攻撃も確認されている。」

「では、犯行声明で語っていたアレは?」

「確認は取れているよ。旧ピースシティエリアで今までのものより大きい規模での活動を確認している。おそらく本当だろう。」

 そこまで話すと全員が一息つくように、いったん声が止まった。

「……戦略級大型コジマ弾頭を搭載した長距離弾道ミサイルによる各企業管理下主要都市への攻撃、か…。」

「本当に可能なのかね?あの程度の組織に。」

「現在調査中です。しかし、あの組織には元トーラス社の技術者、およびリンクスがいるという情報もあります。」

「コジマ技術を扱う知識は持つということかね…?」

「しかし知識はあっても設備と資金はどうする?それほどのものを準備できるか?」

「それも調査中です。」

 変わらない答えには飽きた、と言うように小さく手を振るオーメル・サイエンス・テクノロジーのカードを下げた男。

「…どちらにしろ、すでにことは動いている。忌まわしい『アサルト・セル』がない今だからこそ可能になった戦術だ。無視は出来ん。」

「だが大規模部隊は動かすには時間が足りませんぞ。仮に都市攻撃が本当だとして、阻止に失敗すれば我々の信用はどうなります?」

「それは問題なかろう。すでにリンクスの投入は決定事項だ。防ぎきればよし、そうでないなら我々は次の行動の準備をしておくまでだ。」

「ふむ…復興のための物資確保ですな。」

「そう。破壊からの再生こそ経済成長の基盤ですからな。」

 男たちがそれぞれ、静かな笑いを漏らす。

「…いかなる崩壊と破壊があろうと、世界は我々の手でまた創生される。我々こそがこの世界の創造神なのだ…。」

 その中で一人、表情を変えることなくただ目の前にあるモニターへ映し出されたアヴローラの犯行声明へと視線を落としたオーメルの代表者は周囲に聞こえないほどの小さい声でつぶやいた。




 『アヴローラ』。第二次リンクス戦争終結後しばらくして姿を現すことになる反政府組織。一時ラインアークの一翼へ席を置いていたこともある同組織であるが、その過激な行動からアーク内部でも反発が集中。独立後は一時その活動を収縮し世界よりその存在は消えうせたかに見えた。だが実際はその水面下で少しずつ、事を起こすための準備をしていたに過ぎなかったのだ。

 再び世界へ姿を現した彼らは、ひそかに所持し独自の改良を加えたORCA製小型アームズフォート『ジェット』による戦闘実験から行動を再開した。この時企業はグローリィ、ベアトリーチェのリンクス2名を雇い、ジェットは即時破壊されている。

 次におきたのはギア・トンネルの占拠だ。トンネルにはアヴローラの幹部が乗るイレギュラーネクスト一機と大型レーザー砲搭載型兵器が現れ、戦闘実験が行われている。それに対し企業側もまたレオン・マクネアーと早瀬というリンクスを雇いネクスト二機を投入。レーザー砲搭載型兵器の破壊は成功しトンネルの占拠者たちこそ排除できたが、ネクスト二機は行動不能に追いやられることになった。

 そして三度目。次の舞台はロウランド砂漠へと移る。この時、アヴローラの行動は不鮮明な点が多い。なぜあのエリアに幹部の一人であるリンクスを配置したのか。一部ではこの地点に彼らの拠点のひとつがあったとされているが詳細な確認はされていない。このイレギュラーを排除すべく企業はアルブレヒト・ドライス、通称アルドラの専属リンクスであるフェローチェを僚機とし狽雇う。またアヴローラもこれに対しカラードよりリンクス、ヴェーツェルを雇い投入した。両者は激しい戦闘の後、企業側ネクストが中破、撤退という結果に終わる。

 そして、四度目。この時から企業はアヴローラという存在を再確認することになる。大型特殊攻撃機によるアルテリア施設、カーパルスへの攻撃。ただの独立組織がここまで独自改良、開発した兵器を投入してくることは珍しい。だが企業はこの出来事に対しすばやく対応、リディル、ユウ、エルリエという3名のリンクスを雇い迎撃作戦を展開した。結果、大型特殊攻撃機は撃墜、発射されたミサイルもリディルが瀬戸際での迎撃に成功しミッションは成功に終わった。

 だが、このカーパルスでの出来事にはひとつの疑問が浮かんでいた。なぜ企業はアレほどまでにアヴローラの情報を手に入れることが出来ていたのか。敵機の侵入経路、数、そして攻撃地点。それらすべてがわかっていたからこそ展開できた迎撃作戦だった。だが逆に言えば、そこまでの情報収集能力ならばもっと早く、そして成功率が高い、違った迎撃方法も可能だったはずだ。それが出来なかったのは、『このミッションの分のみの限定的情報しか得られなかった』というほうが正解なのだろう。

 では疑問は次に続く。『その情報を提供したのはどの企業か?』。答えはローゼンタールだ。彼らはこの情報をいち早く各企業へ公表して見せた。ではローゼンタールはなぜ『この、アヴローラの限定的情報しか得ることが出来なかったのか?』。この答えはすぐには出なかった。だがしばらくしてわかったのは、ある人物からのタレこみだったということ。『ではその人物は誰か?』。当初、それはアヴローラ内部の人間ではないかと噂された。だが実態は異なる…。

 この情報を提供した人物。それは元ローゼンタール所属リンクスで、現在はカラードに所属する傭兵。ペルソナ・ノン・グラタだったのだ。




「ここまでが、企業がカラード等関係機関に公表したアヴローラ関連の情報…。それは二人とも理解できていると思っている。」

 少しばかり狭い輸送機のキャビンでペルソナから今回の作戦確認を聞いていたエイヴとマグタール。その話も一段落したころペルソナはアヴローラについての情報を語りだした。

「…だが二人とも疑問に思っていることもあると思う。『なぜ最後に俺の名前が出てきたのか』。」

 ペルソナの話を黙って聞くエイヴと小さく頷くマグタール。

「…俺が、元アヴローラ幹部の一人だからだ。正確には『創設者の一人』というほうが正解だろう。」

「…なに?」

 そこで口を開いたのはマグタールだ。彼はテロリストというものに対し並々ならぬ怒りと憎しみを持っている。いや、憎悪というほどにドス黒いものかもしれない。殺気というものか、一瞬にして辺りがスッと冷えるような感覚にエイヴは少しだけ背筋を伸ばす。

「アヴローラは本来、企業の管理に置かれない地区…つまりは『国』というものを作るべく組織されたものだった。それを最初に俺に話したのはアヴローラのリーダー、フォルテだった。」

 それに対し、ペルソナは臆すことなく話を続けた。

 当時、ペルソナはローゼンタールの専属リンクスだった。だが日々の任務の中で生まれた小さな思いから、企業というものが管理するこの世界へ疑問を持ってしまった。企業の道具として戦い続け、自分がいつか消えるとき何を世界に残せるというのか。所詮道具である自分がミッションで命を落とすとき、残るのはせいぜい『撃墜』の記録だけだ。

 それで本当にいいのか…。自分自身でどうすべきか答えを出すことも出来ず、ただ毎日の戦闘で死線を超え、AMSの負荷とコジマ粒子による汚染に身が削られ、自分というものが崩れていく。

「そんな時、現れたのが彼女だった。」

 アヴローラのリーダー、フォルテ。本名はティメ・アデン・テレスカヤ。彼女はその名を名乗ると手を差し伸べて言った。

『私と、何かを守れる国を作らないか。』

 彼女が目指したものは、企業に管理されない世界で自由に人が生活できる国を作るというものだった。だがそれは簡単なことではない。何かをなすには力が要る。そのための力が俺たち、集ったリンクスということになるはずだった。そこまで語ってペルソナの表情が曇る。

「…だが世界はそれほど甘いわけがない。」

 活動を開始してすぐに理想は所詮、理想であると思い知らされた。言葉で世界は変えられない。力を持つ企業に対し、我々も武力という行動力で異を唱える。そのうちに、その掲げていた理想はただの『企業への攻撃という手段のための理由』へと成り下がり始める。彼女や、創設メンバーの多くが、自らのすべきことを見誤るのに時間はたいして掛からなかった。いつしかアヴローラは企業に対する武力テロ組織へと完成しつつあった…。

「それが間違いだと思った俺は一部の協力者と組織を抜ける計画を立てた。俺は傭兵として外からアヴローラを見張り、一人は企業専属リンクスとして企業側から見張り、残りはまだ組織内でその動きを俺に教えてくれる形をとっている。」

「…それが…カーパルスへの攻撃情報を、企業が知りえた秘密…か。」

「そうだ。ローゼンタールにも少ないが、いまだつながりは存在する。企業へ情報を提供する上で、俺個人が話すよりは有効な方法だった。」

 静かにエイヴが口を開く。ペルソナは頷くとそのまま頭を下げたまま。

「だが、もう見ているだけでは済まない。俺は、あいつらを止めたいんだ…。そのために、協力してくれ。報酬も不足なのに、危険なミッションであることは承知している。だが、コレしかないんだ。ペルソナ…いや、リンクスとしての名前だけではなく、ソイル・ロバルトとして頼む…あいつらを止めてくれ…。」

 頭を下げ続けるペルソナをエイヴとアグタールは見続ける。

「…ペルソナ、コレだけは言っておく。」

先に口を開いたのはアグタールだった。ペルソナが顔を上げ、彼の顔を見る。そこには先ほどまでの怒気は和らいでいた。

「俺は受けた依頼を実行し、全力も尽くして、生き残る。それだけだ。」

「…俺もだ…ペルソナ…。」

 アグタールに次いで短く答えるエイヴ。彼のかけた銀色のフレームをした眼鏡の奥には小さく、でもやさしげな笑みが浮かんでいた。




 旧ピースシティエリア。過去ここにはとても大きな都市が存在していた。だがそれは過去のことが…現在は度重なる企業戦争と汚染によって一気に拡大した砂漠へと飲み込まれ、半分それに埋もれ廃墟と化したビル群が見られる荒れ果てた姿でしかない。言うまでもなく砂漠には植物が余り存在しない。それは照り付ける灼熱の太陽に水はすべて蒸発させられてしまうからだ。だが夜となると水分がないため、今度は凍てつくような世界へと変化する。砂漠は生物が生きていくにはあまりにも苛酷な環境なのだ。

 だが今ここには人間が存在している。その数は数百、数千単位だ。もちろん地上にいるわけではなく、その下。地上から数百メートルほどの地下にいる。そこは地下にしては大きな空間であり、天井から照らす明るい室内灯が全て灯っていてもまだ薄暗いくらいの広さがあった。そこで作業服姿のメカニック達が床から天井まで伸びる巨大な円筒形の周辺をせわしなく走って作業している。

それを眺めるように立っている一人の女性。彼女は時々緑色をした自身の髪を弄りながら何かを考えているようであった。そこへ幾つかの情報が表示された携帯端末を持ったメカニックが一人やってくる。

「ドルチェさま。現在、工程の98%まで完了しました。残りの作業も間もなく完了する予定です。」

「…問題ありませんわ。企業側の動きはいたってのんびりですし…。この子は完成のほうが早いでしょう。それよりも管制システムの最終確認を優先しなさい。」

 目を通していた携帯端末をメカニックへと返す。男は短く返事をするとすぐに作業している男たちの中へと戻っていった。再び目線を先ほどと同じよう円筒形のものへ戻すと、髪を弄りながらまた何かを考えるようにしていた彼女。だが後ろから近づく足とのき気が付くと振り向いた。

立っていたのは整えられていない黒髪、その中で前髪一部だけが紫に染まっているという点が目を引く男。すこし前にフォルテが今回雇ったと話していたリンクスの一人だった。名前はハーケン・ヴィットマンといったか。

「お前がコイツを造ったのか?大したもんだ。」

 ハーケンが見上げる円筒形の物体。それはドルチェの作り上げた長距離弾道ミサイルだった。もっとも、この技術自体はかなり古くから存在しており、内部こそ現在の技術が多く使用され高性能化しているものの別に珍しいものではない。だがこの世界でコレが使われないのにはひとつ原因があった。

企業自身が宇宙へと打ち上げた『アサルト・セル』。過去に他者が宇宙開発へ進出することを恐れた企業群が衛星軌道上を埋め尽くすほどに配置したこの無人攻撃兵器は、地上から高度9500メートル付近を越えたものへ無差別で攻撃する。このおかげで人類はそれより先の世界へと旅立つことが出来なかった。クレイドルが高度7000〜8000メートルを飛行していたのもコレがあるためである。だがそれも今は存在しない。宇宙への門を埋め尽くしていた壁は数年前、ORCA旅団衛星軌道掃射砲エーレンベルクを使用しての『クローズプラン』が実行されたことで消滅したのだ。故に、現在アヴローラが準備するこのミサイルを阻むものは存在しない。

「ええ、そうですわ。とても出来のいい子ですのよ。」

「へぇ。こいつで企業が吹っ飛ばされる様子…楽しみじゃねぇか。」

「ええ、とっても…。早くその様が見てみたいものですわ。」

 ハーケンの浮かべる笑みにドルチェも静かに笑みを浮かべ、返す。だがその笑みにはどこかゾッとするものが見え隠れしているような気がした。

「ここにいたのか、ハーケン・ヴィットマン。探したよ。」

「あぁ?」

 今度はハーケンが背後から呼ばれた声に振り返る。そこに立っていたのはフォルテだった。その後ろにはすでにパイロットスーツを見につけたアジタートにリゾルート、そしてヴェーツェルの姿もある。

「初めまして。顔合わせが遅れてしまって済まなかった。私がお前の雇い主のフォルテという者だ。」

「今回こっちにヴェーツェルが雇われてるってぇ話は聞いていたが、本当だったとはな。それにこのリンクスの数…雇い主ってあんたは相当な大物らしいな。それに…。」

 ハーケンの視線が上から下へ、フォルテを見定めるように動く。

「あのヴェーツェルを肩入れさせる人物はどんなかと思ってりゃ、飛びきりの美人じゃねぇか。」

「ふっ、褒め言葉ありがとうハーケン。だが私はむしろ言葉より行動で示してくれる人物が好ましいのだがな。」

「はっはぁ!ちげぇねぇ…まぁ、そこの坊主よりは確実に働いてやるぜ。」

 上機嫌に笑うハーケンがフォルテの後ろに立つアジタートを指差して言う。それに対しアジタートも顔を赤くするほどムキになった様子で吼え。

「なっ、なんだとこの飼い猫やろうが!!てめぇこそ俺の足を引っ張るんじゃねぇだろうなぁ!?」

「吼える事だけが一人前ってぇところか?餓鬼に足の引っ張り合いを心配されるようなボケするわけねぇだろ、タコ助が。」

「っ、てめぇえっ!!」

 余裕たっぷりにアジタートを小馬鹿にしたような言葉を次々と続けるハーケン。それに対しアジタートはさらに顔を真っ赤にして怒り、今にも飛び掛りそうになっている。そこへ後ろで聞いていたヴェーツェルがため息混じりにつぶやいた。

「…ペラペラとうるせぇ野郎共だな。薬でもやってんのか?」

「っ!!? このクソ飼い猫野郎共―」

 その一言に我慢の限界を超えたのか、怒りに任せ腰に下がったホルターへ手を伸ばそうとしたアジタート。だがその手は横にいたリゾルートにあっさりと遮られる。

「アジタート、戦いの時間を無駄に消費するな。それに、一時的とはいえ仲間のものへ銃を向けることは私が許さん。」

 有無を言わさぬとばかりのリゾルートの声と気迫。それを感じ取ったアジタートは舌打ちすると押さえられていた手を弾き飛ばすように振り上げ、すぐに背を向けるとその場を後にする。その背を見送ったリゾルートはフォルテのほうへと振り返ると胸に手を当て敬礼しつつ頭を下げた。

「…主、申し訳ありません。後で言って聞かせておきます。」

「構わんよ、リゾルート。強さを持つもの同士は常に反発しあうものだ。」

「でもあの様子じゃあの坊やはみんなと…。いや、こっちの二人も共闘はしないでしょうねぇ。」

 先ほどからハーケンたちのやり取りをずっと笑みを浮かべながら眺めていたドルチェが面白そうに言う。それを一瞬リゾルートに睨まれたが、何食わぬ顔で背を向けると作業を続けるフリをする。

「問題ない。もとより、リンクス4人には共闘させるつもりはない。」

「はぁ?ってぇと、俺たちは好き勝手にやっていいってことか?」

 ハーケンがフォルテの言葉に意外そうな声を漏らす。

「ああ。ただし活動エリアは決めさせてもらう。その中でなら任務に支障がない範囲で好きに暴れてくれて構わん。」

「そいつは良いや!あの餓鬼や他の面倒を見なくてすむってぇなら楽なもんだぜ。」

「そうだな。うるせぇこいつの声をずっと聞いていなくてすむと思うとこちらも楽だ。」

 再度上機嫌に笑うハーケン。ヴェーツェルもため息混じりに賛成するようにつぶやいた。二人の様子に笑みを浮かべるフォルテが懐からインカムを取り出し、身に付けると次々と指示を出しはじめる。

「ネクスト各機はこの施設を中心にアジタートは北西、リゾルートは北東へ。ハーケンは南東、ヴェーツェルは南西をエリアに配置する。範囲内に来る敵性勢力はすべて撃破しろ。 
ドルチェ、準備完了後は発射時刻まで現状を維持。時間を早めることも遅れさせることもするな。企業へ送った声明通り、時間通りに空へ撃ち上げろ。 各部隊、パイロットも所定の位置への配置を開始せよ。今このときより―」




『『MISSION:AVALABCHE(雪崩作戦)』を始動する!!』




あとがき

 どうも、お久しぶりの米です。
 うん、今回も長くなった…作成時間と話が(汗) と言うわけで、いったん前半後半で切ることしました。前置き長いですね…。しかも最後前回のと似てるし…。でも次は戦闘なのできっと作成はちゃッちゃと進むはずです。…きっとね。(待。( ̄▽ ̄;)ゞ

 では今回はすこし裏ネタ話でもしてお茶を濁らせていただきましょう。(ぇ
 ペルソナ…たぶんみんなすぐにわかると思いますが初期は『LAST RAVEN』のほうの私の作品に出てくるソイルとつながってました。『山猫達の夜戯』で本名が出たあたりでもろばれですね。ソイルって。(´▽ `;)

 アレから大分時がたっている計算でソイルの子孫とか考えてたんですが…何年たってるか正確な年号が不明なのであいまいなまま終わりました。見た目が近いのや本名でつながっているのはその名残ですね。でも『LAST RAVEN』版ソイルの本名はイアン・J・クィスキー…。あれ?微妙に違う。…きっとあれだ、婿に行ったんだ。(何 (; ̄□ ̄)/

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