『幕間 ココロノカケラ』

1.アスピナ機関管轄 ロロ砂漠内実験場


自由落下を絡めてギリギリで回避したミサイルが自分の青い皮膚を掠め、飛び込んだその先に待ち構えていた相手のライフル弾にカラダを抉られる。
だが、血は流れず痛みも感じる事も無い、それどころか挙動の一つさえ鈍らない。
ソレもそうだろう、コジマ粒子と度重なる戦火に汚染された地上で銃口を向け合う彼らは人間等ではなく、人型機動兵器アーマードコア、
その次世代型といえるネクストなのだから。


 * * * * *

『AMS負荷8%上昇 プランB1から30までを再度実行せよ』

感情も抑揚も無い声で研究者が・・いや、この場合は現場主任が淡々と告げる。
下手に負荷を上げれば中に乗っているリンクスを殺める事になるのだが、彼らを部品程度にしか見ない
上の人間からしてみれば消耗品の部品よりも実験の結果が重要なのだろう。

そんな通信相手に内心舌打ちをしながらも彼は薄く笑っていた、関係ないとでも言うかのように。
事実、何時もなら感情を磨り潰してでも聞かなければいけない主任の言葉も、今となっては風鳴り程度にも聞こえない。


何故なら・・彼もまた行く道を決めたのだから


そしてそんな中、彼をよぎるのは今は機関から姿を消した後輩であり、友人であった者の姿

いつの日か「私は私でありたい」と洩らし、脱走していった 優しげな瞳が印象的な気弱な少女

実験のせいで感情を破壊されてなお「守る・・為・・・」と意思を示し、機関を抜けていった 長すぎるほどの黒髪を持った少年

彼女達がどうなったか彼は知らない、だがいずれも己を持ち、その為に道を選んでいた・・・
ならば、自分はどうだろう?

過去の英雄に憧れ、希望を抱き、それを砕かれてしまった自分
今は機関にいない友と笑いあった時間
見方次第では保障され安定した機関での生活

その全てを捨て、ある意味自分自身を殺しつくしてまで逃げ出そうとしている。
それは彼女や彼の様に己を見出した訳ではない。
言うなれば隠された現実を垣間見て、見たくないがために目を背けようとしているだけなのだ。

それでも尚『生きていたい』という本能が、思い返すたびに声を上げ『彼らのように自分が欲しい』と叫ぶ欲望が、一寸先すら見えない道へと自分自身を推し進めるが、そこに彼の迷いは既に無い。
現に、指のかかるスイッチを押せばエネルギーラインのプログラムを改変したOBが起動、爆発し、コクピットもろともコアを焼く事となる。
だが焼かれるその前にこのカラダを棄てねばならない、自分がしたいのは死に場所を選ぶ事ではない、自分を得る事なのだ。

だからこそ、彼は躊躇い無くOBを起動させた。





2、ローゼンタール管下 総合病院 病室26483号室


懐かしく忌々しいような感覚と共に瞼をどけると、つい最近まで見慣れなかった白い天井や壁が映る。
毎日寝ている間以外は否応無く映るのだから見慣れもする。

ソレもそうだろう、以前のミッションで機体を大破させてしまい、現在進行形で入院させられているのだ。
もっとも、外傷は左腕骨折や鞭打ち程度でこれ程の入院を必要としないのだが、理由は別にある。それは、彼がAMSを使用するリンクスであり、撃墜時の衝撃がAMSを介して神経にダメージを負わせてしまったからからなのだが、それもせいぜい一時的な歩行障害と言った程度で、事実、数日後には退院と自主的なリハビリが決まっていた。

「〜っ!はぁ・・・やれやれだ」

そんな中リディルは硬くなったカラダをほぐしながら周りを見回すと、冷蔵庫の脇に極彩色の金属の山・・・もとい昨日イセラが見舞いと共に持ってきた
例の缶ジュース、ハワイアンおでん(ドリアン風味)やリコリスがからかい半分に持ってきたチョコレートプティングが計3ダース近く積まれている。

プティングは食べれば済むのだが、ジュースの方は今こうしている原因となった以前のミッションでも、彼女に勧められて同じ様な物を飲んでいるだけに迂闊に手が出せないでいた。
人によっては『捨ててしまえばいい』と言うかもしれないが、あの目を背けたくなるような満面の笑みと共に渡されてはそうもいかないのだ。

そうして、飲むわけにも捨てるわけにもいかない缶ジュースの処理方法をあれこれと考えていると、落ち着いた電子音が来客の訪問を告げた。


 * * * * *

どこに行っても目を引く特徴的な長い灰色の髪に、これから面会する彼と同じ緑だかった瞳を携えた女性、
リュカオンが目的の部屋のインターホンを押すと僅かな間を置き、『・・・どうぞ』と応答が来る、以前よりマシになったものの相変わらずそっけないものだと思う。

「…生きていたか、拠点攻撃の大型ミサイルを至近距離で撃ち落したんだってな? プリン頭、焦げていないか?」

部屋に入るなり、ムキになって彼が言い返してくれるのを期待してそんな事を言ってみるものの、不満そうないつもの言葉は返ってこず、苦笑いと共に「じゃぁ焼きプリンとでもいってみるか?」と言ってくるのだ、
やや拍子抜けしながらも見舞い品の果物が入った籠を手近なテーブルの上に降ろし、席につく事にする。

その後は他愛の無い雑談や、体の調子、新たに用意する機体と言った事を話していると、思っていたよりも早く時間が過ぎ、帰る時間が迫っていた、そんな時だ・・
彼が声の調子を変え独り言のように呟いたのは。

「リュカオン、見つけたよ・・・俺も。」

何処か寂しそうで、だけど何か強い意志を感じさせる声に気の利いた言葉も返せず、ついいつもの調子で素っ気無く「何がだ?」と返してしまう

「理由・・いや、戦う意味をさ。少し前まで自分が戦う意味も、そうする自分の価値すらも見出せなかった、だけど――」

「それを見つけたと?」

「あぁ、こんなデキソコナイの人間のために涙してくれる人がいて、身を案じてくれる人がいるんだ。それを知ったら簡単に死んでやる事などできやしない。」

だから・・、と間をあけると彼は遠いものを眺めるよう目を細めて続ける。

「せいぜいあの時の様に足掻いてみようと思う。その人達の為にも、自分のためにも・・・な。」

短い沈黙の後、私は思った事を正直に伝える事にする。どうせ小奇麗に言葉を飾れるほど器用ではない、真っ直ぐに思いを伝える・・・それ位しか出来ないのだ、私には。

「まぁ、今回の一件もお前の見つけた「答え」のための行動なら、私は止めないさ…。」

いつかの様に瞼を下ろし、静かに耳を傾けてくれている彼の頬に唇をよせ、そっとふれる。
突然の事に目を見開き唖然とするリディルに背を向け、扉に向けて歩みを進めながら、

「だが本心をいえば、あまり無理はしないほうが私は好ましい。…お前に死なれては困る。」

それだけを伝えると、早足に部屋を出るのであった。
加速的に顔が火照るが自分でも判る、 恐らく今の顔は他の誰にも見せられないだろう。
そう感じながらリュカオンは病棟を後にした。


 * * * * *

リュカオンの見舞いがあったその夜、予想外の知らせが届く事となる。
その知らせは幾つかの遺品と複雑な感情を彼に届ける事となった。


夕食も済み後は寝るだけ、とリラックスしていたリディルに対して脇のデスクに置いた携帯端末が音を立て、メールの着信を告げる。
大して思う事もなくメールを開こうとするカーソルが送信者を確認した瞬間に固まってしまう・・・送信はカラードのNo.2 グラムからだったからだ。

リディル自身は機関に居た頃に何度か彼の試験相手を勤めたため彼の事は知っている。だが同時に自分は機関を抜け出す際に顔を変え、名を変え、己を殺すほどの思いをしてまで自分に繋がるものを消して回ったのだ。
だからこそ彼が自分を知っているはずは無いのだが・・・と警戒しながらも開封してみると本文にはたった一言『伝える事がある』っと簡潔に書いてあるだけだった、だが、よく見ると音声ファイルと文章ファイルが添付されている。

音声ファイルを再生すると『久しぶりだな、ルモア。いや・・・いまはリディルか――』と始まったその言葉に頭の中は不安や激情に塗りつぶされてしまい、端末を壊してしまいたい衝動に狩られてしまうが、何とか自制し彼の言葉を待つ。
そんな事を知る由も無い彼はこう続けた。

一つ、カーパルス防衛戦やミミル軍港攻防の時の動きを何らかの方法で見て、リディルが過去の事故で行方をくらましたルーマでないかと疑い。イセラから聞いた例の缶ジュースに対する対応と、その独特な瞳色から確信した事。
どうやら、機関に居た頃にも同じ様な事があったらしく、その時も一字一句違わぬ事を言い、結局笑顔に負けて飲んでしまったそうだ。そして瞳の色と言うのは、通常のリンクスとは異なり必要以上の負荷を日常的に掛けた者のみに現れる症状だからそうだ。

そして二つ目に、ルーマの名を捨てた一件以降、彼に手渡されていた機体を自分に返却するとの事。
それを断るために何度かメールを返信してみたのだが、全て戻ってきてしまい結局断る事は出来なかった。

最後に添付された文章ファイルに3つ目、機関がリディルの正体に疑念を抱き、消しに掛かる兆候があるとの事。

また、文章の末尾にはこうも記されていた。

「故人の忘れていった想いを君に届ける」っと・・・


 * * * * *


数日後、退院の当日となってリディルの元に小さな包みが届く、中に入っていたのは小さな木箱が一つと、ネクストの起動キーが1枚。キーが偽物で無い証拠に、リコリスからもガレージに差出人不明の青いネクストが搬入された旨を知らされている。
そして木箱の方を開くと、中には小さな花と剣が掘られたのタグが付いただけのシンプルなチェーンネックレスが傷だらけのまま真綿の上に置かれていた。
それは機関で多くの時間を共にした友の一人が亡くなる間際まで付けていた物だった・・・。何気なく裏返すと小さな文字で何かのメッセージが刻まれている。

- I spent precious time with you .
It was happy for me, not replaced .-

(大切な貴方と共に過ごした時間、それは私にとって掛け替えの無い幸せでした)

それを見てしまった時、不意に目頭が熱くなるが、頭を振ってその想いを振り払う。あの事はまだ終っていない、過去の事を振り返るには早すぎるのだと言い聞かせ、退院の準備に取り掛かると、丁度ドアの向こうから自分に催促をする声が聞こえて来きた・・・




【反省会】

こういう形では初めてとなります散櫻です。 え?名前の読みが判らない?それは問題ありません!なんせ本人にすら判りませんから!!(ヲイ
先ずは粗製な物を最後まで読んでいただきありがとうございました〜!並びに、途中アドバイスや出演を許可してくださった方々にも同等以上の感謝を。
実は今回のように溶接・・もとい小説と意識して文を書いたのはこれが初めてなので、正直なところ出来のほどはワカリマセン!(ぁ
曖昧に「〜出来るんじゃないかな」と想ってもそれを「〜にすればもっと良くなる」という形に出来なかったのが残念ですが、次があった場合の課題と言う事で。

もし感想や指摘があれば掲示板の雑談板やメッセンジャーで言ったいただけるとと励みになる・・はず!きつい事言われても凹んだりしないよ・・・うん、多分・・きっと(ぇ
では、次のネタを練りこみながら今回はこの辺にて! 次があればまたお会いしましょう。

追伸:ルモアは Rumor のローマ字読みで、『噂』という意味を持ちます。正しい読みが判ると、LR時代のある人物が浮かんでくると想います、きっと前のミッションでデジャブってたのはそのせいだ!(違

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