『ラストレリック』

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被検体、その言葉はネクストが開発された当初と現在では大きく意味を異とするものとなってしまっている。
初期の頃に意味されたのは、搭乗者を使い捨てにする程の負荷を軽減するための実験に自ら志願したテストパイロットと言う色合いが強く、敬意の念を向けるべき存在だった。
だが、いつからだろうか・・・被検体の存在が研究者の実験道具の一つとなってしまったのは。




1.

セレーネの起動準備を行いながらもミストレスはどこか今回の依頼を受けてしまった事を後悔していた。
当初、大型のAFを相手にする任務並みの報酬につられて受けたのはいいのだが、実際にブリーフィング等を進めるときな臭い事この上ないのだ。
三つ程例を挙げれば第一に、輸送機に乗り込む前に待機して居たアスピナの施設に充満していた異様な雰囲気だ、研究者は一様に狂気とすら取れる熱気を纏っているし、それ以外の候補生達は皆に最低限の感情すら見えなかった。まるで人外の者ばかりかと錯覚するような場所に居るのは精神衛生上よろしくなかった。
二つ目には事前情報の不足が挙げられる。脱走者を処分しろと言っておきながらその対象が誰なのかすら教えてこない、その事に不満を持ち情報屋を雇ってみれば空振る所か消息を絶つものが出る始末。そして唯一掴んだ情報もアスピナにハッキングを仕掛けた際に出て来た『被検体No.3857-A ルーマ・ランフェノフ』と言う一文だけと来れば嫌にもなってくる。
現在のカラードにルーマ等というリンクスは登録されていない、最悪情報の無いイレギュラーの可能性だってあるだろう。 
そう考えているとシステム音声がセレーネの起動完了を伝えてきた、背部のカメラに映るアスピナの僚機も起動が完了したようでカメラアイが点っている。


「ミストレスだ、呼びたければレッドレフティでも構わん」

『了解、ミストレス』


回線を開き、挨拶だけでもと声を送るのだが・・・ 返ってきたのは他の被検体以上に抑揚も感情も感じさせない声。これならまだ機械に喋らせた方がマシな位だろう。
そう、三つ目は僚機となるスケアクロウのリンクス、Nemoの存在だ。 このNemoという男はブリーフィングに出る事も無く、常に搭乗機に引き篭ったままで、声を掛ければ先ほどの通りと、不審な点ばかりが目立つ。
そんな相手を僚機として扱えと言う方が無茶な話でしかない。

「全く、いけ好かないな・・・」

それだけをぼやくと、後方のハッチからセレーネを投げ出して眼下に広がる荒野に降りてゆくのだった。





2.

永遠と続く岩砂漠と味気無い山脈ばかりの風景に辟易しつつも、闇色のネクスト・・・マヴェットソングのリンクス、ベアトリーチェは指定された合流ポイントへと急いでいた。
これから行うだろう輸送車両の護衛は本来なら出発時から同行するのが最良なのだが、既に僚機が居た事と、別件が重なった為に今こうして遅れながらに合流する事となってしまっている。

だが、指示された場所まで数kmを数える距離になってようやく自分の失態と状況の悪さを確認する事となる。
望遠レンズには推進機関をやられて立ち往生する輸送車両と白い軽量級のネクスト、そしてそれに攻勢を仕掛けるネクスト2機を捕らえられてた。

「二機か…面倒臭いわね。でも、仕事はきっちりやらせてもらうわ」

その言葉とレールキャノンでの狙撃を手土産にベアトリーチェは箱庭の舞踏会へ踏み込んだ。


 * * * * * * *


ヴァルベラブル・コーン(後方危険円錐域)をセレーネに取られかけ、クイックブーストとクイックターンで機体を振り返らせた先で映ったのはパージと同時に爆散するWADOUと、PAを揺らめかせながらも格納していたらしいSOLOを装備するセレーネの姿。 何事かと思案する間も無く答えは現れる。


『貴方がリディル? 私はベアトリーチェ、よろしくお願いするわ』

「随分と待たせてくれたな。だが、ありがたい!」


声の主はカラードの No.10 ベアトリーチェ。正直な事を言えば格下のNemoとはいえ援護が付いたミストレスを相手取るのは持ち堪えるだけでも厳しかったため、このタイミングで合流してくれた事に感謝したいくらいだ。だが、そんな感傷を遮るかのようにベアトリーチェとは異なる声が割り込んでくる。


『ふんっ・・・!ベアトリーチェ……嫌な名前だな』

『――っ!? ・・・なんでだか知らないけど、ミストレスって名前むかつくわね』


お互いの挑発が共に癪に触ったらしく、喧々囂々と挑発の応酬が始まったようなので、こちらも本来の目標と対峙する事となった。機関からの客人であるNemoの駆るスケアクロウと・・・


スケアクロウはかつてアスピナが開発した『SOBRERO』の致命的な欠点をオーメルを始めとした他企業のパーツを組み込む事で克服した試験機だが、他企業の標準機などと比べるとやはりその装甲は薄すぎるのが目立つ。
しかし、自身のファグナーも当然無傷と言うわけではなく、左腕装備のライフルはマニュピレーターごと破壊され、全身の装甲も削られているのだが、それでもアクチュエーターを始めとする内部機構に大きな損傷が無いのは奇跡的だと言ってもいいはずだ。

残った右のライフルで牽制を掛け、そこからアサルトアーマーを狙いたいのだが、狙いが読まれ未だに射程に持ち込めずにいる所か反撃でアサルトライフルを打ち込まれてしまう。だが、そんな応酬の中で掴んだ物が無いわけではない。Nemoが行う回避機動はパターンこそ多く、複雑化されているようにも見えるのだが、その一つ一つを見てみると回避を行うタイミング・角度・方向のいずれを取っても誤差が少なすぎるのだ。
生身の人間が乗る以上、粗製と言われるレベルならそれすら満足に行えず、慣熟したリンクスならばあえて幅を付けるのだが、Nemoにはそれが見られない。そして同時に、自分が機関で何の為に試験を行ってきたかを考えてみると自ずとNemoの正体が見えて、 その浮かび上がった正体と同時に沸いた感情が声として絞り出される。


「・・・が・・・な」

『再度警告します、No.3857-A ルーマ・ランフェノフ。第8章49項並びに52項 実験放棄及び機関からの離脱 に違ハ―――』

「AIが、人を装い喋るな!!」


その叫びと共に分裂ミサイルをスケアクロウの正面に放ち、コンマ数秒遅れてその右側に向けてハイレーザーキャノンを打ち込むと、教本通りにミサイルの回避を試みるスケアクロウに大穴を穿ち、装甲もろともコクピットを溶解させる。


『ケ・・・イ・・・・・・・ク、・・・イハ・・ン』


Nemoは最後にノイズ交じりの断末魔を遺し物言わぬカカシと化していった・・・。




3.

AMSを通じ僚機が落とされた事が情報として入ってくる。状況を確認してみればスケアクロウが抑えていたファグナーは損傷こそ激しいものの戦闘行動は可能なようで援護位置に付こうとしており、マヴェットソングに至っては遅れて合流した事も相俟って損傷の具合も軽い。それに比べ、実質二機のネクストを相手にしてきたセレーネは損耗しており、残った武装のマシンガンも残弾が心もとない状態だ。
トップクラスの威力を持つアサルトアーマーもあるが、距離を置いて包囲されかけている状況で下手に使えばプライマルアーマーが無くなった所を畳み掛けられかねない。

そうして撤退も視野に入れて選択肢を立てていると珍しくオペレーターの方から通信が入る。


『レッドレフティ、方位315からSOBREROベースの機体・・・いや、スケアクロウの同型機が複数そちらに向かっている』

「このタイミングで増援だと」

『いや、IFFが解除されているな・・・。警戒しろ』

「ハッ! 成る程・・・報酬が高いわけだ。セレーネ、撤退する」


IFF(敵味方識別装置)を解除する、その行為が意味するのは“裏切り”・・・いや、報酬の額からすれば予定されていたのだろう。
そう考えた上での撤退という選択となったのだが、今の状況では撤退すらもリスクを伴いかねない。最も、他の選択肢と比べればマシだろうが・・・


 * * * * *


「・・・随分と味な真似にしてくれるじゃない」

『悪いが伝えなかったのも作戦の内だ。よく言うだろう、敵を欺くには味方からだと』


セレーネが撤退したタイミングで入ってきた撤退指示にベアトリーチェが発した第一声がこれだ。
通信士が説明する分には、本命の護衛対象は元の予定通り空輸され、既に安全圏内へと抜けたらしい。だが言い換えれば、依頼自体が囮であり自分達もまた道化でしかないと言われているのだから彼女の発言にも納得がいく。もっとも、ミストレスとの応酬で気が立ってる事も関係しているのだろうが・・・

そんなミストレスの様子に苦笑しながらもリディルは家路を急ぐのであった。





【反省会 第2幕】
はい、こんにちわ散桜です! 今回は前回と打って変わり配信形式のミッションとなり、他のオーナーの方のリンクスのイメージを 壊しすぎない ように注意してやってみました。え?コワレテル・・・? キノセイデスよ!(汗
さて、そんな冗談は置いといて如何でしたでしょうか? 配信のために「Another Piece」と題打ってますが、シリーズ化するかは気分次第で(ぇ
自身としては戦闘シーンが薄くなってしまったと思っているので、次回はきちんと書き込むようにしたいと思いますが、キタイシチャダメですよ?オニイサン潰れちゃいますから!

また、今回でリディルの過去に関するお話で“一応”一段落が着きましたので、次回では他のリンクスの皆さんに頑張ってもらうお話になる・・はず・・・。
では、又次回お会いしましょう!

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