『ムーン・バレー奪還戦』


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 北極海に浮かぶ人工島『ムーン・バレー』。 ここは、戦争での数少ない副産物である技術発達が地球の自転という大きな助力を不要とし、時を選ばずにして宇宙へ上がれる様になった事を示すシンボルと言える場所。

 航空宇宙基地と呼ばれるこの島は通常のインダクトラック式発射台他に、無人船用ではあるものの長大なマスドライバーを有し、宇宙開発を行う上で重要な要所となる。だが、それ故に起こる諍いを恐れた企業連の手により表面上は平和利用されるはずだった。

 最も、子供騙しの決定に異を唱えた一企業により容易く無下にされてしまうのだが・・・




1.

 目標へと向かう有沢の旗艦『飛島(トビシマ)』でブリーフィングを終え、上機嫌のままに控え室へ戻る途中にリラは妙な共通点を見つける事になる。 すれ違う船員が程度の差こそあれ、皆一様に不機嫌の色を顔に貼り付けているのだ。

 “何かあるな”と案じながらも区画を分ける扉を潜ると、その理由を否応無しに体感する事となる。 潜ったその先では防音となっているはずの船室から大音量の音楽がただ洩れ、その上洩れているのがヘビーメタルだと言うのだから性質が悪い。 こんな箇所が有る事を内心恨むリラに追い討ちをかけるように判明したのは、位置やここまでの道順が記憶通りならば音漏れを起こしている部屋の隣こそが自室と言う事実。

 眩暈と頭痛を感じつつも、自室へと入っていったリラがどうなったかは、荷物と“待遇変更申請書”と書かれた書類を持って総務部に向かった事を見れば言うまでも無いだろう。


 * * * * * * * * * *


『アンタが今回の僚機のリンクスだな?ハーケンだ、宜しく頼む』


 僚機 - ヘビーメタルの彼からの挨拶に簡単に返答するが、内心では回線を切って大きく溜息を吐きたい気持ちで一杯なのは日頃の疲れからなのか、はたまた今も流れているヘビーメタルのせいか。その判断をするのさえ億劫だったが・・・


『何だ、緊張してるのか? なぁに、俺から見ればネクスト以外はただのコケ脅しだ、気にするまでも無いな』

「貴方からしてみればそうかもしれませんが、私には物量こそが脅威だと映ります」

『はんっ!そうかい』


 そう言って通信が切られ、パッタリと途絶える音楽に大きな溜息が取って代わったが、誰が責められようか。いや、居るのだろうが今この時はそっとして置いて欲しいと言うのが正直な感想だ。

 だがそんな猶予も無い様らしい。 大口を開けるハッチと、『リンクス、時間です。御武運を』と告げる管制官が人形劇の始まりを伝えてくれた。




2.


「リヴォークU、E-48クリア。 次は?!」

『了解、E-48クリア。 次はE-77へ向かってくれ。SOLARWINDの他にも044型まで居やがる、くそっ・・・GAめ ―――』


 武力でムーン・バレーを占拠したアルゼブラに対して有沢が執ったのは大量のノーマルや通常戦力での物量戦・・・いや、逐次投入されている点を見れば衰弱を狙った消耗戦だろう。単純かつ非効率極まりないない作戦だがシンプル故に狙いが外れる事も無く、自分を含めたアルゼブラの勢力は思惑通りに疲弊させられているのだ。 その証拠に、切り札であるはずの自分でさえも弾薬補給時の僅かな時間を除けば戦闘継続時間が既に4時間を過ぎようとしている。

 いくら疲労や神経の鈍りが躁強剤で誤魔化せるとはいっても、それにも限度があるようで節々が悲鳴を上げているのが鈍った感覚でもひしひしと感じるのだから明日からはベッドの住人だろう。だがそれも形はどうあれ任務を終えれればの話だが・・・

 手近な『SOLARWIND』を切り伏せつつも、そんな事を考える余裕がまだ有る事に苦笑しているサリアにHQ直通で通信が入ってくる。


『HQ(ヘッドクウォーター)よりリンクス、敵ネクストを確認した。そちらには他の部隊を回す、W‐23へ向かい―――』

「ネクストが出てくるなど聞いていませんよ!」

『大方お前さんを確認して雇ったんだろう・・・、情報は随時まわす、対処を頼む」

「・・・・。さて、お待たせしても悪いですし、さっさと行くとしましょう」

その言葉を皮切りにOBが光を溜め、リヴォークUを押し出した。


 * * * * * * * * * *


 見える範囲での敵性反応がようやく20を切った時、それまで執拗に足止めを行っていたノーマル部隊が一転撤退を始めたのだ。


「戦力的不利からの撤退・・・いや、ちげぇな。」


 そのハーケンの言葉を証明するかの様にレーダにはネクストを表す赤い光点が点り、聞きなれない女の声が入ってくる。


『ほかの方面の支援にも行く必要があるんです、貴方にはさっさと落ちてもらいますよ』

「ば・・・バカじゃねぇのか、上位ランカーだって言うのか!?」


 女の声に続いて上がってきた情報に記された『 No.12 』の文字は自分のはるか高みに位置する相手を意味していた。

 しかし、ハーケンは引きつる表情の中にも僅かな笑みを浮かべていた。 確かにフェアな条件なら接近許し、その火力の前に畳まれてしまうだろう。だが物量の前に疲弊し充分な距離もある今なら撃墜する事も不可能ではない。そう踏んだハーケンは牽制のスナイパーライフルに回避後を狙う形でリニアキャノンを打ち込む事で削り切る事を打算するが、相手も打たれるがままという訳には行かないようでミサイルやグレネードでの反撃を行っているものの、重量機のラスト・ヴァタリオンには決定打が欠けており、ブレードも出力を回避に回しているために射程に捕らえずにいた。

 だが、何度目かの反撃をやり過ごして遮蔽物から機体を出した瞬間、グレネードが眼前に着弾しプライマルアーマーごと視界を奪う。 予想外の事に悪態をつきながらもクイックブーストで視界を確保するが、開けた先で見たのは視界いっぱいに広がったミサイルの郡と、それに続くようにブレードを振りかざした敵ネクスト。

 充分な回避もままならないハーケンの耳の届いたのは怒気をはらんだ女の声――


『ちまちまと――うざったいのよ!!』


 それに呼応するように被弾に伴う衝撃が続々と機体を襲う。 激しい揺れの中でも何とか意識をつなぎとめて距離をとりながらも被害状況を確認してみれば装甲は深く削られ、頭部と右腕に至っては根元から切り落とされてしまっている。


「くそ、これ以上は無理か・・・悪いが先に離脱するぜ?」


 目と主兵装を失っての戦闘継続は不可能と判断し、ハーケンは隆起した地形を縫うようにして撤退を開始したが、不思議と追撃は行われなかった。




3.

 事の転機は一本の通信だった。 GAのネクストを落とし、弾薬の補給や応急修理を受けるために基地へと帰還する途中にHQから通信が入ってきたのだ。


『リンクス、訃報だ。 司令部が敵に落とされた・・・。今からは撤退する部隊の護衛に回ってくれ。』


 通信士の話によれば、自分が南西のネクストと戦闘を開始した直後に北部にもGAのネクストが侵攻し、これに対して「URSRAGNA」で対抗するも敢無く撃墜されてしまう。そうしてコマンド部隊の進入を許し、今に至るということだ。

 そして、護衛を始めて既に10分近く経過しようとしているのだが、追っ手らしい追っ手も現れる事無くムーン・バレーの防衛圏を外れようとしていた。 今まで5時間近くも戦闘を繰り返してきたせいなのかここにきて一気に安堵感が湧き出し、脱力してしまう。



 だが、そんな事をあざ笑うかのようにアラートが鳴り、照準レーザを照射される。 安堵した瞬間の事に慌ててしまい、追手を探すが見つけ出すよりも先に、護衛していた部隊に対し上空からミサイルが降り注ぎ次々と屠っていく。そして、そこへ降ってくる声――


『っは!上にも目を付けとけってんだ!』


 その声は背後・・・いや、正しく言えばその上方からかけられており、本来そこは取られてはならない位置であった。だが、それを取られてしまい対応もおくれてしまっている。それらが意味する結果がなまじ判ってしまうために、自分の背筋が凍りつくような感覚に襲われてしまう。


「なるほど、自分より実力の勝る者を倒すために数で押してきますか、私を倒すだけなら正しい判断ですね」


 自らを奮い立たせるように言葉を発する。が、“せめてもの強がり”そう取られても仕方ないほど状況としては劣悪だった。 そんな状態でも追手のネクストの隙を見て背後を取れたのは行幸だろう。だが、ブレードを振り下ろす瞬間に発光し視界が白一色に染まる。


「ふぅん・・・・クイックブーストで目眩ましですか、所詮子供騙しですね。―― え・・・・?」


 カメラがやられた瞬間に距離をとったにも関わらず、復帰したカメラから入ってきたのは今まさにブレードを突き立てんとする緑色のネクスト。 


 装甲を溶断される衝撃と轟音がコクピットを揺らし、薄れ行く意識の中で見たものは止めもささずに離脱していくネクストの姿だった・・・・






[反省会]

だいぶ時間がかかり、生々しく反省する事となった今回ですが、如何でしたでしょうか? 台詞をなぁ・・台詞をもっとカッコよくまわせればよかったんだけどなぁ・・・まぁいいや(ぇ

さて、反省はこの辺にして今回のはこれからのロールの参考にでもなれば・・・という意味合いで『ロウランド砂漠ネクスト戦 後編』の時にコシヒカリさんがやられたキャラクター達の人間関係を僕も書いてみようと思います♪


○=好感 △=普通 ×=嫌悪 □=複雑  + =やや好感より - =やや嫌悪より *=やや複雑より


・リディル

リュカオン    : ○+ 良き相棒(パートナー)、気になる存在
グラム      : □  過去自分を知る人物 感謝と警戒を抱く
イセラ      : △* 食べ物を持ってきたら要注意
エルリエ     : △  落ち着いた人
ユウ       : △  苦労人?
ラビス      : △- プリンいうな!
ベアトリーチェ  : △  怒らせると怖い
レオン      : ○* 良い腕の持つ青年、疑惑有
リラ       : ○- オーフェン時代の妹分
リコリス     : ○* オペレーター、喧嘩友達
イレクス     : ○  尊敬、おやっさん
Nemo     : ×- 憎悪、AIと推測


・グラム

アネモイ     : △+ 見込みのあるリンクス
ユウ       : △  年相応の少年
イセラ      : △+ 未熟な点もあるが優秀なオペレーター
ペルソナ     : △  レイヤード強行偵察時の僚機
アンノウン(社長): ×  正体不明の敵
リディル     : □  専属時代の後輩


・イレクス

マッハ      : △* 戦闘狂、無茶をする青年
ダンテ      : △  面倒見のいい女性
リラ       : ○  愛娘のようなもの
リディル     : ○- 弟分


・リラ

ハーケン     : △- 迷惑な人、隣の部屋は無理
イレクス     : ○  信頼する長
リディル     : ○  先輩、思うところ有り?


・Nemo&アマリリス

省略(ぇ

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