「Dog of conglomerate」

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 輸送機に乗るたびにいつも思うことがある。このエンジン音はどうにかならないものだろうか。五月蝿いとまではいかないが、気持ちを落ち着けたいときには非常に耳障りなものとなって仕方が無い。

 今、クレスト専属ACパイロットであるローレルがいるのはクレストの大型輸送機の中だ。格納庫のすぐ脇に設置された小部屋にローレルと、同じくクレスト専属であるリトルソングは向かい合うようにして粗末なつくりの椅子に座っていた。外を眺めようにもこの部屋に窓は付いていない。そもそも軍用機に外を見るための窓はコクピットを除けば付けられることは少なかった。

 理由は知らないが、窓があると何かしら不都合な理由でもあるのだろうとローレルは考えている。ただ外が見えないと、必然的に視界へ入ってくるのは無骨な金属で覆われた部屋だけだ。空調設備は整っているので、温度はちょうど良いぐらいである。しかし、エンジン音が五月蝿いせいで落ち着かない。

 向かい側に座っているリトルソングはヘッドフォンを付けて音楽を聴いている。エンジン音で聞こえづらいのかもしれないが、かなり音量を上げて聞いているらしく、しゃかしゃかと不快な音が聞こえていた。音量を下げろ、といいたいところだったが今は作戦行動前であり気持ちを整えるための時間だ。音楽を聴くのは彼なりのリラックス、あるいは精神統一方なのだろう。そう思えば彼の邪魔をするのは悪い気がする。

 ローレルとリトルソングが愛機と共に向かっているのはエリア・オトラント北部の海域にあるセイレーン諸島だ。戦略的に重要な位置にはあるが、二番手三番手といったところだろう。エリア・オトラントにおいて最も重要な地域といえば、ちょうど中心部に位置するブーゲンビル島だ。

 この島は地図を見れば分かるとおり、エリア・オトラントのど真ん中に位置している。そのため、ここから様々なところへ部隊を送ることが可能になり輸送も容易くなる。よって各勢力とも現在はクレストが手にしているこのブーゲンビル島を狙っている。特にミラージュはここさえ取れば、ほぼエリア・オトラントは制圧したと言えるような状況にあるだろう。もしクレストがブーゲンビル島を奪われれば、首許に刃を突きつけられたも同然の格好となってしまう。

 よってクレストもブーゲンビル島周辺海域及びブーゲンビル島自体の防御にかなりの戦力を回している。移動しやすいということもあり、ローレルはブーゲンビル島にいることが多かった。

 だというのに何故、セイレーン諸島に虎の子の専属ACを二機も出撃させるのかといえばセイレーン諸島付近でミラージュが不穏な動きを見せているからである。加え、セイレーン諸島のミラージュ部隊に専属ACがいたとの情報があったためだ。

 エリア・オトラントに配属が確認されているミラージュのACといえばグローリィのインテグラルMとミヅキ・カラスマの明星だ。ローレルからしてみれば、ミヅキ・カラスマは大した脅威にはならないと考えている。彼女の機体構成自体がインテグラルMの支援を主目的に置いた構成になっているため、決して彼女が弱いとは思わないが明星単体では恐れるほどではないと思う。

 ただ怖ろしいのはグローリィだ。何故ならば彼は先に行われたバルカンエリアの紛争で目覚しい活躍を見せている。あそこでの紛争を終わらせたのは彼によるところが大きいだろう。その実力はアリーナにいるとするのならば、確実に上位、それも一桁台に匹敵するものと思われる。ローレルは自分自身でも一桁台のレイヴンとは張り合えると思う、しかしながら実際に交戦した経験はといえば無い。他の地域でならあるものの、ルヴォルフアリーナの一桁台の実力というのは解らない。無論、アリーナを観戦することにより情報は収集しているものの戦ったことは無いため彼らの能力を実感としては持っていない。

 よって恐れるべきなのかどうなのかと問われれば、どうだろうとしか答えるしかないのだが警戒しておくしかないというのが本音だった。アリーナを観戦しているとはいっても、所詮アリーナはスポーツであって実戦ではない。実際の戦場はアリーナで行われる試合のように状況が整えられているわけではないのだ。

 考えれば考えるだけ緊張してくる。専属パイロットのクセに情けないとは思うが、グローリィとは戦いたくないというのがローレルの本音だった。彼とまともに戦った場合、無事に済むとは思えない。機体が大きく損傷するだけならばいくらでも替えは効くが、何らかの状況によりこの体が傷ついてしまうとなると怖ろしい。かすり傷などはどうでも良いのだが、例えば腕を失ったり等の障害が残ってしまうような怪我はしたくない。

 特に腕だけは失いたくない。この足は失ったところでACパイロットは出来なくなるが、生活することは出来る。しかし腕を失ってしまえば、生活できたとしても愛娘をこの腕に抱くことが出来なくなってしまう。それだけは何としても避けたかった。

 左腕に付けた腕時計を見れば、到着時刻まで後十分ほど。胸のロケットペンダントを取り出して蓋を開く、そこにあるのは今は無き妻に抱かれて微笑を浮かべる娘の写真だ。これを見るたびに、テロリズムに対する怒りが湧いてくる。妻を殺したテロリスト共に復讐を果たさなければと思う。

 殺されたからといって殺し返すのは間違いであることなどは承知のうえだが、そうでもしなければローレルの心は落ち着かなかった。この世の中から、暴力主義をいつかは無くしたいものだ。しかしそのためにどうすればいいのか、彼らと同じ暴力で返すべきなのか、それとも武力を使わずに平和裏に解決すべきなのか。考えても答えは出ず、自分に出来うる最善の方法で目標を達成しようと考えてクレスト専属になったのだ。

 視界の端でリトルソングが動いた。時計を見れば到着予定時刻まで後五分、そろそろコクピットに待機しておいても良いだろう。セイレーン諸島の大陸側の部分はクレストの勢力範囲となっており簡素ながら基地もある。しかし大型輸送機が着陸できるだけの飛行場はまだ無く、仕方なくACで空中から基地へ降下することになっている。

 リトルソングの後に続き、ヘルメットを被り部屋から出る。輸送機の格納庫には二体のACが並べてハンガーに固定されており、ハッチに近いほうにリトルソングのACであるワン・ナイト・スタンドが置かれていた。その隣にある中量AC、イレイショナルと名付けられた機体がローレルの機体である。

 右腕にはマシンガン、左腕にはブレード、背部には大口径のエネルギーキャノンを搭載した火力重視の機体に仕上がっている。いつかは相見えるであろうグローリィにインテグラルMに対抗すべく組まれた機体だ。ローレル自身はといえば格闘戦の方が得意で、そちらと比べれば射撃戦はあまり得意ではないというのが本音だった。

 コクピットに乗り込み、機体を通常モードで起動させ拘束具を取り外す。隣にならぶワン・ナイト・スタンドはそれら必要な作業を既に終えており、ハッチが開くのを今かと待ち構えていた。

「今からハッチを開く。それじゃ、後はヨロシク頼む」

 機長からの通信に「了解」と答えると、ハッチがゆっくりと開いた。久しぶり――といってもせいぜい一時間ほどだが――にみた空は青く晴れ渡っていた。

「それでは先に行きます」

 リトルソングはそう言うと愛機ワン・ナイト・スタンドと共に空へと飛び込んだ。一拍置いた後、ローレルもリトルソングに続いて空へと飛ぶ。

/2

 グローリィは愛機であるインテグラルMを駆り、クレストの勢力圏へ僅かに踏み込んだ辺りを動いていた。特にこれといった目的は無い。この先に侵攻するつもりも無ければ、偵察するつもりも無い。クレストの勢力圏へと入り込んではいるが、入り込むこと自体が目的であって交戦することは目的ではない。

 今グローリィに与えられている任務は、セイレーン諸島に駐留するクレスト部隊への挑発なのである。ミラージュとしてはセイレーン諸島を完全に勢力圏に入れたいのだが、セイレーン諸島にあるクレスト基地にある戦力が不明瞭のために攻撃するにも戦略を立てられずにいた。

 過去幾度となく偵察したものの、セイレーン諸島のクレスト基地は巧妙に隠蔽されておりどの程度の戦力を保有しているのかが予想できないのだ。そこでミラージュが立てた計画というのは、クレストを挑発しわざと部隊を出撃させようというものである。そうすることによって敵の戦力を予想しようというのだ。

 交戦することは考えられていないが、万が一戦闘状態に入った場合に敵戦力を撃滅とまではいかなくとも大幅に弱めることが出来るようグローリィにこの任務が与えられていた。だがグローリィには自分には不適格な任務だと考えている。何故ならばクレストはグローリィのことを高く評価している節があり、グローリィがここに現れたのならば確実に警戒して戦力を増強するに違いない。

 具体的な規模は不明だが、セイレーン諸島は最前線であり元々かなりの戦力があるものと推定される。ただクレストはここよりもブーゲンビル島を重視しており――ミラージュもセイレーン諸島よりかはブーゲンビル島の方を重視している――、セイレーン諸島には元々専属ACが配備されていなかった。

 しかしだ、ミラージュの専属ACが配備されたとなれば防御用にクレストも専属ACを配備してくるのは目に見えている。エリア・オトラントに配備が確認されているクレスト専属ACはローレルのイレイショナルと、リトルソングのワン・ナイト・スタンドであることとこの二機の機体構成の情報も得ている。

 ただ、グローリィはこの二人を実際にこの眼にしたことがなくまた交戦しているところも知らない。ローレルの方は以前からクレスト専属として別の戦線にいたために、ミラージュのデータベースを探れば戦闘記録があったためある程度の情報は得ている。しかしリトルソングはといえば、最近になってからクレストの専属となったらしくデータベースを探ってみてもほとんど情報は無かった。

 このどちらかが来るかは分からないが、順当に考えればリトルソングであろうとグローリィは考える。何故ならば二体も虎の子の専属ACをセイレーン諸島に送り込んでしまえば、最重要地点であるブーゲンビル島の防御が手薄になるからだ。

 しばらくクレストの勢力圏内を動いていたものの、特にクレストが動く様子は無かった。挑発だということに気付き、動くのを止めているのだろうか。それとも、と考えているうちにオペレーターであるマリーツィアからの通信が入る。

「クレストの大型輸送機がそちらに接近しています。状況から考えておそらくACを輸送しているのだと推測されますが、そちらから確認することは出来ますか?」

 頭部を動かし空を南東の空を見上げてみればマリーツィアの言うように、クレストの大型輸送機が飛んでいた。その輸送機に不審なところを感じて、画像を拡大してみればハッチが開いていた。何故あのような高空でハッチを開くのだろうか。考えうるだけの状況を頭の中に思い浮かべていると、そこから一機のACが飛び出した。

 体は反射的に動き、画像をさらに拡大していた。画質は荒かったが、コンピュータによる補正をかけるとそれがリトルソングのワン・ナイト・スタンドであるということが分かった。予想通りだなと思ったのもつかの間、さらにもう一体のACが輸送機から降下を開始した。

「何……?」

 再び画像を拡大して補正をかける。案の定、それはローレルのイレイショナルだった。二機もの専属ACを同時に投入するとは一体クレストは何を考えているのだ。
「専属ACを二機、イレイショナルとワン・ナイト・スタンドを確認した。即座に撤退を認められたい」

 どの企業であったとしても、専属ACパイロットの技量は並のレイヴンに比べてかなり高い。そうでなければ専属として失格なのだ。専属に与えられる任務は、必然的に難易度の高いものや汚れ仕事と呼ぶべき作戦が多いためにどうしても技量が求められる。それが二機いる。グローリィは自分自身の技量が決して低いとは思ってもいないし、むしろアリーナの上位陣と張り合えるだろうとは思っている。しかしだ、専属AC二機を同時に相手をするとなると自信が無い。

「撤退を認めます、気付かれないうちに即座に撤退してください」

「了解」

 グローリィと同じ事を上司も考えてくれたのか、撤退が受諾されるのは予想よりも早かった。降下中の敵ACを警戒しつつ後退に入るが、既に気付くのが遅かったようだ。先に降下していたワン・ナイト・スタンドはクレスト基地のある方角ではなくこちらに向かって来ている。

 舌打ちを一度鳴らしてからペダルを踏み込み、後方へと下がる。だがワン・ナイト・スタンドはオーバードブーストを起動させてインテグラルMが後退するよりも早く接近してくる。既に補足されていると確信したグローリィは後退するのを止めて、交戦する覚悟を決めた。おそらく機動性の違いからなのだろうが、イレイショナルはまだこちらに来ていない。ならばワン・ナイト・スタンドを即座に行動不能にさせてから撤退するしか方法は残されていない。撤退する時は背中をみせてはならないのだ。

「残念だが、既に補足された。これよりクレスト専属ACと交戦状態に入る、サポートを頼んだぞマリーツィア」

「了解」

 通信機から聞こえるどこか誇らしげなマリーツィアの声を聞き、グローリィは僅かに微笑を浮かべた。だがそれも一瞬、次にはもうライフルの銃口をワン・ナイト・スタンドに向けてトリガーを引いていた。しかし回避される、上空から接近するワン・ナイト・スタンドが両腕のショットガンを放つが、それを前方へ動くことによって回避した。

 インテグラルMの頭上をワン・ナイト・スタンドが通過し、着地する音が聞こえた。反転するが、やはり軽量級だけあって動きが速い。既に態勢を整えており、銃口を向けあったのは同時だった。至近距離、撃てばお互いに致命傷は免れまい。

 お互いにトリガーを引くことは無く距離を開けた。中々の判断力を持った敵だ、これは強敵かもしれないとグローリィは半ば危機感に似た焦燥を感じる。だが焦ってはならないのだ、戦場で焦ればそこには隙が生まれてしまう。だから焦らない、高速で動きながらもグローリィは呼吸を整えて神経を集中さえ、目の前のワン・ナイト・スタンドを凝視した。

 敵の機体から放たれる、ギラギラした鋭い殺気を感じた。それが一段と強くなったと思った次の瞬間に、ワン・ナイト・スタンドはオーバードブーストを使用して距離を詰める。円運動を動くようにして回避行動を取り、ショットガンを回避、ワン・ナイト・スタンドはインテグラルMのいた空間へとそのまま突入する。その時にはもうインテグラルMはワン・ナイト・スタンドの背後に回っており、カルテットキャノンの発射態勢を整えていた。

 敵の態勢が整う前にトリガーを引く。四つの砲口から放たれたエネルギーの奔流は全てワン・ナイト・スタンドの背部に直撃し、轟音とともにその機体を吹き飛ばし地面に倒す。完全に撃墜できたかどうかは不明だが、行動不能にすることには成功した。

 これで撤退できるかと思ったが、すでにイレイショナルが接近していた。舌打ちを一つ。やむを得ずイレイショナルを正面に捕らえる、モニターに映るイレイショナルから放たれる威圧感に喉許を締め付けられているような感覚をグローリィは味わっていた。

/3

 ローレルがワン・ナイト・スタンドとインテグラルMの交戦地域に到達した時には既に戦闘は終わっていた。コアパーツ背部と両腕を吹き飛ばされたワン・ナイト・スタンドが横たわっており、インテグラルMは既にこちらへライフルの銃口を向けていた。回避運動を取りながら接近するが、敵の照準は的確で近付くに近づけない。

 止む得ず肩のエネルギーキャノンを放つが、距離が遠い。悠々と避けられた。舌打ちを一つ、ワン・ナイト・スタンドの損傷状況を見るが、背部はほぼ完璧と言っていいほど破壊されている。が、コクピット部分まで損傷は無いと思われた。とはいえ衝撃などは伝わっているだろうし、コクピットが無事なこととパイロットが無事というのは同義ではない。

 同じ専属なのだし、可能な限りリトルソングの救出作業に入らなければ成らないだろう。そのためにはまず、インテグラルMを倒さなければならない。しかし出来るのだろうかとローレルは自問する。あのミラージュのACと相対した時から、喉許に刃が突きつけられているような感覚がずっと付き纏っているのだ。

 勝てるだろうかと思ってしまう、しかし勝つしかない。クレストの専属である以上、ミラージュにだけは負けることが出来ない。僅かに息を吸い込み、前へと飛び出す。カルテットキャノンの方向がイレイショナルを捉えた。何故か胸中にざわめきにも似たものを感じ、今まさに撃たれると感じる。その直感に従い、右方向に回避行動を取るとすぐ脇をレーザーが抜けていった。

 ライフルから放たれたエネルギー弾が飛来してくるが、それらは牽制だと分かった。狙っていない。よってローレルは躊躇い無く前へと出る。ざわつく感覚を得た時にのみ回避行動を取ると、簡単に避けることが出来た。

 これならいける。そう感じてオーバードブーストを使い、インテグラルMの真横を取る。イレイショナルの機動について来れなかったのか、インテグラルMはこちらを向いておらず無防備な側面をイレイショナルへと見せていた。マシンガンの銃口を向け何のためらいも無くトリガーを引いた。ロックオンは出来ている、至近距離だ。向こうはどうやら気付いていない、直撃すると思っていた。撃破までいかなくとも、マシンガンの一連射を喰らえば左腕ぐらいは持っていけるはずだ。

 いける、とそう確信していたのだがモニターの中からインテグラルMの姿は消えており弾丸はどこへとともなく飛んでいった。思考が停止しそうになったが、続いてコクピット内に響いたロックオン警告の音に反応してローレルの思考は動き出す。レーダーを見るまでも無く、左から圧迫感を感じておりそこにインテグラルMがいるのだと理解できていた。

 肩のエネルギーキャノンを展開し、トリガーを引いてからのタイムラグを計算いれ事前にトリガーを入れた状態で左へと機体を向けた。真正面にカルテットキャノンを構えるインテグラルMを捕らえた。その砲口からは今正にレーザーが放たれようとしているところだ。マズイ、と感じたが既にエネルギー弾の発射を止めることは出来ない。

 二機のACから同時に放たれたエネルギー弾はそれぞれの機体を食い破り、爆炎と砂塵を巻き上げた。激しい衝撃と甲高く鳴り響く警告音がローレルの鼓膜を打った。衝撃のせいか、モニターとレーダー両方がノイズに覆われて現状が理解できない。

 警告音はそのままだったが、衝撃が収まると同時モニターが回復する。ただ頭部に損傷を負ったのかレーダーはノイズに覆われたままだった。モニターに表示されている機体状況を見れば、頭部半壊、右腕全開、左腕損傷、コアパーツ前面損傷、となっている。また肩のエネルギーキャノンもダメージを受けたらしく、使用不可能と表示されていた。

 砂塵が収まりモニターに映し出されたインテグラルMも酷い有様だった。頭部は吹き飛び、左腕は根元から千切れ飛んでいる。コアパーツ自体の損傷も酷く、肩のカルテットキャノンも左半分が無くなっていた。お互いにほぼ痛み分けといったところか。まだ武器の全てを失ったわけではなく、機動力も落ちてはいない。それは向こうも同じ状況だろうと思う。

 まだ戦うことは出来る。しかし、このまま戦い続けるのは得策だろうか。お互いの実力はほぼ互角、このまま戦い続けたところで相打ちとなりはしないだろうか。どうやら向こうも考えていることは同じらしく、ライフルの銃口は下に下げたままで動く気配を見せなかった。

「お互い、痛み分けといったところか」

 インテグラルMからの通信が入る。敵と会話することは好ましいことではないのだが、この状況下では仕方が無いだろう。

「あぁそうだな」

「提案がある。このまま戦ったところで、お互いに得策ではない」

「こちらもそう思っていたところだ。互いに撤退しよう、といいたいところだが私には同僚を助ける義務がある。ミラージュ、先にいってくれ。後ろから撃つような真似はしないから安心してくれていい」

「そうだな、君ならばそのような無粋な真似はしないだろう。信用する、それではまた会おう」

 そういい残し、インテグラルMはミラージュの勢力圏へと戻っていった。その姿がモニターに見えなくなってからローレルはようやく落ち着くことが出来た。フゥ、と一息つくと同時に全身から汗が噴出す。生きているということが信じられない。グローリィもローレルもたまたま運が良かっただけなのだ。

 そう、運が良かっただけなのだ。その運に感謝しつつ、ローレルはコクピットから降りて地面に横たわるワン・ナイト・スタンドへと駆け寄った。予想通りコアパーツ背部は見るも無残なことになっていたが、コクピット部分はといえば辛うじて無事だった。外部から強制的にハッチを空けると、中から熱気が漏れ出した。

「大丈夫か!?」

 言いながら上半身をコクピット内部に入れて、リトルソングの体をシートに固定しているベルトを外して彼の体を外に出す。ヘルメットを外し、彼の鼻孔に手を近づけると息をしていることが分かった。良かった、生きている。何度か呼びかけているうちに、リトルソングはうっすらと、眩しそうに眼を開けた。

「負けた……のですか?」

 ローレルは頷いた。彼とグローリィの戦いは引き分けに終わったが、クレストとミラージュの戦いではとなるとクレストは負けた。ワン・ナイト・スタンドとイレイショナルは共に修復に時間がかかる、インテグラルMもしばらくの間は出て来れないだろうがミラージュにはまだ明星がある。

 この戦闘でミラージュはしばらくの間クレストが専属ACを使えないことを知っただろう。ローレルは歯噛みすることしか出来なかった。





登場AC一覧
イレイショナル(ローレル)&LE005c44k3N150w901k02B0aw0EMdBiyUigeg28#
ワン・ナイト・スタンド(リトルソング)&L4000c0002w001c000k00500800No0eRis0qk1l#
インテグラルM(グローリィ)&Lpg00bE003a000s00aCw07E0uw13wBOUgs0g5U7#

あとがき
駄目だ、人間超えそうになってる連中の戦いを描くってのは難しいよ……
後、今回試験的に小説ページの色使いを変えてみました。読みやすいか読みづらいかはよく分からないので、どうだったのか教えてくれると嬉しいです。


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