『L'HISTOIRE DE FOX SS』
 -銀狼と、聖女と、神と、(前篇)-

 時代は流れる…それは当たり前だ。

 そうして古いものは新しいものへと変り、受け継がれて消えていく。

 だがそれは全てではない。中には受け継がれない、故意に受け継がせない物だってあるのだ。

 これはそんな誰にも知られることのない。狼に神と名乗る男達と、聖女だけが知っている。

 そんな物語である……。

/1

 正面から来るMT小隊にACが全身に装備されたレーザーを一斉射し、閃光が駆け抜ける。密集しすぎていたこともありミラージュ製の汎用戦闘型MT CR-MT08-OSTRICHは回避も出来ずに、次々とその直撃を受けて装甲を白熱させて倒れていった。それでもまだ後から次のMT小隊が顔を出してくることから、かなりの大部隊であることがわかる。

「ちっ、わらわらと……うざってぇ奴等だ!!」

 一斉射で減ったエネルギーを回復させるために一時攻撃を止める。タンク型重装ACをかるヴォルフは舌打ちしつつぼやき、レーダーに目を向ける。頭部内臓のものであるために範囲こそ短いが、索敵範囲にはまだMTが数十機こちらに向かっていることが分った。同時に機体装甲を激しく叩くMTのライフルとミサイルに再度舌打ちするとまだ回復しきらないエネルギーで右手のプラズマキャノンのトリガーを引く。

 撃ち出された極太の閃光にまたMTが一機倒れるが、残った二機はその仇とでも言うように接近しつつの攻撃を集中させ撃ち込んできた。いくら重装甲であるといっても限度はあるし、タンク型である自分の機体は機動性に欠ける。本来なら底部ブースターで少しでも動いて回避したいのだが、攻撃をくらい続けるのは危険であると分っていながらも動くことは出来なかった。なぜなら自分の後ろには護衛目標である施設がある。自分がもし動いてそちらに被害でも出ればそれこそミッションの失敗を意味するのだ。

 度重なる攻撃による内外の温度上昇に冷却限界を超え、機体の温度がさらに上昇する。その負荷にラジエーターは強制的に緊急モードを起動させると、武装やブースターに回されていた余剰エネルギーなどを全てそちらに回す。それはエネルギー兵装しか搭載していないヘビーヴォルフにとっては致命的なものであった。

エネルギー系の武装は全てACの余剰エネルギーを使用している。オーバーヒートでそのエネルギーもラジエーターに回し冷却している今の状態では使用することが出来ないのだ。攻撃できないヘビーヴォルフへの優位に気を良くしたのか、MTは攻撃目標よりも先にこちらを倒す気で接近してくる。焦りに額から汗が流れるが、以前エネルギーはレッドゾーンのまま。

「ちっくしょ、さっさと溜まれよ!このポンコツ!!」

 もはや眼の前にまで接近され、ライフルの砲門がコックピットへと向けられ万事休すかと思ったとき。眼の前のMTの上半身が砕け散った。何が起こったのか、レーダーに目を向ければ後方からこちらへと接近してくる機体が一機。自分を飛び越えて現れたそのACは右手に持ったバズーカをもう一機のMTへ発射し撃破すると、その代わりにヘビーヴォルフの前に着地した。

『何やってんだヴォルフ。大分痛めつけられて……それとも自虐趣味でもあるのか?』

「うっせぇぞヘルメス。ってか来るのおせぇんだよ!!」

 緑色の重装AC、エメラルドタブレットはおどけた様に器用に頭部を捻って首をかしげて見せる。パイロットのヘルメスは吼えるこちらに小さく鼻で笑うと次のターゲットを探して移動を開始した。

『さっさとエネルギーが回復したら来いよ。そうじゃないとお前の獲物も全部俺がもらうぞ。』

『それは出来ないな……。なぜならお前たちの獲物は私達が今倒した。』

「……は?」

 余裕たっぷりの発言をしていたヘスレスであったが、その言葉は次に入った通信に出鼻をくじかれるような形になった。それにあわせて自分と彼はほぼ同時に少々間抜けな声を上げた。レーダーに目を向ければ赤い光点が全て消え、代わりにこちらに接近してくる緑の光点が二つ映し出されていた。それは直ぐに目視できる位置へと姿を現し、赤い高機動型ACセイレーンと重装備がされた火力重視の青いACリヴァイアサンであることがわかる。さっきの通信はその赤い高機動型にのるルザルアからのものだった。

『お前たち、何を遊んでたんだ?仕事する気はあるのか?』

『まぁまぁ、ルザルア。ヴォルフが盾になってくれていたおかげで目標も無傷ですし、私達も攻撃に専念できたからそう責めないであげてくださいよ。』

 少々怒ったような口調でこちらを指差すセイレーンの前にリヴァイアサンが一歩出てくるとなだめるように手を広げた。リヴァイアサンに乗るアムシスはこちらへと向きなおす。

『怪我は無いですかヴォルフ?』

「……問題ねぇよアムシス。悪いな…足引っ張っちまって。」

『気にしないで下さい、むしろさっきからここで足止めをしてくれて助かりましたから。』

その言葉にいつも通りあのどこか気の抜けるような優しい笑みを見せる彼が想像でき、自分でも小さく笑みを浮かべる。こうしてミッション一日目の戦闘が終わりを告げるのだだった……。


/2

 様々な地で大きく成長した企業、ミラージュ、クレスト、キサラギはお互いの力の誇示と自らの防衛のために軍事力と領土を広げ、同時に相手の力を削ぐために様々なところで抗争が起こった。それに対する反発から武力を持つ独立勢力までもが多数生まれ、また各企業へとテロ活動という抵抗を開始する。それらに各企業は疲弊し失われる戦力を整えるための時間稼ぎを展開もしていた。それはつまり契約によって雇え、直ぐに変えのきく、最高の戦力。レイブンの投入である。

 並のMTを凌駕する攻撃力と機動性、大口径火器の直撃にも耐える防御能力と耐久力、様々な戦況に対し構成パーツの変更で柔軟に対応する適応性と汎用性。現用兵器の全てを凌駕するACを操る戦闘能力を持った彼らはまさに、企業にとって大事な自社利益を投入してでも得られる最強の諸刃の剣だった。

 チーム『トリニダード』。どこか暴走族っぽいように聞こえるかも知れないが、それが自分達の通り名みたいなものだった。メンバーはまず紅一点のルザルア。彼女はレイブンでは有るが過去に医療関係の仕事を目指していたとかで医師免許を持っている異色の存在であった。こちらとしては怪我したときに助かるが……。何故レイブンになったかは知らない、以前訳を聞いたら怒られたからだ。さらにしつこく聞いたら本気で殴られた。しかも平手ではなく拳でだ……。

 次に自分とは古い付き合いであるアムシス。彼はある仕事で一緒になって以来、よくペアを組んで行動する中であった。自分以上に高い長身、しっかりした体格とは不釣合いな人当たりの良いい優男のような表情が印象的だ。性格も穏やかであり、まさにレイブンになった理由が聞いてみたいほど不似合いであった。

 そして最後に自分、ヴォルフ。レイブンとしての仕事もするが、今では情報屋のほうでもそこそこ名前が知れてきた。戦場にACで出て、戦場でしかえられない情報というものもあるからこそであるだろう。

 あと、メンバーではないが自分の知り合い……と言うより悪友に近いかもしれないが今回の仕事では一緒に行動するヘルメス。彼ともよく仕事では顔を合わせた仲だ。どちらかといえば敵としてあわせたほうが多いかもしれない……そんなわけで腐れ縁とでもいうのか、今はよく一緒に仕事をする仲にもなった。この仕事にも追加戦力として協力をしてくれている。

 今回の仕事、それはクレストの基地防衛というものである。しかし状況は芳しく無い。断続的に続くミラージュのMT部隊による攻撃に対して防衛戦力を消耗したクレストは自分達を雇ったわけだが、個々の戦闘力で勝っても数で劣っては時間稼ぎにしかならない。

「たまんねぇな……。」

 ガレージで修理されている自分のACを休憩室の窓から眺めつつぼやくと手に持ったビール缶を一気に飲み干した。直ぐに室内備え付けのゴミ箱に向かって投げると水滴で手元が狂ったのか、うまく入らずに縁にぶつかって跳ね返ると床へと転がった。その様子に同じようにビールを飲んでいたヘルメスが顔を挙げ。

「ぼやくなよ、ヴォルフ。誰も好きでこんな状況に落ちてるわけじゃねぇ。」

「んなことはわかってる。それでもこう……何時また来るか判らない相手をまって、だらだらした戦闘でパーツ消耗するのは性に合わないんだよ。」

「そういうなら今すぐ情報でも集めて何か劇的に戦況が変化するものでも見つけてきたらどうだ。……みなの待合室でわんわん犬に吼えられても五月蝿くてかなわん。」

 新しく取り出しかけていたビールのふたを開けたところで丁度ドアを開くと入ってきたルザルアは入ってくるなりこちらに向けていつもの毒を吐く。彼女の口はお世辞にも良いとはいえない、その男勝りでいつも喧嘩を売るような言い回しは常に周囲との衝突が耐えないことで有名だった。自分もそれは知っているし、彼女と喧嘩して素手で勝てないのは知っているからいつもだったらその毒を聞き流すのだが今は違った。自分のもっとも嫌いな『あだ名』をいったからだ。

「……おいルザ、誰が犬だって……? あぁ…?」

 開けたばかりの缶を握る手に力が入る。同時にメキメキと音を立てたかと思えばビールをこぼしながら、自分の手の中でグシャっと音を立てて完全に手の形へと潰れた。

「ふん、お前なんかに狼なんて名前はもったいない……駄犬で充分だろう?」

 自分のレイブンネーム『ヴォルフ』とは狼をさす言葉だ。主にドイツ語圏で見られる性でもあるが自分はドイツ人でもない。ただかっこいいという理由でつけただけだった。それを格好つけだのと時たまバカにしたようにしてくる人物も折、そいつ等の行った言葉の中でもっとも自分が頭にきたのが『犬』という呼び名だ。

 それが一番嫌いなのは彼女だって知っているだろう。それでも今それを口にするのは彼女も自分同様、現状にイライラとしていた証拠かもしれない。しかし頭に血が上った自分はそんなこと考えるわけもなく、潰れた缶を手放すとすぐさま彼女に向かって一直線に拳を走らせ。ルザルアはそれをまっていたというようにカウンターでアッパーを放ってきた。

 それをヘルメスが止めようと声を上げるも二人は既に拳を出した後、もはや両方が命中するかと思ったとき二人の間に何かが割り込んでいたのだ。それはアムシスだが、分っても、もはやとめることは出来ない距離。鈍い打撃音と感覚を感じた頃にようやく二人そろって我に帰った。

「アムシス!?何出てきてんだよ!?」

「いっ……たたっ。…やっぱ二人のパンチは痛いですね…。」

「あ、当たり前だバカ!? そ、それより大丈夫なのか?このバカ殴るつもりだったから手加減してなかったけど……。」

 さっきまでの緊張感に包まれた雰囲気が一気になくなるとルザルアは自分の殴ってしまった部分を急いで労わるように撫でる。幸い急所とかではなかったようであるが、彼女の本気のパンチは半端ではない。アムシスもさすがに効いたようではあるが、苦笑を浮かべるだけで大丈夫だとルザルアの頭をなでた。

 まるで子供でもなだめるかのような行動。普段の彼女だったらそれこそ拳が飛んでくるだろうがアムシスに対しては話が別。まるで借りてきた猫みたいに急に大人しくなると顔を赤らめて下を向いてしまうのだった。

「二人ともカリカリしてもしょうがありませんよ。今は少し休んでから何か対策を立てましょう。ヴォルフも情報を何か得られるかもしれませんし。」

「……そうだな……。わるい、ちょっとイライラして焦ってた。」

 こんな状況でもいつも通り優しい彼に自分も少しだけ心が落ち着く。自分は彼のそういったところが好きだった。自分が何か過ちや失敗をしてしまっても優しく、落ち着いたアドバイスをしてくれる。まさに親友だ。

 彼のおかげでようやく収まった事態にヘルメスは腰を上げると話を逸らすように。

「しっかし、ルザルアもこんな顔するとはね……可愛いじゃん。……どうだい、オレと今夜一杯…イライラを解消する最高の夜を送るぜ。」

 頭をなでられ、いまだに赤い顔のままのルザルアに急に口説きにかかったのだ。彼の女性に対する手の速さは以前から話には聞いていた。それで何度か失敗して大変な目にあったというが…いまだに懲りていないらしい。今度はルザルアに手を出すつもりらしいが、それはあっさりと拒否された。

 次の瞬間、ルザルアの肩に触れようとしたヘルメスの腕はガシっと掴まれたかと思えばそのまま背負うような形でソファーに向けて投げ飛ばされたのだ。それに対してヘルメスは『へ…?』とか少し間抜けな声を上げつつ、ソファーへと凄い勢いで激突した。

「のぎゃああぁぁっ!?」

「五月蝿い、バカ!!私はアムシス一筋なんだ!!!」

 大声でひっくり返ったソファーに埋もれて脚だけが見えるヘルメスに叫びつつ、恥かしさに目に涙を少し浮かべ、顔をさらに真っ赤にしたルザルアは部屋を飛び出していってしまった。そんな様子に取り残される自分とアムシス。

「……付き合ってるって素直に言うのがそんなに恥かしいことか?……青春だねぇ。」

「さぁ……どうでしょうね?私はそれほど気にはしませんが。…後ヴォルフ、その最後の台詞ちょっと年寄り臭いです。」

 そんなどたばた劇が終ったのと丁度のタイミングで携帯電話がなった。早速アムシスに悪い、という風に仕草で伝えると携帯を取り電話に出る。相手は自分の情報屋仲間の一人だった。彼も同じレイブンでありつつも、こちらとは異なり情報を売るほうを主な商売にしている。情報屋でもACでの活動主体である自分とは逆の存在のようだ。

『よぉ、元気にしてっかぁヴォルフぅ。任務で行き詰ってるんだってなぁ?』

「……どっから聞いたか知らねぇけど、くだらない内容なら電話切るぞ。」

『おいおぉい待てよぉ、せっかくおれが良い情報持って来てやったのにぃ。その任務を終らせる最っ高ぉの情報をよぉ。そぉれにぃ、行き詰った今の戦況じゃ情報は金より貴重だろぉ?』

 電話の向こうから聞こえる男の声はドラ声で、少し聞いているとイライラする口調だった。しかしとても活き活きとした自信たっぷりな声が聞こえてくることからよほどの良い情報か……。現状ではどんな情報でも欲しいことは確かだった。

「いいだろ、いつもの額の1,5倍で出すからその情報教えな。いい加減てめぇの声聞いてるとせっかく落ち着いた気分が台無しになっちまう。」

『ぎゃっははっ、そぉこなくっちゃなぁ。』

 電話の向こうから少しだけ下世話な笑が聞こえる。果たしてその情報で自分達がどうなるのか、知るわけも無かった……。それが最悪の結果に進んでいることも…。


登場AC
ヘビーヴォルフ  &Lo005j00E1w00H001l000a2wAa10sBOV3s020V3#
エメラルドタブレット  &LS00572w02gE01Ea00k02F0aw0Hz7v5AXY4uy1P#
セイレーン  &Ldg00a2w02W000800aka072wka10gCj7EI0q0Vl#
リヴァイアサン  &L40k0300E0w0a1w000k02B2ww0EMnAi6x80v01t#


あとがき

 第一部終了につき語れなかったお話や、組み込めなかったものをサイドストーリー(SS)で〜。今回は過去のお話です。主人公は若き日のヴォフルと知り合いメンバーズ。


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