『キサラギ重要物資攻防戦』

 私はレイブンという存在に興味が無かった。

 レイブン。最強の機動兵器、アーマード・コアを操りミッションを遂行する傭兵。一般的に認識されているこの程度の知識がある程度だった。それに、私が興味を持つのはレイブンという存在よりも、彼らが使用するパーツのほうだ。

 私はキサラギの技術者。技術者といっても歳はまだ16だし、身長だって高いわけでも、体つきだってお世辞にも豊かとはいえない。 同じ技術者たちの中には、私を子供とし、どこか下に見ている節がある。

 それは非常に頭にくることだった。

 私はみんなより優れている。一体私がいくつの新技術やアイディアを生み出し、それがキサラギの製品に採用された?一つや二つじゃない。

 私は……天才なんだ!!

 そんなおごりが私の中を支配していた。でも、それはもっと自分を孤独にする。一人になると、今度は自分が孤高の存在だからだと勝手にも思い込んだ。そうやって自分を偽らなければ、寂しさで壊れてしまうのかもしれない。

 ただ…一人になるのが怖かっただけ。

 ただ、私は小さな花を握り締め蹲り続けている…。

 でもそれが間違いだと教えてくれる人物があらわれた。それも、レイブンで…。それから私は少し彼らに興味を持った。そう、これはそんなきっかけになった話…。

―――――――――――――――

 荒野を通り越し、砂漠と言えるほどに乾いた大地。先ほどから窓の外に見えるのはそんな風景ばかりだった。少なくとも長時間見て面白い風景ではない。

 大型輸送トレーラーの助手席に座るユラは小さくため息をつくと視線を正面から横に動かし、肘を突くようにして変らない外の風景をもう一度眺める。今はとても退屈で仕方が無かった。

 最初こそこの暇を何とかしようと運転しているキサラギのスタッフにしきりに話しかけたのだ。だが、スタッフは最初こそ相槌をうっていたが、そのうち面倒臭くなったのか返事もしなくなった。まったく、レディが話しかけているのに失礼にも程がある。

 今回受けたミッションはキサラギの技術者を護衛するというもの。最初は、これを攻撃しようとするミラージュ側の報酬を受けようと思ていた。だって報酬がこちらより20000cも多いのだもの。

 だがあるルートからの情報で、その依頼にはちょっとした事実が隠されていた。キサラギが輸送しようとしていたものは『重要物資』ではなく『重要人物』だったこと。しかもそれが女の子で、自分より歳が下の技術者だというのだ。

 ミラージュはこれを意図的に隠しているのか、それともただ情報収集が不足だったのか…。おそらく真意は前者だろう。それが判ると、ユラはそのミッションを受ける気など少しも起こらなくなってしまった。例え報酬が良かろうと自分より年下の子を攻撃など出来るものか…。

「…レイブン、もう直ぐ目的地に付くぞ。」

 話が途切れて約一時間ぶりに運転手が口を開く。ぼーっとしていたユラはその声に視線を進行方向に戻せば、ソコには強化装甲を装備した大型トレーラーとそれを護衛するように配置された軽戦闘車両、武装ヘリがある。

 ユラはトレーラーから降りると軽く背筋を伸ばす。なんせ一時間以上座っていたのだ、少しだけ痛む尻を手で軽く叩きつつ周囲を見回せばある程度防衛戦力の確認を済ませた。全体的に見て数が少ない。MT程度の相手ならまだしもACが相手では数分と持たずに全滅だろう。

 そんな時、護衛対象であるトレーラーから声が聞こえた。若い、子供といって差し支えない声変わりもろくにしていない声。ユラはそちらに足を向けつつ、武装ヘリの陰からひょっこりと顔を出した。そこに立っていたのは案の定護衛対象の少女だ。

「あれが護衛対象の天才…か。」

 薄く白味のかかった青い髪に、まだ子供っ気が多く残る顔立ち。背丈もユラより少し低い程度で、おそらく年齢も近いのだろう。だがその姿とは逆に技術者らしい白衣、小さいメガネをかけたその姿はどこかキリッとした大人びた印象も与える。だが、ユラからすればそれは少し不自然な感じだった。まるでシンプルなガラスの器に、強引に装飾をほどごしたような硬い感覚。まるで自分をむりに着飾っているかのような、つまりどこかに『無理』を感じるものがあった。

「では、ココはこれで…。」

 手にしていた資料らしいものを指差し指示をした彼女が顔を上げると、そこでユラと視線があった。一瞬の停止…彼女の目には『どうしてこんなところに子供が?』と言いたそうな色が混じっているのが見える。

 確かにユラも彼女同様に、レイブンとしては幼いほうだ。黒いリボンで結ってツインテールは胸の辺りまであり、光の加減によってクリーム色にも見える色合いの銀髪。血のように紅い深紅の瞳をしており、彼女を見つめていた。端正な人形のように整った、かわいい顔が次の瞬間にっこりと笑みに変る。

「初めまして、私が護衛を引き受けたレイヴンのユラだよ。」

 急に名乗ったからだろうか、彼女は少しだけ近づくユラと距離とるように片足が半歩下がる。

「……きいています。…キサラギ技術研究部所属のヴィネッサ・クロドンです。今回私の護衛を受けてくれたことをありがたく思います。…よろしく、お願いします。」

 社交辞令ともとれる挨拶をするヴィネッサ。それはどこかレイブンという彼女に対し警戒している様子であるが、ユラは特に気にする様子も無い。

「こちらこそ♪ ユラでもユラちゃんでもゆーちゃんでも好きに呼んでね、ヴィネッサちゃん。」

 他のレイブンから言われれば『馴れ馴れしい』自分のペースを崩すことが無い。ヴィネッサはその様子にまた半歩後ろに下がった。だが、その顔には最初の警戒した様子は薄れている。変りに初対面でココまで親しんだ様子で話しかけてくる彼女に、少しだけ頬を赤らめていた。

―――――――――――――――

 乾いた空気が男の頬をなで、口や鼻へと細かい土埃を持っていく。岩の上に伏せる形で迷彩シートを被り双眼鏡を覗いていたルーマはそれに顔をしかめると、口元を首に巻いていた布でおおうようにして保護する。

 彼は今、この荒野を走るルートで待ち伏せをしていた。時間的余裕がない依頼を急に、そして無理に頼み込まれてしまったのだ。本来そんな依頼を受諾することは少ないのだが、情報不足ながらにも古巣からの依頼ということで渋々受けることになった。

「……はぁ…僕ってやっぱり甘いのか…?」

 彼は過去ミラージュの整備士だった。だが、ある時みたとある専属レイブンの姿に憧れ、自らもフリーのレイブンとなったのだ。それゆえ、今回の依頼主であるミラージュの頼みということで、仕方なくだが……やはり少し強気にでも出て断るべきだったか。

 再度ため息を一つ落しつつ、双眼鏡を覗き込みなおす。照りつける日差しで歪んで見える遠くの風景。先ほどからそこら中に大きな岩がゴロゴロある風景と、乾いた大地に青い空しか見えない。同じ風景ばかり一体どれだけ見ただろうかと、もう一度ため息をしようとしたとき、遠くで埃が上がるのが見えた。

 もう一度双眼鏡を覗きなおして再確認。やはりこちらに接近してきているものがある。ルーマは迷彩シートと口元を覆っていた布を取り払うと直ぐに岩の後ろに隠してあった自分のAC、ファーグナーMK−2へと乗り込んだ。停止させたままだったコックピットは蒸し上がるような暑さであったが、この際仕方が無い。手早くチェックを済ませて頭部だけ岩陰から出すとメインカメラの映像倍率を上げ、レーダーも併用してこちらに接近してくるものを確認する。

 こちらに接近してくるのは武装した戦闘車両に武装ヘリ、そして大型トレーラーとAC。ミラージュから与えられた情報と数も機種も全てが一致している。あれがキサラギの『重要物資』輸送部隊だとわかると、ルーマは早速岩陰からファーグナーMK−2を発進させた。そうして、彼らの進路上に仁王立ちする。

「こちらはAアリーナ所属、ファーグナーMK−2だ。キサラギ輸送部隊に警告する。こちらにはその『重要物資』破壊の依頼を受けている。よって、そちらへの攻撃を行うつもりだ。無駄な抵抗はせず、その物資を―」

 なるべく犠牲を出さないための警告。普通に考えれば、一般の兵器でACに対抗するのは難しいのだ。故に護衛をあきらめて、戦わずに逃げてくれればと甘い考えを起こした。しかし、キサラギ側も譲るつもりはないのだろう。次の瞬間、一斉にヘリがロケット弾を彼に向けて発射してきた。

 やはり甘い考えだったか…。ルーマは小さくそう思いつつ、ロケット弾の回避に入る。そこへと追いかけるように向かってくる戦闘車両の撃ち上げ式ミサイルも手ごろな岩を盾にするだけで難なく防いで見せた。避ける分には問題ない、だがルーマは違うことで悩んでいた。

 どうすればあるべく無血で終らせられるか…。ACの武装ではどれも一般兵器に対し火力が高すぎる。MTやACなら腕や足、武装を破壊すれば良いだけだがそれよりも小さいヘリや車両ではたった一発の攻撃でも充分粉々に破壊してしまう可能性がある。

 この状況で無意識にまたそんな甘いことを考えていたことにルーマは小さく苦笑を浮かべる。なら方法は簡単だ、攻撃しなければ良いのだ。ヘリや車両を無視して目標へと向かえば良い。そう結論に達した瞬間、ファーグナーMK−2は岩陰から飛び出し、先程よりもさらに速い動きで一気にキサラギの一団へと接近していく。

 その動きに、護衛部隊は着いていけそうも無い。放つ攻撃のほとんどが彼の通った後の地面に命中するしかなかったのだ。だが、一人だけ違う者がいる。紅に近い色をした半中量二脚のAC。直ぐに照合すると近頃アリーナに登録されたBアリーナのリトルメイデンとCPUが即座に補助モニターに表示する。

 だが武装構成が一部データとは異なる。見た目でわかるだけで肩のレールガンを高性能なレーダーであるWB03R-SIRENに、高機動ミサイルをマイクロミサイルのKARURAに変更されている。おそらくこちらの襲撃を警戒しての装備だろう。だがジェネレーターも停止して待ち伏せていたファーグナーMK−2を先に見つけるにはいたらなかったようだ。

『アリーナのルーマ……か、ランカーが相手じゃ分が悪いけど、倒すんじゃなく守るのならやり様はいくらでもあるよ。』

 ファーグナーMK−2へ入る通信はリトルメイデンのものだろう。まだ若い、自分より大分下らしい彼女の声にファーグナーMK−2に移動速度が落ちる。女性…しかも子供相手とは、やりにくいものだ。だが…。

「悪いね、君と僕では勝利条件が違うんだ。」

 ルーマは小さくその通信に答えるともう一度操縦桿を握りなおすよう手に力を入れ、フットペダルを踏み込んだ。今回こちらは『重要物資』を破壊するだけ。それに対しリトルメイデンはこちらをまともに相手しなければならない。ACを破壊するのと装甲を強化したとはいえ車両を破壊するの、どちらが簡単かは直ぐに出る答えだった。

 ファーグナーMK−2の両腕がリトルメイデンに向けられる。今回こちらもこの依頼にあわせ、装備の変更がされている。戦地域にあわせ右肩をマイクロミサイルからWB10R-SIREN2(レーダー)に、左腕をCR-WL95G(ハンドグレネード)に右腕武器をCR-WR93RL(リニアガン)、左腕格納武器をYWL16LB-ELF3(ブレード)にしてあるのだ。

 同時に火を噴いた右手のリニアライフルと、左手のハンドグレネードがリトルメイデンへと襲い掛かる。だがそれは動きを一瞬でも止めるための牽制でしかない。それを回避に入った瞬間、リトルメイデンの上を跳び越して目標へと向かうつもりだった。それは以前のミッションで、ランク8thのヴァルプリスにやられた戦法だ。

 あの時自分が引っかかったように、彼女もひっかかる。そう思ったが、リトルメイデンのほうが一枚上手…いや、覚悟が違った。彼女は両肩のエクステンションであるエネルギーシールドを展開すると回避もせずに受け止めたのだ。そうして、彼が飛び越そうとした一瞬のチャンスを強引に奪って接近戦を挑んできた。

 リトルメイデンは近い距離でマイクロミサイルを放ちつつ、さらにマシンガンでの牽制、そしてブレードによる攻撃を仕掛けようとする。ファーグナーMK−2は彼女の行動に一瞬反応が遅れたのか、ミサイルやマシンガンに数発被弾するもブレードは咄嗟のバックステップで回避する。やはりこんな方法でお互い無血で終らせるほど甘くは無かった。だがこれで…。

「過小評価などしないさ、全力で当たるまでだ!」

 ルーマはリトルメイデンに鋭い視線を向けると再度攻撃を開始する。今度は先ほどのような牽制ではない、確実に手足を狙っての攻撃。考えは甘くても、手足を狙う分には彼の攻撃に躊躇は無かった。リトルメイデンも小さいステップとジャンプ、ブーストダッシュを駆使して対抗する。だが、その動きは常に背後のトレーラーを守るように動く分多少なれど制限され、彼女が得意とする相手の得意距離を読みそれを外すという戦法がうまく出来ない。

 次第に増える命中弾。リトルメイデンがいかにエネルギーシールドを肩に装備していようと何時までも耐えられるものではない。キサラギ側も彼女を援護したいのだが、激しく接近戦で動き回る二体にうかつに手が出せなかった。状況は一刻一刻とリトルメイデン劣勢に追い込まれていく。

『この程度で止められると思ったら大間違いだよっ!』

 だが彼女はあきらめる様子はない。次の瞬間両背の武装とシールドがパージされ、機体の重量を軽くすると一気に懐へ飛び込もうとした。左腕にブレードが展開される、それを見たルーマはまたバックステップで回避し、近距離から両足を攻撃して行動不能にしようと考えた。

 ブレードが振られる距離に入る、その瞬間リトルメイデンの両肩が開き、インサイドから何かが飛び出した。それはファーグナーMK−2の機体に張りつき、次の瞬間爆発した。見た目ではわからなかったが、リトルメイデンは今回のミッションにあわせインサイドのECMメーカーも吸着地雷に変更していたのだ。それが今度は回避しようとしたファーグナーMK−2のチャンスを奪い、逆にリトルメイデンにチャンスをうむ。

 ブォンッと、振り抜かれたブレードの通り道にあったファーグナーMK−2のコア前面の迎撃機銃。高熱で焼けとけたそれが地面へと落ちる、コアへの攻撃は浅い。リトルメイデンはさらに追い討ちをかけようとする。しかし今度はそれをファーグナーMK−2の行動が遮った。

 ブレードを使うように振られるファーグナーMK−2の左腕。だがそこにはハンドグレネードが装備されており、ブレードは装備されていないはずだった。ではなぜか…?理由はリトルメイデンにぶつかるものでわかった。激突してきたのは左腕に装備されていたハンドグレネード…。

「撃つだけが武器じゃない、こういう使い方だってある!」

 それをルーマはリニアライフルで撃ちぬいた。もちろんハンドグレネードは弾切れではない、内部にまだ数初のグレネード弾が装填されている。次の瞬間、リトルメイデンの眼の前でそれは大きな爆発を生んだ。残っていた全てのグレネード弾の爆発。その爆風や衝撃まで利用してファーグナーMK−2は後ろへと下がった。

 さすがに距離が近いためこちらにもダメージはあるが、それよりもさらに至近距離で爆発の衝撃を受けたトルメイデンのほうがダメージは大きい。左腕は肘ほどから吹き飛ばされ、右腕に持っていたマシンガンも爆炎に巻き込まれたのか銃身が大きく損壊していた。

「…もうその状態で戦闘は無理だ、離脱してくれ。」

『ふ…甘いね。武器が壊れても、腕部や脚部を使った格闘戦っていう手段が残されてるのを忘れたのかな?』

 リトルメイデンはルーマの提案を払いのけるように腕をふるって壊れたマシンガンを捨てる。いまだ闘志充分、という様子だろうか。いや、それ以上に何か強いものをルーマは感じた。

『年下の女の子一人守れないなんて、私の信条に反するからね、キミの目的は絶対に達成させないよ。』

「? 何……?」

 まるで本当に格闘でもするように構えるリトルメイデン。だが、ファーグナーMK−2はそれに対し武器を構えようとしない。彼女が口にしたことが気になったからだ。

『ユラ、だめ!!』

 そんな時、一般回線で通信が入ってくる。先ほどからのリトルメイデンのパイロットの声ではない。もっと幼い印象を受ける声だ。

『ユラ、やめて!! もうそれ以上やったら死んじゃう……死んじゃうよっ!!』

『あは、自分より年下の人間を守れないなんて、報酬云々以前に人として不出来だからね…。』

『っ、やだ! そんなのいやだ!! せっかく……せっかく、私とちゃんと話してくれる人が出来たのに、…死んじゃやだ!!』

 誰の声だ?ルーマはファーグナーMK−2の頭部を動かし、周囲を探す。そうしてリトルメイデンの後ろ、大型トレーラーの天井にあるハッチから顔を出し鳴きそうになっている少女の姿が見えたのだ。耳元に押さえた手にはインカム。彼女の口が動くのにあわせ、二人の会話が聞こえてくる。

「『重要物資』は、女の子…? やつら……知ってた上で伏せたか。騙されたな、俺も…。」

 ようやく理解した。依頼主はこの件が急ぎだったのを良いことにこの事実を伏せて自分に依頼したのだろう。奴等も自分の信条は知っているから、ミッションで躊躇させないために……。これは『必要な情報をあえて伏せれた=騙されたと同意語』だ。だったら…もう自分の信条を優先しても問題はあるまい。これは立派な依頼主の裏切り行為に等しいのだ。

「…キサラギ側ACへ、聞こえるか?こちらルーマ、ファーグナーだ。」

 なおも一般回線で話していた二人にチャンネルを合わせ、ルーマは呼びかける。それを聞いたリトルメイデンがまた格闘の構えを取ろうとする。

「護衛対象をACに乗せ、離脱しろ。自分への依頼は『重要物資の輸送を行う車両の破壊』だ、受け入れるなら機材と抵抗勢力の破壊だけにとどめる。こっちとて無駄な殺傷はしたくない、受け入れてくれ……。」

『『えっ……。』』

 その提案に驚いた二人の声が同時に聞こえる。当たり前だ、先ほどまで命のやり取りをしていたものからの提案。警戒しないわけが無い…。しばらくの沈黙。だがリトルメイデンは構えを解くと大型トレーラーのほうへと近づき、コックピットハッチを開放したのだ。そうして、顔を出した銀髪の少女が青髪の少女の手を貸し、自らのコックピットへと導く。

『……あの…本当に、良いんですか?』

 青い髪のほうの少女の声。

「…ああ。後は君次第だ。キサラギに戻るもよし、身を隠すなら僕の元に来ればいい、命を絶つこと以外なら出来る限り手を貸してやるさ。」

 ルーマは出来る限りの優しい声で答える。またしばらくの沈黙…。

『……ありがとう…。』

 小さな声で返事があると、次に彼女は護衛の車両やヘリに指示を出した。そうして、リトルメイデンを護衛するような形を取って戦線の離脱に入る。ルーマはそれを見送ると、残された大型トレーラーへマイクロミサイルを叩き込んだ。

―――――――――――――――

 数日後、待ち合わせ場所の噴水広場でヴィネッサはベンチに腰掛小さな手帳に何かを書いていた。それはあのときの出来事の大体の概要。あの後、私とユラは目的地に無事到着することが出来た。ユラの話だと、ミッションは成功したけどACを大分壊したし、無茶しようとしたため知り合いの人にこっ酷く怒られたとか…。

 後で調べた情報ではあのとき対峙したレイブン、ルーマも一応はミッション成功という形で依頼主と折り合いがついたらしい。やはり情報を隠していたことが大きかったのだろう。ルーマがミッション完了の証拠として提示した、破壊された私の乗っていたトレーラーの写真に『重要物資を載せたトレーラーの破壊』という依頼上、認めるしかなかったとか。

 とにかく、これでこの事件は一件落着でした。その後、私はどうなったのか…今でも変わりなくキサラギの技術者として仕事をしています。

 …いや、少しだけ代わったことがありました。それは…。

「ヴィネッサちゃん♪」

「きゃぁっ!? ユ、ユラっ?……脅かさないでよ。」

 不意に背後から首に手が回され、抱きつかれる感覚に驚いて大きく声を上げる。軽く振り返れば、そこにはユラがいた。銀色の髪が少しだけ、頬を当たってくすぐったい。

「あはは、ごめんごめん。なんかぼーっとしてるみたいだったから少し驚かせようと思って。…なにか書いてたの?」

「え、ぁ、いや、な、なんでもない…よ。」

「……ふふ〜ん…。なんか妖しいなぁ……そういう風に隠されると、よけいにみたくなっちゃうよ。」

 にぃ、っと。ユラが悪戯でもしそうな子供のような笑みを浮かべ、赤い瞳を細める。さらにわきわきと、なにやら怪しく手を動かして近づいてくるものだからヴァネッサは手帳を急いで鞄にしまうのだった。

「あの、失礼。ヴァネッサ・クロドンと、ユラ…だね?」

 そんな時、また背後からする声にヴァネッサが振り返る。そこには自分よりも大きな男の人が立っており、見上げるようにしないと顔が見えなかった。長身・やや細身で瞳はバイオレット。髪色は群青に近い黒髪で、邪魔にならない程度のウルフカットにしている。顔はどこか優しそうな感じで、青年から大人へと移り変る間際、という印象を受ける。

「…えと、どちらさまで?」

「ああ、そうか。あの時は二人とも声しか聞いていないからね。…僕はルーマ。ファーグナーMK−2のパイロットだ。」

「ああぁ〜〜〜〜〜!! あの時の!!」

 どこかで聞き覚えのある声に悩んでいたヴァネッサの後ろでユラが大きな声を上げ、またビクッと驚いたようにヴァネッサが背筋を伸ばす。ルーマは苦笑を浮かべると目元からずれた無色のサングラスを軽く指で押し上げた。

「あの後、君のせいで私はすっごく怒られちゃったんだぞ!あんな無茶な戦いかたしてきたから!!」

「ん? はは、そりゃすまなかったな。…じゃあ今日は何かご馳走するから、許してくれるか?」

 ギャーギャーと吠えるユラに、まるで子供でもあやす様に言うルーマ。それにユラはさらに声を大きくして怒り出した。そんな様子に、ヴィネッサは小さく笑い声が漏れてしまう。

 そう、あの日から変ったことはこれだった。

 あの後二人のことを調べて連絡を取って、久しぶりに私に友達が出来たんです。

 小さなことかもしれないけど、私にとってそれはとっても大きなことだった。

 しまっていた手帳を取り出し、その最初のページに貼り付けられた押し花を見る。実は私の趣味は押し花と花言葉です。でも、技術部のみんなにはそれを話す勇気も無かった…。そんなの子供っぽいと思われそうだったから…。

 でも、彼らのおかげで一緒にいてくれる喜びを再確認し、仲直りしたくて頑張ってキサラギの技術者たちと話をしたんです。そしたら今では少しだけ彼らと親しく話をすることが出来るようになり、孤独だと感じることはなくなりました。

「ヴィネッサちゃん、置いてっちゃうよ〜。今日はルーマにたっぷりおごらせるんだから!」

「あ、うん。いまいく〜。」

 また自分を呼ぶ声がする。もう一度、手帳に挟んである押し花に目を向けた。そこにあるのは母子草。押し花には余り向かないけど、今度二人にもこれでしおりでも作ってプレゼントしよう。その予定を手帳に書き込むと、二人の後を追って歩き出す。

 ―――母子草…春の七草で『御形(ごぎょう)』ともいう。
                  花言葉は…『温かい気持ち』―――


【END】

・あとがき
 …やった、ルーマの日常っぽい点で良い人っぽいところ出せたぞ!!前回の課題クリアーだ!(ぁ
 どうも、自分の小説そっち退けでこっち作成してるコシヒカリです。…いや、正直に言うと、自分の話より書きやすいし、楽しんですよね…。(オイ
 今回はルーマをうまいこと活躍させられたかな、っと思いつつ。面倒見の良い兄ちゃんという感じでしょうか、この三人だと。
 ユラはヴィネッサにとってとても良い友達になりました。ちょとハッピーエンドっぽい感じでよかったな〜っと思いつつ…戦闘面でも活躍させられれば良かったなぁ、っとまた反省…。いや、いいのさ、次回(私が)がんばれば!!(開き直り(ぇ
 最後の花言葉ネタは以前から考えていたものでした。実際他の作品でも使っているのがあるんですが、ちょと大人の理由で(ぇ)皆様にお見せできない裏話になりました。…いや、後ろに手が回るようなことではないのでご安心を(アタリマエダ

 とにかく、このテンション維持して次回もいってやるぞ〜!!っと意気込みを持ちつつも、暑さで脳みそが沸騰し味噌汁になる駄目駄目なコシヒカリでした…(チャンチャン

・各員提出ロール
◎レイブン:ユラ

1、 簡易説明
明るく元気で活動的で、気が長い。
感受性が豊かであり、基本的にどのような相手とも仲良くなってしまうが、稀に馴れ馴れしいと感じたり、喧しいと感じたりする人間もいる
交渉事を得意としており、何かあるとすぐ報酬を上乗せしてもらおうと考える。
普通の大人に対しては、何かあるとすぐ報酬の上乗せを交渉するが、
相手が尊敬できそうな人格者だったり、自分と同年代や年下の少年少女だった場合は、
報酬の額など関係なく全力以上の力を出して、どの様な状態になってもミッションを完遂しようとする。
友達のためなら身の危険すら顧みない、情に厚い面があり、レイヴンとしては甘い。
基本的に、報酬さえ良ければどんな依頼でも受けるが、故意に非戦闘員や民間人を狙うような依頼だけはトコトン嫌っており、知らされずにその様な行為の片棒を担がされたら、自分自身に自作自演の依頼を出して担がせた企業に攻撃を掛けることがある。
黒いリボンで結ってツインテールにした、胸の辺りまである光の加減によってクリーム色にも見える色合いの銀髪と、血のように紅い深紅の瞳を持つ、端正な人形のように整ったかわいい顔立ちの美少女。

2、動機、目的
最初は、報酬の多いミラージュを選ぶつもりだったが、独自ルートの情報から、護衛対象が人間だとわかったため、キサラギを選んだ。
ヴィネッサ・クロドンと話して、どの様なことをしてでも彼女を無事に送り届けると考えている。

3、行動
今回の任務にあわせて、肩のレールガンを高性能なレーダーであるWB03R-SIRENに、高機動ミサイルをマイクロミサイルのKARURAに、インサイドのECMメーカーを吸着地雷に変更している。
作戦領域の状態から考えて、敵はジェネレーターの出力を落として岩の陰か砂の中に隠れて奇襲するか、高高度の輸送機からの輸送車両の真上への強襲降下でくる可能性が高いと、ユラは考えている
護衛対象を確認したとき「あれが護衛対象の天才少女…か」
護衛対象と顔をあわせたときは、積極的に話しかけていく。
出会い頭の台詞「私が、護衛を引き受けたレイヴンのユラだよ」
名乗るとき「ユラでもユラちゃんでもゆーちゃんでも好きに呼んでね、ヴィネッサちゃん」
護衛対象との会話中のどこか「あは、自分より年下の人間を守れないなんて、報酬云々以前に人として不出来だからね」
基本的に敵ACに対しては護衛車両を狙われないように、多少強引にでも接近戦を仕掛けていく。
敵ACの排除を行おうとするが、不可能な場合は、敵の動きを拘束して輸送車両を逃がそうとする。
敵ACとの接敵時「Aアリーナのルーマ……か、ランカーが相手じゃ分が悪いけど、倒すんじゃなく守るのならやり様はいくらでもあるよ」
敵ACに対して「年下の女の子一人守れないなんて、私の信条に反するからね、キミの目的は絶対に達成させないよ」
中破時「この程度で止められると思ったら大間違いだよっ!」
戦闘中のどこか「武器が壊れても、腕部や脚部を使った格闘戦っていう手段が残されてるのを忘れたのかな?(もっともこれをやったら、アズサちゃんみたいに正座で説教じゃすまないかもしれないけどね)」

◎ レイブン:ルーマ

1簡易説明

性格:
冷静沈着で理性的だが、激情を露にすると容赦ない攻撃を行う。
相手に対して偏見を持たず、真摯な姿勢で当たろうとする。
また、作戦行動中は『無駄な殺傷を行わない』とする信条を優先し任務を放棄することも間々あるが、そのせいで味方に被害が出るような場合は苦虫を噛み潰す思いで敵に致命弾を打ち込む
(ただしこれは通常時、激情時はこの限りにあらず。)

容姿:
身長は180〜185の長身・やや細身 肌の色は黄白色 瞳はバイオレット
髪色は群青に近い黒髪を邪魔にならない程度のウルフカットにしている
顔は色男・優男とは行かないまでも、ようやく少年を卒業した程度の意志のはっきりした顔(モデルは 『.hack//AI buster』の「アルビレオ」より)
尚、目元にはお洒落として無色のサングラス(もしくは伊達メガネ)を着用

台詞例:
「死なない・・いや、まだ死ぬわけにはいかないんだ!」(戦闘時)
「悪いね、君と僕では勝利条件が違うんだ」      (同上)
「済まない、状況が悪い、依頼は放棄させてもらう。」 (同上)
「はは、そりゃすまなかったな。何かご馳走する、少し待ってってくれ。」(日常時)
といった感じで、台詞からイメージをつかんでいただければ幸いです。

2動機・目的
作戦まで時間的余裕がない依頼を急に、そして無理に頼み込まれ、情報不足ながらにも
古巣からの依頼ということで渋々受諾。
目的としては、護衛・作戦目標を含めた無血での任務達成(無血には自分を含まず)
(やっぱり考えが甘ちゃんです(汗 )

3、行動
今回は作戦地域にあわせ右肩をマイクロミサイルからWB10R-SIREN2(レーダー)に、
左腕をCR-WL95G(ハンドグレネード)に右腕武器をCR-WR93RL(リニアガン)
左腕格納武器をYWL16LB-ELF3(ブレード)に変更
コードは &LVg007E003D0M0I00as4o41Aw7fwsv1xqM4qk1i# ですのでわかりづらい場合はコチラでお願いします

キサラギ側を待ち伏せし、確認時に警告を行い、目標が人間だとわかった場合は提案を行う(*後述の台詞)
受け入れられた場合はAC離脱を傍観、拒否の場合はコクピット以外(コアにも攻撃します)への攻撃を慣行。
離脱の場合は車両・ヘリを破壊。 拒否の場合はACを優先。
提案拒否の場合で、仮にAC無力化に成功した場合でも目標は破壊せずに鹵獲、身の振り方はヴィネッサ・クロドンに委任
どっちになろうと「必要な情報をあえて伏せれた=騙されたと同意語」として自分の信条を優先

台詞例:
「やつら・・・知ってた上で伏せたか。騙されたな、俺も・・」(警告後)
「キサラギ側ACへ、聞こえるか?こちらルーマ、ファーグナーだ。
護衛対象をACに乗せ、離脱しろ。自分への依頼は『重要物資の輸送を行う車両の破壊』だ、受け入れるなら機材と抵抗勢力の破壊だけにとどめる。
こっちとて無駄な殺傷はしたくない、受け入れてくれ・・・。」 (*ACに対する提案)
「身の振り方は君次第だ、キサラギに戻るもよし、身を隠すなら僕の元に来ればいい、命を絶つこと以外なら出来る限り手を貸してやるさ。」 (*特定条件下でのヴィネッサ・クロドンへの提案)
「過小評価などしないさ、全力で当たるまでだ!」(戦闘開始時)
「撃つだけが武器じゃない、こういう使い方だってある!」(戦闘時、ハンドグレネードをアリーナ紹介文のように使用

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