『ミラージュ施設攻防戦』


 ある一室で男が二人話をしている。一人は情報屋で、『それ相応の金さえ貰えばなんでも情報をそろえる。』と言うのがうたい文句の男だった。金髪にピアス、ラフで少し派手目な外見に軽くやせ細り、頬骨が目立つ顔。どこか不健康なチンピラ風の印象を受けるだろう。

 もう一人の男はレイブン。ルヴォルフアリーナでもAアリーナランク26thに位置するルーマという男で、情報屋の男とは逆に若く健康的で物静か。理性的な印象を受ける。もしこの二人を並べて一般人に『どちらの人が信用できますか?』と聞けば、多分こちらの男のほうが信用できるといわれるかもしれない。それだけ二人は真逆の位置にいる存在に思えるほど、印象の違う男達だった。

「あんたの欲しがってた情報、ちゃんと集めておいたぜ。この程度の情報なら、俺に取っちゃぁ朝飯前だ。」

 情報屋の男は数枚の紙を纏めたレポートのようなものを手に持ち、レイブンの前でひらひらと見せつける。ルーマはそれを受け取ろうと手を伸ばしたのだが、触れる寸前のところでまたヒラリと逃げるように動いてしまう。どういうつもりだ?っと言いたそうな顔で情報屋の方を見れば、その顔にはどこかいやらしい笑み。

「……からかうつもりならこの話は無しにするぞ、情報屋。」

「はっは! そう怖い顔しなさるなって、レイブンの旦那。悪かったよ。だが御代がさきだぜ?」

 口とは裏腹にまったく反省した様子のない情報屋を横目に、携帯端末で指定された講座に料金を振り込む。情報屋はそれで今度こそテーブルにレポートを投げ、ルーマのほうへと滑らせた。それを手に取ったルーマは早速目を通す。ソコには今回自分が請け負った任務が行われる場所の地理情報と、相手側戦力の情報が乗せられている。

 今回ミラージュ側の依頼を受け、防衛に当たることになった彼は情報屋にその依頼に関数情報を集めさせた。さすがに相手側、クレストのMT部隊進軍方向などは得ることが出来なかったが、その戦力はある程度把握できている。少なくともMTは15機。重装甲MTの『CR−MT85』シリーズを中核とする部隊であり、拠点制圧のために高火力の四脚MT『CR−MT98G』も含まれていた。

 比べて依頼を受ける際に防衛するミラージュ側から教えられた自戦力は汎用型MT『MT08M−OSTRICH』を中心とした24機と武装ヘリなどの航空兵力。数で勝っても性能で劣っている。

「嫌な依頼だ、時と場所次第で立場は変るだろうに……。」

 つい愚痴に近い呟きをもらした。数と戦闘力、MTだけで考えればほぼ互角だ。だがそれは彼の考え方からすれば、ただ無駄に戦闘が長引いて被害が増えるだけでしかない。さらに悪く言えばその状況でどちらか一方が有利に傾いた瞬間、それこそ狩る者と狩られる者にはっきりと分けられてしまう事態へと変貌する。

(…誰の命も無駄にしたくない。…は、甘い考えなのだろうか…。)

 ルーマはレポートに目を通しつつ考える。だがそのために自分が雇われたのだと、自分に言い聞かせると最後のページに目を通し始めた。

「…?…っ。向こう側もACを投入したのか…。」

「んん? ああ、それはついさっき入った情報だから加えておいた。なかなかの大物みたいじゃないか。大変だねぇ。」

 さも面白そうに言う情報屋に苛立ちを感じつつ、もう一度レポートに書かれたレイブンの情報を読む。

「……Aアリーナ8th……スカイリッパー…。」

 それは、自分よりはるか高みにいる者だった…。



 満月に近い月のおかげで明るい夜。野営地近くに設置された架設のMT置き場で一人それを見上げているティールは自らの愛機ストリンジェンドのコックピットハッチから身を乗り出し、手に持っていたミネラルウォーターを一気に飲み干す。

「……いい夜だ。明日は晴れだな。」

「ほぉ、なら襲撃にはもってこいに日和だとでも?」

 自分ひとりだと思っていたのに、不意にACの足元のほうから聞こえた声に視線を落せば、30代後半ほどの男が立っていた。男の名前はマックス・ヴェルナーといい、独立勢力を率いている男だった。現在ティールは彼に雇われた専属レイブンといってもいい。

「天候で決めるなら、もっと天気の悪いときにするさ。わざわざ目立つ昼間の晴れの日に襲撃するなんてただの馬鹿か、自分自身を信じてる強い奴のどっちかだ。」

 ストリンジェンドからティールはラダーも使用せずに飛び降りる。ACのサイズは10M前後、コックピットハッチの位置がその全長より低いといっても1〜2M程度しか違わない。つまり彼は、少なくともビル二階以上か、それに近い高さから飛び降りたことになるのだ。

 普通そんな高さから硬い地面に飛び降りれば、どんなにうまく着地しても生身で無事にすむはずが無い。だが、彼は全身の筋肉を使うと器用に、猫のように着地して見せた。

「……相変わらず、人間離れしたやつだ。」

 その様子に苦笑を浮かべているマックス。普通に考えれば当たり前かもしれないが、ACやMTから直に飛び降りる人物を彼は見たことが無かったのだ。そう、普通はそんなことはしない。ティールのほうが異常だというほうが正解だろう。

「今回は一人のミッションだ。好きにやらせてもらうさ……。」

 だがそれを気にする様子も無いティールは背筋を伸ばすようにしつつ立ち上がると、また月を見上げた…。



 朝日も上がって外の気温も上がりだした頃、ルーマは自分のACファーグナーMK−2の置かれたハンガーで待機していた。定石どおり襲撃するなら夜明けが一番良い。そのセオリーに備えて夜通し起きていたのだが、いまだ襲撃は無い。

「……何も無いなら、それで良いんだが…。」

 それでは雇われた意味が無いと、ツッコミを入れられそうなことを呟きながら壁に寄りかかりつつコーヒーを飲んでいた。そのとき、先ほどまで静かだったハンガーに一斉に警報が鳴り出し、一瞬にして慌しさに包まれる。

『緊急事態、緊急事態、北北西よりMTの接近を警戒線にかかりました。繰り返します、北北西よりMTの接近を警戒線が捕らえました。各員は速やかに所定の位置に着け。』

 スピーカーから基地中に響くほどの音量で流れる管制官の声。ルーマはコーヒーを適当な場所に置くとラダーを駆け上がり、コックピットへ滑り込む。直ぐに起動チェック、各部に異常が無いことを確認すると外部スピーカーをオンにして周囲の作業員や搭乗しようと走るMTパイロットに呼びかける。

「ファーグナーMK−2、でるぞ。道をあけてくれ。」

 その声に正面にいた作業員達が一斉に道を開ける。足元の安全を確認すると、ロックが解除され早速1歩踏み出す。ハンガーの中ではゆっくり、だが外に出た瞬間ファーグナーMK−2はブーストをふかして、基地施設を飛び越えつつ移動を開始した。

 気の利いた管制官は、彼が動いたのを確認すると早速マップに敵性勢力の位置情報を送ってきてくれる。ミラージュ基地施設より北北西、ソコにこちらに接近するMT部隊が見える。その先頭に、ほかとは違う速度でこちらに向かってくる機影が一つ。

「……ACスカイリッパーか。」

 既に基地の外に飛び出したファーグナーMK−2のモニターには、遠距離にいるスカイリッパーの姿が写っている。ルーマは迷うことなくそのもっとも危険な戦力をロックオンすると、ミサイルを放った。



「ACの話は聞いてねぇ。…ったく、情報位まともによこせよ。」

 こちらへと放たれるミサイルを見ながらスカイリッパーのパイロット、ヴァルプリスはクレストの情報部に対して毒づく。今回自分が受けた依頼にACの情報は入っていなかった。おそらくは依頼を受けた段階ではまだ雇われていなかったのか、あるいは知っていてクレストが隠したのか。

 どちらだろうが、たいした問題ではない。ヴァルプリスは文句を言いながらも顔に笑みを浮かべている自分に気が付いた。ACを前にしても自然と負ける気がしない、自信に満ちているような気がしたのだ。

 青い中量二足ACはミサイルを放ってくるが、スカイリッパーはその弾道を見極めると逆関節特有の優れた跳躍性能を利用して大きく跳ぶ。さらにそのまま、ブーストを噴かすと青いACの真上を取り両腕の強化型マシンガンのトリガーを引いた。ガトリング砲を模した六つの砲身と銃口が回転をはじめ、次の瞬間には凄まじい勢いでライフル弾並みの威力を持つ大口径の弾丸が吐き出される。

 青いACはそれをギリギリの機動で回避すると、右腕のマシンガンと左腕の拡散型バズーカで応戦を開始した。

『この先にはいかせない!』

「はっ、悪いな……お前は追加報酬に入ってないんだ。」

 相手からの通信にそっけなく答えると、スカイリッパーが一気に高度を下げる。自分めがけて落下してくるのをみた青いACはサイドステップで回避すると真横からバズーカを叩き込もうと構えた。だがスカイリッパーのほうが彼以上に軽量で、俊敏だ。着地寸前でまたブーストをふかしたスカイリッパーは空中へと舞い戻る。そして、次の瞬間には背中装備のマイクロミサイルを発射してきたのだ。

 青いACは攻撃を一旦中止して回避に入る。ヴァルプリスにはそれが一瞬のことでも、次の行動に移すには充分すぎる時間だった。

「お前の相手は今度してやるよ。気が向いたなら。」

『っ!? まてっ!』

 既に進路上にいた青いACは離れ、正面に見える施設へと向かう途中に障害はない。こちらのミサイルを回避に入ったそのときから、既にヴァルプリスは彼を完全に後回しにすることを決めていたのだ。こちらの目標はミラージュ施設防衛戦力の無力化と施設の破壊。その追加報酬に入っていないACの相手をするのは時間の無駄だといって言い。

 青いACも必死で彼を追いかけようとするが、軽量型と中量型、そのスピードの差は思いのほか大きなものだった。その上、後から来たMT部隊が彼めがけて攻撃を開始したのだ。スカイリッパーとは逆に、彼の基地防衛に対してはMT部隊にACという二つの障害が一瞬にして生まれた結果になった。

『っ、邪魔をするなぁっ!!!』

 接近してくるクレスト製MTのCR−MT85のバズーカやマシンガンが青いACに降りかかるが回避、反撃に転ずる。しかしCR−MT85シリーズの装甲はMTとしては厚く、彼の取ろうとする戦法では撃破には時間が掛かりそうだった。

 その間に施設に到達したスカイリッパーはまた大きくジャンプし、施設全体を見下ろす。そこらじゅうから彼の接近に気が付いた武装ヘリが群がってくるのが見えた。対AC兵装を備えた改良型であるようだが、スカイリッパーをその攻撃が捕らえるにはまだ遅い。発射されたロケット弾を回避したヴァルプリスは両背中のミサイルを次々と発射した。

 一方ヘリからすればスカイリッパーの動きは早く、そのミサイル一発でも充分自分達を落すことが出来る火力を持っている。

『ち、ちくしょぉっ!?』

 ヘリパイロットのものだろうか。悔しさに漏れた言葉は次の瞬間爆音に呑まれ、かき消された。



 クレスト、ミラージュ各部隊の戦闘が始まってから数分。既にミラージュの基地からはいくつか火の手と煙が上がっている。遠く離れたココまで、撃破されたMTやヘリの墜落音が聞こえてくるほどだ。一方クレスト側の部隊はといえば、ミラージュ側の雇っているACの足止めに必死だ。既に半数以上が脚部や武装と持っていた腕を破壊され、戦闘不能に陥っている。

「…ACがいるのは聞いてない……が、かまわねぇか。MTより歯ごたえありそうだしな!!」

 覗いていた単眼鏡を胸ポケットに突っ込んだティールは嬉しそうに声を漏らすとすぐコックピットへ滑り込む。既に先ほどから起動状態に迷彩シートを被った状態で待機していた愛機、ストリンジェンドを隠していた簡易塹壕風の穴から飛び出させた。向かった先はミラージュ施設方向。既に大分戦闘が激化し、損害も酷いようだがクレスト側よりまだ数は多い。

 空を舞うスカイリッパーに必死でライフルやミサイルを放っていた一機のMTに狙いを定めるとミサイルを放つ。急に横槍から攻撃を入れられたMTは衝撃と同時に驚いたようにふら付くと、攻撃された方向へカメラを向ける。だが、そのカメラに捕らえたのは補助ブースターで加速し、自分を切り裂くレーザーブレードを構えたACが一瞬写っただけだった。次の瞬間、カメラだけではなくパイロットごとその視界はまばゆい光と熱で真っ白に染まった。

 新しい乱入者にミラージュMT部隊は混乱を極めることになった。もはや数も片手で数えられるほど、この状況でACが二機など…彼らにとって絶望でしかない。だが、乱入者であるACは途中で軌道を変更すると大きく飛び上がった。それはまるで、MTなど眼中に無いというような様子である。

「MTよりAC、そっちのほうが面白い!!」

 持つ推力のほとんどをつぎ込んで大きくジャンプしたストリンジェンドは、マシンガンをMTに降り注がせているスカイリッパーに襲い掛かる。スカイリッパーのほうも、乱入してきた彼に気が付いたようだが、もう遅い。ティールは命中を確信してマシンガンのトリガーを引いた。

 だが、その弾丸がスカイリッパーを捕らえることは無い。なぜなら彼は、次の瞬間ストリンジェンドのさらに上へと飛び上ったのだ。速い、と、彼を認識したティールだったが、

『死にたくないなら俺の邪魔をするんじゃねぇ!』

 お返しとばかりにさらに上から降り注ぐスカイリッパーの猛攻に溜まらず着地し、手ごろな倉庫施設の後ろへと滑り込む。

 予想以上に強い…さすがランク8th!!反応速度も、機体操作も、そして攻撃精度も、全てが普通のレイブンより一回り以上高いレベルに達している。そんな強敵にゾクリと背筋に走るものを感じるも、小さく笑みを浮かべてしまう。もっとだ、もっとこいつと戦いたい!!

 自分の中で闘争心というものが沸騰するような感覚と、さらに研ぎ澄まさせれていく感覚がはっきりとわかる。エネルギーの回復を確認すると、その目標に対して再度飛び上ろうとした。

 しかしそれを途中で遮る攻撃が真横から来る。頭部センサーを動かしてそちらを確認すれば、こちらへと突っ込んでくる青いAC、ファーグナーMK−2が両手の武装を連射し、こちらに突っ込んできている。

『貴様らぁっ!!!』

 怒気を孕んだ声。既にクレスト側MTのほとんどが武器を破壊され、行動不能になってしまい彼を抑えることができなかったのだろう。その戦い方は、先ほど遠目に見ていた彼のたたかい方とは一線をかくものに変貌していた。積極的な急所への攻撃。それも、コアへの集中弾を狙ってのものがほとんどだった。先ほどまで武器だけを破壊する戦い方などという、優しいものではない。

「っ、ち。二対一に……? いや…。」

 ティールはこれでスカイリッパーとファーグナーMK−2、二機の相手をすることになると思った。しかし、スカイリッパーはといえばこちらを気にする様子も無く、いまだMT部隊や基地施設の破壊に集中している。つまり、彼にとって自分もルーマも、施設破壊よりも優先させるべき存在ではないということ……。

 それはティールの怒りを注ぐには充分だった。自分がその程度の存在だと見られることに腹が立った。なんとしてもこちらを向かせてやると、さらに闘志が燃え上がる。だが…今はそれに邪魔な存在がいる。

「お前が邪魔だっ!!」

 ティールはストリンジェンドをファーグナーMK−2に向けるとマシンガンのトリガーを力いっぱい引き、そのまま彼に向かってブーストダッシュをかける。さながら二機は戦闘機のドッグファイトの如く、その位置を入れ替わり立ち代り、激しい戦闘を開始した。

 同系統の武装による攻防。被弾した装甲が火花を上げ、ひっちゃげ、内部構造を露にする。お互いに命中弾はあるが致命傷を負わせるほどの攻撃力ではない。故に、この戦闘はもう一方、左腕に装備された武器が勝敗を分けるといえるだろう。

 ファーグナーMK−2の左腕武装は拡散型バズーカ。近距離では全弾命中すれば致命傷になるほどの威力を持っている。だが残り弾数が少ないのだろう、先ほどから撃ってくる数が少ない。逆にストリンジェンドは高出力のレーザーブレード。その威力は一瞬で重装甲MTでさえ切断できる出力を持っている。だがそのリーチは威力を優先し収束率を高めた分、短い。

 つまり、勝負は一瞬。どちらがそれを先に当てるか、ということにかかっている。お互いにそれを理解している中、先に動いたのはルーマだった。ファーグナーMK−2は倉庫の影へと入ったと思えば、次の瞬間上へと跳び、その屋根を足場に一気に接近してきたのだ。

「っ!? 上をとられたっ!!」

 急いでマシンガンを上へと跳ね上げるが、ファーグナーMK−2と捉えるには遅い。代わりに、がら空きになっていたコアへのマシンガンの雨が降り注いだ。けたたましい被弾音と、衝撃、警告音が鳴り響くなら、乱れるモニター映像の中に間近で左手のバズーカを向けるファーグナーMK−2の姿…。

『邪魔したんだ、責任は取ってもらうさ!』

 直撃弾が来る。ティールは研ぎ澄まされた感覚の中、左へ旋回行動しつつ肩の補助ブースターを噴かす。強引に左前へと押し出されたストリンジェンドは、右腕でコアをカバーするように動かした。その瞬間、被弾する衝撃。先ほどのコアへのマシンガンの集中弾より激しい衝撃に歯を食いしばる。

 拡散バズーカで粉々にされた右腕が、ばらばらと爆発の中から飛び散る中、さらにティールは左旋回しつつ補助ブースターに鞭を打つ。

「う、おぉ、おぉぉぉっ!!?」

 もはや雄叫びに近かった。激しいGの中、ベルトで強引に押さえつけられた体が痛みつつも必死で操縦桿を握り締める。強引な機動の、さらに強引な修正。ストリンジェンドは前に弾かれるように飛びつつ、くるりと一回転してファーグナーMK−2へと飛び掛る。その左腕には、残されたエネルギーを必死につぎ込んだブレードの光。

『なっ、っ!?』

 それはさすがにルーマも予想外だった。ACがまるでスケートリンクを滑るように回転しつつ飛び込んできたのだから。回避は、攻撃に集中しすぎて突っ込みすぎ、間に合う距離ではない。まばゆい閃光は、ファーグナーMK−2の両腕の上を走り、その両方を奪い取っていった。

 やられたと思った。だがルーマはあきらめず次の攻撃に向けて備えるべく、ストリンジェンドの横をすれ違うように抜けると振り返る。だが、反撃は無い。ストリンジェンドはそのまま彼とすれ違うと、そのスピードのまま離脱に入っていたのだ。



 逃がすものか、とファーグナーMK−2がミサイルをロックオンしようとしたそのとき、鳴り響く電子音。ミラージュ側からの緊急通信だった。

『レイブン、もうこっちは限界だ!!我々は基地を捨て、脱出する。護衛についてくれ!!』

 緊迫した管制官の声。そこで我に帰ったルーマはモニターで周囲を確認した。もうもうと昇る黒煙。墜落したヘリの上げる炎。脱出用の車へと乗り込み、撤退していくミラージュのスタッフや兵士達…。

「……ミッション、失敗……か…っ。」

 ルーマは小さく呟くと操縦幹を握りなおし、撤退方向へとブーストダッシュで移動を開始する。途中、撃破され残骸となったMTの中に立つスカイリッパーとすれ違ったが、彼はこちらへは攻撃してくる様子はなかった。弾薬が尽きたのか…または、攻撃対象がMTだったからか。とにかく、自分は見逃された…。

「……この借りは必ず返す。」

 通り過ぎる、リアカメラに写るスカイリッパーへ誓うように呟きつつ。ルーマはこのミッションを生き残った…。



『レイブン、良くやった。後はこちらの制圧部隊がそちらに合流するまで、その場所を確保していてくれ。』

 クレスト側からの通信に答えることなく、聞くだけ聞くと通信を切ったヴァルプリスはコックピットシートへと力を抜いて背を預ける。余り優れたレーダー性能を持っていない頭部のもので調べたが、周囲に敵影は一機も見当たらなかった。

「……はぁ、ったく。疲れるミッションだぜ……。」

 実際それほど疲れたわけではないが、こうやってつい文句を漏らしてしまうのも自分の性分。そういえばこの前、それを喫茶店で働いている知り合いの女レイブンに注意されたばかりだったか。子供っぽくてどこか抜けてる割にはそういうところはしっかり出来ている。

「ま、帰ったら今回の稼ぎで一番高いコーヒーでも注文してやるか。」

 そんな赤い髪の少女とそのパートナーの青い髪の青年を思い出し、小さく苦笑いを浮かべるとコックピットハッチを開放した。中の蒸せた空気を外へと逃げ、変りに入ってきたのは焦げ臭いにおいと風で冷えた空気だった……。



●あとがき
 メンバー参加企画、初めての作品です。
 …あれ?気のせいか…自分のより楽しいし、なんか出来が早いんですけど。(ぁ
 まぁ、実際は休みが重なってちょうどいい余裕があったというのが大きいでしょうが。

 今回登場したヴァルプリス。彼は何気に私の奴に良く出ます。お気に入りです。乱暴な言葉使いのわりに面倒見のいい兄貴です。ツンデレです。(マテ
 そのため、他の作品の登場人物と繋がるがあるので少しだけそこらへんを取り入れて見ました。

 ルーマは今回初ですね。うまくかけているか、かなりのレベルで不安ですが…。もうちょっと物静かな面を出せれば、ギャップの激しさが出せるかもしれませんが戦闘時以外の会話がすくなかったかな…。そのうち親しい人物との会話で穏やかな彼を出したいと思うこの頃(っと言うか今)。

 また今回から少々文章形状を変えています。もしだったら見にくいかもしれませが、そこらへんも試行錯誤中です。改善できたら良いな…。

●各員提出ロール
◎レイブン:ルーマ

・性格
理性的で人前では感情を表に出すのを控えているが、一度激情が表に出ると豹変し、攻撃的になる側面を持つ。

・動機、目的
ミラージュ側の依頼を受諾。防衛任務と言う事で陣営に関係なく人命を無駄に落とさせたくないという甘い考えから。

・行動
依頼受諾直後:
独り言、若しくは情報屋との会話で使用
『嫌な依頼だ、時と場所次第で立場は変わるだろに・・・』

ミッション中:
味方部隊を危険度が高い順に重点的な防衛を行う、施設は人が居なさそうな場所は軽視しがち。
またクレスト勢力に対しムリな撃破は狙わず、戦闘行動が不可能な状態にする程度(例:武装部分の破壊等)
AC戦では中距離を主軸に調整し、遠距離ではミサイル、近距離ではマシンガンを使用。
独立勢力側に対しては感情をあらわにし激怒。

台詞
『最悪の出会いか・・・残念だが仕方ないな。』
『邪魔をしたんだ、責任は取ってもらうさ!』

ミッション失敗時、味方部隊の撤退を確認した場合は敵に拘らず逃走。
不可の場合は致命弾を避けて戦闘、撃墜は話の流れ次第でお願いします。


◎ レイヴン:ヴァルプリス

・性格
 気性が激しく、好戦的な性格。他者との確執が絶えないが、面倒見が良い一面もある。

・動機、目的
 クレスト側の依頼で参戦。撃破数、施設破壊数に応じて報酬がプラスされるということで、クレストの依頼を受けた。
 目的は『敵MT部隊と施設の徹底的な破壊』

・行動
ミッション中:
MT部隊と施設の破壊を優先して破壊する。
ACがいる場合は、報酬に加算されるなら優先してACを狙うが、そうでないのならばMT部隊と施設の破壊を優先する。
ACとの戦闘方法としては、敵の頭上を飛び回り、死角から攻撃を仕掛ける。
台詞『死にたくなかったら俺の邪魔はするんじゃねえ!』 
ミラージュ側のACと共闘はしないが、独立勢力のACがいる間は敵対しない。
撃墜の可不可は任せます。

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