Wiseman Report
『ロウランド砂漠ネクスト戦 後編』

 パイロットスーツに身を包み、出撃前の最終確認を終えたΣは自分の乗機メテオ・ホエールから降りるともう一度見上げる。対弾、耐衝撃など防御性能を重視してアセンブルされた重厚なその装甲は度重なる損傷で劣化している部分が所々見られ、修復が追いつききれない様子が伺える。それも彼の戦闘スタイルが原因だった。

 彼は護衛ミッションを主に受けるリンクスとして少々名を上げており、その為に自らを盾にすることも多い。故に、ミッションから帰還した彼の機体はぼろぼろになったパーツを何度も修復している。そのせいで劣化が早く、赤銅色をした特異なカラーパターンの機体はまるで門前に立ち雨風で汚れた守護神像を思われる姿だった。

 そろそろオーバーホールが必要かとΣは小さく考えつつ、上げていた顔を降ろしてあたりを見回す。すると自分の足元に何かがいるのに気がついた。辺りをあわただしく動く整備スタッフの作業風景にそぐわない存在、先ほど会ったフェローチェの盲導犬だ。確かヴィーヴォと言ったか。

 ヴィーヴォはお座りの体勢で彼を見上げたまま小さく舌を出し、尻尾をパタパタと振っている。それはまるで彼を見定めているかのような視線。Σも見下ろしたまま、どうすべきかしばらく悩んでいたがヴィーヴォが立ち上がって彼の手をなめると、ゆっくり歩き出した。そうしてしばらくすると振り返り、一吠え。まるで最初に会ったとき同様、こっちについてきて欲しいといっているようであった。

 Σもヴィーヴォの後を追うように歩き出す。すると、ハンガーの端でパイプ椅子に越し下ろして一人でいるフェローチェの姿が見えたのだ。ヴィーヴォももちろんそこへ向かっているのだろう、途中歩みを止めた彼を見るとわざわざ戻ってきてはその手をなめて、また先へと進んで振り返る。

「バゥッ」

 そうしてフェローチェのそばまでくれば静かに吠えて彼女の手を舐める。フェローチェもヴィーヴォの頭をやさしくそっと頭を撫でつつ、その後ろについてきた彼の存在に気がついて顔を上げた。

「あら?…Σさんですね。」

「なんで……わかった?」

「足音です。あなたは少し変わった音をしてますから…といっても、半分は感ですけれど。」

 笑みを見せるフェローチェはやはり目をつぶったまま。だが最初に会った時に比べ、彼の位置をより正確に把握しているのか、顔はしっかり向けている。おそらく彼女の話から考えるに、音だけでこちらの位置を把握しているのだろう。だがそこで疑問が生まれる。なぜ目が見えないものがネクストの操作を行うことが出来るのだろうか?AMSがあるとはいえ、機体の操作に操縦桿やコンソール操作は欠かせないものが多い。

「見えずに……戦えるのか?」

「いえ、完全に見えないわけではないんですよ。弱視…極端に視力が下がってしまっているだけですから。」

 そういって目を開けてみせたフェロ−チェ。その青い瞳には光がなく、薄くにごったような色を見せている。明らかに焦点が合っておらず、まるでどこか遠くを見ているような不思議なものだった。その後『ごめんなさい、見苦しいものを見せて…。』と目を閉じる。

「戦闘中は特別な視力補助デバイスがありますし、AMSと併用すれば外の世界を見ることが出来るんですよ。それ以外のことでも、この子がいますから。」

「ワウッ!」

 頭を撫でられていたヴィーヴォが一声、嬉しそうに吠える。お互いに支えあっている一匹と一人、それを見ていたΣは少しだけ不思議な感覚を味わっていた。それは過去に感情を失っている彼にとって理解することはうまく出来なかったが、昔失った『羨ましい』と言う感情だったかもしれない。

『出撃、15分前。リンクスはネクストへの搭乗をしてください。整備班各員はハンガーより退避、コジマ粒子による汚染に備えよ。 繰り返します。出撃15分前。リンクスは―』

 ハンガー内に響く放送。あわただしかった整備班員たちが一斉にハンガーから出て行く姿が見え始める。フェローチェもヴィーヴォのジャケットに取り付けられたバーにつかまって立ち上がる。

「では行きましょう、Σさん。お互い無事であることを…。」

 小さくそれだけ言うと笑顔を浮かべたフェローチェが乗機のほうへと歩いていく。その後姿を見送るΣは何かを決意したかのように、自らの手を強く握り拳を作っていた。




 果てしなく続きそうな砂漠上空を飛んでいる輸送機の中で、ヴェーツェルは与えられた席で大きく足を伸ばして座っていた。依頼主であるフォルテとの話をした後、すぐに情報を確認した彼は指定された場所で自分の愛機とともにこの輸送機へと乗り込んだのだった。

『すまないリンクス、少々遅れている。』

 輸送機パイロットからの気持ちのない詫びの言葉に小さく鼻を鳴らしたヴェーツェルはもう一度わたされたデータを確認するように、横の席に置かれていた携帯端末を起動する。暇でしょうがない彼にとって今出来ることと言えばその程度しかなかったのだ。ちなみに窓から見える風景はすでに見飽きている。どうせ砂漠と空、そして時々砂に埋もれた瓦礫と廃ビル程度しか見えないからだ。

 携帯端末に映し出されたデータは援護を言われたイレギュラーネクストのデータと、彼がいる作戦エリアの地形データ。地形データに関しては何度見てもただの砂漠でしかなく、障害物もないと言うだけでこれ以上確認する必要もなかったが、もう一方のイレギュラーネクストのほうは機体のアセンブルが細かく乗っている。

 トーラス社製ネクスト『ARGYROS』。優れたPAの整波性能をもちつつ、他のパーツを大きく上回る耐久力を持った装甲に覆われた重量級パーツで構成されており、その防御性能はネクスト中トップクラスのものである。同時に攻撃性能も優れたエネルギー武器適正を持っていることから高く、攻防両面をそろえた機体と言える。

 だがこの機体のもっとも特徴的な部分はそれ以上に優れたコジマ兵装への依存性にある。もとより、過去に巨大兵器ソルディオスを作成したGAEを母体とするトーラス社だけに、コジマ粒子などを扱う技術は他社を圧倒していると言っても良く。ARGYROSにもその部分がわかりやすく出ているのだ。

 搭載されているアサルトアーマー、そしてコジマキャノンとコジマミサイル、そのすべてが高い威力を持つと同時に、周囲への高いコジマ汚染を引き起こすものばかりがそろっている。

「環境に悪いもんばっかりだな。…まぁ、俺が言えた義理じゃねぇけど。」

 軽く冗談交じりに呟くヴェーツェル。そのタイミングで輸送機パイロットから機体への搭乗指示が出されると、面倒せぇと小さく呟いて席を立った。後部輸送ブロックへと続く急な階段を下りれば、すぐ目の前に暗い青で染められた軽量ネクストのエアレイドが現れる。

「さぁて、そんじゃ行きますかね。」

 軽く体をほぐすようにして背を伸ばした彼の顔はどこか、これから行われるだろう戦闘を楽しみにしているかのような笑みが浮かんでいた。




 砂漠を走るメテオ・ホエール。その横へ明るい紫色で塗装されたフェローチェのflying polypが併走する形で走る。もう作戦領域は目の前、そこで何かを捉えたのはΣのメテオ・ホエールが先だった。

「前方にネクスト……目標確認。」

 メインカメラの倍率を上げるようにAMSを経由して命じれば、即座に数キロ先の映像を大きく拡大してものが正面モニターに映し出される。まだ遠すぎて映し出された目標の姿は小さいものだったが、黄を中心としたカラーリングに包まれトーラス系の丸みを帯びた太目のボディラインが目立つネクストの姿が確認できた。

『相手はまだ気づいていない、先に仕掛けます。』

 それに対し即座に攻撃態勢に入ったのはフェローチェだった。左手に持っていたレールガンが即座に跳ね上がり、真っ直ぐにイレギュラーネクストを捉える。Σはまだ射程距離までだいぶあることに疑問に思ったが、フェローチェはそんなことお構いなしにトリガーを引いた。

 長距離に対応したロングバレルが帯電したかと思えば、次の瞬間短い発射音とともに磁場によって加速された弾体が撃ち出される。それは一本の線のように砂漠を走り、目標の左肩へと着弾した。無防備な体勢への急な被弾だったために、衝撃に多少ふらつくイレギュラーネクストだったがすぐに体勢を立て直すと自分へと攻撃があった方向へ頭部を向け、すぐにブーストダッシュをかけてこちらへの間合いをつめ始める。

「よく……当てられる。」

『私は勘が鋭いんです…目が見えなくなった性でしょうかね?』

 感心するように言うΣへ冗談交じりにいうフェローチェ。シグマはそれに答えることはせず、彼女の援護を申し出るとflying polypの側面から後ろへと回りこみつつ、それと同時に射程距離へと入った目標へ左肩のミサイルを発射した。多連装の最新型であるWHEELING03から次々と発射されるミサイルの数は16。そこへさらに肩に装備されていた連動ミサイルが32発もの誘導飛翔体を発射し、真上と正面の二方向から目標へと襲い掛かった。

 それはまるで雨のような攻撃。一瞬それに怯んだかのように速度を緩めたイレギュラーネクストは回避するタイミングを見失ってしまったのか、降り注ぐその攻撃を正面から受ける結果になった。轟く爆音と黒煙に飲み込まれていく中、さらにそこへフェローチェがASミサイルと軽量型グレネードを、Σがそれをさらに上回る大口径グレネードキャノンを次々に叩き込んだ。

 それはもしかしたら、誰の目から見みても圧倒的、一方的な光景だったかもしれない。まるで何かの映画で戦術ミサイルが着弾したかのように黒煙がそのまま上へと昇り、きのこ雲のような形を形成するころにようやく二人は攻撃の手を止めた。広大な砂漠へと響いた爆音はゆっくりと遠くへ流れていき、そしてまた砂を流す風の音が戻ってこようとしている。

『……終わり、ではありませんよね?』

 少しずつ風に流され始めた黒煙へゆっくり接近しつつ静かに問うフェローチェ。その横へ付くように近づいてきたΣだったが、答えたのは彼ではなく黒煙の向こうの相手だった。

 濃厚な黒煙が切り裂かれ、真っ直ぐに走る一筋の閃光…いや、粒子の線というほうが正解だったかもしれない。とっさにフェローチェもΣも機体を動かし、回避運動に入ったおかげで直撃は避けたものの、flying polypは右肩のPA調波補助装置に、メテオ・ホエールは左肩の連動ミサイルに損傷を受けたことをAMSが伝えてくる。

 しかもそれだけではない。粒子の線が後方で着弾したその瞬間、二機のPAは急速に減衰を開始し、その状態を維持できないまでに低下してしまったのだ。トーラス製コジマキャノンによる自然減衰、それを理解し離れようとしたflying polypへ今度こそハイレーザーの光弾が命中する。

『きゃぁっ…!?』

 あの攻撃に耐えた?トーラス社のネクスト『ARGYROS』が優れた防御能力を持っているとは知っていたが、まさかここまでのものを持っているとは予想外だった。被弾し、警告音が鳴り響く中、損傷確認を行いつつ下がるflying polyp。被弾したのは左腕だがこちらも装甲が厚いため、それほど酷いものではない。だがロングバレルのレールガンを扱うにはこの椀部稼動効率の低下はあまりよしとするものとは言えなかった。

 反撃するため、右手のバズーカを黒煙へと放つが手ごたえはない。代わりに黒煙から飛び出してきたのは黄色いイレギュラーネクスト。至近距離、PAのない今の状態で右手に持っていたハイレーザーがflying polypを捉えようとする。この距離でコアに被弾すればただではすまない。フェローチェの背筋に冷たい汗が流れる。

 だがその瞬間、彼女の前に割り込んだには横にいたメテオ・ホエール。黄色いネクストとflying polypの間に立った彼は即座に左腕のガトリング砲を跳ね上げ、ハイレーザーの攻撃をコアに受けつつも同じく至近距離から相手の頭部に弾丸を叩き込む。

『っ、Σさんっ!!』

「お前………守る。」

 至近距離で攻撃を受けあった二機は大きくはじかれるように離れる。コアに被弾したメテオ・ホエールは幸いまだ浅い。もともとの高い防御能力、一番厚い正面装甲で受けたおかげだろう。対して相手は装甲が薄い頭部、しかもメインカメラのある正面からガトリングガンの集中攻撃を受けている。内部の機器が火花を産むと、そのまま小爆発が生まれ首から上がなくなっていた。

「このまま……追い込む。…いける…か?」

『っ、はい、いけます!!』

 ダメージと同時に気負けしたように後ろへ下がる相手を追撃する二機。フォーメーションは最初と同じく、前衛がフェローチェ、後衛がΣという形をとった。PAも回復し、損傷こそあるものの頭部を破壊され著しく照準精度が下がっている向こうに比べればまだ問題なく戦える。だが二機の攻撃が再開されるよりも早く、二機にはガトリング特有の射撃音と上空からばら撒かれる弾丸の雨にさえぎられてしまう。

『っ、援軍!?』

「上空……大型輸送機。…と……ネクストだ。」

 Σの焦りを感じさせない声に顔を上げたフェローチェが見たものは、空の青さよりもさらに濃い、青のネクストだった。




『間に合ったか。…リンクス、急げ。こちらのネクストはもう損―』

 輸送機パイロットからの通信を一方的にヴェーツェルは切ると後部ハッチから即座にエアレイドを発進させる。

「誰のせいで遅れたと思ってんだよ、ったく。」

 文句を言いつつも下に見える状況を即座に頭に叩き込んでの情報整理。相手は二機、両方装甲と火力を重視したタイプらしいが薄紫のほうは右肩と左腕の損傷、赤銅の奇妙なカラーリングのほうは左肩とコア左胸部の損傷が見えるだけだった。一方こちらが守れと言われているネクスト『アダマス』は頭部がなくなっているし、よく見れば機体各所に大小さまざまな破損が見られる。左腕にはプラズマ砲が装備されているはずだったが、今はなくなっていることから破壊されたのだろう。

 やれやれとため息をつくヴェーツェルは相手のネクスト二機を牽制するように両腕のガトリングガンを向け、トリガーを引いた。まだ距離はだいぶ離れているために致命傷を狙える距離ではないが、二機は上空からの攻撃にすぐに反応して離れてくれた。エアレイドはそのままアダマスの正面に降下し、二機との間に立つように着地する。

『え、援軍…ッ。お、遅いぞ飼い猫!何してやがった!!』

「…あぁ?」

 急に聞こえた通信。声はまだ若くヴェーツェルよりも年下、青年と言っていいくらいのものだった。おそらくは後ろにいるアダマスのリンクス、アジタートとかいうやつの声だろうとヴェーツェルはエアレイドの頭部だけを動かして後ろへと向いてみる。

『お前の仕事は俺を守ることだろう!それをこんなになるまで時間かけやがって…なめてんのか!!』

「守る、だと? はっ!おいおい坊主よ、そんな台詞は自分の尻を拭けるようになってからにしな!」

『な、なんだとこのやろっ!!』

 アダマスの右腕が上がる。そこにはハイレーザーライフルが握られており、銃口はエアレイドのほうへと向けられる動きをとっていた。だがそれよりも早く、ヴェーツェルはガトリングガンの銃口をアダマスのコアへ至近距離から押し付けた。お互いのPAが近すぎて干渉し、時折バチンとはじけるような音を立てるのが聞こえる。

「でかい口叩く割にこの程度…元トーラス専属ってのはその程度の実力か?」

『っ、ぐ……っ。』

「…言うことがねぇならとっとと逃げな。はっきり言って邪魔なんでな。」

 言うだけ言ったヴェーツェルはガトリングガンをアダマスから離すとトーラス側ネクストのほうへ向く。二機はこちらのやり取りに仲間なのかどうか状況を図りかねていたのか、いまだ攻撃はしてきていない。レーダーを見て自分の背後からアダマスが離れるのを確認したヴェーツェルは小さく笑みを浮かべる。

「邪魔なのはいなくなった……さぁ、やろうぜ!!」

 最初に仕掛けたのはヴェーツェルだった。エアレイドを大きくジャンプさせると両背に装備されているコジマミサイルを発射する。コジマミサイルはその名の通りミサイル内部へコジマ粒子を圧縮内蔵し発射される大型ミサイルである。その破壊力はコジマキャノンにも匹敵しており、着弾点で大規模なコジマ爆発を引き起こす。

 左右からそれぞれ一発、計二発がそれぞれトーラス側のネクスト二機を追いかける。それを薄紫のネクストは後退しつつ左手のレールガンで迎撃しようとするが損傷して機能低下を起こしている腕では照準精度が下がっているため撃ち落すことが出来ない。代わりに後方についていた赤銅色のネクストが左腕に装備されたエアレイドと同じガトリングガンで迎撃を開始する。

 だが前にいる薄紫のネクストを気遣い射線の確保が遅れてしまったためか、一発目は何とか撃ち落せたがもう一発は二機の目の前でようやく撃墜した。そして起こるコジマ爆発。同時に周囲に拡散した大量のコジマ粒子が二機のPAに干渉し、一気に自然減衰を招く。 悲鳴を上げるように数回、稲妻のようなものがPA表面を走ったかと思えば、次の瞬間に完全に維持できないレベルにまで低下した。

 ヴェーツェルはそれを待っていたとばかりに、エアレイドを一気に降下させ、自分のPAも自然減衰が起こるコジマ汚染エリアに入るのも気にせずに接近する。同時に両腕のガトリングガンが跳ね上がり、薄紫のネクストへ向け頭上からの攻撃を仕掛け始めた。

 これが彼の戦い方だった。いくら防御性能が高いネクストと言えどPAがなくなれば残りは装甲の耐久力だけ。コジマミサイルによるコジマ爆発で汚染され、自然減衰でPAを剥がされてしまってはその優れた防御能力も半減させられているといってもいい。その状態ならたとえ貫通性能が低い武器であっても、有効に相手にダメージを与えることが出来るのだ。

 だがそれは同時に、自分自身の防御能力であるPAも自然減衰を招いてしまう危険もあった。現に今、ガトリングの有効射程距離へと接近したエアレイドのPAもすさまじい勢いで減衰し、先ほどの二機と同じように消滅してしまうまでになっている。軽量型ネクストであるエアレイドにとって、それは盾を捨てた捨て身の戦い方にも近かったのだ。

 一歩間違えれば反撃で自分自身にも致命傷を負いかねない攻撃。だがヴェーツェルに迷いはない、むしろこの危機的状況さえ楽しんでいるかのような笑みを浮かべているのだ。ガトリングガンの集中砲火を叩き込まれている薄紫色のネクストが大きく後ろへと下がりながらバズーカを放ってきた。だがその程度の単調な反撃など、ヴェーツェルにとって避けることは容易である。だがもう一機の放ってきた大口径のスナイパーライフルは別だった。

 左側面へ回りこんでいた赤銅のネクストは紫色のネクストから引き剥がすように、こちらへと突撃しつつ連続してトリガーを引く。左肩へ被弾した衝撃で揺れるコックピットの中、小さく舌打ちしたヴェーツェルはすぐにまたエアレイドを大きくジャンプさせ下がり、距離をとろうとする。

 その間もガトリングは執拗に薄紫のネクストへと放たれるが、赤銅のネクストは盾になる様にその前へ割り込んで自らの機体でガトリング弾の雨を受けた。同時に発射されるミサイル。数が多くすべてを回避するのは難しい、流石にPAがない今の状態で被弾すれば損傷も馬鹿にならないと考えたヴェーツェルは攻撃の手を迎撃に向けようとガトリングガンをミサイルのほうに向けつつ後退、冷静にすべて撃ち落すと着地した。

「へっ、なかなか度胸があるじゃねぇか、あのリンクス。だが……?」

 また攻撃を再開しようとしたヴェーツェルだったが、そのカメラに映ったものは紫色のネクストを抱えつつ背中を向け離れていく赤銅のネクストの背中。それを見たヴェーツェルはやられた、とばかりに大きく舌打ちした。相手は最初からこちらの攻撃を見て、この手を使って逃げることを考えていたのだろう。あそこでミサイルの迎撃に気をとられてしまった自分のミスだと言ってもいい。

 気を取り直して追撃をかけようとしたその時、一本の通信チャンネルが開かれる。相手は自分に依頼を出したフォルテだった。

『そこまででいい、ヴェーツェル。こちらのリンクスは今帰還した、お前も戻って来い。』

「っ、何言ってやがる、こんな中途半端に終われるかってんだ。俺はまだやるぜ。」

『ほぉ?あの大口を叩いている割に逃げられてまだそれだけ言えるのか?』

「っ!……てめぇっ……ちっ!」

 どこかで見ているような口ぶり。いや、見ていたのだろう。だが周囲を見回しても姿は見えないし、レーダーにも反応はない。自分にこれ以上それを確かめる術がないとわかるとヴェーツェルは苛立ったようにもう一度大きく舌打ちして、機体を反転させた。




 輸送機へと回収されたメテオ・ホエールとflying polyp。機体のコジマ汚染へ簡易洗浄が終わり、ネクストから降りたΣはすぐにflying polypに駆け寄るとコックピットを開放する。中にはぐったりとしたフェローチェの姿があるが、見る限り外傷は見当たらない。機体の損傷具合から見てそれは不幸中の幸いといえるくらいだ。

「おい……おいっ。」

 そっと彼女の肩に手を掛けゆするが、反応がない。その瞬間、Σの心臓は一瞬早くなるのを感じる。焦って、手に汗が滲み出してくるのがわかる。もう一回声を掛けながら揺らしてみるとフェローチェはピクリと体を震わせ小さく呻き声を漏らし、そしてすぐに大きく咳き込んだ。

「っ、ごほっ!?ごほっ、ごほっ!!っ……はっ…はぁっ…っ、ごほっ!」

「大丈夫……か?」

「っ……Σ…さん?…ええ、なんとか…。」

 まだ少し苦しそうではあるが、笑みを浮かべてみせるフェローチェに小さくため息を漏らすΣ。そこへそっと頬にフェローチェの手が触れた。そのままやさしく、彼の表情を探るように動く手。

「……ふふ…Σさんでも慌てる時があるんですね。初めて会ったときも、戦闘中もそんな様子を見せなかったのに。」

 その言葉で彼は自分自身でも意外だと思うほどに、自分が感情をこぼれさせていることに気がついた。過去にアスピナの被験体にされなくしたはずだった感情が今、確かに感じることが出来た。そうして気がつけば頬を伝っているのは、一筋の涙。

「…?Σさん…泣いてるんですか…?どこか怪我でも…?」

「っ…いや…。何でも…ない…。よくわからない……でも、なんでもない……んだ。」

 彼の涙をフェローチェの指が優しく掬う。その手をそっと握り締めたΣは、今自分の顔に浮かんでいた微笑を感じ取られるのが恥ずかしかったのかもしれない。周囲からは救護スタッフが近づいてくるあわただしい音が聞こえていた…。




あとがき
 今思いますが…意外とここまで進んだ中で自分とこのリンクスと参加者のリンクスが関係を持ってきたと思うので少し整理してみようと思いました。(この話完成時のです)
高感度…×=嫌いなほう △=普通 ○=仲がいい、好感

・ペルソナ
レオン・マクネアー=やかましい人 △
グラム=歴戦の戦士 △

・アネモイ
ダンテ=むちゃなやつ ○
マッハ=面白いやつ ○
グラム=つわもの △
ユウ=まだまだ若い △

・勇
フェル=友達 ○
マッハ=女(の子)心がわかってない(ぇ △
ダンテ=きれいな人 △
オーエン=おじさん △

・リュカオン
リディル=出来るやつ、プリン(ぇ ○

・タスク
マッハ=すけこまし? ○(半分は星鈴の評価)

・フェローチェ
Σ=頼れる人 ○

ここからはNPCです…紹介分もそのうちBBSで載せましょう
一応主に搭乗した面子だけ…。

・フォルテ(独立組織リーダー)
ヴェーツェル=気にはいっている ○

・イセラ(オーメルオペレータ見習い)
グラム=すごい人、尊敬? ○

・リゾルート(独立組織)
レオン=見所があるが、まだ若い ○
ヴェーツェル=あまり好きになれない ×

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