『L'HISTOIRE DE FOX』
 四話 不安 -威力偵察-

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 滑走路へと着陸する衝撃に静かに目を開ける、どうやら目的地に着いたらしい。ゆっくりと体を起こすと座席の上にある棚から私物などが入ったトランクを取り出す。しっかりとした黒い皮で出来たそれは一見重そうに見えるが実はそれほどではない。 それだけ自分の私物が少ないということだ。

 早速輸送機の横入り口に階段が取り付けられると扉をくぐる、頬を撫でる風に空を見上げると生憎と曇っていた。まるで自分の機体のような色だ・・・そう考えていると丁度輸送機後方から一体のACがトレーラーに乗せられて下ろされるところなのが見えた。

 鳥の脚のような逆関節をもった灰色の機体、自分の愛機アマディーオである。この前、パーツのオーバーホールと自分用の調整を終えたばかりの機体には装甲に傷一つない。そのついでに自分は休暇を申請したのだが、予定よりも短い期間しか取れなかったために直ぐにこの基地へと仕事で回されることになってしまった。

 まぁ、少しは自分の好きな料理を一日中堪能し、ゆっくりした時間を過ごすことができたりして満足はしているが。

「・・・専属とは多忙なものだな。」

 小さく愚痴るように呟くと階段を降り出す。降りたところにまっていたスタッフがこちらへと強張った様子で一礼する。おそらくは原因は自分にあるのだろう・・・お世辞にも自分が優しそうに見えるとは自分でも思っていない。なるべく顔を怖くしないようにするが、それほど器用な人間でも自分はない。

「ご苦労様です!! 機体のほうはハンガーへ回します!!・・・が・・その、・・・宜しいですか?」

「・・・ああ、頼む。」

 短く答えるとスタッフは焦ったようにまた一礼してACのほうへと急いで走っていく。・・・多分表情を和らげようとしたのが逆に変に力が入って、また自分は顔を強張らせてしまったのだろう。悪いことをしたと思いつつ、もとりあえず自分は基地施設へと歩き出した。

 施設格納庫に面したパイロット用待合室。部屋の一角には格納庫内部の様子を写すモニターが備え付けられており、そのほか休憩のためのソファーやコーヒーなども置かれていた。 そこでしばらくと待機していると一人の女性が入ってくる。同じ専属ACパイロットのトレイターだ。彼女は自分よりも年下だが専属としては先輩だといってもいい。

「アンダンテ? どうして此処に、休暇だったはずなのに。」

「・・・急に予定が変った。」

 短く答えると格納庫の様子を写すモニターへとまた視線を戻す。そこには彼女の青いACソリューションと並ぶ自分の機体が映し出されていた。しかし一つの施設に専属二人がそろうというのもなかなか珍しいことだった。こうして彼女と会うのも何か大きな作戦があるとき以外はそうそう無いことである。ただの偶然なのか必然なのか・・・つい軽く悪いほうに物事を考えてしまう自分がそこにいた。

 しかし、そうして次のことを、最悪のパターンを常に考えてきたから自分は生き残ってこれたといっても過言ではないと考えている。常に何かに備えずに戦うものほど長生きは出来ない・・・。その点はトレイターのことが少々気がかりではあった。彼女は特に正義感が強く、考えるより体が動くタイプの人間だと自分は思っている。だからこそ・・・。

「・・・? どうかしたのかしら?」

 いつの間にか彼女の顔を眺めていた自分に、それに気がついたらしい彼女が話しかけ来たことでようやく気がついた。なんでもないと小さく言いながら目を閉じる。そんな姿に彼女も首をかしげるだろう。そういえば彼女に渡すものがあった、今度何時会えるかわからないが作っていて、運よく会えてよかったと早速渡そうとしたタイミングで急に電子音のベルが部屋に鳴り響く。部屋の入り口にある端末には血相を変えたスタッフの顔が浮かび上がっていた。

「緊急事態です!!ミラージュに雇われたAC二体がこちらへと向かっていることがわかりました!!」

 ある意味、最悪のタイミングと最高のタイミングが重なったといえる。自分のものは彼女に渡すタイミングを失ったが、この基地には丁度専属ACが二体いる。迎え撃つ面で守備隊のMTの被害を増やさなくてすむ、と考えているうちにトレイターが部屋を飛び出していくのが見えた。彼女はミラージュを親の敵のように敵意を向けているのは自分でも知っていたが・・・熱くなりすぎ、直感だけで行動する。それも、自分が彼女に感じる心配の一つだ。後追うように自分も愛機へと走り出した・・・。


/2
 
 ヘリが目的に近づくにつれてただでさえ少ない口数がお互い少なくなっていく。黒い輸送ヘリの下方にぶら下がれうように固定された二機のAC、ソイルのブルーテイルにクフィーのパンツァーディンゴ。以前の戦いの後すっかり修復が終わった彼女の機体はまだ塗装が真新しい。

「・・・見えてきましたね。」

 ついに耐えられなくなった自分が先に口を開いた。視線の先には目標地点であるプロフェットの基地が見えてきていて・・・さすがにこちらの存在に気がついているのか、指差しながらあわただしく人が走っているのをメインカメラが倍率を上げて捕らえた。次に格納庫らしい場所へと頭部を動かした瞬間、開いていくのが見える。同時に出てくるのは青いAC。

『せ、専属ACだと!?聞いていないぞ!! れ、レイブン、すまないが此処で切り離す!!後は頼むぞ!!』

 慌てた様子で輸送ヘリパイロットから通信が入ってくるとこちらが答えるよりも早く機体をロックしていたアームが外される。突然のことで驚きはしたが、それよりも機体を制御して着地するのが先決である。ブースターをふかすとスピードを緩めつつ。クフィーも同様で、こちらよりも重量があるせいか地面へと脚をめり込ませながらほぼ同時に着地した。

『まったく、なんだ急に・・・ッ!?』

 さすがに彼女も驚いたのだろう、パイロットに愚痴でも言おうとした瞬間上を見上げる徒歩の尾に包まれて墜落してくヘリが見えた。同時に、高速でこちらに接近してくる青いAC。左手に持ったスナイパーライフルからは今さっきヘリを狙撃したのだろう、硝煙が漏れている。

 さっき確かにヘリのパイロットは専属ACだといっていた、ならば相当の実力者なのだろう。こちらを見つけると即座に右手のマシンガンとともに攻撃を仕掛けてくる。それをお互いブースターを使ってジャンプすると回避した。しかしブルーテイルに比べパンツァーディンゴは重量級ゆえに動きが鈍い。数発が装甲を叩き、すかさず盾を構えながらの反撃に入った。

『専属ACか、さぞ強いだろうな・・・相手には申し分ない!!!』

 パンツァーディンゴがスナイパーライフルでの反撃を加え、それを回避した青いACも攻撃目標をそちらへと絞ったようだ。お互いがお互いの得意な距離を確保するためにブースターを使いながら基地の敷地へとなだれ込んでいく。しかし両手に持っている青いACに比べ、防御を重視してパンツァーディンゴはだんだんと手数の違いに押されだしていった。

 さすがは専属AC。このままでは不味い、まだこちらに数的な優位を確保しているうちに撃破しないとその強さは厄介である。直ぐに二人を追うように機体を走らせると青いACに向けてマシンガンを放った。だがその攻撃が届く前にその射線上へと割り込んでくる影がもう一体。今度は灰色のACが青いACの盾になるように飛び出してきたのだ。

 それは知っているACだった。少し前までアーク所属のレイブンで、周囲から『盾』と呼ばれるその機体は左手に装備されたエネルギーシールドが光を生み、弾丸をことごとく弾き飛ばしていく。同時に右手に持っているライフルがこちらへと向けば、お返しとばかりに弾丸を叩き込んできた。激しく装甲が叩ける衝撃に溜まらず建物へと機体を走らせる。

『く、こいつら、二体もいたのか!!』

 こちらが遮蔽物に隠れてしまえば、灰色のACが今度は青いACをサポートするようにパンツァーディンゴに二人係の攻撃をはじめ。おそらく先ほど自分が考えたのと同じことを考えているのだろう、今の状況でお互い僚機を失ったほうが圧倒的に不利になる。

 すぐさまこちらも飛び出すと青いACに攻撃を試みる。しかしそれはまた灰色のACに防がれてしまった。ならば・・・こちらから先に倒すだけ。ブースターを全開に距離を詰めるとマシンガンで牽制しつつブレードを展開して切りかかる。だが灰色のACにその攻撃が届くことはなかった。眼の前から消えたのだ、しかも急に。レーダーを見れば自分の真上に青いマーカーが存在している。

「上か!? っ、ぐぁっ!?」

 頭部を上に向ける前に、真上から相手の肩に装備されたトリプルロケットが襲い掛かってくる。続いて肩へと何かがぶつかる感覚、それは相手が自分の上にのってきたのだ。そのまま足場にするようにして蹴り飛ばすと離れていき。逆関節特有のジャンプ力と俊敏性を生かしたその動きはこの近距離で凄まじい威力を発揮した。

 再び着地するタイミングを見計らって攻撃を仕掛けるが左腕とエクステンションのエネルギーシールドによってたいした効果を与えられず。代わりに急接近しながらの中型ミサイルによる手痛い反撃を受けることになった。

 直撃を受けた左肩のエクステンションが粉々に砕け散る。さっきはサポートに徹していたと思った灰色のACは、単機でも凄まじい戦闘能力を発揮してくる。搭乗者の実力は確実に自分を凌駕していることは言うまでもない。

『あきらめて撤退しろ。・・・今ならまだ間に合う。』

 一般回線で相手のACからの通信が入ってくる。それにクフィーは舐めるなと怒りの声を上げたが青いACを相手にするので精一杯の様子だ。現に左手のシールドは度重なる攻撃で崩壊し、パージしてしまっている。収納されたブレードを取り出しつつ、インサイドの吸着地雷で攻撃を食らわせて相手の左腕にあるスナイパーライフルを破壊するが、同じように相手も収納武器のブレードを取り出したようで射撃戦から接近戦へと変化していった。

「・・・相棒があの様子ですから、こっちも引けませんね。 一応任務完了時間までもう少しですから・・・仕掛けさせていただきます。」

『・・・そうか・・・。では全力で相手をしよう。』

「ええ、では・・・・・・あまり舐めるな。」

 すうっと深呼吸を一つ、意識を集中すると機体と一体化になるような感覚がじんわりと伝わってきた。強化人間の能力は機体の制御を普通の人間以上に行うことができる。故に機体各部へのエネルギー供給でさえより正確に、思いのままにコントロールできるのだ。それはまるで、本当に自分がACと一体化するようななんとも言えない感覚。同時に自分の感情の一部までもがそれによって失われたような嫌な感覚もしてくる。

 ブースターへのエネルギー供給を強めるイメージを浮かべると即座に相手に急接近する。そのままマイクロミサイルを残された右のエクステンションの連動ミサイルとともに放ち。ある程度の近距離で放たれた11発の小型ミサイルはまるで包み込むように灰色のACに襲い掛かる。

 灰色のACはそれを後ろに下がるとコアにある迎撃用の機銃で打ち落とし始めた。しかしそれは半自動の迎撃装備であり、撃ち落すことが出来ないミサイルも自然とでてくる。彼はそれをエネルギーシールドで防御するとまた後ろへと下がった。追撃を警戒するためだ。

 目の前に広がる迎撃されたミサイルと着弾による黒煙。それを切り裂いて飛び出してきたのはブルーテイルではなくエネルギーキャノンの光弾だった。シールドを展開したままである灰色のACはそれを防御するが凄まじい衝撃が襲う。その威力は先ほどのミサイルとは比較にならないほどのものなのだ。それに耐え切れなかった左腕のエネルギーシールドが吹き飛ばされ。

『ぐぅ、やるな・・・だが!! キャノンを構えたのは失敗だったな!!』

 灰色のACがロケットをまだ残る煙に、その向かっているだろうACに向けて放つ。二足のACは強力なキャノンを使う際どうしても反動に耐えるために膝をついた構えの体勢をとらなければならない。そのために身動きが取れないのだ、そうして確かに命中する手ごたえはあった。しかし、また煙を切り裂いて何かが飛び出してくる。それは右腕のないブルーテイルだった。しかも左肩武装のキャノンはいまだ展開されたまま。

 彼は強化人間である、だからキャノンは構えなくても動きながら撃つことが可能。だが今回はあえて動かなかった。そうすることで、黒煙という目くらましを使って一気に接近する作戦を取ったのだ。OBがあればもっと違っただろうが、あいにくブルーテイルには装備されていない、だからこそ苦肉の策。反撃を右手で防御しつつ、このタイミングを待っていた。

 瞬間的機動が得意な灰色のACもこれには驚いたのだろう。一瞬反応が遅れるそこへもう一発。至近距離でのキャノンを叩き込んだ。灰色のACは右腕を肩から吹き飛ばさてよろめく、が・・・。

『ふっ、まだ、終わっていない!! 舐めるな!!』

 不自然なその体勢からブースターで機体を無理やりに前進させてくる。こちらもスピードがついていたために激しい、AC同士が衝突する衝撃がお互いを揺さぶる。そうして、彼はキャノンの射程距離の内側に入り込んできた。しかも、その状態から残された左肩のインサイドハッチが開く。同時に射出されたのは浮遊地雷だった。

 自分も無茶だと思うが彼もそれ以上の無茶だ。密着している状態からそれを放てばどうなるか・・・子供でもわかる状況だろう。お互い、再度激しい衝撃に襲われながら吹き飛ぶ。一瞬飛びかけた意識を必死で押さえ込みながら、倒れそうなる機体を制御すると何とか踏みとどまった。

「うぐッ!?・・・ッ、強い・・・。」

 急いで機体の状況を確認する。直撃した地雷によってコアには大きな損傷が出来ていた。その上その衝撃で残された左腕にも不具合が出始めている。相手もそれは同じだったようで、コアの装甲が激しく捲れて内部から火花を散らしている。お互いこれ以上の戦闘は難しい・・・しかし出来ないわけではない。残された武装をお互いに向けた瞬間、電子音が鳴り響いた。

 作戦終了の時間を経過したことを知らせるもの。それはクフィーのほうにも聞こえているはずだった。ゆっくりと照準を灰色のACからそらしながら。

「クフィー、此処までです・・・撤退しますよ。仕事は果たしました・・・。」

 一般回線であえて彼女に通信を送る。それはまるで相手のACにも撤退を教えているようだった。彼女もそれに答えると吸着地雷を足止めのために放って自分と一緒に離脱を始める。そこへ青いACはまだ追撃しようとするのだが、それを灰色のACが止めるように立ちはだかるのが見えた・・・。


/3

 格納庫へと帰還すると、自分と同時にACから降りるトレイターが見えた。どうやらミラージュに依頼を受けていたあのACを逃したのが悔しかったのだろう少しだけ疲れたようにため息を漏らして。そこへ近づくとぽんっと、肩を叩いて。彼女はこちらへと振り合えるとなんともいえないような顔をした。理由は自分が彼女の追撃を止めたからだろう。

「・・・どうして止めたの?」

 小さく彼女が不機嫌そうな声で話し掛けてくる。自分は何も言わずに彼女に向けてパイロットスーツのポケットから取り出したものを投げた。それを少し驚いたようにしつつも何とかキャッチした彼女はまじまじと見つめる。それはクッキーだった。でも市販のものとは違う、綺麗にラッピングされた透明な袋の中にはアイスボックスクッキーが見え。彼女はそれに首をかしげてこちらに再度視線を送ってくる。

「・・・俺が作った。」

 そういうとかなり驚いた顔をしてもう一度手の中にあるクッキーを眺める。綺麗でいて可愛くラッピングされたそれはあまりにも彼のイメージとはかけ離れたもので。

 「・・・似合わない。」

 っと、やっぱり言われた。それに小さく、自分でも珍しいと思うが苦笑を浮かべるとそっともう一回、彼女のほうに向きなおして肩にぽんっと手を置くとそのまま通り過ぎていった。そうして彼女に背を向けたまま。

 「・・・数少ない仲間がいなくなるのは困る・・・それに自分ではあまり甘いものは食べないのでな・・・。食べてくれる人がいなくなるのも困る・・・。」

 静かにそれだけを告げるとしばらくお互いに言葉が出ないまま、格納庫のあわただしい作業音だけが聞こえてくる。そのうち後ろでは彼女が袋を開ける音が聞こえ、一口食べる音が聞こえてきた。

「・・・意外と上手ね。」

「・・・意外とは余計だよ。」

 振りかえれば彼女は小さく笑みを浮かべている。それに自分も小さく笑みを浮かべて答えた・・・おそらく今までで一番まともな笑みだろう。大きな大戦が近づきつつある日々の中、まだ自分達がこうして笑えることが嬉しく思えた・・・。



登場AC
ソリューション &Ls005g2w00wE00wa00k02B0ao0HzUi0yF5OWk3n#
アマディーオ  &LI500f2w03w00FQ00aw02F2woa1iq4EgrM0ri1W#
ブルーテイル  &LG00582w05G000I00as02FE0oa20c3J2Mo02hxj#
パンツァーディンゴ  &Lq01gj00E1g0a1I02wyw09E0yw3z9vAhI3kqg5s#

あとがき

今回初めてほかの方のレイブンを出させていただきました。少々難しく不安が多いですがこうやってほかの方たちとも交わっていきたくおもいます。後微妙に長くなってすみません。では〜。

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