Armored Core Insane Chronicle
番外編
「喫煙室の風景」
12月6日

 スターリングラードにあるアリーナ、その観客席にミカミは座っていた。彼の視線の先の大型モニターでは、「メイガス」と「ウォーロック」の戦いが繰り広げられている。場所は標準的なARENAで行われていた。

 メイガスが補助ブースターを使って滞空し、高所からスナイパーライフルで狙撃。対するウォーロックは攻撃できず、ただ攻撃を回避するのみだ。ウォーロックの武装は拡散バズーカとブレードのみ、とてもではないが遠距離に対応できそうに無い。

 高空に佇み、一方的に攻撃するメイガスにウォーロックのパイロット、ディーは痺れを切らしたらしい。ブースターを吹かし、メイガスへ向かって飛んだ。二体の距離が近付く。メイガスがスナイパーライフルを中てるが、ウォーロックは避けずバズーカを撃ち返す。メイガスはホバーブースターを解除し、回避行動を取るついでに地上へと落下した。しかし、拡散された弾の一発が命中し機体を揺らした。

 後に続き、ウォーロックも地上へと落ちる。エネルギーは残っていないようだ。その証拠に、着地の際にブースターを吹かしていなかった。二機の距離は近い。

 ウォーロックがバズーカの狙いをつけようとするが、硬直のためうまく動かせないでいると、メイガスがCR−WH79M2の銃口を先に向けた。マシンガンの銃口が火を噴く。硬直、その上エネルギーも無いウォーロックは避けれずに全弾をその身に受けた。あっという間にウォーロックの全身から火花が散り、試合終了を告げるサイレンが鳴り響いた。

 試合がメイガスの勝利で終わり、大型モニターがARENAの光景を映すのをやめ、CMを流しだした。ミカミは腕時計を見て、次の試合までの時間を確認すると席を立った。

 廊下に出て、辺りを見回す。だが探している物は無い。仕方なく、目当ての物、というよりは場所を探すために歩き回った。

 レイヴンの控え室にほど近い、一般人はあまり来なさそうなところに探している場所はあった。円筒形の灰皿を真ん中に据えた、ガラスで囲まれた一室、喫煙室だ。その中には、ミラージュのフライトジャケットを着た男性と、眼鏡を掛けた青年の姿があった。

 その中にミカミも足を踏み入れ、煙草を取り出して火を吐けた。先にいる二人は、入ってくるまでは分からなかったが、二人とも同種のオーラとでもいうべきような物を放っていた。

 ――同業者か。

 眼鏡の青年の方は多分レイヴンで、大方試合を控えているか、終わったかのどちらかで一服しているのだろう。こちらは大して気にもならないが、ミラージュのフライトジャケットを着た男は一体何者なのだろうか。放っている雰囲気からしてレイヴンのようだが、それにしてはミラージュのフライトジャケットを着ているのは少々解せない。

 大抵のレイヴンは肩入れしている企業があるものの、立場上中立をアピールする必要がある。そのため、ミラージュのロゴがでかでかと入ったジャケットを着るなんて真似はしない。

 本当に誰なんだろうか、と悩んだところで始まらない。ここは喫煙室、肩身の狭い喫煙者同士話すのも良いじゃないか。ミカミはミラージュの男性の方を見る、向こうも視線に気付いたようで、目が合った。

「何だ?」

「いえ、お仕事の方は何をされているのかなと思って。レイヴンみたいですけど、それにしてはミラージュのフライトジャケットを着ているんで、一体何をしている人なんだろうなって」

「その事か」

 言いながら、男性はジャケットの胸の部分を指差した。そこにはミラージュのロゴが入っている。よく見れば、そのロゴの下にM.Aと文字が書いてあった。

「ミラージュ専属ですか?」

「あぁ。つまらない仕事だ」

「という事は、あなたがあのグローリィ? インテグラルの」

 横を見れば、眼鏡の青年がフライトジャケットの男性、グローリィを見ていた。今の声は彼のものらしい。

「そうだが、君は?」

「失礼しました。俺はシロウっていいます、分かってると思いますけど、レイヴンです」

「あんたもか。実は俺もだ、ミカミと名乗ってる。変わったこともあるもんだな、三人ともAC乗りなんて」

 ミカミが名乗った途端、シロウは目を見張った。ミカミは自分の顔に何か付いているのかと、手で触れてみるが、何も付いてはいないようだ。

「あなたが、あのミカミさんですか……いや、凄い人ばかりですね、ここ。恐縮しますよ」

「何をそんなに謙遜する必要がある。君だって、三〇位以内にランクインしているじゃないか、それだけでも充分凄い」

「いや、でも俺はまだまだですよ」

 シロウが言うと、グローリィは口元だけで笑い、ミカミの肩を叩いた。

「だそうだ。君もうかうかしていられないな、ミカミ君。それじゃあシロウ君も、私はそろそろ失礼するよ」

 それだけ言い残し、グローリィは出て行ってしまう。後にはミカミとシロウが残される。シロウの手元を見れば、彼の煙草はもう短くなっている。シロウは一口吸うと、灰皿に煙草を押し付けた。

 外に出ようと、シロウはドアに手を掛け、ミカミを見た。

「俺は試合の準備があるんで、もう出ます」

「あんたの機体は何ていうんだ?」

「ハウリングです」

「分かった。ハウリングだな、今日一日はアリーナにいるつもりだから、見させてもらうよ」

「えぇ、どうぞ」

 シロウは意味ありげな微笑を浮かべてから部屋を出て、一般人の立ち入りが禁止されている区域へと入っていった。その先にあるのは、レイヴンの控え室とACの格納庫だ。

 シロウの去っていった方向をを見ながら、煙を吐いた。

 バルカンエリアに来たときはどうなるものかと不安だったが、どうやらここも中々に楽しそうな場所のようだ。そう思うと、自然にミカミの顔は綻んだ。


登場AC一覧 ()内はパイロット名
メイガス(フィアー)&NC104chw03yc0lZl00k5l02F0aM1000sA0fE0E#
ウォーロック(ディー)&Nw0ybF1y82Mk0l868ws6hM2A0as00010e0f20K#

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