『L'HISTOIRE DE FOX SS』
 -銀狼と、聖女と、神と、(後篇)-

/1

 情報屋仲間からの提供されたもの。それはこちらへと戦力を送ってくる周辺のミラージュ基地の情報だった。自分達が防衛しているこのクレスト基地の周囲にはミラージュの基地は一つしかなく、今こちらを攻撃してきているのはそこ基地からの部隊であるという。しかもこの前の戦闘で戦力を失い、補給を待っているために今は防衛部隊もごく少数しかいないともいう。つまりは攻撃するにはもってこいのタイミングであり、その基地さえ落とせばまたクレストが防衛戦力を整える時間稼ぎが可能であった。

 そこで皆で協議した結果、提案したのはその基地への攻略作戦であった。こちらからヴォルフ、ヘルメス、アムシスの3名がセオリーどおり夜明け前に強襲し防衛戦力と主要施設を破壊という作戦で、クレスト基地守備隊もあっさり賛成を唱えてきた。それはこの基地防衛に回せる戦力の確保に、クレスト側も必死である証拠であったのかもしれない。ACの修理が完了しだいヘリへと搭載、すぐさま任務を実行すべく3人は基地を旅立った。

 ちなみにもう一人のメンバー、ルザルアはもしもの場合に備えての基地防衛を続けるということで決まった。これは高機動戦闘を得意とする彼女のACは耐久力も低く、もしもの突発的事態や急な増援に対して長時間の戦闘、撤退時の遅延戦闘が難しいからでもあった。しかし、あのじゃじゃ馬娘がそれに素直に従うわけでもなく、結局はアムシスがなんとか言いくるめてくれたのは出撃間際のことだった。

「ったく……ただでさえ時間が鍵を握る作戦なのに。」

『まぁ、そういってあげないで下さい。ルザルアも心配しているのですよ。』

『そうそう。ってか、少しは静かにしろよヴォルフ。情報どおりの位置ならもうちょっとなんだろ?』

 大型物資の搬送可能な大型ヘリ、クランウェル。この機体はACやMTといった兵器も複数機同時に輸送可能であり、あらゆる戦場に柔軟に対応可能な優れたものである。そのため、三大企業を初めとする各社の輸送戦力として幅広く採用されていた。その下方にぶら下がって運ばれているACヘビーヴォルフの中でぼやく自分に対してアムシスが苦笑交じりにルザルアのフォローをするように話しかけてくる。それにあわせたようにヘルメスも自分と同じ少し苛立った声でだが混じってきた。彼も自分もアムシスほど我慢強いほうではなく、1時間もACコックピットの中でじっとしているほど、気は長いほうではないのだ。

 クランウェルは他の輸送大型ジェット機とは異なり、ヘリ下方にぶら下がる形で物資を輸送される。これはAC回収時にも、いちいち着陸せずに回収が可能であることから容易かつ迅速に離陸を行うことが可能であり、採用されている要因の一つだった。しかしこちらからすれば余り良いものではない。装甲もなくむき出しの上にこちらは身動き一つ取れず、もし攻撃されてもパイロットが切り離してくれなければそのまま恰好の的になってしまうのだ。しかもコックピットから降りることが出来ないのも自分にとっては余り良いものではない。

 しかし、その我慢もようやく開放されるときが近づきつつあった。

『目標ポイントに到着、レイブンは全員降下姿勢に入ってください。』

 ヘリパイロットの通信に頭部を動かすと下に目標のミラージュ基地がぼんやりと見えた。しかし時間も深夜から明け方に移り変わり始める前であり、星も出ていないために暗くてはっきりと状況が確認できない。そのために直ぐ頭部センサーへと暗視スコープの起動をさせると画面は緑色の映像へと移り変わる。ACの頭部は物によって様々な機能を搭載しているものが多く、それは戦場を選ばないACという存在においては様々な要素が求められるから必然なことであった。

 着地地点を確認すると同時にヘリパイロットがロックを解除する。一瞬の浮遊感と、直ぐにやってくる落下感覚。はっきりとしないメインカメラの暗視映像の中で一気に迫ってくる地表に思わず背筋がゾクッとする。何とかギリギリのところでタンク脚部の底面ブースターを噴かして落下スピードを緩めることに成功するも、やはり重装型ゆえに足りなかった様子でドシンっと大きな音を立てて着地した。コックピットへと響いてくる衝撃と、そのために肩へと食い込むベルトに歯を食いしばる。

 ヘビーヴォルフとは異なり、重量級といえど二足であるエメラルドタブレットはこちらよりも高出力の背面ブースターを装備しているおかげで滑らかに着地して見せる。しかしリヴァイアサンは若干バランスを崩しつつ、ヘビーヴォルフと同じように地面へと脚をめり込ませて着地し。

「アムシス、大丈夫か?」

『ええ、大丈夫ですが。……やはり夜間戦では暗視スコープがないときついですね。』

 リヴァイアサンの頭部はCR−YH70S2でCR−H69Sを改良した試作型であり性能は大きく向上している反面、元からついていなかった暗視スコープやレーダー、生体センサーなどはもちろん搭載されていなものであった。つまりこの暗い中ではかなり視界が制限されてしまうことになるのだ。

『大丈夫か?……って、心配して話してるほど余裕ねぇよなぁ。ヴォルフ、アムシス、くるぞ。』

 その話をしている間もミラージュ基地守備隊はこちらへと接近してくるのがレーダーに映し出されている。数は18機と情報よりも多いようだがエメラルドタブレットは直ぐに迎撃へと動いていた。建物の影からこちらへと接近してくる機影に照準を合わせると直ぐにトリガーをひき、右腕のバズーカを放つ。

 こちらへと接近してきていたのはミラージュ製のガードメカU03M−TERMITEで、無人小型の地上用ガードメカであり脚数を増やすことで走破性と機動力の向上を目指したものである。しかしそのために構造が複雑化し、その大きさでは装甲強化も難しいために耐久力はかなり低い。武装も小型レーザー砲とマシンガンだけという脆弱なものであり、戦闘力では一般兵器ならともかくACとは比べるまでもないものであった。

 エメラルドタブレットの放ったバズーカ弾はそのままこちらへと向いたガードメカに吸い込まれるように命中、あっさりと粉々に砕け散らせる。しかしその後方からはまだ別のガードメカが現れ、まるで群がってくる虫のようにこちらへと集まり始めていた。

『ヴォルフはアムシスと組め。こっちはこっちで好きに暴れてひきつけるから、後ろ頼むぞ。』

 ヘルメスは手早く体勢を立て直すために前に出る。自分とアムシスを組ませるようにしたのはやはりリヴァイアサンに暗視スコープがない分、普段通り発揮できない機動力をヘビーヴォルフの装甲と火力の両方とあわせることで動かずともサポートしあえるようにするためだろう。それを理解するとアムシスは直ぐにヘビーヴォルフの背後に着き、肩のツインチェインガンを構えた。

 援護を意識して装備されたこの武装は高機動で前衛に着くルザルアのセイレーンのためだと以前アムシスは言っていた。この武装は火力と連射性に優れる反面、命中精度が低く距離によって弾頭が拡散してしまうため接近戦で使わなければ大ダメージは狙えない。が中距離での散らばった弾頭は攻撃力を持つだけではなく、相手の行動を牽制するものにもなるのだ。

 前に出たエメラルドタブレットに攻撃を集中しようとレーザーやマシンガンを乱射するガードメカ達。ヘルメスは左腕のエネルギーシールドを展開すると大きく跳び、真上からバズーカを叩き込んでいく。だが一撃でガードメカは粉々にする威力を持つバズーカも連射性に劣ってしまい、どうしても着地のタイミングに攻撃を集中されると厄介であった。アムシスはそのタイミングでチェインガンの弾頭をガードメカたちは降り注がせ、次々と撃ち抜いていく。

 自分も肩武装のカルテットキャノンを連射して次々とガードメカを打ち抜いていくが、やはり圧倒的な展開である。もともとガードメカではACに対抗するためにはある程度数を揃えるくらいしなければならないのだ。しかし今回こちらはAC三体、今の数ではガードメカ如きが敵う訳もなく次々と撃破され。全てのガードメカが破壊されるのにはそう時間はかからなかった。

「よし、次は管制塔と格納庫の破壊だ。アムシスは俺と格納庫のほうを狙うからヘルメスは管制塔を頼む。」

『ああ、了解した。』

 直ぐに自分達は二手に分かれるように行動を開始するのは、自分はこの状況を少し疑問に思い始めていたからだ。情報とは違う敵の数、些細なことかもしれないが情報屋である自分からすればその些細な違いでも情報は自分達を殺しかねないものになることを知っていたから。情報は金よりも貴重、ただし使い方と取り方によっては破滅を招きかねない諸刃の剣なのだ……。一つ間違えれば自分自身が踊らされる道化になる。

 その嫌な予感は、そのとおり現実に姿を現すことになるのだった……。


/2

 エメラルドタブレットは基地施設の間をぬけるように管制塔を目指せば、直ぐに暗闇に聳え立つ塔のような六角形の施設を見つける。データを確認すると情報通りならばここが管制塔であり、その証拠に上部には多数のレドームアンテナが装備されていた。直ぐに武装にミサイルを選択するとロックオンしようとカーソルを合わせる。無防備な管制塔を破壊するなど造作もないことのはずだった。

 しかし次の瞬間、正面の地面で何かが爆ぜるのが見えた。直ぐにミサイルでの攻撃をやめエメラルドタブレットを後退させると、追うように爆ぜ続ける地面。それ生み出す正体はレーダーに青い光点で表示され物であるとわかったときには装甲をたたく激しい衝撃。すかさずシールドを展開すると頭部を動かして上を見上げ、宙から襲い掛かってくるのはヴォルフの情報にないACだった。

『ひゃ〜ははっ!!きたっ、獲物がきたきたあぁっ!!情報どおり引っかかりやがってよぉ、間抜けがぁ!!』

 一般回線で響いてくる耳障りな笑い声はおそらくACのパイロットのものだろう。赤と暗い緑で塗装されたそのACは両手に持ったマシンガンとEOの機関砲を乱射しつつ、逆関節特有のジャンプ力を利用して真上からの攻撃を仕掛けてくる。その攻撃密度はエネルギーシールドを展開しても防ぎきれず、防御範囲外の装甲に命中する音が聞こえてきた。

 ヘルメスもエメラルドタブレット後退させつつ射線を確保するとバズーカで応戦する。しかし弾速が遅い弾頭であるためにひらりと回避され。そのままこちらを飛び越えるように着地した相手は余裕があるのか、わざわざ攻撃の手を止めてこちらと対峙して見せた。

『俺はジャスパー。ACネームはミンチメーカーってんだ……。まぁ、これからミンチになる奴にいってもしかたねぇと思うけどよぉ……せいぜいあの世で俺の名前を有名にしてくれや。ひゃっは〜〜〜っ!!』

 一方的に名乗るとジャスパーという男は全身に装備された武装を構え、一斉に乱射してきた。どうやらこれが彼の戦闘法らしく、連射性に優れたマシンガンやチェインガンで一斉に攻撃して相手を文字通りミンチ(挽肉)にする。レイブンランクは低いが殲滅戦など一方的虐殺が行えるミッションを好んで受ける男だとうわさで聞いたことがあった。

 ヘルメスは直ぐにエメラルドタブレットを走らせ、回避に入りつつわざと管制塔を盾にした。しかし相手は攻撃をやめることなく、ずっと全身に装備された武器を構えたまま乱射してきたのだ。もちろんACの武装はどれも強力であり、管制塔などあっという間に蜂の巣にされてしまうのが見えた。その中には何人の人間がいたのだろうか?護衛対象であるはずだというのに彼はまったく気にした様子もなく、攻撃はなおもこちらを追尾して続く。

『ひゃはははははっ!!みんなミンチだ、ミンチになっちまえ!!ひゃ〜っはっはっは〜!!』

「……うるせぇ野郎だなぁ。」

 やはり耳障りな声だと思いつつ、ヘルメスはミサイルを選択しトリガーをひいた。三連射で発射されたステルス性の高いミサイルはコアにある迎撃機銃で落とされにくいように設定されている。背武装のチェインガンを構えていた相手は回避することなどできず、あっさりと命中するとバランスを崩した。

 そのタイミングでペダルを踏み込むとブースター全開にし、一気にエメラルドタブレットが突っ込む。それに気がついたリッパーも何とか乱射攻撃を再開するものの、重装甲とシールドを持ったエメラルドタブレットには命中こそしても致命傷を負わせるほどの攻撃力は持ち合わせていなかった。攻撃をやめ、回避に移ろうと構えを解く頃には既に眼の前。エメラルドタブレットはまるでアッパーでも叩き込むかのようにバズーカを立ち上がりかけたリッパーのコアに強引にねじ込む。

「そんなに有名になりたきゃ自分自身で地獄に行って宣伝でもして来い……この腐れやろうが!!」

『ひゃはっ…!?』

 間抜けなこえが一瞬聞こえるも、直ぐに叩き込まれたバズーカの爆音にかき消される。ゼロ距離から軽量コアへとバズーカの直撃を受けて無事ですむはずはないのだ。後方へと吹き飛ばされつつ、胴体と脚部を繋ぐ部分が砕けるとミンチメーカーは爆発を起こして粉々になった。

 撃破を確認すると管制塔のほうへと向く。そこはもはやチェインガンの盾にされたために自分が攻撃するまでもなく機能が停止いているのがわかった。それと同時にもうひとつ分ったことがある。それはヴォルフの買った情報に誤りがあったこと。そう、情報は故意に改ざんされている…自分達は罠にはめられたのだ。


/3

 格納庫に向けて一斉にリヴァイアサンのツインチェインガンと、ヘビーヴォルフのカルテットキャノンが吠える。抵抗らしい抵抗もないまま、穴だらけにされた格納庫はあっさり炎上した。周囲には同じように破壊されて炎上している格納庫の残骸がいくつもあり、まるで周囲は地獄の業火にでも焼かれているかの状況だった。余りのまぶしさに暗視スコープを停止すると通常モードで周囲を確認する。

「これで目標は全部だな。」

『はい、弾はもうほとんどありませんがこれで準備完了ですね。』

 横にいるリヴァイアサンは残弾がゼロになった背中のツインチェインガンと右腕のグレネードをパージする。自分も既に弾切れのカルテットキャノンをパージしつつエクステンションのENパックを起動させて強制的に攻撃で減ったエネルギーを回復させた。格納庫の破壊に意外とエネルギーを使ってしまったが後は撤退するだけ、今のところ問題はないだろう。

「アムシス、撤退するぞ。このまま長居しても意味がねぇ、さっさとヘルメスと合流して――」

『ッ!? ヴォルフ!』

 エメラルドタブレットの位置を確認しようと見たレーダー。そこに移っていたのは緑の仲間を示すマーカーではなく、赤の敵を示すものだった。同時に聞こえたアムシスの声に正面へと視線を戻すと機体に大きな衝撃が走る。直ぐに右腕が破壊されたことがステータス画面に表示され、肘から先がなくなっていることがわかった。更にリヴァイアサンも攻撃を受けたのか、唯一残された武装だった左腕マシンガンを吹き飛ばされていた。

『よおぉ、ご苦労だったなぁヴォルフ。』

 通信が聞こえるのと同時に、黒煙のなかからACが現れてきた。燃え上がる激しい炎に照らされた黒い機体はどこか禍々しく、さきほど自分達を攻撃したのだろう両手に持ったバズーカからは白い硝煙が上がっていた。誰が乗っているのか、自分には直ぐにわかる。なぜならその声は自分に情報を売り込んできた情報屋仲間のものだったからだ。

「てめ……なんでここに?」

『良いACだろぉ?お前に撃った情報の報酬で買ったんだよ。お前らレイブンを殺すにはACでなきゃ難しいからなぁ。』

『……どうやら、あの男は初めからこちらをはめるつもりでヴォルフに情報を売ったらしいですね。』

『はっは!分かりが早いじゃねぇかぁ、お坊ちゃんよぉ。いやぁ……哀れでバぁカな鴉、て方が正解かぁ? おっと、ヴォルフ、お前に言うなら駄犬だったなぁ。はっはぁ!! まぁ、ようは目障りなんだよお前……情報屋として新人のくせに偉そうによぉ……だからここで死んで俺の金になっちまえよぉ!!』

 黒いACは両手のバズーカを向けると連射してくる。こちらも左手のエネルギーライフルで応戦するが先ほどのダメージか、ジェネレーターの調子が悪くエネルギーが落ちて連射できない。まだACに不慣れである相手も回避は苦手なようで命中するものの、明らかにバズーカ二丁のほうが攻撃は早い。ヘビーヴォルフは重装甲であってもバズーカを連続で食らい続けられるほどの耐久力は残っていないのだ。耐え切れずに頭部が吹き飛ぶとメインカメラを映していた画面がノイズに飲まれる。

しかし後ろにはもはや武装もないリヴァイアサンがいるために自分が下手に動けば彼が攻撃されかねないのだ。それが分っているのか、黒いACは攻撃に突撃型ロケットも加え、更に激しくしてくる。

『おらおらぁ、どぉしたぁヴォルフ!!』

「っ、うるせぇよ、このやろぉ!!」

 余裕たっぷりという様子の相手に声を上げつつ、エネルギー弾は黒いACの右腕に持ったバズーカを狙って命中する。それは内部の弾頭と誘爆を起こしたのか激しい爆発を起こし、その威力は黒いACの右腕と頭部、コアの一部に損傷を与えるほどのものであった。

「へっ、ざまあみろ!!」

『て、てめぇ、おれのバットグリンに…新品を傷つけやがってぇ!!』

 真新しい機体を傷つけられたことが頭にきたのか、直ぐに左腕のバズーカをこちらに向けて攻撃を再開しようとする。そこへもう一度エネルギー弾を叩き込んでやろうとトリガーを引いたのだが、反応がない。見ればエネルギーは既にレッドゾーン、発射するには充分なエネルギーがたまっていなかったのだ。

 このタイミングは不味いと思っても、もはや遅い。黒いAC、バットグリンといったか。その左手のバズーカが放たれ、それが吸い込まれるようにコアへと突っ込んでくるのが見えた。自分がそれで死ぬという刹那の一瞬、全ての風景がスローに見えるような現象を感じ、背筋に落ちる冷や汗の動きまでもがしっかりとわかるような気がした。

 しかしその瞬間、眼の前に割り込んでくる影がある。それは青い機体、リヴァイアサンだ。アムシスはそのままこちらの盾なり、バズーカの直撃をコアに受けつつもブースターを噴かしてバットグリンへと突撃する。

「っ、アムシス!?何やってんだ、バカ!死ぬぞ!!」

 思わず声を上げるが、彼から返事はない。変りにバットグリンから突っ込んでくるリヴァイアサンに恐怖し、悲鳴を上げてバズーカを乱射する様子が聞こえてきた。命中し、次々に右腕や頭部、コアの一部が吹き飛ばされていくもまったく止まる気配のない。そのまま体当たりするようにバットグリンにぶつかるとまだ炎上している格納庫へと突っ込んでいった。そんなとき、アムシスからようやく通信が帰ってくる。

『ヴォルフ、ルザルアのこと頼―――(ブッ)』

 次の瞬間、格納庫の中から大きな爆発が起こると同時に、途中まで聞こえていた彼の通信もそこで途絶えた。

「……アムシス……?……アムシスゥッ!!」

 爆発で燃え上がる炎が更に大きな火柱を上げる中、彼からの返事はもちろんなく。ヘルメスが合流するまでただ自分は燃え上がる火柱を眺めていた……。


 何とか成功に終ったこのミッション終了後、チーム『トリニダード』は解散することになる。ルザルアは俺の顔を思いっきり殴った後、何も言わずに去ってしまったのだ。自分も親友とも思えた人物の死、それに覚悟は出来ているはずだったのに、余りにも自分の心に大きく傷を残す結果になった。全ては自分の情報管理ミス……残された自分はしばらく途方にくれ、無気力な毎日を過ごすことになった。

 そんな自分に新しい生きがいを与えたのは孫娘の誕生と、ヘルメスからの提案。エリア・オトラントへの仕事だった。近年、開拓が進み。凄まじい速さで成長した新企業プロフェットの支配するエリアにミラージュが干渉を開始したことから受けたミッション。それは後にルザルアとの再会、そしてソイルとの出会いへとつながっていくものだった……。


/4

「……懐かしい話だな。」

 カウンターでウィスキー入りのグラスを片手にしていたヘルメスが小さく呟く。自分も磨いていたグラスへと同じものを注ぐと彼の横の席へと座った。時刻はもう深夜近く、閉店時間も過ぎてお客がいない店内には静かで落ち着いた雰囲気の曲が流れている。

「……こうして考えると、お前さんとの縁もほとほと腐れ縁だな。」

「は、よくいうなヴォルフ。あの時俺がいなかったらお前は死んでたいぞ?その腐れ縁、少しは感謝して欲しいものだ。」

 お互いに冗談をいいながら、グラスを差し出しあうと軽くぶつける。ガラスの澄み通った音が聞こえ、中のウィスキーが小さく揺れた。お互いこうして昔話に花を咲かせるのはずいぶんと久しぶりである。そんな時、閉店したはずの出入り口の扉が開くと一人女性が入ってくる。その人物は口に煙管を銜え、丸いサングラスをしているが誰なのか直ぐにわかった。

「よぉ、ルザルア。やっと来たか。」

「ふん、呼んでおいてよく言うよ。ヴォルフ……あんた、私を今日呼んだ理由はあれかい?昔の同好会でもするきなのかい?まったく、くだらない。」

 彼女はヘルメスのほうを見つつ、その隣に座るとサングラスを外して懐にしまい。近くの灰皿へと煙管を置いた。

「お互い同好会やるほど暇じゃあないだろう。それに今日は……。」

「……あのミッションのあった日だ。」

 彼女の会話の途中で遮るように、小さく呟きつつグラスを二つ出して。一つは彼女の前に、もうひとつは誰もいない椅子の前に置くとヘルメスが飲んでいたものと同様のウィスキーを注ぐ。

「……だからこそ集まった。」

「………。」

 彼女は何も言わずにグラスを取ると一気にウィスキーを飲み干す。

「……ふん、くだらない。……くだらないが今日だけはあんたに付き合ってあげるよ、駄犬。」

「ふん、そいつはどうも。じゃじゃ馬娘。」

「……ふふ。お前らのそれは何時までたっても直らないな……。いい加減仲良くしろって、なぁ……アムシス。」

 また少し睨みあう二人を横目にヘルメスは誰もいない椅子の前にあるグラスへと自分のグラスをぶつける。また聞こえた透き通ったガラス同士がぶつかり合う音は小さく店内に響いては消えていった……。


登場AC

ヘビーヴォルフ  &Lo005j00E1w00H001l000a2wAa10sBOV3s020V3#
エメラルドタブレット  &LS00572w02gE01Ea00k02F0aw0Hz7v5AXY4uy1P#
リヴァイアサン  &L40k0300E0w0a1w000k02B2ww0EMnAi6x80v01t#
バットグリン  &Lg00010001w000400a800400k0100tEAyc0qk3f#
ミンチメーカー  &La000e0003M001U000c00300c00w2iFipo0vg1p#

あとがき

 第一部終了につき語れなかったお話や、組み込めなかったものをサイドストーリー(SS)で〜。今回は過去のお話です。主人公は若き日のヴォフルと知り合いメンバーズ。

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