『L'HISTOIRE DE FOX』
 十六話 終焉 -兄弟死闘-

/1

 あの依頼を受けて数日のこと、指定された日時に合わせAC三体が目標地点を目指していた。先頭を行くのはブルーテイル、その後ろにサンセットスパウロー、そして最後にヴォルフの愛機であるタンク型の重装ACヘビーヴォルフが見える。

 今向かってる場所は荒野だがひとつだけ破棄されたプロフェットの補給施設がある。おそらくはそこが最終目的地らしく、ヘリでそこへと一気に行ければ楽なのだが今はそれが出来ない。もし途中に対空砲などでも準備されていたらそれこそ何も出来ないうちに撃墜されてしまうからだ。相手に場所を指定されている地点であることから、これら罠の可能性はある程度考慮して行動しなければいけない。

『……ふわっ、ぁ…何にもないね。』

『ルナ、目標地点まであと5キロなんだ。そろそろ注意しろ。』

 ずっと黙り込んでいた3人の中でその沈黙に耐えられなくなったのか、一番最初に口を開いたのはやっぱりルナだった。ついでに欠伸までしている当たり余裕があるというか、緊張感がないというか。そんな様子にヴォルフは後ろから注意すると、少しだけ動きが鈍っていたサンセットスパウローの背中をヘビーヴォルフの腕で叩いてみせる。

『わととっ、わかってるよじっちゃん。』

『分ってないだろ。ソイル、もしかしていつもこんな緊張感のない感じで仕事してるのか?』

「ええまぁ……近いといえば近い状況が多いですね。」

 苦笑交じりに答えた自分にヴォルフはため息を漏らす。確かにほかのレイブンからしてもこの雰囲気は異様かもしれない。少なくともこれからミッションに出て命のやり取りをする風には見ないからだ。しかし自分はこの雰囲気が嫌いではない。適度に緊張がぬけるこの間は戦闘前のかけがえのない息抜きみたいな物だと自分は考えているからだ。しかしヴォルフはそれに呆れたような声を上げた。

『おまえらなぁ……っ、と。レーダーに反応…前方から来るぞ!!』

 彼の言葉に一瞬で先ほどまでの空気が消えてなくなる。同時に自分のレーダーにも赤い光点が写りだし、こちらに向けて高速で飛んでくるものがあった。それはミサイルだ。すぐさま正面から飛んでくるミサイルを視認するとギリギリで急な横方向への移動で回避してみせる。二人も同じようでミサイルを回避できたようで今のところこちらの被害はない。

 視線を前に戻すと正面から突っ込んでくるACが数体。以前のミッションで遭遇した白い軽量型だった。武装も遠距離と近距離の二種類がおり、早速先頭を行くブルーテイルにそれぞれが以前同様のコンビネーション攻撃を仕掛けてきた。つまり一方がミサイルで牽制して、もう一方が強力なブレードで大ダメージを狙うというもの。

 以前までの自分だったらそれは厄介なコンビネーションだったかもしれない。しかし今は違う、ミサイルを冷静に回避するとわざと近距離型の前に飛び出したのだ。近距離型はそれが狙った通りとブレードを展開して切りかかろうとする。しかし次の瞬間ブルーテイルは直ぐにバックステップで下がって見せた。

「悪いですが、あなた達の手はもうわかってるんですよ!!」

 空を切るブレード、完全に無防備になったコアへと左手のマシンガンを至近距離から叩き込む。いくらACの軽装甲でもマシンガンでは簡単に貫通はしない、一点に集中弾を叩き込まれれば話は別だが。上半身と下半身を繋ぐ脆い部分へと一点集中して叩き込まれた弾丸はあっさりとその耐久力を突破して近距離型ACを活動不能に陥れる。

こうしている間も遠距離型からはミサイルの援護はこなかった。これもあらかじめ懐に飛び込むことで近距離型を盾にする結果だった。やはり操作技術は高くても単純な戦術しかとってこない、以前の戦いをルナから聞いた話の通りだと思いつつ倒れてくる近距離型を蹴り飛ばした。同時に今度こそ空いた遠距離型への射線に、相手も攻撃のタイミングを見つけたのだろうがそれはこちらも同じ。真後ろにいることを考慮に入れてあらかじめチャージしていたハンドレールガンが今度は吼えた。

 生まれた閃光は狙いを外すことなく吸い込まれるように遠距離型に命中し、丁度発射するタイミングだったミサイルを誘爆させる。今回はミッションだが、あらかじめAC戦になることを考慮して手持ち武装をハンドレールガンとマシンガンにしてきていて正解だった。

『あ〜らよっと!!』

 ルナの声と共に空中からサンセットスパウローが一斉に全身のミサイルを発射する。マイクロミサイル、分裂ミサイル、垂直発射ミサイルの三種類がまるで一斉に襲い掛かる猛禽類の如く、軽量ACたちに向かっていった。

 軽量ACも回避に自分自身の高機動性を充分に発揮してミサイルを避ける。普通だったらそれでいいだろう。しかし今回は発射された弾数がとても多く、正面からのミサイル世避けたかと思えば右や左、上から襲い掛かるミサイルに気がつかずに被弾する。運よく連続回避に成功してもさらに次に放たれたミサイルがまた別方向から襲い掛かり、障害物がないこの地形では全弾回避はとても難しいのだ。

 被弾しながらも何とか耐え切ったACは反撃しようと試みるが、それを極太の閃光が遮った。ミサイルで耐久力が下がった装甲をあっさりと溶かし、破壊していく無慈悲な光。サンセットスパウローの後ろに控えていたヘビーヴォルフが全身のレーザー兵装を一斉に放ったのだ。こちらはサンセットスパウローのミサイルとは異なり狙いは正確。例え右手のプラズマキャノンを回避できたところで肩のカルテットキャノンが連続でレーザーを叩き込んで溶解した鉄槐へとACを変えていく。

『ソイル、ここは俺たちに任せて先に行け。』

「え!?しかし……。」

『こんな奴等、僕とじっちゃんだけで充分だよ!』

「……判りました。お願いします!!」

 目の前にいた軽量型を撃破すると直ぐにOBを起動させる。今ここで余り弾薬やエネルギーを消費するわけには行かない…ここは二人を信じて一直線に目的地へとブルーテイルを走らせた。妨害するように軽量ACも追おうとするがそれを背後からミサイルとプラズマキャノンが叩き込まれて撃破され。

『おまえ達の相手はこっちだろうが。・・・久しぶりに銀狼の牙、見せてやるぜ!』

『はは、じっちゃんかっこいい♪ それじゃ、僕も見せてあげるよ。燕の本領を!!』

行く手を阻むサンセットスパウローとヘビーヴォルフに軽量ACたちは一斉に襲い掛かった……。


/2

 目標地点である破棄された補給施設が見えてくる。その手前には軽装甲車両と、それに並ぶ形で立った暗緑色のACニュクスがいた。以前とはパーツ構成が異なっており、ブレードなどの接近戦よりも少し距離を開けた銃撃戦もこなすよう近距離戦対応型にしたらしく腕が武器腕のブレードから普通のものに換装されていた。持っている火器もレーザーショットガンと近距離で威力を発揮する武装である。

『そこで止まりたまえ、ソイル君。』

 主任の声で通信が送られ、言われたとおりにOBを解除すると数百Mの距離ではなれて対峙した。この距離では近距離型に調節されたブルーテイルではどの武装も充分に威力を発揮できる距離ではない。それを確認すると軽装甲車両の天井部分の一部が開き、主任が上半身を出してきた。

『偽者だと思ったかね?安心したまえ、私は約束を破る男ではないよ。』

「……あなた相手に信頼とか安心とか、そういった単語を思い描きたくないですね。」

『ふふ、なかなか手厳しい……。まぁ、そんなことはどうでもいいんだ。さっさと始めようか、No,7015。実験の開始だ、せいぜい兄弟で殺しあってくれたまえ。勝たなければ私を殺すことは出来ないのだからね……。』

 余裕たっぷりという様子、頭の中で怒りに熱くなる感覚を抑えながらニュクスをロックオンしようとしたとき、不可解なことが起こった。ニュクスはこちらを向くのではなく、軽装甲車両のほうに向くと右手のレーザーショットガン構えた。それに主任も気がついたらしいが、何かの冗談か?とでも言うような笑みを浮かべた瞬間光が生まれた。

 目と鼻の先で放たれたレーザーショットガン。ACの装甲でさえ傷つけるそれは軽装甲車両にとっては驚異的なまでの威力であり、レーザーショットガンからすれば軽装甲車の装甲など紙と同じといっていい。そして上部から体を出していた主任など論外であり、一瞬で蒸発しただろう血煙があがった。

「なっ…にっ…!?」

『……こんな小細工で私とソイルの戦いを穢さないでほしいな。そうだろう?ソイル。』

「っ……マーズなのか…?」

『ああ、そうだ。……でもそれはどうでもいいだろう、ソイル。あのときの続きを…しようじゃないか!!』

 ニュクスは急にOBを起動させると一気に距離を詰めてくる。同時に背中の追尾強化型ミサイルと肩の連動ミサイルを発射した。それぞれが速度の違うミサイル、まだ少し混乱した頭を必死で冷静にしようと考えつつ機体を命中する手前で横に滑らせる。弾速の遅い追尾強化ミサイルはマシンガンで撃ち落すことで黒煙を作って相手の動きを遮るつもりだったが、彼はそれを諸共せずに煙を突き破ってそのまま突っ込んでくる。そのまま右手のレーザーショットガンが放たれ、装甲表面をいくつかの光弾が叩き温度を一気に上げ始めた。

「くっ、何で主任を殺した!仲間じゃなかったのか!?」

 立て続けに引いて放たれる左腕のマシンガンと背中のリニアキャノンの弾幕。ニュクスはそれを最初こそOB解除の隙をつかれ被弾したが、直ぐに体勢を立て直したように緩急をつけた左右への移動で回避する。さらにレーザーショットガンで牽制しつつ、間合いを詰めてくるとブレードを展開しマシンガンの銃身を中ほどから切断して使用不能にしてきた。すぐさまパージすると格納スペースからブレードを取り出し、さらに切りかかろうとするニュクスのブレードを受け止める。

 激しいブレード同士のプラズマ粒子が干渉し、拡散しては即座に収束されて刃を形成する光のぶつかり合い。ブルーテイル、ニュクスとも近づいては離れ、何度もブレードを交差させてはお互いの機体を時折浅く装甲表面を焦がす。そのまま補給施設の敷地中へとなだれ込んで行き、破棄されて無人になっていた施設を破壊しながら斬り合いを続けた。

『なかま?ちがうね、アレは私にとって単なる強さ、高き頂を目指す上でのファクターに過ぎない。そしてもう、今は不要なものだ。彼女…マリアと同じでね。』

「っ!? それが……姉を殺した答えか、マーズ!!」

 またブレード同士がぶつかり合い、鍔迫り合いの状態になる。そこで一気にペダルを踏み込むとブースターを全開に相手を押し斬ってしまおうとする。しかしニュクスもそれを軽くバックステップで崩すと、至近距離からスラッグガンを放ってきた。距離が近すぎる上にバランスを崩した状態、正面から直撃を受けて全体の装甲に大きなダメージを受けてしまう。

『そうだとも。私にとってそれが全てだ……全てなのだ!!!』

 そこからニュクスは怒涛の如く攻撃を仕掛けてくる。スラッグガンにレーザーショットガン、両方の散弾が豪雨の如くブルーテイルへと降り注いで激しく装甲をたたいた。その中でも後退しつつ応戦にマイクロミサイルを放とうとするが、散弾の一部が命中したのかミサイルポッドごと爆発を起こして粉々に砕け散る。さらにもう片方のリニアキャノンも、左腕までも肘から先がその散弾に次々と破壊されていった。

『私は強くなる!!失敗作でないことを証明するために……マリアも、ソイルも、そして全てのレイブンを狩り、その存在までも私の強さの贄にするのだ!!そうして、私は手に入れる!!最強という名の絶対的地位を!!』

「……そのために、それ以外の全てを捨てるのか……?」

 こちらの呟いた言葉に攻撃がやむ。ニュクスは硝煙が上がるスラッグガンなどブレード以外の武装を全てパージするとこちらに対峙した形で停止している。

『そうだとも。……だからこそ私は強くなった。ソイルも、マリアも、……おまえ達を捨てることで私は強くなったのだ。そして今それが……証明される!!』

 ニュクスがまたブレードを展開し、構えるとOBを起動させて一気に突っ込んでくる。止めを刺すつもりか。自分も操縦幹を握りの直すとOBのスイッチを入れた。同時にハンドレールガンをチャージし、凄まじい速さでお互いにぶつかり合うように突っ込んだ。

 激突する手前、ニュクスのブレードが振られブルーテイルの左肩から頭部の間辺りから切断されつつコアの前面装甲へと光がめり込んでいく。マーズの頭にもこれで勝ったという言葉が浮かんだかもしれない。

『終わりだ!!』

「まだだぁっ!!」

 しかしブルーテイルは止まらなかった。OBの勢いをそのままに突っ込むと半分ほどまでブレードが食い込んだままの体勢でハンドレールガンをニュクスのコアに突き上げるように押し当てる。衝撃に砲身が軋み、軽く火花を上げながらもそこで一発。コアへとゼロ距離で叩き込めばOBや内部へのダメージにジェネレーターがリミッターを作動させたのか、ニュクスのブレードから光が失われる。

 それでも尚ハンドレールガンを押し当てたまま、ブルーテイルはOBを全開にしてニュクスを巻き込んで補給施設の建物の壁へと激突した。衝撃に体を固定するベルトに締め付けられ、肺の空気が押し出されるのと同時に一瞬意識が遠のくのを必死で堪え。

「…あんたは哀れだな……何もわかっちゃいない!そんな強さ、本物じゃない!!」

『何を、偉そうに!!欠陥品の称号を押されたおまえガ、私にナニヲ言う!!出来損ナイの、強化人間のまマでいるオマエガ、……私ヲ見下すな!!』

 ニュクスの右手がブルーテイルの頭部を掴んでくるとそのまま力任せに引っ張り、もぎ取る。同時に通信から聞こえる彼の声にはどこか人工的なものが混ざり始め、非常に耳障りなものへとなっていった。

『私はこえル!!マりあモ、そしテそいるモ、スベテノレイブントイウソンザイヲ!!ソノタメナラワタシハ! ワタシハァ!!』

 全てを捨て、極度の肉体改造、限界を超えた強化人間への処置が彼の肉体を、脳を、思考さえも根本的から捻じ曲げてしまっていた。もはや彼に残っていたのは強さを言うものに固執する残留思念とでも言うべきものだといっていい。もぎとったブルーテイルの頭部を鈍器にするように、何度も何度もコアを叩く衝撃が響いてくる中で静かに口を開く。

「大切だからこそ…もう今の君を見たくない。」

 ゆっくりと力を込めて引かれるトリガーが、右手のハンドレールガンを撃つ。二度目のゼロ距離射撃。ニュクスのコアはそれに耐えることができず、コックピット周囲から後方へと大きな風穴を開けた。


/3

 コックピットハッチが緊急用の炸薬を利用した小爆発でパージされる。一瞬内部に立ちこめた煙はハッチが落下するのと同時に流れ込んできた風によって外へと吐き出されていった。その代わりに感じるのは焦げ臭い、何かが焼ける匂い。

 ベルトを外してコックピットから正面にあるニュクスへと降りると中央に開いた大穴へと上っていった。本来そこにはコックピットがあるべき位置であるが、今は何もない。そこにいたはずの人物も、その姿かたちさえ残っていなかった。

「……マーズ。…君は何時から道を間違えたんだい?……そして僕もまた、いつか間違えてしまうのか…?」

 誰もいないコックピット跡へと呟く独り言。それはまるで自分に対しての自問自答であるというほうが正解かもしれないものであった。そしてもし、最後の言葉通り自分も道を間違えてしまったら……それを考えると自然な動作で懐から拳銃取り出す。

 しかしその拳銃は自分へと向けられることなく、ニュクスのコックピット跡へと投げ込まれた。

「……こんな答えこそ、間違ってますよね…マーズ、…そして姉さん。」

 小さく苦笑を浮かべつつ、呟くと空を見上げた。空はゆっくりと夕焼けへと変りつつあるきれいな赤だった。頬で感じて耳で聞く風の音に混じって遠くからブースターと無限軌道のキャタピラ音が聞こえてくるのはサンセットスパウローとヘビーヴォルフ、二人が無事でありこちらに来ることを教えてくる。

 ニュクスから降りるとその音を頼りに二人の来る方角へと歩き出した。それはまたレイブンとして生きる道を選んだという答えの表しだったのかもしれない。そしてただ言えることは……自分が生きるための戦いはまだこれからも続くのだと、そしてそれに立ち向かっていくだけしかないのだと、それだけだった……。


―End 『L'HISTOIRE DE FOX』 …

to by Continue 『STORM VANGUARD』―


登場AC
ブルーテイル  &Ls0055E003G000w00ak02F0aw0G013GENE1W0F2#
サンセットスパウロー  &Li005eE007g001Y505g02F0aA0Fg9640000bQ30#
ヘビーヴォルフ  &Lo005j00E1w00H001l000a2wAa10sBOV3s020V3#
ニュクス2  &Lw0aEh2w02R00kA00ak02F2ww5lg54a5Es0qhxn#

あとがき

 これにて一部終了です。最後の締めは微妙にどうしようかめッちゃ悩んだ結果こんな感じに。表現は難しいですね、自分の思い描いたものを言葉にするというのは。

前へ
コシヒカリ様の作品一覧へ
小説TOPへ