『L'HISTOIRE DE FOX SS』
 -プラス研究レポート-

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○オベロン計画における報告書(NO.035)

 某月某日、計画を第二から第三段階へ移行するに当たりこの報告書を提出する。

・当計画『オベロン・プロジェクト』における概要―
 オベロン・プロジェクトとは、プラス研究機関である当組織が設立当初より進める計画である。その目的は『最強の強化人間の量産』という一点にある。それに従い、研究チームは過去の企業が行った研究データの断片を回収しつつ、分析、さらに研究と発展を行ってきた。それは次の段階に分けられ、それにあったプラスが作成されてきた。

1、第一段階 第一世代タイプ
 研究機関設立当初から行われた研究、他企業の強化人間研究データを元に無機質、有機質などの強化部品を直接外科手術を用いて埋め込み、被検体を強化する研究を行った段階。
 総数500以上の被検体を用いるも、その結果は成功率40%以下という結果に終った。
 この段階でプラスにおけるランクも作成。ランクは以下のとおりである。

  ランク1 神経系統を強化し、ACへの適正を高めたタイプ。成功率は高い。
       AC制御能力は常人のレイブンをこえるものとなる。
  ランク2 ランク1よりさらに肉体強化を進めたタイプ。肉体換装率10%。
  ランク3 2よりさらに強化。神経系、肉体系両面で換装率20%以上に達する。
       このランクより成功率が低下を始め、精神異常が発生。
  ランク4 ACなど機体制御能力が飛躍的に上昇。肉体強化換装率30〜40%。
       反面、成功率が極端に低下し、50%以下となる。
       失語症、攻撃衝動など精神不安定が起こると同時に肉体に拒否反応あり。
  ランク5 換装率40〜50%。機体制御能力はランカークラスに属する。
       外科手術を行う危険度は高く、処置中に生命機能を停止する個体多発。
  ランク6 換装率60%に達し、これ以上の強化が不可能。
       能力は全ランク中最強に属するも成功率は5%以下であり、
完成した個体は僅か2体。以後、精神異常で機能停止。

 以上の結果から、外科手術における処置では成功率が低いことが判明、第二世代に移行する。


2、第二段階 第二世代『C(チャイルド)シリーズ』
 第一段階における結果から処置方法を変更。神経系統強化を現在主流の医療、ナノマシーンを利用しての強化実験を行った段階。第一世代に比べ成功率、安定性は飛躍的に上昇するもやはりランク4以上の処置に入ると低下傾向にある。この段階に入ると被検体の生まれた環境などを考慮しての研究と同時に、様々な面を強化したタイプのプラスが考案された。
 その中で、ランク6まで到達した披検体は以下の三体である。尚、ナンバーは最初の桁が回収された場所や地方による組み分け、以下がその組における番号である。

・NO,4468
 本名『マーズ・リッケルト』、男性。有能な資本家の次男であるが、家庭的事情により孤児院へと移される経歴がある。そのためか、同年齢世代の人物に対しては友好的である代わりにそれ以外の人物に対しては反抗的、非協力的な態度を取る傾向が高い。

 強化タイプは神経系における反応速度の上昇と動体視力の強化を重点的に行う。結果、高機動戦闘、接近戦に置いて同シリーズ内最上位クラスに属する戦闘能力を発揮する。反面、精神不安定が尚悪化。研究員に対して攻撃的態度を取るようになったことから、精神洗脳処置を行う。

 その後、一時安定している様子であったが、実験中に研究者を攻撃し暴走。同シリーズ、NO,7105により撃破され、生命機能を停止する。

・NO,5921
 本名『マリア・イスルギ』、女性。スラム街にて回収された孤児。被検体メンバーで最年長であり、落ち着いた性格と優れた適応性から指揮官などの資質がある模様。そのため、第二世代シリーズ被検体内でも友好関係は良好。特にNO,4468、NO,7105両名とは特に友好的関係を築いている模様。

 強化タイプは神経系強化と同時に、肉体系も強度をさらに図った。結果、全てに置いて安定した戦闘能力を発揮。懸念された精神不安定化や肉体の拒否反応もなく、もっとも完成度が高い個体であるといえる。

 第二段階計画最終実験に置いて、研究員の指示に従わず暴走したNO,4468によってコックピット大破、生命活動を停止する。

・NO,7105
 本名『イアン・J・クィスキー』、男性。一般的生活ランクの家庭育ちであるが反企業テロにより両親、兄弟が他界。その際記憶を失った模様で、身寄りの無いために病院から当計画のために引き取った。

 強化タイプは神経系強化、特に反射神経の強化を図っており『思考するよりも速く行動する。』ことを可能にする研究を行った。戦闘技術は標準以上であるも、神経系強化中に一部障害が発生しプラス能力が予定数値を下回り、一定時間以上使用できないことが判明。以後、精神処置で制限時間を設けることで能力の安定化を測る。

 第二段階最終実験でNO,5921を撃破したNO,4468を圧倒。先の二体より能力的に劣っているために再度研究をしようとするも、捕獲部隊をも撃破し逃走。現在ではレイブンネーム『ソイル』で活動していることが判明し、以後研究対象に再度認定する。

 これらの結果を踏まえ、第二段階ではもうひとつの第三世代シリーズの研究を開始する。

○ 第三世代『αシリーズ』
 第三世代では多方面における突出した性能強化を実験したのに対し、量産化を目的とした研究を行う。

 αシリーズはプラス処置を安定性が低下するランク4までとし、より安易で確実な強化方法と容易に運用可能な部分を研究した。結果、強化面は同じでも自我などの感情を削除することで、指揮官の命令などに対し忠実な作戦行動を可能にすることが出来るようになった。

 しかし作戦内容によっては複雑なものに対応が難しく、場合によっては事前に作戦無いようにあわせての教育、インプットが必要であることが判明した。また、ある一定以下の目標に対しては有効でも、ランカー上位者などのレイブンACに対してはまだ性能面で追いつけていない部分が多々あることもわかっている。

 その結果を踏まえての強化案がケーニッヒ計画である。

 ケーニッヒシリーズは、第二世代のランク6プラス中唯一こちらに残されたNO,4468を再利用し、さらに安定した強化を模索した。しかし、もともとNO,4468自体精神面に不安定な部分を残したままであったようであり、実験中再度暴走。有益なデータが取れなかったことから、計画は中止となる。

 以上のことから、計画を第三段階へ移行。第四世代「シスターシリーズ(SS)」の研究に取り掛かるものとする……。


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 キーを叩く指を止めると白衣の女性は小さくため息をついて、眼鏡を外して手の甲で目を擦った。さすがに連日の徹夜による研究データの整理と、報告書作成はこたえるものがある。なくなってしまった集中力を取り戻すために一旦休憩でもしようと席を立つと部屋を出た。

 綺麗と言うより何も無い、真っ白な廊下の壁を軽く指でなぞりつつ自販機の置かれた場所まで行くと早速身分証明カードを入れる。これは身分証明であると同時にクレジットを自動処理してくれる機能もあり、大概の職員が所有している。部屋への出入りにもこれが必要であり、なくしたりしたらここでは生活も出来なくなってしまう厄介なものであった。

 ミルクティーのボタンを押すと早速紙カップが一つ、コトリと落ちる音が聞こえる。そんな時、廊下の反対側から歩いてくる同じような白衣を着込んだ職員が話しかけてきた。

「レイラ副主任、お疲れ様です。」

「ええ、おつかれさま。……第三段階に移る準備は良好?」

「ええ、ある程度は。『姉妹』達も近いうちにランク6の処置が行われる予定ですから、それこそこれから忙しくなりますよ。」

 苦笑を浮かべる職員にレイラは答えるように、同じような苦笑を向けた。同時に自販機がミルクティーを入れ終わったようで、取り出すとまだ熱いそれを早速口に含んだ。しかしさすがに少し熱すぎたようで、舌がひりひりとする感覚があった。

「副主任こそ、大丈夫ですか?徹夜が続いているようですが……。」

「さすがにきついわ。でも、主任が居なくなった分私がやらないと……。」

「ガードス主任……実験中のケーニッヒシリーズが暴走で亡くなられたんでしたね…。」

 それは少し前のことだった。NO,7105と再調整されたケーニッヒこと、NO,4468の戦闘実験。それは研究機関で再度作ったプラスと、レイブンの世界でさらに成長したプラスを戦わせる実験だった。しかし結果はNO,7105の勝利。現状の研究機関最強の戦力であったNO,4468は撃破されたのだった……。

 それはこちらとしては予想外である代わりに良いデータをとることが出来た。次はこれを元に次の第四世代がさらに優れたプラスとすることが出来る。それに思わずレイラは小さく笑みを浮かべていた。死んだ主任には悪いが、この研究はさらに高いものへと登ろうとしている……むしろ死んでくれて感謝するほどだとさえ思えた。

 そう考えると先程までの疲れがどこかへ飛んでいき、またさらに研究を直ぐにでも進めたくなる気分が湧き上がってくる。飲み掛けのミルクティーをそのままゴミ箱へと捨てる。

「さぁ、忙しくなるわ……君も直ぐに仕事に戻りなさい。」

 それだけ言うとレイラはまた自分の部屋を目指して歩き出す。

「さぁ、実験の続きをしましょうか……NO,7105。……いいえ、主任に習ってこういいましょう。ソイル君……。」

 その呟きは誰にも聞かれることもなく、ただ廊下に静かに消えていった……。


あとがき

 私は誤字魔人です。いえ、チャットでも、この投稿前にチェックはしてますよ。本当です。それでも誤字が何でか後で見つかるのです。後、話によってヴォルフの喫茶店名が違うの、あれも実は勘違いです。(ぇ 見つかった後に毎度毎度「やばっ!?」っとかおもって管理人さまに修正を頼む日々……すみません、私は『誤字特化性能仕様』強化人間だと思ってください。(ナニ ……犬も食えない無駄技能ですね。(汗

 さて、今回のですが。これは研究機関とか中途半端にしか説明されて無い人たちの計画の説明ですね。実際本編だと妙な人たちしか出てこない微妙な組織です。彼らのスポンサーは不明。とりあえずソイルたちの強化人間背景設定を出したくて書きました。

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