『STORM VANGURD』
 第一話 嵐の尖兵

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 私が初めてACと言う存在を身近に感じたのは12歳の時、ある事件がきっかけだった。企業支配体制への反を掲げる小さいテログループの起こす連続自爆テロ。実際、ニュースで見てみても死傷者や犠牲者の人数でその重大性は理解できなかったし、自分とは無関係……そうとさえ考えるほどだった。しかし、実際その行為を目の前で見ればその考えは大きく変るものだ。

 私の住んでいたコロニーは大きくなかったけど、そこそこ普通のレベルの街だったとおもう。いや、実際他のコロニーが自分達の街より小さかったり、劣ってたりすると思ってるわけではなく。多分その街しか知らないから、これが普通だと思っていたのだと思う。世界なんて何もわからない子供だったから……。

 そんな街が揺れたのは、そのテログループの主犯格がレイブンに追われ逃走中に逃げ込んできたことだった。私は家族とショッピングに出かけ、お気に入りの洋服を着てアイスなんかを食べて上機嫌だった。しかし、次の瞬間眼の前のビルへと何か光るものが走ったと思ったら爆発、窓ガラスが一斉に砕け散って下へと降り注いだのが見えた。

 私はあまりの大きな音に驚いて、その拍子にアイスを落してしまった。花火…ではないことぐらいはわかったけど、何が起こったのか理解できない。次の瞬間、頭の上を低空で飛んできたヘリを呆然と眺めていると、父は私を抱きかかえてその場から遠ざかるように走り出した。さらに爆発の起こったほうからは鳥の足のような奇妙な脚部のMTが歩いてくる。

速く逃げろ、早く……そんな風に叫ぶ声がどこかからも聞こえる。そんな声を掻き消すようにさらに起こった爆発と、その爆風は容赦なく私達へと襲い掛かってきた。幸い炎ではないが、吹き抜けた凄い風にバランスを崩した母が倒れこむ。それに気がついた父は直ぐに引き返して、立たせようとした。でも母は顔を急にゆがめる。よく見れば足から赤い血が見えた。怪我だ……とても痛そうで走れそうに無い。

 その間も周囲への被害など気にする余裕が無いのか、何かに必死になった様子のMTやヘリは自分達が飛んできた方向へと一斉にミサイルやライフル弾を叩き込んでいる。一体何に怯えているのか……その正体は直ぐにわかることになった。

 黒煙と炎を切り裂いて飛び出してきたのは赤い巨大な人だった。いや、正確には本物の人間ではない。もっと機械的でゴツゴツとした姿のものだった。でも頭に身体、腕に足、左手には大きな銃を持っており人間みたいで、他のMTと比べてとても強そうだ。凄い音を立てながら、その重量で道路を破壊しながら着地した赤い巨人は直ぐに一機のMTに向けて巨大な銃を発射する。撃ち出された閃光は、一瞬にして一機のMTに命中するとその装甲を溶かし、貫通してしまう。真っ赤になって、まるでさっき落したアイスのように熔けたMTの胴体に開いた大穴。その向こうにまた赤い巨人の姿が見えたが直ぐに見えなくなる。

 次の瞬間爆発に照らし出された赤い巨人は宙を舞っていた。そのままアクロバティックな動きで、必死でミサイルを放っていたヘリに迫るとその足で踏みつけるようにする。さっき道路に着地したのを見て判るが、凄く重たいことはその大きさからも理解できた。案の定、ヘリは中ほどからまるでスナック菓子のようにパッキリと折れてパラパラと部品をばら撒いて墜落してく。

 その間も、赤い巨人は左手に持った銃を連射して、次々とヘリを、MTを破壊していく。圧倒的な状況、狩られる者と狩る者の存在をはっきりと分けられているように思う。私達家族はただそれをずっと眺めているだけだった。両親は怯えていたかもしれないけど、私はその姿に見とれていた。燃え上がる炎が、銃から吐き出される閃光が、それらに照らし出される赤い巨人がとてもかっこよかったのだ。

「……アーマード…コア…。」

 父が小さく呟くのが耳元で聞こえる。AC?アレはそういう名前の機械なのだろうか。ついに最後になったMTへ向け一気に接近して行く赤いACは右手を後ろへと引いた。まるでボクサーが渾身のストレートでも叩き出すかのように構えたまま、必死で攻撃するMTをあざ笑うかのように射程距離へと入った瞬間前へと振りぬく。ドゴォンッ!という大きな金属同士がぶつかる音が聞こえたかと思えば、ACの腕にある装備からは鋭く尖ったものが撃ち出され背後まで貫通し、腕を引いた瞬間MTは崩れるようにその場に倒れこんだ。

 これで全てのMTが倒された。それを確認すると直ぐにACは背を向けてもと来た方向へと帰っていった。そこでようやく緊張が解けたのは、母は泣きながら私と父親に抱きつく。父もそんな母を抱きしめ、無事を喜んでいるように涙を流した。そんな二人に挟まれた私はただずっと去っていくACの背を見ていた。

 この事件の後、私はテロに対する考えを改めるのと同時にACという存在について興味を持つことになる。赤いACはフレイムンホークという名前らしいが、そのレイブンに会ってみたいというのが最初で、そんな程度だった。しかし何時しかその考えは、次第に自分もレイブンになりたいという憧れへと変っていった。


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『AP50%、機体ダメージが増加しています。』

 ミサイルの爆発でアリーナの空気が震える中、無感情に状況を伝えてくるCPUの人工音声に小さく舌打ちすると直ぐに操縦桿を握りなおし、ブースターのペダルをさらに踏み込んでスピードを上げた。

 対戦相手であるB・リッチのミリオンダラーは先程から単調にリニアライフルやミサイルを連射しての攻撃をするだけ。パーツ構成こそ高価なものが多く、基本性能は高いはずだというのにその能力を引き出せていないのがわかる。そんな相手であっても自分は劣勢に追い込まれるのは機体が悪いからではない。むしろ自分の愛機、レヴァンテインは彼のミリオンダラーに負けないくらいのものだとも思っている。

 それでも尚劣勢である理由、それは自分も彼同様に操作技術が未熟だからだ。さらにレヴァンテインの構成は接近戦仕様のため、相手の懐に飛び込むことで真価を発揮する機体であるが回避技術と機体制御技術がままならなければそれは難しい。接近することに集中すれば回避が疎かになり被弾し、逆に回避に専念すれば攻撃の手が止まる。

それに対し、ろくに回避もせずただ単調でもトリガーを引いて攻撃だけをする戦い方であるミリオンダラーのほうが、早い話『簡単』であって余裕が生まれる。そのちょっとした差が、未熟なレイブン同士では充分な差に繋がってしまうのだ。

「接近戦に持ち込めばっ……!!」

 呟くと機体のエネルギーゲージに目を向ける。さっきからの回避である程度エネルギーは消費してしまったが、ブーストを使っての機動にはそれほど問題になるレベルではない。それを確認するとまた正面のミリオンダラーへと目を向け、短く浅い呼吸を整えようとすると覚悟を決めたかのように、レヴァンテインを真っ直ぐにミリオンダラーに突撃させた。

 いまだリニアライフルでの攻撃が降り注ぐなか、スピードを上げて飛び込めばそれに比例して回避は難しくなる。案の定、左肩へと命中したリニアライフル弾の衝撃。感じる恐怖を必死で押さえ込みつつ、一発か二発くらいなら軽量級コアであっても直撃に耐えられると自分に心の中で言い聞かせた。先程とは打って変わって、そうまでしても接近してくる相手にB・リッチはさすがに驚いたのか攻撃の手を緩めると後退し始める。

 そこへ逃がすかとばかりに、ミサイルを選択すると焦りからかロックオンを確認するよりも早くトリガーを何度も引いていた。もちろんミサイルはロックオンしてからでなければ発射できないことは知っていたが、それを考えるほどの余裕さえなく。ようやくロックオンしてマーカーが赤に変るのと同時に高速型ミサイルが発射された。同時に両肩からも連動ミサイルが4発放たれ、白い帯を引きながらミリオンダラーへと迫る。

 そこでミリオンダラーは完全に攻撃を止めると回避に専念しだす。しかしここはアリーナのドーム。後進だけをしていたB・リッチは自分の位置を考えていなかったのか、直ぐ後ろにある壁に回避方向を阻まれ、動けなくなっていた。命中するミサイルが生み出す黒煙の中へと突っ込んだレヴァンテインは右腕を振り上げる。そこには突出型ブレードが装備されていた。

 黒煙のせいで狙いなどつけていないが、それでも勢いよく突き出した右手が何かを捉えたのを衝撃で感じた。同時に直ぐトリガーを引けば、炸薬と使って撃ち出された鋭い杭のような実体ブレードがミリオンダラーを貫く。煙が流れて視界がクリアーになると命中したのは右肩だったことがわかり、衝撃に耐えられなかった肩の付け根からもぎ取れていた。

「!? ミスった!」

 思わず声を上げた私は直ぐにレヴァンテインを後ろへと下がらせる。それと同時に、狙いなどつけることなくただ無我夢中な様子で振られたミリオンダラーの左腕から光の剣が走る。レーザーブレード、しかもお金がかかっているだけに攻撃力もリーチも優秀な高級品だ。コアの突き出した前面を斜めに切断され溝が生まれるも、それほど深くなく致命傷ではない。

 しかし切断され、半分熔けた迎撃機銃の砲身が地面に落ちるのを見るとゾッとした。直撃でもすればダメージで耐久力が低下した軽量コアでくらえばひとたまりも無い。そこからはもはや考えるよりも早くトリガーを引いていた。武器の選択は?とりあえず突出型ブレードからミサイルにしたことは覚えているが、必死だったのではっきりと覚えていない。とりあえず撃てるものを、まだ動いていないミリオンダラーに向けて後退しながら乱射していた。

 数秒と立つ前に電子音がコックピット内に鳴り響くのに気がつくと、トリガーはもう反応しなくなっている。モニターには壁に寄りかかるようにして動かなくなっていたミリオンダラーが映っていた。度重なる被弾でボロボロになった装甲から、CPUが勝敗を判断したのと同時に火器管制システムをロックしたのだろう。

「っ、……勝、った…?」

 まだ一向に収まる気配の無い、激しい心音を聞きながらゆっくりと操縦幹から手を離そうとする。しかし自分の意思に反して両手はいまだに操縦桿を必死で握ったまま震えていたのだ。何とか最初に離れた左手で右手を引っぺがすように引っ張るとようやく離れ。シュミュレーターで何度も戦ったはずだというのに、ACに乗ることがこんなに怖いことだったなんて……。

改めてACという存在の強さを相手にして感じつつ、自分もそのACに乗っているのだと言い聞かせようとする。こうして私の、初めての実戦は終了した……。


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 ふらふらと、おぼつかない足取りでアリーナのパイロット待合室を目指す。肉体と精神療法で疲れた感覚を実感しつつ、パイロットスーツの中で全身たっぷりとかいた汗は気持ち悪いものだった。出来ることなら今すぐこの場で全部脱ぎ捨てて裸で歩いたほうが気分も少しはよくなるだろうと考えつつも、さすがに廊下でそれをするわけにはいかない。

 とりあえず待合室で直ぐにシャワーでも浴びてジュースでも喉に流し込もうと考えていると丁度自分に貸し与えられた部屋にたどり着く。ドアを開けて入れば、中には3人の人物がまっていた。

「よぉ、セキレイ。初めてのアリーナはどうだった?」

 安物のような印象を与えるソファーにリラックスした様子で座り、背もたれに体を預けている金髪の男が小さく手を振って出迎える。彼はトバルカインというレイブンであり、顔はなかなかの美形で二枚目である。体格だって標準的だが男らしく鍛えてそうだし、ラフな格好だがファッションセンスだって悪くは無い。しかし、理由はわからないがどこか彼には男性としての魅力が薄い感じがした。まぁ、自分の感覚なので周囲の人たちも同じ考えだと思っているかどうかわからないが、彼はよく女性を口説いているのを目にするのに成功している場面をほとんど見たことが無いあたり多分同じなのだろう。

「はは……凄く怖かった。」

「……あの程度の相手にそれでは、この際思いやられます。」

 苦笑交じりに素直な感想を述べた自分に、少し厳しい言葉をかけてきたのは自分より年下だろう女の子。ストレートに伸びた髪は少し暗めの銀であり、レイブンネームのスティル(鋼)というものがあらわしているようなに感じた。小柄で細身の彼女は自分でも以外だと思ったが、同じレイブンである。しかも自分よりも歴は長いらしく、その行動と言動にはレイブンとしての自信が感じられるようだった。

「まぁ、そういってやるなってスティル。まだ実戦も経験して無いセキレイがはじめてのアリーナだぜ?しかもちゃんと入隊条件をクリアーして帰ってきたじゃねぇか。」

「……あの様子ではこれから先、一緒にチームを組んで前衛を任せるのは不安なんです。」

「あ、あはは……相変わらず手厳しいね、スティルちゃん。」

「っ! 僕を『ちゃん』付けで呼ばないで!!」

 スティルは顔を真っ赤にして急に声を上げた。確かに失礼かもしれないが、自分より小さい子に「ちゃん」を付けて呼んでしまう自分にいつも彼女は怒る。恥かしいのだろうか?

「どっちにしろ、試験は合格。これでセキレイも晴れて俺達の仲間入りって訳だ。なぁ、そうだろフェイ。」

 トバルカインはそんな様子のスティルにニヤニヤと笑みを向けつつ、先程からずっと一言もしゃべらないで壁に寄りかかった人物に目を向ける。女性みたいに艶やかで黒くて長い髪をオールバックにした長身の男はゆっくりと目を開けると頷く。すらっとしてトバルカインとは若干異なる美形であるが、どこか冷たい印象を受ける彼は今回のアリーナでの試験を提案した人物だった。

「試合内容は見せてもらった。こっちが出したチーム入隊の条件を二つともクリアーしている。」

 条件とはさっきの試合で『勝つ』とことと『突出型ブレードを相手に当てる』というものだった。幸い両方ともクリアーできたことに今になってほっとしつつ。実際のところ勝つのはともかく、突出型ブレードはリーチが短い上に癖があって扱いにくく当てるのは自信が無かったのだ。あそこでうまいことミリオンダラーが背後の壁に気がつかなかったからこそよかったけれど、そうで無いなら多分無理だったかもしれない。

「よって、君の入隊を認める。……ようこそ、セキレイ。レイブンの世界とチーム『ヴァンガード』へ。」

 彼は笑顔を見せないけれど、肩に手を置いてしっかりとそう言ってくれた。これで今日から、本格的なレイブンとしての生活が始まる……それは喜びだの不安だの、いろいろなものが混じった気分にさせ、自然とわくわくという妙な期待感が生まれていく。

これで自分も、あの人と同じレイブンになった。でも、あの人のように成れるかどうか、それはもちろん判ることではなかった……。


あとがき

 突然ですが…この作品かいてる途中雷が近くに落ちてPS2が天に召されました…(しくしく) 『さて、もう直ぐ完成(ピカッ!ドゴォン!! プツンッ…)』てな具合です!!パソコン壊れなくてよかったけど、他にも冷蔵庫だのテレビだのと色々壊れてしまい、ネットも数日できなかったりと踏んだりけったり。勘弁してくれ……こんなギャグ的要素は要らん。(汗

 さて、悲しい話はこのくらいにして今回はあとがきらしくちゃんと作中のお話ネタを。
 今回から始まった第二部で主人公セキレイの愛機レヴァンテイン。プロフィールにもありますが、名前だけ聞いても判ると思う元の名前は剣のアレです、『レーバテイン』。
レバ剣です。 レバ剣拾ったw(違

 北欧神話登場する武器であり、かなり有名で様々な作品に登場します。一般的に『火の神剣』として考えられ、日本ではよく『スルトがラグナロクのときに振るう火の剣』と同一視されたり、他にも色々な見方のあるものだったりします。
 蛇足ですが。スルトとは黒の意を持つ名前で、ある入り口を守る火の巨人のことです。

 今回のAC名は神話系からちょくちょくと取ったものなので、こういった説明をしてみました。……ために成るような、成らないような、無駄知識ですね。(ぁ

搭乗機体
レヴァンテイン&LU005c2w03000EI02wo02F2ww0Fg99AVrk0qMx6#
ミリオンダラー&LK0aE805k3w1l0E0lgEa052ww0EMew0NoFMeM2b#
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