『STORM VANGURD』
 第二話 狗の弾丸

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 チーム『ヴァンガード』。このエリア・オトラントに近頃移動してきたAC部隊。その構成メンバーは主力レイブン4名とサポートメンバーが4名、計8名によって運営されえていた。チームというほどだから、最初はてっきり皆が常に一緒に行動してミッションなどに当たっているのだと思っていた。

 しかし、実際は少々異なる。チーム『ヴァンガード』は基本的に通常活動は他のレイブンと大して差がなく、それぞれが勝手にミッションを受け活動をしているのだ。何か大きなことや、危険度や難易度の高いミッションの場合に集合して協力し合うという感じになっている。だからメンバーはそれぞれが招集をかけない場合、大概は別行動になっているのだった。

 自分はそのことをサポートメンバーの一人である女性に聞いてはじめて知った。彼女の名前はレニといい、チーム内では主にオペレーターとしてミッション中メンバーをサポートする役割を担っている人物だった。年齢こそ自分よりも年上らしいが少々小柄であり、かわいらしい童顔であるためか年下のようにも思える。

 今は彼女や、行動メンバーであるレイブン達と近くの喫茶店『ガジェット』という店でチームの説明を受けつつ、ミッションについての話をしているところだ。

「今回はセキレイさんのチーム参入後の初ミッションですから、チームとしての行動を体験してもらうために少々難易度の低いミッションを見繕ってきました。」

 そういうと彼女はノートパソコンをこちらに向ける。依頼主はクレストで、内容はある地域を占拠している武装勢力の排除となっている。映像に映し出された相手の戦力はMTを主力とする通常戦力ばかりであり、数こそある程度揃っているようであるがどれも機種や製造企業がばらばらなものであった。中には建設用作業重機に無理やりACやMT用の武装を付けたものまでちらほら見える。

 次に写ったのはこの地域の説明だった。ここは各企業が通行するため幅広くしようする要所であるらしく、このエリア・オトラントで数少ない中立地帯でもあった。そのため、ここを押さえられれば各社の施設やコロニーに対して物資の流通が遅れてしまい、企業からすればあまり良いことではない。しかし、そこまで読み進めると少々疑問が生まれ、小さく首をかしげた。

「ねぇ、何でこんな重要なところなのにどの企業も直ぐに自社の部隊を送り込まないの?」

 何でわざわざレイブンに依頼しなければいけないのか。そんな手間や、出費を強いら無くても企業所有戦力でこの程度の相手は充分撃退できるはずだった。

「さっきも言いましたがここは『各企業が使用する流通の要所』だからです。どの企業もここを重要視するからこそ、下手に部隊を派遣してそこを占拠してしまっては他の企業から集中攻撃を受けてしまう。」

「故にどの企業もこの地区は欲しい、でも他の3企業を正面から敵に回すわけには行かない。そのために自然と生まれた中立空間、そこがここなのです。」

「……ふーん。……難しくてよくわかんないや。」

「って、おい、まだわかんねぇのかよ。早い話が自分達の手下を置いちまったら他の奴等が僻んで攻めてくる。だからどの企業が依頼したかわからなくするために俺達みたいなフリーの戦力、レイブンを使うって訳だ。」

 レニから始まり、スティルから説明を受けるもまだうまく理解できない自分に、今度はトバルカインが答えてくれる。そこでようやく納得した自分を見ていたフェイは静かに立ち上がった。

「ミッションの説明は以上だ。全員、明朝04:00までにACの準備をしておけ。……夜明けと共に強襲する。」

「りょ〜かい。」

「……了解。」

「…りょ、りょうかい!」

 言うことは済んだという様子で、フェイは振り向きもせずに店を出て行った。その背に向かって気のない間延びした返事をしたのがトバルカイン、次にそっけなく答えたのはスティルだ。自分は一瞬どう返事をするべきか悩んだために一呼吸遅れてしまっていた。

「さってと、俺らも行くか。お〜い、レナっち。会計頼むわ〜。」

 トバルカインも立ち上がると領収書のついた小さいプレートを手に店員を呼ぶ。呼ばれた子も笑顔を浮かべるとこちらへと小走りで向かってくるのだが……ここの店員の衣装は少しだけ面白いものだった。最初にメイド風の衣装、ここまではまだいいが頭には猫のような付け耳までついているのだ。それも女の子だけなら、まだそういう店もあるだろう……しかし青い髪の男性店員まで同じような動物耳をつけているから珍しい。

「はいは〜い。毎度ね、トバルカイン。これから仕事?」

「いや、直ぐってわけじゃねぇけどな。なぁ、そんなことより今度デートしないか?いい雰囲気の店知ってるんだけどさ。こう、カクテルでもお互い傾けながら話しようぜ?」

 さらにそのまま、またいつもの癖で女の子を口説きに入った。それも毎度毎度のことのようで、相手の女の子もなれた様子であった。

「あはは、面白そうだけど……僕お酒苦手だし。それにほら、何かあったらトバルカインはじっちゃんにぶっ飛ばされちゃうよ?」

「う……ヴォ、ヴォルフはレナっちのことになると見境ねぇからなぁ……。」

「……この前は手を握って口説こうとして拳銃押し当てられていたな。」

「……AC持ち出してこなかっただけまだいいかもしれませんけどね。」

 じっちゃんという辺り、ヴォルフと呼ぶ人物はレナという子の祖父に当たるのだろうが……相当な人物らしい。かなり孫を溺愛しているようで、ため息混じりに話すスティルや食器を片付けに来た青い髪の男性店員の話から以前口説いて返り討ちにあったらしい。

「そ、それはさすがにねぇだろソイル。……っと、言いたいけどヴォルフに関しちゃ絶対はねぇからな。……それはいいけど、なんでお前もレナっちと同じで犬耳装備な訳?」

 大きくため息をつくと残念そうに肩を落としてトバルカインは会計を済ませながら、レジのキーを指で叩いている青年の耳について疑問の言葉を投げかけた。それに青年は先ほどのトバルカインよりは少し小さい程度のため息をする。

「ヴォルフいわく、獣耳サービスキャンペーンだそうです。」

「……なんだそりゃ?まぁ、面白そうだけどな。ソイルもソイルで似合ってるし。」

「……からかわないで下さい。」

少しだけ恥かしいのか、頬を赤らめて苦笑を浮かべる青年に対し楽しそうに笑うトバルカインは手を振ると店の入り口を開けでていく。

「毎度ありがとうございました、そっちの新人さんも仕事のほう頑張ってください。」

「ぁ、うん、ありがと。僕はセキレイ、えと……ソイルさんでいいのかな?」

「ソイルで構いませんよ。私もセキレイと呼ばせていただきますので。では、気をつけて。」

 手を差し出すソイルに、自分も無意識に手を上げると軽く握手する。華奢なイメージのある彼の手は意外と大きく、男の手だと感じながらも。店を出ると直ぐに次のミッションに向けて頭を切り替えることにした。初めてのチームでのミッション……それに不安を覚えないほど自分は大物ではないのだ……。


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 渓谷に挟まれた形で北東西南方向に伸びる、奇妙に出来上がった十字路。自然に生まれた空間ながら、まるで誰かが故意に作ったかのようなこの場所はいつもなら時折企業の輸送部隊が通るだけの場所だった。しかし今は違う。北東西南、どの方向に伸びる道路にもMTや通常兵器が並び、この通路をまるで検問するかのように占拠している。

 主力となっているのはクレスト製CR−MT77が数十機、後は86式装甲戦闘車や対空砲を搭載した自走砲、さらに作業用の重機にAC用の武装をほどごしたもので数を補っている。

『……おい、きいたか?』

「? なにがだよ?」

 MTに搭乗している男へと仲間のMTから通信が入る。リーダーからは私的な通信は禁止されているのだが、ここに駐留して既に3日目というもの企業の輸送部隊はおろか、自分達を攻撃する部隊さえもきていない。いい加減、ただ黙って警戒しているという事態には皆疲れ、集中力が切れ始めていたのだ。そのためか、いつもならこうやって一般回線で話しているとリーダーからお怒りの言葉が飛んでくるというのに、今は無い。

『何でもリーダーはレイブンを雇うらしいぜ。』

「なんだ?俺達だけじゃ不安だってのか?」

『俺が知るかよ。ただ、どんな奴が来るんだろうな、って。』

「……レイブンなんて、どうせろくな連中じゃないんだろうけどよ。あんな狗を雇わないといけないほど俺達だけで十分だろうに。」

 皮肉に『狗』と例える男に、仲間も『違いない』と答える。自分達にとって、レイブンとはその程度の存在なのだ。最高の戦力であると同時に捨て駒、報酬さえよければどんな依頼主からだって仕事を請けおう、最低の金で人を殺す狗。この考えはきっと企業だって同じだろう。一体何人仲間を殺されたか。それを行ったレイブンが、次の仕事では自分達の仲間として現れるなんてこともある。

 そんな時、MTのCPUが警戒音を発し、レーダーに映る機影を知らせてくる。それに驚きつつも、組んでいた足を解いて操縦桿を握りなおすと正面モニターにはこちらに向けて走ってくる輸送トレーラーが一両見えた。企業でも使用しているが一般でも広く使用されている機種で、後ろにはなにかをつんでいるのが見える。

『……なんだ、こいつは?』

「知るか。このまま直進してくるようなら攻撃するぞ。」

 MTパイロット達に緊張が走るのと同時に、トリガーにかかる指に力がゆっくりかかっていく。そんな時、タイミングを計ったかのように専用の通信回線が開かれる。

『全員、そのトレーラーは攻撃するな。アレはこっちが依頼したレイブンだ。』

 通信を送ってきたのはリーダー。誰かが『噂をすればか…。』、と言う声が聞こえた。確かにそのとおりだろう。トレーラーはMTたちの間まで進むと停車し、運転席から一人の若い男が降りてくる。MTパイロット達はそれを見下ろすように、他の仲間も銃を構えながらレイブンを出迎えた。

「……いきなり撃ち殺されそうな場所だな。」

 ため息混じりに呟く。その声はまだ見た目どおり若く、青年だといって良い。右目は眼帯がされ、黒い髪は伸ばしっぱなしという様子でそれを一纏めに縛ってある。到底、車などの運転免許だのそういうものを所持しているとは思えない年齢のように見えた。

『……なんだ?ガキじゃねぇか。』

「こんな奴が、レイブンなのか……?」

 それを見た男達はざわざわと、一斉にささやきだした。それも当たり前だろう。こんな子供が最高の戦力、ACのパイロットだというのだから。想像とは大きく違っている人物も多いはずだ。

「よくきてくれた、レイブン。この仕事を引き受けてくれたことに感謝する。」

「……あんたがここのリーダーか?」

 人の間を割って出てきたが体格の良い男。肌は日に焼け、顔には古い傷跡が大きく見える。青年の問いに頷く男は握手のつもりか、手を差し出す。しかし青年はその手をチラッと見るだけで、握ることは無かった。そんな様子に、リーダーは苦笑混じりのため息を漏らすと手を引く。

「早速だが仕事にかかってくれ。あんたに頼んだのは戦闘になった際の助力だ。いつでもACを出せるように―――」

「その前に、条件がある。」

 青年はリーダーの言葉を遮るように手をかざした。その仕草に、リーダーも言葉をとめる。

「……なんだ?」

「報酬は三分の二でいい。変りに、戦闘が始まったら俺は勝手にやらせてもらう。」

『なんだと!?』

 いきなり青年が出した注文に声を上げたのはMTに乗っている男だった。それを始まりに、男達は次々と声を上げ、殺気立った雰囲気で騒ぎ出す。

「いきなり現れて、何を勝手な!!」

『金を貰って人を殺す狗風情が!偉そうにしやがって!!』

「……ならこうしようぜ。」

 そんな男達のことなど大して気にしない様子で、青年は一機のMTを指差した。それは、先ほどの少年の言葉で一番最初に声を上げた男の乗っているMTだった。

「俺がこいつを倒せたらその条件を飲んでもらう。もちろん、ACは使わねぇ。」

「……力を見せ付け、認めさせるか?いいだろう、嫌いじゃあない。今すぐMTを準備するからそれで―――」

「いや、MTもいらねぇ。生身で充分だ。」

『……はぁ?』

 彼の言葉に、MTの男が間抜けな声を上げる。しかしそれはここにいる誰もがあげたくなる声だったかもしれない。ACではないにせよMTに、通常武器のみで生身で挑む?それがどれだけ無茶なことか、考えるまでも無い。MTと人間を比べて火力も、装甲も、機動性も、ACほどではないにせよ驚異的なほどに差が生まれる。もちろん撃破は不可能ではないが、危険度はかなり高い。

 ようやく我に帰ったように、MTのとこが大声で笑い出す。それに釣られて周囲の男たちまで、全員が一斉に笑い出した。

『ははははっ!! おもしれぇ、なんて馬鹿なガキなんだ!いいぜ、やってやるさ。ただし……死んでもしらねぇぞぉ!!』

 MTのとこは急に鳥のような逆関節の足を振り上げると、開始の合図も無しに青年に向かって勢いよく振り下ろした。ズドォン!!っという地響きが感じられそうな音を立てつつ振り落とされたそれは、まともにくらえば人間など一瞬で潰れた林檎のように粉々になる一撃。

だが、その一撃は青年を捉えていなかった。振り上げられた瞬間、横に飛んだのだろう。それを見た男は直ぐにもう一度足を振り上げ、それを見た周囲の男達も巻き添えを避けるために一斉に離れだした。

『死ね、腐れガラスの狗がぁ!!』

 もはや完全に目的を忘れた発言。小さくため息をする青年はもう一度後ろへ下がるように飛ぶと懐から何かを取り出し、MTに向かって投げた。モニターに移る形から、てっきり手榴弾か何かだろうと男は思うと構わず青年を追うように回避もせずにいた。いくら手榴弾でもMTの装甲を傷つけられても、破壊して内部に損傷を与えるほどの威力は無い。

 だが、それは手榴弾ではなかった。MTのセンサーユニットの前辺りで弾けたそれはまばゆいばかりの閃光で周囲を照らし出したのだ。それに泥いた男は一瞬目を閉じるが、それだけでは終らない。モニターは激しい光に焼かれ、数秒間は機能が使えず真っ黒になる。

『くそぉ!? 何処だ、何処にいやがるガキぃ!!』

「うわ、あぁっ!? 馬鹿やろ、見えもしない状態で動くな!!俺達を踏み殺す気か!?」

 見えないことに焦りが生まれた男は必死でMTを動かして青年を捕らえようとする。しかし光学センサーが麻痺したいま、青年だけを捉えることなどできず、周囲の男達は動き回るMTに踏み潰されそうになり、溜まらず通信を入れた。

 さすがにMTの男も仲間を踏み潰すわけには行かない。仕方なく動きを止めた瞬間、それこそが青年の狙いだった。手ごろな位置にある武装重機を足場にして飛び移るとMTの搭乗ハッチを操作するパネルカバーを強引に開け、強制開放する。中にいた男は何事かと、急に開いたハッチへと視線を上げた瞬間、拳銃を向けている青年が見えた。

「動くなよ。……振り落とそうとしても無駄だぜ。あんたがMTを動かすより早く、俺はあんたの眉間を撃ち抜いてやる。」

「ぐっ……ちっ、くそっ!!」

 怒りに任せて男がコンソールの一部を殴るのが終了の合図だったように、MTへとリーダーの通信が入ってきた。

『そこまでだ、お前の腕はよくわかったレイブン。』

「じゃあ、さっきの条件を飲んでもらうぜ。」

『ああ、だが戦闘以外ではこちらの命令に従ってもらうぞ。』

「……あぁ?」

『貴様の提示した条件は戦闘が開始した後の行動、だ。それ以外はその条件に含まれていない。』

「……そういわれればそうだな。……しかたねぇ、それには従うさ。」

 一本取られた、そう言いたそうな苦笑を浮かべた青年は拳銃をしまうとMTから飛び降り、まるで猫のようにしなやかに着地して見せた。

「では仕事にかかってもらうぞ、レイブン。」

「レイブンじゃねぇ。俺にはテュールって名前がある、…つっても登録したレイブンネームだがな。愛機はストリンジェンドだ。」

「……マックス・ヴェルナーだ。」

 リーダーの男にそれだけ言うとテュールは手を差し出す。それを見たリーダーの男もまた名乗ると手を差し出し、握り合った……。


あとがき

 まずは、すみません。めちゃくちゃ遅くなりました。(滝汗
 ここだけの話、まるで五月病かかったなみに気力と思考がダウンしておりました。(オイ
どんだけ速い五月病だ…。(汗
 
一ヶ月ぶりの更新になってしまったこの作品。少々予定を変えて、実は第三部主人公を投入というなんとも妙な展開になってきたり…。この後の展開は自分でも予測できません。(マテイ
 それに戦闘系の話を打つほうが楽なようで、日常会話がぐだぐだならへんは勘弁を、次回頑張りますw ではは〜。

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