『L'HISTOIRE DE FOX』
 二話 現時 -基地強襲-

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 今回の仕事はミラージュの基地のひとつを襲撃するものだった。内容は簡単、まずはクレストの部隊到着前に基地にいるMTや攻撃兵器を全て破壊すること。輸送機のジェット音が響いてくるコックピットの中、相棒のルナの退屈だという愚痴を聞くこと30分。さすがにもうそろそろ辛くなってきた頃に輸送機パイロットから通信が入った。

『レイブン、目標地点だ。 降下を開始するが準備はいいか?』

「ええ、いつでもどうぞ。」

『オッケ〜♪』

「・・・。」

『・・・。』

 これから戦闘だというのに緊張感のないルナの声に半分苦笑を浮かべる。おそらくパイロットも同じか、唖然とでもしたのだろう。ひと呼吸の時間の後にようやく我にかえったように『わかった。』と答えた。同時に自分たちから見て正面の輸送機後方ハッチが開いて青空、下には乾いた大地のコントラストを映し出す。

 さっそくルナが降下のために飛び出し、次には自分が飛び出した。浮遊感は直ぐに襲ってきて、同時に凄い速さで地面との距離が詰まっていくのがメインモニターにも、そこに示された高度計にも映し出されている。すかさずブースターを使って一瞬スピードを緩めると大地へと降り立った。直ぐ眼の前にはミラージュの基地があり、急に降下してきたこちらに向けて歩哨をしていたMTが向かってくる。

 逆関節の青い汎用型MT、『MT08-OSTRICH』だ。丸みを持った胴体上部にACと同等の威力を持つライフルを装備しているだけの簡易MTともいえるものであって、別に恐れるようなものでもない。

「ルナ、行きますよ。 とにかく攻撃してくるものを優先的に破壊していきましょう。」

『わかってるって、ほらほら、早速来たしいくよ〜。』

 相変わらずの調子の彼女、横にいたサンセットスパウローが逆関節特有のジャンプ力で宙に飛び上がると上空からブースターを使って飛行しつつ武器腕のマルチミサイルを放つ。あっさりと直撃を受けたMTは一瞬で爆散し、いなくなった。それを見届けると彼女は次の獲物を探して飛んでいく。その姿に小さく苦笑を浮かべながら自分も攻撃を開始した。

 向かってくるMTに片っ端からマシンガンを叩き込みつつ、ブースターを使って小刻みに動き、攻撃を回避していく。装甲も、火力も機動性も全てが劣るMTではACに対してあまりにも脆弱すぎるのだ。例え数が多くてもこの平らで広い基地では簡単に攻撃が回避でき、つぎつぎと撃破されていく。

 ブルーテイルの右手に持ったマシンガンを全身に浴びたMTがまた一機、倒れていくのを見て残されたMTがじりっと後退を始める。そこをすかさずブースターで接近し、肉薄するとブレードで脚を切り飛ばした。バランスを崩して横転するMTを横目に基地を見回せばもう動く敵の姿はなく。

「ルナ、こっちは終わりました。そっちはどうです?」

『ちょっと弾食らったけど、これで最後。・・・はい、おわり。』

 通信の後に少し離れた地点で爆発が起こり、その上を滞空飛行しているサンセットスパウローが見えた。これで依頼は終了、後はクレストの部隊が到着するのを待つだけだ。周囲へと警戒のためにレーダーへと目をやった瞬間、赤い光点が索敵範囲へと入り込んでくる。敵の援軍・・・しかも速さからみてACだろう。

『きゃぁっ!?』

 そのことを伝えるよりも早く、一番初めに攻撃を受けたのはルナのサンセットスパウローだった。肩武装の垂直発射ミサイルが打ち抜かれて爆発を起こすと大きくバランスを崩して落下していく。思わず声を大きくして彼女の名を呼ぶが、何とか体勢を地面ギリギリで立て直したようで着地した。

「狙撃です、ルナ!! 直ぐに物陰に・・・ッ!?」

 今度は自分への攻撃、肩へと着弾する衝撃を感じながら。CPUが機体の損害報告を表示してくる。それを見なくてもたいしたダメージではないと、攻撃のきたほうへと視線を向ければエメラルドグリーンの重量級二足ACが突っ込んできた。そのまま右手に持ったスナイパーライフルを連射、完全にターゲットをこちらに絞ってきたようで小刻みなステップを踏んで回避しつつ反撃のマシンガンを放つ。

 しかしやはり重量級、さらに腕に実盾も装備しているためにほとんどが弾かれてたいしたダメージを与えられなかった。それでも牽制程度に打ち続けつつ建物の影へと入り込み。

「ルナ、動けますか?」

『ごめん、ちょっちミスっちゃった。 爆発で右腕も動きが悪くなっちゃって・・・。』

「では直ぐに回収地点に向かってください。 こいつは僕が少し相手をして時間を稼ぎますから。」

『でも、』と彼女はまだ戦闘を続ける意思を示す。しかし今の状態で戦うのは逆に状況を悪くする可能性だってあるのだ。無理をさせずに撤退を勧め続けるとようやく彼女は納得してくれた。それを援護するように物陰から飛び出すと目立つように大きくジャンプしつつ、肩武装のマルチミサイルを選択しエクステンションの連動ミサイルと一緒に放つ。

 相手もそれを回避するために手ごろな建物の陰へと入るタイミングを見計らってサンセットスパウローが離脱を図った。さすがに肩にレーダーを装備しているためか、その存在に気がついた相手がスナイパーライフルを向けるがそれをジャマするように射線上に割り込んでいく。

「わるいけど、あなたの相手は僕ですよ。」

『・・・逃げるものを庇うか、なんとも格好のいいことだな。・・・私はクフィー、ランクはAアリーナで20位だ。』

 声からすると女性らしい、クフィーは右手を下げると余裕なのか、礼儀正しいのか自己紹介をしだした。しかしそんな彼女に、自分は少なからず好意を持つことが出来た気がする。自分も同じように右腕を下げて。

「僕はソイル、Bアリーナですので順位はありません。」

『ほう、Bか・・・しかし動きは良い。お前となら少しは良い戦いが出来そうだ。・・・部族の、戦士としての血にかけて・・・おまえに勝たせてもらう!!』

 改めて挑戦状でも叩きつけるような台詞と共に、右腕が上がる。同時にこちらも右手を上げ、スナイパーライフルとマシンガンによる撃ち合いが始まった。お互いに円を描くように移動しながらの戦い。機動性で勝るこちらとは逆に相手は防御で勝る、単調な攻撃ではたいした効果を得られないだろう。

 だが逆に接近戦に持ち込めば勝機は見えてくるはず。だがそれをさせないほどに、彼女の狙撃の腕はたいしたものだった。こちらの機動を的確に読んでは阻害するように撃ち込み、動きを邪魔したそこへすかさず肩武装のミサイルをエクステンションの連動ミサイルとともに放ってくる。

(このままではクレストの部隊が来てしまいますね・・・仕方はない。)

 任務は部隊到着前の敵の排除、それはきっと援軍のACも数に入っているだろう。つまり彼女を倒さなければ任務は失敗ということになってしまう。そうなると撤退をさせたルナになんと言われるか・・・。小さくため息を一つ落とすと相手を鋭くモニター越しに睨みつける。

「悪いけど時間がない・・・さっさと終わらせてもらう。」

 それは先ほどまでの彼とはまた違った雰囲気を持った声だった。同時にブースターの出力を上げてクフィーに向けて突撃を開始する。

『? 勝てないとでも思って自棄に・・・ッ!?』

 彼女はそうなら少し残念だと思っていた、でもその予想はあっさりと裏切られる。放たれたライフルの高速弾を彼は紙一重の機動で回避して見せたのだ。明らかにさっきよりも反応が早く、そうして回避が的確になっている。続けざまに放つ弾丸も全て同じように交わされ続け、後退しても距離がどんどんと詰まっていく。

『何だ、おまえは!?』

 これが本当の実力なのか、今度は彼女が焦りだす。既にブレードのリーチに入る距離にまで近づきつつある相手にスナイパーライフルでは相手が悪すぎると、即座に左手の盾と一緒にパージして予備のハンドガンとブレードを格納スペースから取り出す。

『近づきすぎだ!! おちろぉっ!!』

 ほぼ眼の前で放つハンドガン。そのいくら威力が弱くてもこの距離で頭部に食らえばある程度ダメージを与えることができる。その隙にブレードで攻撃をと考えたのだが・・・。

 彼はまた信じられない反応速度でそれさえも回避して見せた。そのまま自分の右側へと滑るように動く彼の機体は、左肩のレーザーキャノンを構えている。しかも、二足だというのに立ったままだ。

 一瞬、馬鹿な!!っと頭の中で叫ぶも。それは放たれた光弾の命中する凄まじい衝撃でかき消された・・・。


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 ぼんやりとした意識の海の中、暗い視界がだんだんと明るくなっていく。此処はどこか、確かに撃破されたはずの自分が、何で自分は生きているのか、まだうまく働かない頭で考えながら体を動かそうとすると痛みが走った。

「つぅっ!?」

 彼女、クフィーは自分が怪我をして、どこかに寝かされていることに気がつく。ゴゥゴゥというジェットエンジンと気流を切り裂かれる音の混じったもの。ここはACなどを輸送する大型輸送機の中。その格納スペースの端っこにある簡易式の長椅子に寝かされているらしい。

 現に奥には青と赤、それに半分壊れて横たわる自分の緑のACが見え。治療のためか、パイロットスーツは脱がされ自分は今裸に近い状態に包帯まみれで、医療用のシーツをかけられている。

「目が覚めましたか・・・?」

 顔を覗き込んできたのは細身に青い髪の青年。その声から彼が先ほど自分と戦っていたあの青いACのレイブンであることがわかった。そこで、自分の中に怒りを覚えるような熱い感覚が燃えがると、その感情のままに彼の胸元を掴む。

「おまえ、プラスだな!! そんな、そんな力で私に勝って嬉しいのか!? それも、敗者の私を生かして・・・戦士の私を馬鹿にしているのか!? ・・・・答えろ!!!」

 プラスとは、俗に言う『強化人間』のことをさす。そこにいたる経歴は人それぞれだが、ほとんどが事故により戸籍上死亡したり、戦災孤児だったりという身寄りのないも達が多かった。強化される過程で様々な理由により死んでいく中、生き残ったものには普通のレイブンを凌駕する能力を得ることができる。

 だが所詮は借り物の力、実力というものとは違うといっていい。彼女が怒っている理由もそれだった。自分の腕一つで順位を上げてランカーになった誇りがあったからこそ、そんな力に頼って戦う相手に負けたくなかったのだ。

 自分の体が起き上がったためにシーツが半分ほど落ちて肌を形の良い胸を露にしているのも気にせずに、今は自分の怒りに任せて彼を睨みつけながら胸元を引っ張る。一瞬だけ彼がバランスを崩しそうになるのだが、直ぐにまるで石にでもなったかのように動かなくなってしまった。

 その様子を眺めていたのだろう、ルナも急いで駆け寄ってくるがそれをソイルは片手を止めるようにかざして。そのまま、その手は胸元を掴んでいる彼女の手へと持っていってつかんだ。そうして、まるでその細腕からとは思えない力で胸元から引き離し。

「・・・誰が、誰が好き好んでこんな力など・・・っ!!」

 まるで搾り出すように呟く。その顔にはどこか必死で何かに耐えるような、今にも泣き出しそうな表情が浮かんでいる。乱暴に彼女の手を離すと直ぐに背を向けて、固定されている自らの機体のほうへと歩いていってしまった。その様子に一番困ったのはもちろんクフィー自身だ。

 自分が怒っているはずだったのに、なぜかその立場は何時しか彼と入れ替わってしまっていたようだった。彼の表情を見てからどんどんと小さくなっていく怒りの感情とは逆に、なぜかとても悪いことをしたような切ない気分になっていく。そんな時、そっとルナが彼女の肩に手を置くと寝かせて『今は寝たほうがいいよ。』と優しく話しかけてくる。

 素直に横になる彼女は静かに泣き出した。それは弱い自分に対してなのか、はたまたそれ以外なのか・・・自分にはわかることではない。愛機のブルーテイルの装甲に軽く触れるソイルは・・・次の瞬間、思いきりそこを殴りつけた。ACの装甲がそんなことで傷つくこともなく、逆に赤い血が自分の拳を軽く染め。

「・・・俺は、こんな力など・・・・要らないのに・・・ッ。」

 自らの力と、久しく思い出した過去に重なる言葉・・・『プラス』・・・・ただそれだけがひどく、彼女の言葉の中で自分の胸に突き刺さったような気がした・・・。



登場AC

 ブルーテイル &LG00582w05G000I00as02FE0oa20c3J2Mo02hxj#

 サンセットスパウロー &Li005eE007g001Y505g02F0aA0Fg9640000bQ30#

 パンツァーディンゴ &Lq01gj00E1g0a1I02wyw09E0yw3z9vAhI3kqg5s#


 ・・・修行して出直してきます、辛口意見ありましたら教えてください。(ぇ

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