『L'HISTOIRE DE FOX』
 六話 決意 -奇襲戦闘-

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「輸送部隊の襲撃?」

 アリーナにある待合室、そこでは試合に望むレイブンやそれを終えたもの達に与えられる部屋だ。シンプルなその部屋は安いソファーとテーブル。ロッカーや更衣室、簡易シャワールームなどがあるだけのものだった。備え付けのディスプレイには現在試合ではなくハンガーで修理を受けているサンセットスパウローが写っている。

 シャワーを浴び終わったルナは下着姿にTシャツを着ただけの姿で髪を拭きながらその話をもて来た人物へと声を掛ける。やわらかくもない、すわり心地があまりよくないソファーに座るリザは小さく頷いた。部屋の位置口近くの壁にはクフィーが腕を組んで寄りかかっているのも見える。

「ええ、それに協力してもらおうと思って。」

「・・・それはいいけど。・・・ソイルは?」

 一緒に会場に来て、先ほどまでクフィーと一緒に自分の試合を見ていたはずの彼の姿がこの部屋にはない。それを聞いたクフィーは急に小さく笑うと入り口のドアに向けて指をさした。ドアにある小さい曇りガラスには誰かが寄りかかっているらしい影が映っており、うっすらとだけ見える青い髪が彼であることを教えてきた。

「朝のことがあるから・・・だといっていた・・・。」

 ああ、あのことか。もう自分はあまり気にはしていないのだが・・・それでも自然と顔を赤くさせてしまう。その様子にリザは楽しそうな笑みを向けると小さく笑った。おそらくはクフィーかソイルからでも聞いて彼女も何があったのかを知っているのだろう。

「・・・まぁ、それは置いておいて。 でも、僕のAC今ほとんど壊れちゃって使えないよ?それに腕だったら僕よりソイルのほうが良いんだし、そっちに頼んだほうが・・・。」

「そうはいかないのよ、これはヴォルフ、マスターに頼まれたことだから。あなたと僚機を組んでこの仕事に向かって欲しいっていう、ね。それに機体のほうは今私の専属スタッフが同じ交換パーツもって作業に入ったから直ぐに終わるわよ。」

 自分の祖父からわざわざ頼まれるとは一体どういうことなのか、それ以前に専属スタッフ?パーツを持ってきた?ハンガーを写した部屋のディプレイへと視線を向ければ今さっきまでボロボロだった愛機のサンセットスパウローがもうほとんど修復されている。しかも使える部分以外は全て新品のパーツを移植しているらしく、見た目は全てが真新しくなっているといっても良い。

「さ、早く行きましょ。襲撃予定時間までもう2時間もないから、直ぐに輸送ヘリも準備するわ。」

 どうやら否定権もなく至れり尽くせりらしい・・・しかし、そこまで全て準備されていると少し呆気にとられてしまう。それはクフィーも同じだったようで、小さく口を開けっ放しにしたままこちらを見ていた。一体此処までにいくらのお金がかかったのか・・・後で請求とかされないかと少しだけ不安になりながらもまたパイロットスーツに袖を通すのだった。


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 輸送ヘリがスピードを上げる感覚がコックピットへとゆるくGを伝えてくる。どうやら目標の輸送部隊を発見したらしい、同時に高度を下げていくのがメインモニターに表示された高度計に記されている。地表まで500mほどまで一気に降下すると直ぐにパイロットから通信が入ってきた。彼もリザの専属スタッフの一人らしい。

『目標輸送部隊確認!! お嬢様、降下カウント10から行きます。ご準備を。』

『ええ、こっちは出来ているわ。 ・・・ルナは?』

「こっちもいいよ、でもこのスピードで降下するのはちょっと怖いかな。」

 ACを降下する場合は大体輸送機は速度を落として、さらに低高度まで降りた上で行われる。しかし今回は輸送部隊の正確な位置がわからなかったために待ち伏せによる奇襲などが出来ず、こういった急な降下強襲作戦を行うことになったのだ。そのため、自分にとってはこの速度ではこれが初めての降下になる。

 しかし下手にゆっくり降ろしたのでは護衛のMTに狙いついされるだろうし、離れて降ろせばその分補足し、追いつくまでに時間が掛かってしまう。OBを装備していれば話は別だが、今回自分のサンセットスパウローも、リザのグリーベアも両方装備していなかった。

『・・・4・・・3・・・2・・・降下。』

 カウントを読み上げるパイロットが合図と同時に固定アームを開放する。同時にふわりと自分が浮き上がるような感覚とともに一気に地面が近づいてくる。急いでブースターを噴かすと速度を緩めながら着地し、その衝撃に耐えながら視線を前へと向けた。同時に自分の横には緑色の四足AC、リザのグリーベアが着地してくる。

 今正面には自分がいる道路を走ってくる輸送部隊はMTが護衛をしているのが見えている。クレストの汎用MT、CR-MT775Mが四機。その隊長役なのか重装甲MT、CR-MT85Mも二機確認されている。さらにその援護役としては一機の狙撃特化型MT、CR-MT83RSも後方に控えていた。かなりの部隊だ・・・しかもおまけつきでACも確認できる。

 エメラルドグリーンに塗装されたその機体は輸送部隊を援護するために前へと出てくる。その機体には見覚えがあった。そう、数時間前にアリーナで自分が戦っていたエメラルドタブレットだ。あの時自分は彼にたいしたダメージを与えられなかったからか、こうも短時間でミッションにでてくるとは少々驚いた。

  相手もこちらを確認すると即座にバズーカを放ってくる。リザが左に飛ぶとこちらは右に、お互い分かれるように回避した。即座にこちらはミサイルを彼に向けて放つ、同時にリザも両腕の携帯グレネードを放ちながら地面を滑るようにブーストダッシュで移動を開始した。

 おそらくはエメラルドタブレットを構うよりも輸送部隊の撃破を優先しての行動だろうがそれを許すほど相手も甘くはない。同時にリザにはMT護衛部隊が襲い掛かって行った。

『こっちは私が相手をするわ、ルナはそいつを足止めして。』

「え? ぁ、わ、わかった!!」

 MTへ援護に向かおうとするエメラルドタブレットに向けて垂直型ミサイルを発射する。そうして足止めを食らったところへと追撃のマイクロミサイル。エネルギーシールドを展開しながらこちらへと向きなおした彼はバズーカで応戦してきた。

『ほう?さっきのお嬢ちゃんか・・・よくこの短時間でそこまで機体を修復できたものだな。』

「ちょっと知り合いがね、助けてくれてこの通り治ったよ。」

 一定の距離を保ちながらお互い、先ほどのアリーナでの戦いを思わせる動きでの戦闘を続ける。しかし今回はあのときみたいに戦場がドームじゃない。天井を気にしなくていい上に、障害物だって多少なりにあるから少しは戦いやすいといえるだろう。相手の上を取るようにしながら連動ミサイルと共に放たれるマイクロミサイル、合計で14発のミサイルはまるで飴のようにエメラルドタブレットに降り注ぐ。

 しかしそれを彼は前進して自分の下をくぐることで回避して見せた。そうしてすかさずのバズーカによる反撃。回避に入り始めていたおかげで背後に直撃はしなかったが左肩に命中してエクステンションを吹き飛ばされつつ状態が崩れる。

「きゃぁっ!? く、のぉっ!! まだまだぁ!!」

『ふむ。威勢は良いが、いささか経験不足よな。』

 かなり高度が下がってしまっているが何とか体勢を立て直しながらの後退。余裕を見せる相手はどこか楽しむようにこちらの相手をしている。負けてなるものかと分裂型ミサイルを発射、残された追加ミサイルと共に放たれたそれは山なりの弾道で8個に別れて降り注ぐ。それもゆっくりとひきつけては小刻みな回避で回避して見せる彼にはたいしたダメージを与えられない。

 お返しとばかりに今度は彼がミサイルを放ってくる。機体に鞭打つようにブースターをめいいっぱいの出力で回避するが、すかさずそこへと放たれるバズーカ弾。今度は回避できずにコアへと直撃を受ける。やはり経験の差なのか、完全に相手ペースへとなりつつある。これではあのときのアリーナとなんら代わりがない。

「ッぁ・・・くぅツ!? どうする、どうする・・・どうするっ・・・考えろ、考えろ、考えろっ!!」

 自らに言い聞かせるように、ついつい口からは焦りの言葉が漏れ出し始めた。このままでは負ける、今回はアリーナと違って自分は死ぬかもしれない。いつもだったら助けてくれるソイルも傍にはいない。今回は完全に自分だけでこの状況を打破しなければならないのだ・・・。

 必死で回避をしながら牽制の垂直発射型ミサイルを放つ。しかしそれほど弾数も残っておわず、直ぐ残弾はEMPTY(弾切れ)と表示された。もはや残っているものマイクロミサイルが十発。ほぼ一回分しか攻撃のチャンスはない。それでは到底エメラルドタブレットの重装甲破壊できない、それ以前に直撃できるかどうかも今までのことから考えて怪しいといえる。

 もはや此処までなのか、あきらめそうになる心にふと朝の夢が思い出されてきた。父だったらどうする・・・?この状況であきらめただろうか・・・。そんなことはない、父だったらきっと・・・。自然と操縦桿を握る手に力がこもる。

「僕は、諦めない・・・諦めたくない!! 父さんと約束したんだ!じっちゃんと誓ったんだ!! 絶対凄いレイブンになるって!! だから、こんなところで終わらせたくない!!!」

『・・・そうでなくてはな。』

 自然と自分へとは気でも入れるような言葉を叫ぶ。ヘルメスもその様子に小さく答えるように呟くのが聞こえた。同時に放たれるミサイルをギリギリまでひきつけ、それをジャンプで回避すると肩武装をパージしてブースターも全開にし突っ込む。彼は立て続けにミサイルを放ってくるが、空中にとんだ後のサンセットスパウローの機動は先ほどとは異なるものだった。

 ギリギリまでミサイルをひきつけては回避し、スピードをまったく緩めようとしない。そうして何時しか後退するのはヘルメス、追撃するのはルナという状況へと変り始めていた。先ほどとはまったく逆の状況、何時しか距離はじりじりとつまり始めついにはエメラルドタブレットにサンセットスパウローが接触する距離まで近づく。そこへ放たれる吸着地雷、今度は回避などできる距離ではない。だがその攻撃を食らいながらもサンセットスパウローは黒煙を切り裂いて突っ込んできた。

 激しい激突の衝撃に耐えながら、ルナはこの距離で武器腕のマイクロミサイルのトリガーを引いた。ほぼゼロ距離での攻撃、いくら威力が低いマイクロミサイルでもこの距離での威力はなかなかのものだ。その上回避する隙間もない、直撃を受けたエメラルドタブレットとサンセットスパウローの間で爆発が起こるとお互い弾かれるように離れた。

 そうして包まれる一瞬の静寂、最初に動いたのはエメラルドタブレットだった。機体はコアに中破程度の損傷を与えて少なからず機能低下を起こさせているようだがいまだ健在。それに対してサンセットスパウローはひどいものだ。武装は何も残っていない、腕は至近距離で発射したミサイルのせいで肘から先がなくなっている。

「・・・うっ・・・。」

 気絶してしまっていたのか、ぼやける視界の中でCPUが戦闘モードから通常モードへ強制移行する音声が聞こえてくる。そうしてその傍に佇むエメラルドタブレットはこちらを見下ろすように立っていた。

『・・・少しは腕を上げたか、お嬢ちゃん。』

「・・・かもね・・・。でも負けちゃった・・・やっぱり強いな、ヘルメスは・・・。」

 自然と彼の名を呼んでいることに少しだけ失礼かと思ったが通信からは彼の笑い声が聞こえてきた。同時にこちらへと背を向けると離れていくエメラルドタブレット。右手のバズーカを小さく上げて挨拶をするとブースターをふかして走り出した。

『次はどうなるか判らんさ。またな、ルナ嬢ちゃん。』

 なんとなく、顔は見たことがないのだが優しい笑みを浮かべる彼の顔が想像できた。なんとなく自分の祖父に重なってるかな、っと思いつつ。ヘルメットを脱ぐとコックピットを開放する。同時に入り込んできた空気は焦げ臭かったけどとてもいいものだったように思えた・・・。


/3

「・・・これでよかったのか?ヴォルフ。」

『ああ、上出来だ。すまんな、妙な他の見事をして。』

 護衛の輸送部隊のところへと戻る途中緑色の機体とすれ違う。先ほど自分が僚機を撃破したことでミッションを放棄したのだろう、こちらには攻撃も何もせずにサンセットスパウローが倒れているほうへとブーストダッシュで走っていった。そんなタイミングで通信が入ってくる、相手は以前からちょっとした付き合いのある男だった。

 喫茶店のマスターヴォルフ。先ほどのサンセットスパウローのパイロット、ルナの祖父に当たる人物からだ。彼とは情報面なので世話になることがあったりとする上に、今でも付き合いのある友人でもあった。そんな彼から頼まれたのは『孫との戦闘』である。もちろんアリーナでの大戦も彼に頼まれてのことだった。

『あいつはまだ子供、レイブンの在り様というのを教える意味でおまえが一番いいと思ってな。』

「それは嬉しいことだな・・・こちらとしても新人が成長するのを見るのはなかなか楽しい。」

 シートへと背を完全に預けるように深く座るとメインモニターには護衛部隊が見え始める。MTが何機か足りないが輸送部隊は無傷らしい。もう目的地まで残り後僅か、小さく頭部は上を見上げると綺麗な夕焼けに染まりつつある。今日は少しだけいい気分だ・・・後ででも酒を飲みに行こうかと考えつつ残りの護衛へと気を引き締めた・・・。


あとがき

今回も人様のキャラを使わせていただきました。ありがとうございます(礼

登場機体
サンセットスパウロー  &Li005eE007g001Y505g02F0aA0Fg9640000bQ30#
エメラルドタブレット  &LS00572w02gE01Ea00k02F0aw0Hz7v5AXY4uy1P#
グリーベア  &LC005600E2g00Gw00aA02G2wAa1whl9mGM0rg3m#

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