Armored Core Insane Chronicle
「Episode13 自由のために」
2月6日

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 重いヘルメットを被り、深呼吸を行って気分を整える。充分に気持ちが整ったな、と実感してからアンデルに通信を入れた。

「アンデル。もう一度、変更後の作戦内容を教えてくれ。確認がしたい」

「OK、グローリィ。作戦は基本的に変わっていないが、出撃するOWL小隊が四つから三つに減った。代わりに、OWL小隊とインテグラル及び明星は同時に出撃。一気に急襲、で、殲滅。分かりやすいだろ? あと、現場での指揮権はグローリィ、お前にある」

「了解した。野営地は撤退の準備も進めておいてくれ」

「おいおい、負け戦を予想してんじゃねぇだろうなぁ?」

 声を聞いただけだが、通信機の向こうでニヤつくアンデルの顔が頭に浮かんだ。

「何、勝ったら早くに凱旋したいだけだ」

「分かった。酒を用意しておくから、いい報せを期待してるぜ」

「了解した」

 言って微笑んでみるが、アンデルにグローリィの表情は見えない。そのことは昔から知っているのに、何故、こんな意味の無いことをしてしまうのだろう。

 何かが、おかしい。一体、何がおかしいのか、全く分からない。妙な違和感が体中に纏わりつく。昔から、こういう時は嫌な事が起こりやすい。家族が殺された日の昼間も、今みたいな気分だった。

「ミヅキ。準備は出来たか?」

「いつでも出撃できます」

 時計を見れば、作戦開始時刻五分前。キーボードを叩き、拘束具を外す。インテグラルに続き、明星の拘束具も外れた。脚を踏み出し、振動と、ジェネレーターの駆動音を全身に感じる。戦場の風が装甲をつきぬけ、コックピットに入り込み、グローリィを昂ぶらせる。

 第一〇から第一二OWL小隊は既に出撃準備が整っており、AC二機を待ちくたびれたような雰囲気すら漂わせていた。どの機体も、この日のためによく整備されていたことが分かる。雲の切れ間から顔を覗かせた太陽が、OWLの装甲を輝かせた。

「OWL部隊、全機出撃準備は整っております」

 OWL部隊の隊長から通信が入る。その声は静かで、決意を感じさせた。必ず、ミラージュに勝利をもたらす、と。

「よし! これより草原の蜃気楼作戦を開始する。全機出撃!」

「了解しました!」

 OWLのパイロット全員の声が被る。第一〇OWL小隊を先頭に、縦列陣形でMT部隊が進軍してゆく。最後に、明星が続いた。

 明星が動き出したのを確認して、インテグラルをその後ろにつかせた。明星の背部をモニターに捉えながら、ミヅキはどう思っているのだろう、と気になった。

 機体に乗る前まで、肩を震わせて怯えていた彼女だ、今も緊張で胸が張り裂けそうに違いない。だが、彼女は死んでも家族が覚えてくれる。グローリィが死んでも、ミラージュの歴史に記録されるだけで、誰も覚えてはくれない。自分で選んだ結果だとしても、どこか寂しい。

 軽く頭を横に振る。何を馬鹿なことを考えているのだろうか。本当に、どうかしてしまったらしい。こんな様子では、とてもではないが、ミヅキのことを言っていられない。

 進むにつれて、心臓の鼓動が高くなる。コックピット内には、心臓の音だけが響く。何を緊張しているのだ、と自分を叱るが、仕方がないとも思う。この戦いは、バルカンエリアの今後を左右する戦いだ。例え死んだとしても、絶対に負けることだけは許されない。誰であろうと、緊張せずにおれるわけがない。

 深呼吸を一つして、モニターの向こう、まだ見ぬインディペンデンス基地に見据えた。


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 基地の手前まで来たところで、インテグラルと明星は歩みを止め、MT十五機に先行させた。MTだけで侵攻させるのは、心もとないが、OWLは基本性能が高く、三機か四機もあればACと互角に戦える。機数は分からないが、安価なMT中心で構成されているインディペンデンスの部隊に負けるわけが無い。

 シートにもたれ、モニターに向こうで行われる戦闘の行く末を見守る。MTだけで済むのなら、専属ACを二機も出す必要は無い。いくらACといえども戦闘を行えば消耗する。そうなれば、修理は整備員に頼むしかない。連日の戦闘で疲弊している彼らを、これ以上酷使するのは、自分達にとっても危険なことだ。

 通信機から敵機の撃墜報告がひっきり無しに入ってくる。この分だと、自分達に出番は無さそうだ。ただ、一つ気になるのは、出撃前から体に付き纏っている違和感の様なものが消えないことだ。しかも、違和感はその強さを増し、一種の威圧感にまでなっている。

 そのせいで、さっきから頭の中に嫌なイメージが浮かんでは沈み、浮かんでは沈みの繰り返しになっている。脳内に浮かぶ、最悪の事態になることは無いだろうが、そんな保証はどこにも無い。

「敵ACを確認しました!」

 OWL部隊から、一番聞きたくない報告が入る。最悪の予想とは、ACが来ることなのだ。といっても、ランキングに入るようなレイヴンが来れば最悪だが、クラスAぐらいならなんとでもなる。

 OWL部隊に敵ACの映像を野営地の作戦司令部に送るように伝えた。向こうで解析され、どの機体かが分かれば、グローリィの元に連絡が入る。それまでは、MT部隊に持ちこたえてもらうしかない。とはいえ、インディペンデンスに上位のレイヴンを雇えるだけの財力があるとは思えない。せいぜい、雇えてクラスAだ。もっとも、中には報酬が少なくても構わない、という物好きもいるため安心は出来ないが。

 通信機から断末魔の叫びが聞こえた。直後に、一機が撃墜されたとの報告が入る。また、その直後に撃墜されたことを伝える断末魔の叫びが聞こえた。

「ミヅキ、準備はいいな?」

「いつでもどうぞ」

 最悪の事態が頭に浮かぶ。全身に寒気が走るが、堪える。レバーを握り締め、ペダルに掛けている足に力が篭る。

 一瞬のノイズの後、通信機からアンデルの声が流れた。

「グローリィ、敵ACの画像を送る。見てくれ」

 モニターの左隅に、ノイズ除去などの補正が施され、どことなく玩具っぽくなった画像が表示される。両腕にショットガンを構え、肩にはスラッグガンを装備している。色は、黒と灰色の迷彩色。その機体には見覚えがある。

「ランキング一九位、ティアーのスプラッシャーだ」

 アンデルに言われなくとも、画像を見ただけですぐに分かった。ランキング一九位のレイヴンが相手では、OWLといえど荷が勝ちすぎる。

「了解した。これより我々も戦闘にに入る。いくぞ、ミヅキ」

「了解」

 CorusがIFBモードで起動し、尚且つ記録装置が正常に動作していることを確認してからブースターを踏み込んだ。インテグラルがブースターを噴かすのを確認してから、明星も同じようにしてインテグラルの後についた。

 通信機からは、OWL部隊の断末魔が聞こえる。焦りながらも、OWL部隊に後退するように伝えた。だが、返答は無い。了解、のただ一言すら言う余裕は無いらしい。

 モニターに戦場が映る。地面には、インディペンデンスが使用していたと思われるMTの残骸が多数転がっており、混じるようにしてOWLの残骸がある。

 モニターの中で、スプラッシャーはOWLの後ろに回り込み、至近距離から肩のスラッグガンを撃ち込んだ。OWLは背部から火を噴き、地面に倒れこみ動かなくなる。スプラッシャーはOWLが動かなくなったことを確認してから、残ったOWLへと向かおうとする。

 これ以上、OWLをやらせるわけにはいかない。レーザーキャノンに武装を切り替え、照準を動き回るスプラッシャーに合わせる。軽やかに飛び回るスプラッシャーを、サイトの中心に捉え続ける。普通なら、中心に捉え続けるのは難しいのだが、IFBのおかげだろうか。いや、今はそんな事を考えている場合ではない。

「そこっ! もらったぁ!」

 こちらに注意を向かせるために、ワザと回線をオールバンドに開き、叫んでからトリガーを引いた。当然、叫んだ時点でティアーはこちらに気付いているため、一拍遅らせて撃ったレーザーは易々と避けられた。

「ミヅキ! 私はこいつの相手をする、君は残ったMTを片付けろ」

「了解」

 明星が、後退しつつあるインディペンデンスのMT部隊を追いかける。それを阻止しようと、スプラッシャーが明星へと向かう。スプラッシャーの動きを止めるため、鼻先を掠めるようにレーザーライフルを放つ。スプラッシャーの動きが止まり、頭部がインテグラルを向く。機体を通じて、ティアーと目が合ったようだ。

 通信機から舌打ちが聞こえた。ティアーのランキングは一九位、グローリィのランクは一一位。アリーナのランキングなどは気休め程度にしかならないが、いつも通りに戦えば、まず負けることは無いはずだ。


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 スプラッシャーに銃口を向け、さらに距離を詰めるためにブースターを吹かそうとしたときだ。通信機から「きゃあ」と、ミヅキの叫び声が聞こえた。その声に気をとられ、一瞬だけ、動きが止まる。

 その一瞬をティアーは見逃さず、スプラッシャーはオーバードブーストを使って距離を詰めてきた。両腕のショットガンが、インテグラに向けられる。咄嗟に、右斜め後ろに逃げる。散弾系はその名の通り弾が散らばるため、後ろに逃げればある程度は威力を殺すことが出来る。それでも、二丁のショットガンを同時に受けたのだ、それなりのダメージを受ける。

 牽制にライフルを放ち、後ろに下がる。だが、突如として衝撃が走り、機体が止まる。

「すみません」

 通信機から謝るミヅキの声が流れた。レーダーを見れば、自機の真後ろに友軍を示す緑の光点がある。今、ぶつかったミヅキの明星だ。そして、一二時と六時の方向に赤い光点が二つ。敵に挟まれている。思わず、舌打ちしてしまう。

「ミヅキ、そちらの敵の映像を回してくれ」

「了解しました」

 モニターの左隅に、明星のカメラが撮っている映像が映し出される。そこに映るは、一機の赤い重量級AC。見た瞬間に、全身に鳥肌が立つのを感じた。明星から送られてくる映像をキャプチャーし、アンデルに送る。通信機から、アンデルが驚愕する声を聞いた。

「ミヅキ、君はティアーの相手をしろ。私が赤い奴の相手をする」

「え? 私がティアーの相手をするんですか!? 無茶を言わないで下さい、向こうは一九位、私はクラスAですよ!」

「君がその赤いAC、リバティの相手をする方がよっぽど無茶だ。そいつに比べれば、スプラッシャーの方がマシだ」

「その根拠は? リバティはランク外でしょう、ティアーの実力の方が上ではないんですか?」

 ミヅキは分かっていない。ここ、一、二年の間にレイヴンになった者は知らないだろうが、あのリバティは元々ランキング二位に位置していたレイヴンだ。実力は、ネロや柔とほぼ同等。だというのに、四年前、グローリィがレイヴンになって少し後にアリーナからの引退を表明し、フリーレイヴンになっている。加えて、それからという物ミッションも行わなかったため、最近のレイヴンには名が知られていない。

「そいつは元ランキング二位、ネロや柔とほぼ同等だ。分かるだろう? リバティは私たちとは違う次元にいるようなやつだ」

「分かりました。駄目もとでやってみます」

「あぁ、やられそうになったらすぐに逃げろ。逃げても、誰も君を責めることは出来ない。相手が悪すぎるからな。とりあえず、向きを変える。タイミングは、一、二の三、で行くぞ」

「了解」

「よし。一、二の三!」

 インテグラルと明星は同時に、同じ速度で旋回し、半回転した後、自らの真正面にいるACに互いの武器を放った。

 オーバードブーストを発動させ、リバティとの距離を詰める。リバティの装備は、肩にステルスミサイルとチェインガン、手にはバズーカとグレネードライフル、と中遠距離の装備だ。だったら、懐に飛び込み、近距離戦を仕掛けるのが得策。チェインガンを装備してはいるが、MOONLIGHTで一撃を入れてしまえば、問題ない。あるとすれば、自分にリバティと張り合えるだけの実力があるかどうかだ。

『まったく、私は運が良い』

 リバティのパイロットが何か言った様だが、気にも留めず、リバティの側面に回りこみライフルを向ける。トリガーを引いた正にその瞬間、リバティが回避行動に入った。何とか当てようと、レーザーが放たれる僅かなタイムラグの間に銃口をリバティに向けようとするのだが、間に合わない。レーザーはリバティに掠りもしない。

『名乗らずに攻撃するとは、ミラージュも無粋だな。せめて、名乗りあってからやろうじゃないか。どうだい? Mr.ミラージュ』

「分かった」

 ライフルの銃口を下ろす。リバティも銃口を下ろしており、名乗っている間に攻撃するつもりは無さそうだ。

「私はミラージュ専属ACパイロット、グローリィ」

『レイヴンかと思っていたが、専属か。それは残念だが、まぁいい。私の名はフリーマン、一応、インディペンデンスの指導者みたいなものかな』

 フリーマンが名乗り終わると同時にオーバードブーストを発動させて、距離を詰める。リバティのバズーカとグレネードライフルが火を噴くのを見て、機体を真横にスライドさせた。距離はだいたい二〇〇、もう少し近付きたいところだが、仕方が無い。

 リバティが武装をチェインガンに切り替える間に、ライフルを放つ。リバティは後退しながら、左右にブーストダッシュしながら回避する。あくまで近距離戦には持ち込ませないつもりらしい。距離を詰めようと、ブースターをふかすが、チェインガンで弾幕を張られ、阻まれる。

『グローリィ君、君はこの世が正しい方向に進んでいると思うかね?』

「正しいとか正しくないとかは、後世の人間が決めることだ!」

 フリーマンの問いに即答し、機体を上昇させる。正面からの攻撃が効かないのなら、上からやるまでだ。何かにつけて、上空というのは死角になる。

『しかしだなグローリィ君。君の言う後世の人間達の身にもなって考えてはどうかね。今、彼らが正しかったと思えるような事を行わなければ、子孫達には辛かろう』

 上空から六○度の角度でライフルを撃つが、まるで見越していたかのようにリバティは避けた。一体、何故こうも最もベストなタイミングで避けれるのだろうか。強化人間だったとしても、リバティのカメラはこちらを向いていなかったはずだ。見えない所からの攻撃を避けるとは、まさか、超能力者だとかでもいうのだろうか。

「ならば、貴様らの提示する正しい道とは何だ!?」

『簡単だ。企業の政治能力を奪う。選挙により国民の代表たる為政者を選ぶのだ。いわゆる、民主主義というやつだな。まっ、政治を行うのは政府でも企業でも何だっていいんだが、そこに住む民衆の意見を反映させねばならない。正しい道とは、人々が望むことを行うことだ。企業の利益主義では、それは出来まい。違うか?』

 着地すると同時にキャノンに武装を切り替える。銃口はもちろんリバティに向けられている。

「確かに、貴様らの言うことには一理ある。しかし、時期と方法を見直せ。貴様らに国を作られると、世界中でテロの嵐が起きる。そんなことになれば、分かっているだろう」

『グローリィ君。さっき企業の政治能力を奪う、と言ったろう。世界中でテロリズムが吹き荒れてくれる方が、好都合なのだよ。だが、そこで我々インディペンデンスも力を削がれるかもしれない。そうならないために、我々は力を必要としている。君も、来ないか?』

「それでスカウトのつもりか。フリーマン、貴様に言っておく、私は民主主義を正しいとは思わない。民主主義では、間接的とはいえ民衆が政治を行う事になる。その民衆に、一〇〇年先が見えるのか?」

『成る程……確かにそうだが、企業が政治を行うよりかはマシだよ』

 通信機から、フリーマンの溜め息が漏れる。

『残念だ、私は君の力が欲しかったんだがね。我々と共に来ないのなら、殺すしかないな』


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 フリーマンが言うと同時に、リバティから強烈な殺気が放たれる。あまりの凄まじさに、体がシートに押し付けられるようだ。

「くっ……!」

 今まで戦ってきたどんな相手よりも、リバティの方が強い。今までの相手のプレッシャーは、フリーマンの物に比べればそよ風の様な物だ。

 リバティのインサイドカバーが開く。背中に光が集まり、リバティのオーバードブーストが発動した。迫ってくるリバティの姿が、ACではなく、何か強大な別の物の様に見えた。リバティの銃口が上がる。左にブーストダッシュを行うが、リバティはいとも簡単に対応してくる。

 連続で二度の衝撃に襲われ、機体の熱量が跳ね上がる。警告音が鳴り響く。損傷箇所をチェックすると、頭部にダメージを受けており、そのせいでCorusがダウンしていた。切り札であるCorusを使用したリミッター解除が、使用できなくなってしまった。

『どうした!? グローリィ君、君の腕はその程度の物なのかね!?』

 舌打ちしながら、動きを止めたリバティをロックサイトの中心に捉える。リバティがこちらに振り向く前に、両肩のレーザーキャノンを同時に放った。背後から攻撃したというのに、リバティはレーザーが発射される瞬間にブースターを吹かし、レーザーを回避。そのまま旋回し、バズーカをインテグラルに向け、放った。それを何とか避ける。

『もう少し殺気を隠したらどうかね? それでは、攻撃するタイミングを教えているようなものだよ』

「何だと……?」

 殺気を隠しきれていない、その言葉の意味が分からない。まさか、今までの攻撃が全て避けられたのは、トリガーを引く際に放たれる僅かな殺気の僅かな変化を感知していたとでもいうのか。だが、そんな事は有り得ないはずだ。

『君には武術の素養が無いらしいな。それでは仕方が無いかもしれんが、まぁ、そのうち分かるだろう。だが、その前に落ちて貰わないとな』

 リバティからミサイルが撃たれる。セオリー通りの、引き付けてから避けると、目の前にリバティが現れた。何時の間に、と思う間も無く至近距離からチェインガンが撃ち込まれ、装甲が弾けてゆく。

『そんな教科書通りの動きをしたら、移動先を敵に読まれてしまう。君ほどのパイロットが、分からないなんてことはないだろう』

 チェインガンをマガジン一セット分撃ち終えると、リバティは後ろに下がる。キャノンを撃つが、やはり易々と回避される。

「グローリィさん……申し訳ありませんが、撤退します。損傷率が七十パーセントを超えました」

「了解した。スプラッシャーを引き付けるから、早々に離脱しろ」

「了解……」

 スプラッシャーの位置をレーダーで確認し、機体を向ける。明星を追おうとしているスプラッシャーにレーザーキャノンを向ける。目的はこちらに気を引き付ける事だが、二体を同時に相手にすれば負けるどころか死ぬのは必至。可能な限りスプラッシャーにダメージを負ってもらわねばならない。二門のレーザーキャノンを向け、トリガーを引く。

 ティアーは明星にばかり気を取られていたのか、避ける素振りも見せずに二条のレーザーの直撃を受けた。かなりのダメージを与えたはずだが、行動不能にさせるにはまだ足りなかったらしい。スプラッシャーは明星からインテグラルに狙いを変えると、距離を詰めるため、ブースターを噴かす。

『ティアー。君は下がれ、インテグラルの相手は私がする』

 フリーマンがそう言うと、スプラッシャーは向きを反転させ、インディペンデンス基地に向かった。

「エレクトラだけでなく、ティアーも貴様らの仲間か……」

『いや、彼女はただのレイヴンだ。帰ったのはクライアントである私が言ったのと、君のほうが強いからだろう』

 そうか、と呟きながらもオーバードブーストを発動させる。左腕を振り上げると、リバティはチェインガンを構えた。距離は三〇〇、フリーマンはブレードでの斬撃を予想しているのだろうが、そんな気は無い。大体二〇〇ぐらいの距離でブレードを発生させ、左腕を振り下ろす。タイミングを合わせ、トリガーを引く。MOONLIGHTから光波が飛び出した。

 これは分からなかったらしく、リバティは慌てて回避行動に入るも、間に合わずに光波が直撃した。リバティが僅かに揺らぐ。その隙に、レーザーキャノンを叩き込んだ。

『ふっ、中々やるじゃないか。少しだけ、本気を出させてもらうとするか』

 リバティのオーバードブーストが発動する、ライフルを放つがやはり回避される。リバティは何もせず、インテグラルの横をすり抜けた。インテグラルが振り向くより早く、リバティの攻撃がインテグラルの背部に当たる。バズーカとグレネードの連続攻撃に機体の損傷度と熱量が跳ね上がり、機体が熱暴走を起こす。

 何とかモニターの中心にリバティを捉えるも、ジェネレーターの出力が低下している熱暴走中にエネルギー食いのレーザーを使うことは出来ない。

 またリバティはオーバードブーストを使用する。熱暴走中にレーザーを使うわけにいかず、敵の攻撃に備える。恐らくは、また先ほどと同じように横をすり抜け、背後から攻撃するつもりだろう。

 だが、グローリィの予想を裏切り、リバティはインテグラルの真横で止まると、インサイド含む全ての武器をインテグラルに向け放った。右腕が吹き飛び、コアパーツの右側も多大なダメージを受ける。エネルギーラインも寸断されたらしく、右肩のレーザーキャノンが使用不能になる。

 エネルギーが無くなるのもお構いなしで、ブレードを発生させ、上体を捻って突きを狙いにいく。しかし、リバティは撃ち終えるとすぐに後退し、僅かながらも届かない。

 そこにまた一斉砲火が浴びせられる。今度は左腕が吹き飛んだ。インテグラルに残された武器は、左肩のレーザーキャノン一門のみ。それの使用回数も、後僅かしかない。そんな状態で、自分より実力が上の相手に勝つなど、不可能だ。

「アンデル……作戦司令部に伝えてくれ、撤退だ」

「分かった。今回は、仕方が無いな……」

『撤退するのか、いいだろう。見逃してやる。我々に必要なのは、君を殺すことではなく、企業に勝利した事実だからな。グローリィ君、君が我々の下へ来ることを待っているよ』

 言い残し、リバティはインテグラルに背を向けてしまう。グローリィにもう戦意が無くなっていることを分かっているからなのだろう。リバティを後ろから撃ちたい衝動に駆られるが、撃ったところで避けられるのは目に見えている。

 インテグラルを反転させ、機体を歩かせる。インディペンデンス基地から遠ざかるに連れて、胸の中に悔しさがあふれ出してくる。あまりの悔しさに、モニターを殴りつけた。ディスプレイに蜘蛛の巣状の皹が入った。

 完全な敗北。どう考えても、実力差がありすぎた。どうすれば、この実力差を埋めることが出来るのだろうか。一体、どうすれば。



登場AC一覧 括弧内はパイロット名
インテグラル(グローリィ)&No5005hw02080wug01tglMhD0aU05qJMe010Y2#
明星(ミヅキ=カラスマ)&NG2w2F2w03gE00Ia00A0FM2A0ag5EsdIc0d0sw#
スプラッシャー(ティアー)&N82w2F2w03ME010a00oa1gE40aE5Qjh4W0f20J#
リバティ(フリーマン)&Nu50052w01x00BEa00Aa1gE60aUNOpY%23ui0F#

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