Armored Core Insane Chronicle
「Episode28 散華」
4月1日

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 前線に到着するやいなや、限界高度で機体が切り離される。出来るなら、ある程度高度を下げてから切り離してもらいたいが、戦闘地域で輸送ヘリがいようものなら、真っ先に狙われる。そのため、仕方なく高高度からの切り離しとなる。

 適度にブースターを噴かして落下速度を調整しながら降りてゆく。高度が下がると、赤く塗装されたテロリスト使用のOSTRICHが一機、こちらを向いた。どうやら気付かれたらしい。

 ミサイルでも飛んでくるだろうと思ったが、OSTRICHがミサイルを撃つ気配は無い。高度が下がるに連れて、OSTRICHの細部が明らかになっていく。そこで、OSTRICHにミサイルが装備されていないことに気付いた。ミサイルは金が掛かるため装備されていないのだろう。

 ミサイルが来ないのなら、回避行動を取る必要も無い。

 ライフルをOSTRICHへ向ける。OSTRICHは動く気配も無い。ロックオンは出来ていないが、射程距離には収まっている。トリガーを引く。ロックオンされていないため、安心していたのだろう。OSTRICHは大して動く様子も無く直撃を受け、地面に横転する。

 横転したOSTIRCHが火を噴くと同時に、地面に着地、僅かな硬直の後にペダルを踏み込みブースターを噴かす。この辺りは敵味方共にいないらしく、レーダーに全く反応が無い。

 ある程度進むと、赤と緑の光点が一つずつレーダー画面に映る。戦闘中なのか、二つの光点はめまぐるしく動き回っている。しかし、その内に緑の光点の動きが鈍りだし、最終的に動かなくなった。そして、次の瞬間にはレーダーから反応が消えた。

 勝利の余韻に浸っているのか、赤い光点は動こうとしない。ならば、これは好機だ。オーバードブーストを発動させて、一気に距離を詰める。

 モニターに見慣れたACの姿が写る。リニアライフル、リニアガン、六連装ミサイルにブレードを装備した赤いAC、レッドドラゴンがテスタメントの残骸を見下ろしていた。地面には他にも明星、アリッサムの残骸が転がっている。

 武装をカルテットキャノンに切り替えて、レッドドラゴンをロック。そこでようやくこちらに気付いたらしい。レッドドラゴンがこちらを向くが、遅い。

 レッドドラゴンが回避行動に入るが、タイミングが遅い。レーザーがレッドドラゴンの右腕に直撃し、右肩の付け根から吹き飛ばした。

『このっ、猟犬が……!』

 体勢を立て直すためか、レッドドラゴンが後退の気配を見せる。追撃しようとしたが、長時間のブーストダッシュ、オーバードブーストの使用、その直後にカルテットキャノンを使用したために、エネルギーゲージがレッドゾーンに差し掛かろうとしている。この状態で追撃しても、攻撃することは不可能だ。

 舌打ちして、後ろに下がるレッドドラゴンを眺めるしかない。だが、レッドドラゴンは距離を九〇〇ほど置いて停止した。

「逃げないのか?」

『逃げる? バカを言わないで下さい。私はエレクトラ、紅い龍を駆るインディペンデンスの戦士です。逃げるわけが無いでしょう』

「そうか。ならば、ここで決着をつけようじゃないか」

『いいでしょう。あなたと私、どちらが正しくてどちらが間違ってるのか、ハッキリさせましょう』

 一拍置いた後、インテグラルMとレッドドラゴンのブースターが同時に火を噴いた。


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 インテグラルはレーザーライフルを、レッドドラゴンは肩のリニアガンを同時に向け合った。狙うのも同時なら、撃つのも全く同じタイミング。そして、回避行動も同じタイミング。しかし、レッドドラゴンはこれまでのダメージもあるのか動きが鈍い。

『この犬がぁ!』

 叫びながら、レッドドラゴンは左腕を振り上げてさらに距離を詰める。切羽詰っているのか、レッドドラゴンから放たれる殺気は尋常ではない。いや、既に殺気ではなく、ある種の狂気と呼ぶべきか。

 普段ならばレッドドラゴンの行動に応えるところだが、どれだけ卑怯と言われようとも今日ばかりは勝たねばならない。

 応えるように、ライフルを下ろしてブレードを構える。だが、ブレードで勝負を決める気は無い。

 ブレードの間合いに入り、レッドドラゴンがレーザーを発生させて左腕を振り下ろそうとする。その瞬間、インサイドのロケットを放った。

 衝撃を受けてレッドドラゴンの動きが止まる。そこに、レーザーブレードを振りぬいた。レッドドラゴンは回避に入るも、まともに避けれるわけが無い。機能停止とまでは行かなかったようだが、コアパーツに深々と斬撃の跡が残る。

 無理なタイミングで回避行動を行ったせいか、レッドドラゴンの動きは鈍い。ライフルを撃ちながら、カルテットキャノンの照準を合わせる。

 レッドドラゴンはライフルの全てを避けるも、回避パターンが一定していた。今までは、そうではなかったのだが、一体、彼女に何があったのか。だが、気にしている余裕など無いし、気にする必要も無い。

 避けるであろう方向へあらかじめ砲口を向けておく。

 ライフルを放つ。

 読みは当たっていたようだ。予想していた通りに、カルテットキャノンの砲口の先にレッドドラゴンが自らやって来た。ロックサイトの色が、ロックオンしたことを告げる赤色へ変わる。

「これで、終わりだ」

 ぼそり、と呟いてからトリガーを引く。四条のレーザーが真っ直ぐ、レッドドラゴンへと向かっていく。確実に、直撃するコースだ。レッドドラゴンが回避行動に入ろうとする。時間の感覚がやけに長く感じられた。世界がスローモーションになっているようだ。

『まだ、まだ終わらせない!』

 エレクトラの声で、世界が通常のスピードに戻る。レーザーがレッドドラゴンに直撃し、爆音が轟く。爆煙と舞い上がった砂塵により、レッドドラゴンの姿は見えない。

「やった……か?」

 砂塵の向こうに影が見える。その中から、砲弾が飛び出す。回避行動に入るも、タイミングが遅い、加えて距離も近い。コアパーツへの直撃は免れない。咄嗟に、左肩でコアパーツを庇う。

 直撃。即座にダメージレベルを確認。左腕は吹き飛ばなかったようだが、ブレードが潰れた。無駄なウェイトになるため、ブレードをパージ。幸い、ジョイント部までは壊れなかったようで普通にブレードを外すことが出来た。

 砂塵が収まり、中から両腕を失ったレッドドラゴンが姿を現す。恐らく、先ほどの一撃を左腕を犠牲にして被害を最小限に収めたのだろう。しかし、流石に防ぎきれなかったらしく、全身至る所から火花が散っていて、傍目には動くかどうか分からないという状態だ。

 それでも、レッドドラゴンはその脚を一歩前に踏み出した。また一歩踏み出すが、地に脚を着けた瞬間、膝関節から火花が散りレッドドラゴンがバランスを崩す。それでも、前進するのをやめようとしない。

「何故、撃ってこない」

 レッドドラゴンがその歩みを止めた。通信機からエレクトラの小さな笑い声が聞こえた。

『弾切れです。明星、アリッサム、テスタメントの三機と戦ったせいで弾が残ってないんですよ。EOも残弾はありません』

「そうか……」

 ならば、戦う理由は無い。戦闘能力の無い相手を倒すのは、虐殺するのと同じことだ。側に落ちていた黒いACの腕に付いていたTAROSを取り外し、それを左腕に装備してからレッドドラゴンの横を通り過ぎた。


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『殺しなさい』

 空耳かとも思ったが、振り返ってみてそうでないと気付いた。

 戦闘能力を失い、動くのがやっと程度のロボットと化したレッドドラゴンがこちらを向いていた。

「何故、君を殺す必要がある? 戦闘能力の無い今の君を殺す必要は無い」

『私はレイヴンではありません。私は、インディペンデンスの戦士です。あなたに生かされるなど、屈辱でしかありません。だから、殺しなさい』

「ならば投降するなり撤退するなりしろ。屈辱だったかどうかは、後で考えればいい。君はまだ、一九歳だろう。やり直しなど幾らでも効く、気安く殺せなどと言うな」

 しばらく、間が空いた。

『あなたは私が憎くないのですか?』

「エレクトラという一人の人間に対して憎しみは無い。私が憎んでいるのはテロ組織だけだ」

『ですが、私はあなたの憎むテロ組織の構成員です。そして実際にテロ活動に手を貸し、多くの人を殺めた。それでも、あなたは憎くないというのですか!?』

「君も、被害者の可能性がある以上は憎めない」

『それは……どういう……』

「君がフリーマンに騙されている可能性があるということだ。彼が本気で民主主義国家の建国を目指しているのか、怪しい節がある」

『そんな、そんな訳、無いに決まってるでしょう』

 言葉とは裏腹に、エレクトラの声は震えている。まさかとは思うが、彼女もある程度は気付いていたのかもしれない。

『フリーマンは私に、一晩掛けて民主主義の素晴らしさを語ってくれた……あの瞳は本物だった』

「それは君がそう思い込まされているだけではないのか? フリーマンの行動をよくよく考えてみろ、インディペンデンスをここまで巨大な武装勢力になったのはいつからだ? フリーマンが入ってからじゃないのか、それに戦闘指揮を執っているのもフリーマンだろう? 彼が望んでいるのは民主主義が支配する平和な世の中じゃない。紛争の絶えない世界だ」

『そんなはずありません。彼が、彼が、平和を望んでいない……そんなはず、あるわけないですよ。大体、何でそんな事をしなければならないんですか?』

「それは――」

 フリーマンの真意は分からないが、思い当たることが無いわけでもない。フリーマンがインディペンデンスに加担しだした二年前にあった出来事を考えれば、分からないでもない。

 二年前、ナービス紛争によって疲弊した企業が行おうとしたこと、それは合併して一つの組織になることだ。結局、話し合いがうまくいかずに合併は頓挫した。しかし、もし成功していたのなら、戦争の無い世の中になっていたことだろう。何でも、この合併を阻止するために一部のレイヴンは反乱を計画していたらしい。

「レイヴンが必要とされる世界を作るため。フリーマンがインディペンデンスに加担し始めた二年前にあった、企業合併の話は知っているだろう? 噂だが、それを阻止しようとレイヴンが反乱計画を立てていたことも」

『じゃあ、何故インディペンデンスに加担をする必要があるんです? インディペンデンスは平和な世界を作ろうとしているんですよ……』

「だが現実はどうだ? 彼がやっていることは、戦火の拡大だ。それに、方法が戦闘を長引かせようとしていることが明白だ。いくら巨大とはいえ、インディペンデンスはテロ組織だ。企業との戦力差は、まさに月とスッポン。それだけ戦力差が空いていながら勝つには、電撃作戦を行って一気に中枢を抑えるしかない。だが、フリーマンはそれをしなかった。すれば、勝っていた可能性だってあるだろう。だが、彼はしなかった。何故だ?」

『それは……』

「それは、何だ? 電撃作戦なら、レイヴンを数名雇うだけでいい。インディペンデンスの資金力なら充分に可能だ。現に、今まで多くのレイヴンを雇ってきていただろう。だが、フリーマンはしなかった。半年前の状況で、電撃作戦を行っていれば、勝てていたかもしれないのに」

『そんな……フリーマンが――』

 火薬が爆発する音が聞こえた。次の瞬間、どこからか飛来してきたグレネード弾がレッドドラゴンの上半身に着弾。レッドドラゴンのコアパーツが吹き飛んだ。レーダーを見れば、三時方向に赤い光点がある。

 ブースターを吹かしながら、三時方向に機体を向ける。そこにいるのは、フリーマンのリバティだ。何故か左腕のグレネードライフルの銃口から青い煙が立ち昇っている。

『中々良い勘をしているな、流石だグローリィ。だが、他人に教えるのには感心しないな。君が言わなければ、私がエレクトラを撃つ必要は無かった』

「まさか、貴様本当に……」

『ふむ、教えてやろう。この戦いももうすぐ終わる。私の望む状態は造れそうにも無いが、まぁいい。グローリィ、君に私の真意を教えてやろう』


登場AC一覧 括弧内はパイロット名
インテグラルM(グローリィ)&No005905k3000Es0kzAa1ME72wgU8c5Ge082Y1#
レッドドラゴン(エレクトラ)&NHg00cE005G000I00all11A8lgVpkw8ka0fe00#
リバティ(フリーマン)&Nu50052w01x00BEa00Aa1gE60aUNOpY%23ui0F#

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