『L'HISTOIRE DE FOX』
 十弐話 緑狼 -部隊迎撃-

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 新しいブルーテイルに乗り込むと即座に起動させる。正面のモニターには新しいOSの起動画面が表示され、数秒と立たないうちに機体に異常がなく起動が完了したことを伝える表示が出てきた。さすがに最新のOSを入れただけあって起動が早い、伊達にお金がかかった訳ではないようだ。

 軽く右腕を動かして感覚を確かめてみると悪くは無い。むしろ以前よりもしっくりと来るような感覚があるくらいだった。直ぐに自機の横に置かれたコンテナに頭部を動かして正面モニターに表示されたカーソルを合わせる。

 新しくなったブルーテイルは以前までの全距離対応型の武装ではなく、近距離対応型に調節されている。同時に主兵装である右腕と左腕の武装は状況に合わせていくつか使い分けるパターンを準備していたのだ。

 そのため、今回はAC以外に武装が入ったコンテナをいくつか持って来ていた。一つにカーソルをあわせると自動で開き、中からデュアルレーザーライフルはACが取りやすいように斜めに立たせた状態で出てくる。同時に左腕用のレーザーブレードもあり。

 両方を装備して、FCSが使用可能にするためにデータを共有と修正している間にブルーテイルの横を通って出て行く赤いAC。イズモのファランクスだ。特徴的なキサラギ製コアに両腕がブレードの武器腕、高速接近戦型というところだろうか。

『先いくで、ソイル。』

 こちらに頭部を動かして、軽く平たい武器腕を振るとハンガーの外に出て行くファランクス。同時にコアの後方にあるOBカバーが上下に開いて、光が収束するように集まったかと思えば次の瞬間爆ぜたように。爆発的な加速で移動を開始した。

 こちらも武器との接続が完了したという表示を確認するとブルーテイルをハンガーから出して、同時にマップを開いた。今回はキサラギ施設の管制塔からレーダーをリンクさせた情報が表示されるようになっている。

おかげで装備されたレーダーの範囲が小さい頭部のものでもマップを開けばある程度周囲の情報が表示されるようになっている。南東へと高速で動くファランクスの表示の先にはMTらしい一団が表示され、そのさらに後ろには一機『Unknown(正体不明)』と表示されたものもあった。

 マップを閉じると直ぐに自分もOBのスイッチを入れる。独特のチャージ音とも言う音が後ろから聞こえたかと思えば次の瞬間、一瞬でブルーテイルは時速500キロを越える世界へと叩き込んだ。

 やはり実物とシミュレーションとは違う。叩きつけられる凄まじいGに歯を食いしばると同時に、眼球にかかる重圧に思わず目を細める。以前まで、自分の元の愛機のときだったら何度か投じたこの世界へ戻ってくるのは久しぶりだった。

 しばらくすれば慣れてきたのか、それほどきつくなくなってきた。同時に進行方向で何か爆発が見え、それがMTの爆発であるのは倒れていく人型の影からわかった。砕け散った破片からもうもうと黒い煙が上がる。

 その黒煙の間をファランクスがフロート脚部特有のふわりと浮いたような緩やかな軌道だが速い動きで次の目標へと迫っていった。相手はクレスト製の重装甲MT、CR−MT85だがマシンガンやバズーカを持った種類が入り混じっている。

 追尾性能の高いミサイルをファランクスが三発連続で発射し、それが命中するタイミングで一気にOBを使って接近していく。そしてMTがミサイルを食らってふら付いているタイミングで一気に懐へ飛び込むとブレードを連続で十字に叩き込む。

 斜めに走ったブレードがMTの重装甲をとかし、その強度を弱めると。その線が交差しているもっとも脆くなった部分へとブレードが突き刺された。背中にまで貫通したレーザーブレードにパイロットは焼き殺されたのだろう、次の瞬間ブレードが引き抜かれると同時に倒れこんだ。

 自分もOBを解除すると照準を近くのMTに合わせてトリガーを引く。デュアルレーザーライフルから放たれた二本のレーザーは狙いを外すことなくMTの頭部に命中して、あっさりと赤白く白熱させて溶かしたかと思えば貫通した。

 以前までのマシンガンとは比べ物にならない攻撃力。その分無駄撃ちできるほどの弾数は持っていないし、何より攻撃が散発的になるために命中させるにはトリガーを引くタイミングが難しい。ゆっくりと搾るように、立て続けにトリガーを引くとMTは爆散して黒煙を上げる。

 新しい乱入者であるブルーテイルにMTたちは驚いたようだが、そのタイミングを逃がすほどこちらも甘くは無い。ファランクスと一緒に次々とMTを倒していく中、後方にいるACが見えてきた。

 パーツ構成などから参照するとBアリーナ所属のB・リッチが操るミリオンダラーであると表示された。彼はMT部隊が戦っているというのに戦闘に参加しようとせず、いまだ後方で眺めているだけだったのだ。

『く、くそぉ!!なんでACが二体もいるんだよ、しかも一体は専属じゃないか!?情報部め、こんなの聞いてないぞ!?そ、それに早く、援軍まだなのかよ!!』

 一般回線での通信を開いたままなのか、彼のものらしい声が聞こえてくる。その声には余裕がなく、まるで子供のような泣き言らしい言葉が聞こえてきたのだ。そうして、彼の言っていた援軍という意味、それは直ぐにわかることであった。

 管制塔から直ぐに通信が入る。内容は北西に敵の第二波らしい所属不明機が接近しているとのことだった。それはACらしいのだが、それに対して直ぐに動いたのはファランクスだった。

『ソイル、悪いけどそのお坊ちゃんたのむわ。ウチはあっちの援軍を足止めするさかい、さっさと終わらしたらこっちに手伝いに来てや。』

 彼女のほうが機動性は高い。ブルーテイルが向かったのではOBを使ったとしてもつく頃には基地が戦場になりかねない距離にまで接近されているだろう可能性があるために妥当な判断だった。

 既に最後のMTを倒した彼女はこっちの返事を待たずに機体を反転させるとOBを起動させて移動を開始する。それに対してミリオンダラーは隙が出来たとでも勘違いしたのか、背後に向けてリニアライフルを放とうと照準を合わせた。

自分は彼女に答える代わりに、ブルーテイルをその射線上に割り込ませると射撃タイミングを奪うために無照準でデュアルレーザーライフルを放つ。足元に命中したその光にミリオンダラーは驚いたように、後ろへと下がった。

『なんだよおまえ!俺を誰だと思ってる、邪魔をするな!!』

「知りません、というか興味ありません。」

 言い放つとミリオンダラーの放ったリニアライフルを回避し、同時にこちらも反撃のミサイルを放った。いくつかがエクステンションとコアの迎撃装置で打ち落とすも残りはあっさりと、彼は回避できずに命中していく。

 その衝撃にふら付きながらもなおもミサイルとリニアライフルを放ってくるのだが、はっきり言って遅い。緩急をつけたフットワークであっさりと回避するとデュアルレーザーライフルをミリオンダラーの脚部へと向けて発射し、命中した装甲が白熱して関節から火花が上がる。

 これで機動性が低下しただろうタイミングでOBを起動させると一気に接近を開始した。同時にリニアキャノンを展開すると、必死で逃げようとするミリオンダラーに叩き込んで釘付けにする。

『な、なんだよ!?何で移動しながらキャノンが使えるんだよ!?反則だろ、それ!?』

 混乱したB・リッチの声を無視するとそのまますれ違いざまにブレードを右腕へと叩き込んで、リニアライフルと肘から先の部分が宙をまって地面へと落ちた。同時にOBも解除、片足を地面へとつけるとそれを軸にしてコマのように、ターンブースターも起動させるとぐるりと背後へと回り込む。

 そうしてほぼゼロ距離で、ミリオンダラーの頭部へと押し当てたデュアルレーザーライフルのトリガーを引いた。次は左腕、両足へと、戦闘が出来ない程度に戦力を奪っていくと直ぐにミリオンダラーを蹴飛ばしてその場に横転させ。

 両腕と足を失ったその機体ではもはや動くことも出来ないだろう、それを確認すると直ぐにでもイズモの援護に行こうとするのだが、次の瞬間マップを開くと驚くべき情報が表示される。敵影援軍らしいACはパンツァーディンゴと表示されていた……。


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 単独でキサラギの施設へと向かうパンツァーディンゴ。以前より攻撃性能を高めたるべく主兵装である右腕をスナイパーライフルからリニアライフルへと変更されている。そのパイロットであるクフィーはもう一度今回の依頼を思い返していた。今回のミッションはクレストからのもので、キサラギ施設の部隊による制圧支援だった。

 自分はただキサラギの施設護衛部隊を撃破して部隊が到着するのを待てばいいだけだったのだが、その仕事の打ち合わせ途中で予想外のことが起こった。それはB・リッチが急にこの仕事に参加することが決まったからだ。

 彼はクレスト重役の息子であるらしく、父親の後ろ盾を使って今回自分が請けた仕事に強引に入ってきたのだ。しかも最初は自分が単機で出撃して安全を確保するはずだったのに、彼は勝手に制圧部隊を連れて出撃してしまった。

 それに抗議しようにも、クレストはといえば今回は重役である彼の父の立場を考えて何もしようとしてくれない始末。まったくもって腹立たしい事だが、依頼は受けてしまった以上自分も参加するしかない。少しでもMT部隊から目をそらすために施設の反対側に回ることにしたのだった。

 これでB・リッチがMT部隊を護っているうちに、自分は防衛部隊を撃破してしまえば問題ないはずだった。しかし、その予定でさえ戦では容易に狂ってしまう。なぜなら防衛隊はMTではなく専属のACだったからだ。

 しかもミリオンダラーの進軍方向からこちらにOBを使って接近してきている。もしかするともうMT部隊も彼も全て撃破されてしまったのではないのだろうか?しかしミッションの失敗はクライアントから伝えられない、まだ続行している。そうなれば自分はこの専属ACを撃破する必要があった。

「専属の相手か……以前もミッションでプロフェット専属とやりあったが、キサラギ専属はどれほどの実力者なのか楽しみだ。」

 以前違う依頼でプロフェットの基地を襲撃する任務を受けたことがある。その際は偶然プロフェットの専属との戦闘になったのだが、勝敗はつけることが出来なかった。そのときのことを思い出しつつ、相手が射程距離に入ると同時にリニアライフルの照準を合わせてミサイルと一緒に発射した。赤い専属ACはそれにOBを停止し、スピードそのままに回避に入る。

 今装備しているタイプのリニアライフルは重量が重い分三連射まで可能なタイプで集中弾を叩き込めばかなりの火力がある。そのため、進行方向を予測するとすかさずリニアライフルをその地点へと連射で叩き込んだ。相手がミサイルの回避に軌道が制限されるために、その予測はそれほど難しいことではない。

 予想通り、ミサイルは回避できても専属ACはリニアガンの直撃を受けてふら付いた。フロート脚部は移動速度が速く、水面等ACの行動が制限される領域でも移動が可能である。しかし反面、安定性が悪い上にほかの脚部と違って性質上グリップが効かず急激な機動方向の変更が出来ないのだ。

『あんた、なかなかやるやないか。おもしろいやん!!』

「たいしたことは無い、ただそちらの動きが単調なだけだ。」

『はっ、言ってくれるやんか……いくでぇっ!』

 どこか楽しそうな声で通信が聞こえてくる。多分専属ACのパイロットなのだろう、ずいぶんと声は若く自分より若いぐらいだろう。心の中では内心彼女と同じであるが、直ぐに自分はそっけない答えで彼女に返事をする。相手からは少し向きになったような台詞が聞こえてきた。

 それは同時に本気を出してくるのだろうが、甘い。OBで一気に接近しようとするのだが、それはすぐにミサイルのよって阻み。少しでも動きを緩めればそこへと正確な攻撃がまた叩き込まれてくる。赤いACはたまらず接近をやめ回避に専念し始めた。

『あかんなぁ、これは……。一か八か行くしかないやろか…っ!!』

 相手は悩んでいる暇は無いのだろう。耐久力の低いフロートタイプの機体ではそう何時までも攻撃をくらい続けるわけにはいかないのだ。しかし武装から見てこちらに有効な攻撃は両腕のブレードだけしかない。つまりは接近戦で一気にけりをつけるつもりだろう。こちらは防御に優れる分足が遅く、接近戦には向かない。

赤いACはミサイルをエクステンションと同時に一斉射する。上と正面から飛来するミサイルがパンツァーディンゴへと一気に襲いかかり、同時にECMメーカーをインサイドから射出すると専属ACは全てのミサイルをパージした。さらにOBを起動する発光が機体後方に一瞬だけ煌くのが見える。案の定ミサイルを目くらましに接近戦をつもりだ。

 パンツァーディンゴは落ち着いた様子で左腕のシールドを構えると同時に、横へと平行移動させることでエクステンションの垂直ミサイルを回避しつつコアの迎撃機関砲で正面から襲い掛かるマイクロミサイルと追尾強化型ミサイルを撃ち落とした。数発が打ち落とされずに命中してくるがそれで破壊されるほど重ACは柔な装甲ではない。

 直ぐに出来上がった黒煙を切り裂いて赤い専属ACが表れる。そのまま凄まじいスピードで迫ってくるのだが動きは一直線で単純。しかしECMによる妨害を受けた今の状態ではそのスピードだけで十分照準があわせにくい。

 直撃さえ受けなければいいという考えか。まさにカミカゼ特攻、と言うやつだろうか。だがそれを正面から受け止めるほど自分もお人よしではない。相手のその直線的な機動をサイドステップで移動するとブレードを紙一重で回避する。いくら防御重視で重くて遅いパンツァーディンゴでも最小限の動きで行えば問題なく可能だった。

 それに焦ったようにファランクスはOBを停止させるが、直ぐには止まれずに背中のOBスラスター部分をさらしたところをそのままリニアガンの至近距離射撃が叩き込んだ。回避しつつの一瞬だったが命中弾は三発中一発、OB解除の一瞬の隙とこの距離ではFCSの補助による照準などつけなくてもなんとか命中できる。

 小爆発に吹き飛ばされたファランクスはOBでの加速とあいまって派手に地面へと正面から倒れこんでしまった。装甲表面を地面に削られ、各関節で火花を上げつつも腕で体勢を立て直そうと起き上がろうとするファランクス。しかし予想外にダメージは大きく、動力系にまで障害が出始めているのか動きは鈍い。

『くぅ……ま、まだや。まだウチは生きとる。まだ戦えるっ…!!』

「その闘志だけは賞賛に値する……。」

 もはや勝負はついたといえる状況だが、相手が戦うつもりなら仕方がない。リニアライフルを叩き込んで完全に行動不可能にしようと向けたそのとき、左のモニターに一瞬何かが光るのが見えた。それがなんなのか、判らないがクフィーは自然と操縦桿を引いて機体を一瞬下げる。それは勘と言う奴だったのかもしれないが、それは結果的いいほうに回った。

 なぜなら次の瞬間、今さっきまでパンツァーディンゴがいただろう位置を青白く、細長い閃光が凄まじい速さで走りぬけたのだから。それはレーザーとは違う、もっと熱量の高いものだったのだろう。軽くかすった装甲表面が一瞬で数百度に熱され、コア中央の迎撃機関砲が吹き飛ばされてしまった。

 直ぐにブーストで移動しつつ、機体をその攻撃があったに向けさせ。そこにはクフィーの見たことが無い機体ではあるが、見覚えのある青色のカラーリングがされた機体が突っ込んでくるところだった。同時に右手に持っている武装の砲身が帯電したように光を強め、ひと呼吸おいて放たれた。

 直ぐにパンツァーディンゴは盾を構えると機動を急激に変更して回避する。先ほどとまったく同じ閃光が走り、今度は紙一重で避ける。弾速はAC用の実体弾武装よりも明らかに速く、もし一瞬のチャージが無かったら回避できなかったかもしれない。直ぐにリニアライフルを牽制代わりに放ちつつ体制を立て直すと新しい敵ACへと攻撃を開始した。


登場AC

ブルーテイル  &Ls0055E003G000w00ak02F0aw0G013GENE1W0F2#
ファランクス  &Lw00542w05M003w00a00092wAa1Fb41g000qF3q#
ミリオンダラー  &LK0aE805k3w1l0E0lgEa052ww0EMew0NoFMeM2b#
パンツァーディンゴ  &Lq01gj00E1g0a1I00ayw092wyw3z9vAhA3kqg5r#

あとがき

色々あってかなり手直ししました。その際に関係者の方に迷惑をかけてしまい、この場で謝罪をさせていただきます。すみませんでした。
 その際にアドバイス等をしていただき、ありがとうございました。もっとよりよい作品を作っていけるように努力したいと思いまので、これからもよろしくお願いします。

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