『L'HISTOIRE DE FOX』
 十参話 青狐 -対AC戦闘-

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 ハンドレールガンを二発とも回避したパンツァーディンゴが右手のリニアライフルでの応戦を開始する。ブルーテイルもOBを解除すると直ぐに横方向へと移動を開始しつつ、左腕に装備したマシンガンで攻撃を始めた。破壊力よりも連射性に優れたマシンガンは命中精度が高いためにほぼ全ての弾がパンツァーディンゴに命中するがその分厚い装甲までは貫通できない。

 その弾幕を盾にしつつ、リニアライフルを回避したブルーテイルはまた右手の武装を彼女に向けてトリガーを引く。同時に三本のバレルが青白い光を放ちながら帯電すると、その中心部にエネルギーが収束していった。そうして一呼吸おいた瞬間、放たれた閃光は最初にパンツァーディンゴを狙撃しようとした光だった。それこそ今回持ってきた武装の中でAC戦を想定した装備のひとつ、ハンドレールガンである。

 先ほどミリオンダラーを撃破した地点からこちらへはほぼ基地の反対側であるために途中基地へとよることが出来た。そこで残弾数が少なくなったデュアルレーザーライフルを持ち変えることにしたのだ。情報では増援はACであることがわかっていたので直ぐに次の武装はハンドレールガンを選択し、左手にはマシンガンを装備しなおしてきたのだ。

レールガンは二本の伝導体製のレールと、同じように伝導体製の弾丸にお互い電流を流すことで生まれる磁場の相互作用を利用して高速で弾丸を撃ち出す武装である。電気抵抗により蒸発などでプラズマ化し、これ自体にも伝導体としての作用がありローレンツカが生まれるために高い熱量を持って撃ち出す事ができるのだ。

 これはヴォルフが特別に用意してくれたもので、対AC戦時に役立つだろうと話していた。確かにこの熱量の攻撃を食らえばACだってただではすまない、ラジエータの冷却性能を超える熱量による負荷があれば内部構造へと致命傷になりかねないこともあるからだ。それは即行動不能という意味へとつながりかねない。

 しかし、それも命中すればの話だ。確かにレールガンは弾速が通常の実体弾に比べ数倍はやい。だがレールガンには大量の電力を消費するという弱点とともに、トリガーをひいてからジェネレーターのエネルギーをバレルに帯電させてから発射までという溜めによる若干のタイムラッグが発生する。

 普通の相手ならそれは些細なことかもしれないが、彼女相手では致命的な問題である。それはまるで相手に『今撃ちます』と教えているといわんばかりであるのだ。いくら弾速が速かろうと発射されるタイミングがわかれば避けることは意外とたやすい。

 現に彼女は今放つ三発目もこちらのFCSの照準補正を上回る急激な機動変更で回避した。今回は一発目のようなギリギリの回避ではない、熱量のことも踏まえてなのかかなり余裕のある回避だった。想像はできていたがこうもあっさりだとため息を漏らしたい気分になる。

「やはり三度目では通用しませんね、あなたには。」

『その声、そのACに乗っているのはソイルか?』

 一般回線で通信を開き、話しかけると彼女は直ぐに声からこちらが誰かを理解した。そういえば機体を乗り換えた後に彼女とはまったく連絡を取っていなかったのだから知りようもないだろう。本当ならここで挨拶でもして話し合いで解決できたら一番楽なのだが、彼女はまったく攻撃の手を緩めていない。

『新しい機体に乗り換えたとは聞いていなかったが……面白い。この際ここで以前の借りを返させてもらう。』

「やはりそうなりますか……判りました、この施設の防衛ミッションにしたがってあなたを排除します。」

 やはりそう簡単にはいかない。その会話が終わるのと同時にパンツァーディンゴは攻撃の手を強めてくる。彼女はこちらに全てのミサイルを一斉射、襲い来るミサイルは全部で七発が一直線に向かってくる。同時にそれを目くらましにリニアライフルを連射しつつ接近を開始しはじめた。

 ブルーテイルは軽く後退しつつ、ミサイルへ向けて左腕のマシンガンを放つと同時にマイクロミサイルを放った。いくつかを撃ち落したがリニアライフルの弾までは撃ち落せるわけがなく、命中してシートと体をたたきつけられる衝撃に歯を食いしばる。パンツァーディンゴにもこちらのミサイルが命中したが装甲も重量も相手が上、こちらとは違ってふら付きもせずにミサイルとリニアライフルを連射して接近を続けてくる。

 ブルーテイルは直ぐに右手のハンドレールガンと左腕のマシンガンをまた正面から来るミサイルに向けると発射する。その撃ち出された高熱量と高速の弾にミサイルは焼き尽くされ、被弾し、いつくかが爆発していく。そこであえて前進して残されたミサイルが命中するだろうタイミングの手前でOBを起動し、ミサイル同士の僅かな隙間に機体を滑り込ませたのだ。

 急激に狭くなるような感覚に襲われる視界の中に、しっかりと捕らえたパンツァーディンゴは案の定こちらにリニアライフルを放ってくるところだった。ブルーテイルはさらに機動性を確保すべく肩武装も両方パージしつつ、それを急激な左右へのジグザグとした移動で回避しつつ一気に接近していき。

「ぅおおおおぉぉぉーーーー!!!」

 同時に自分の頭の中で血が沸騰するほどに熱くなるような感覚が襲ってくると、自然に雄叫びのような声を上げた。強化人間ゆえの強化された反射神経を極限まで酷使しつつ、目前にまで迫り来るリニアライフルをさらに紙一重で回避していく。さらに左腕のマシンガンまで捨てると格納スペースから予備のブレードを左腕に装備した。

 パンツァーディンゴはその凄まじい速さで迫り来るブルーテイルに攻撃を中止すると回避に専念し、先ほどの専属を倒した戦法と同じで背後をとるために意識を集中する。それはもし一瞬でも判断が遅れれば自分が逆にやられる状況下だ。パンツァーディンゴも傷ついた盾をパージしてブレードを装備しつつ、ブルーテイルのブレードのレンジに入った瞬間動いた。

 ブーストでブルーテイルの左側に回り込むようにしつつ、そのまま通り過ぎたとこを背後からリニアライフルを叩き込もうと右腕が上がる。OBの速度では急激な停止などが出来ない直線的な機動になるためにこれは普通の人間が回避するのは不可能に近い刹那の一瞬のはずなのだが。そこで予想外なことが起こる。

 ブルーテイルはOB中にターンブースターを起動させたのだ。それは横に移動したパンツァーディンゴのほうへと一瞬にして進行方向を変え、そのまま懐へと飛び込んでくる。クフィーもそれには驚いただろう、その一瞬に反応できないまま振られたレーザーブレードはその右腕のリニアライフルを手首ごときり飛ばした。

 しかしまだ左手のブレードが残っている。直ぐにそれを無理やりな軌道でも斬りつけて攻撃しようとした瞬間、逆にパンツァーディンゴの左腕を叩く衝撃。それはハンドレールガンだった。左腕の脇にねじ込んだと同時にトリガーが引かれ、閃光が今度はその左腕を貫通して肩から吹き飛ばす。

 これがブルーテイルの、ソイルの狙いだったのだ。ほぼゼロ距離にまで飛び込めばバレルの長い武装は小回りが効かない。だからあえてハンドレールガンはパンツァーディンゴの左肩があるだろう位置にねじ込むように構えながら突っ込んだのだ。そうしてブレードで右腕を、レールガンで左腕を壊して戦闘力を無力化する。

 しかし、だからといって容易なことではない。OB、ターンブースターにレーザーブレードとハンドレールガン。それらを同時に使用すれば自然と消費エネルギーは跳ね上がって、ジェネレーターには大きな負荷がかかる。現にコックピットにはエネルギー切れによるチャージとオーバーヒートによる強制冷却が行われているという警告音が響き渡っていた。

 背後のOBが強制的に停止させられ、勢いもそのままにブルーテイルはパンツァーディンゴに激突するとそのまま押し倒すような体勢で派手に二機そろって地面へとたたきつけられる。自分でやっておいてなんだが少しだけソイルは後悔した。まだ治りかけの傷にはその衝撃はかなり響いて、一瞬声にならない悲鳴を漏らしそうになる。

「うぐっ!? 〜〜〜〜っ!!?」

『な、にっ、なんて無茶っ!?』

 機体が接触しているために接触回線でクフィーものだろう声が聞こえ、次の瞬間大きく地面に弾き飛ばされるようにバウンドした二機は離れると、お互い別々のところに落下した。


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 ぼんやりした意識の中、自分の体を揺らす感覚に目が覚める。同時に体に走る痛みに思わずうめき声を上げ。ベルトをしていたとはいえ衝突はかなりの衝撃であった。胸にはそれで大きく負荷がかかったのか、少しだけ軽く咳き込む。まぁ、ベルトをしていなければそれこそどこかに頭でもぶつけて即死だっただろうが。

「あ、起きた。まったく、心配させんといてや。マジで死んだかとおもったで。」

「……勝手に殺さないで下さい。」

 眼の前にはこちらに手を伸ばして軽くぺちぺちと頬を叩いてくるイズモがいた。どうやらパンツァーディンゴと激突した時に気を失ってしまっていたらしい。ブルーテイルの状況を確認すると各関節が衝撃によるダメージを受けているのが表示されている。同時にレーダーも確認するが頭部のレーダー範囲内にはイズモのファランクスらしい緑の光点ともうひとつ、赤い光点が表示されていた。おそらくはパンツァーディンゴだろう。

「……あの、イズモ……クフィーは?」

「クフィー?ああ、あの日焼け姉ちゃんか?」

「……誰が日焼けだ。これは私のもともとの肌の色だ。」

 どうやら彼女のほうは無事らしい。イズモと同じようにブルーテイルのコックピットを覗き込む位置にクフィーが顔を出してきた。さすがに無傷とはいかず、自分の褐色の肌を日焼けといわれて少し不機嫌そうな表情を浮かべた頬には絆創膏らしいものが張られていたが少なくともこちらよりは軽症なのだろう。小さくほっとするようなため息を漏らすとベルトを外して、イズモに肩を借りながらコックピットから降りる。

 外は先ほどまで自分達が行っていた戦闘による黒煙とオイル、焦げたような妙な匂いが感じられた。ブルーテイルはコアの中央が奇妙にへこんだ形に変形しており、派手に激突しただろう後が見られた。さらにハンドレールガンはほぼゼロ距離ではなったために砲身が少し曲がったりしている。

「……また後でヴォルフに怒られそうですね。」

 苦笑交じりにそう呟くと、丁度良いタイミングで基地の方角からキサラギのものらしいヘリとトラックがこちらに接近してくるのが見えた。こちらを迎えに来たのだろう、イズモはそちらに向かって大きく手を振り出した。

「……一日目から大変な仕事になってしまいましたね。」

「まったくだ……まさかまた負けるとは思わなかった……。」

「そうやろか?確かにウチも負けて悔しいけどまぁしゃあないやろ。それだけクフィーの姉ちゃんが強かったんやし。でもソイルが倒してもぅたから……なんかウチ、ソイルにも負けたみたいで悔しいわ。」

 ため息を漏らす自分やクフィーとは違って、彼女はにっとどこか子供っぽいが気持ちのいい笑顔を見せつつ冗談をいってくる。自分はそれに小さく苦笑を浮かべるのだが、次の瞬間不意に唇に柔らかいものが触れる感覚があった。驚いて見開いた目の前にあるのは瞳を閉じたイズモの顔、つまりは……。

「っ!!!?」

「んっ……。…あはは、お礼やお礼♪結果的助けてもらったさかいな。」

「……い、いぃ…イズモおぉぉっ!! じょ、じょじょ、冗談は程々にしてください!!!」

「にゃはははは♪ええやん、減るもんやなしに♪」

 少しだけ過ぎた冗談……だと思うイズモの行動に思わず顔を真っ赤にして大きく声を上げると、それを彼女はまるで人をからかって遊ぶ子供のようにサッと逃げて着陸していくヘリのほうへと走っていった。それを追って走り出すほど自分は子供ではない、小さいため息の後に軽く唇を撫でるとまだ残っていそうなあの柔らかい感覚に思わずもう一度顔を赤くし。それを横で見ていて驚いたような表情を浮かべながらも、同じように顔を赤くしていたクフィーは一つ咳払いをし。

「す、すまないが私も一緒にいかせてくれるか?ここに置き去りにされるのは少々……。」

「え、ぁ、は、はい……まぁ、少しばかり色々面倒なことがあるかもしれませんがそのほうが良いでしょうね。」

 さすがにこのこちらの施設を攻撃しようとしたレイブンであるクフィーはあまり歓迎されないだろうが、ここに置き去りにされるよりはましだろう。周囲の町から遠く離れたここに一人で置き去りにでもされたらそれこその垂れ死にかねない。そんな時、ヘリの方からこちらを大声で呼ぶイズモの声に気がついた。

「はよ来んと置いていくで〜、ソイルにクフィーの姉ちゃん。」

 辺りを見回すと既にブルーテイルやファランクス、ついでにパンツァーディンゴまでもキサラギのスタッフによる回収が始まっていた。おそらくは最初に撃破したミリオンダラーも同様に回収されたのだろう。後一週間もこんな調子で仕事をしなければいけないのだろうか。クフィーとお互い顔を見合わせると、苦笑をうかべて歩き出した……。


登場AC

ブルーテイル  &Ls0055E003G000w00ak02F0aw0G013GENE1W0F2#
ファランクス  &Lw00542w05M003w00a00092wAa1Fb41g000qF3q#
パンツァーディンゴ  &Lq01gj00E1g0a1I00ayw092wyw3z9vAhA3kqg5r#

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