『L'HISTOIRE DE FOX』
 十四話 休息 -デート?-

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 新しくなったACに久しぶりのオーバードブーストを使った戦闘、その上一週間の防衛ミッションともなれば疲れはかなりのものであった。そのため久しぶりの休みで、その疲れた体を癒すために一日中でも寝ていようかと考えていたのだったが……人生はそれほど甘くは無かった。

「ソ〜イル♪」

 朝の八時を過ぎると同時に部屋のドアが開けられると寝ている自分の上に何かが落ちてくる凄まじい衝撃。もちろんこちらは熟睡していて無防備なのだからなにも身構えることなど出来ないわけで、腹部にかかる衝撃と重みに自分の中身が全て口から飛び出してしまうのではないか、というほどに感じた。

「〜〜〜〜っ!!?」

 なんと発音したらいいのか自分でも判らないような悲鳴を漏らしつつ、ぼんやりといまだに寝ぼけたような風にしか見えない目でその正体を確かめる。それはルナだった。自分の上にのるようにしているということはおそらく飛び乗ってきたのだろう。

ちなみに言えば彼女の体重は……何キロかはわからない。しかし身長からして40キロ以上あることは確実である。そんなものがどれほどの勢いかはわからないが寝ている人間にボディプレスを決めればどうなるかなど直ぐに想像がつきそうなものだが……顔を真っ赤にして咳き込む自分に彼女はずいぶんと間の抜けそうな言葉をかけてきた。

「ソイル、風邪?顔真っ赤だよ?」

「ごほ、ごほごほっ!? ル、ルナ、……けほっ…な、何するん、ですか……。ごほ、っ!」

 いまだ自分の上に乗ったままの彼女は熱でも測るように額に手を当ててくるが、もちろん風邪であるわけがない。無理やり退けるようと起き上がると彼女はそのまま布団ごと床にずれ落ちて転がってしまった。

「うにゃっ!?きゅ、急に起き上がると危ないよソイル!!」

「あ、すみません……じゃなくて!?朝からなんですかルナ!なにがあって寝ている僕にいきなりボディプレスをするのですか!?」

「違う、ボディプレスじゃない。フライングボディプレスだ!!」

「んなことどっちでもいいです!!ってか、大して変化ない気がするんですが!?」

 床から立ち上がるとなにやら威張ったように胸を張りつつ腕を組んで力説するルナ。そこまで話してようやく咳きも収まってきたので、少しでも落ち着こうとまずは深呼吸をすることにした。そうして呼吸を整えてから改めて彼女のほうに顔を向け。

「……で、ルナ。今日はどうしたんです?まさか朝食を作らせるためだけに僕をたたき起こしたもとい、潰し起こしたわけではない無いでしょう?」

「ああ、うん。確かにそれもあるんだけどね。この起こし方したのはやってみたかっただけ。でも結構こっちも痛いね……。」

 ずいぶんと迷惑な話だ。当たり所が悪ければ永眠しそうなほどのものをただやってみたかっただけとは……。さらに言えばそれも朝食を作らせるためだというのだから性質が悪い気がする……。しかし話し方からするとそれ以外にも何かあるようではある。

「痛いならもうこれからはこの起こし方はやめてくださいね!!当たり所悪いとお互い危険なので……。で、ほかの予定はなんですか?」

「うん、じっちゃんがソイルが暇そうにしてるからデートして来いって。」

「…………は?」

 多分それはかなり間抜けな声であったと思う。だって何で急にデートなんて?そんなこんなで、分けもよくわからないまま休日の朝は始まるのだった……。


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 軽く朝食を済ませると早速ルナと共に街のショッピング街へと歩いてきた。しかし別に何かを買いたいというわけでもなく、結果ふらふらとあても無く店を歩いて回ることにするのだった。まだ少し痛む腹部や胸を軽くさすりつつ歩くこちらとは違って、ルナはといえば偉く上機嫌に少し先を歩いている。

 今日はいつもの格好とは違って彼女はワンピースタイプのものを着ていて。普段見慣れた格好と違うというのは何処と無く新鮮であり、彼女も女の子であるということを再確認させるような気がした。

 最初に立ち寄ったのは洋服店だった。彼女は色々な服なんかを試着室に持って行って着ては待たせている自分に見せるようにしてカーテンを開いてきたのだ。少しだけ周囲からの視線が恥ずかしいものがあったが、彼女の楽しそうな笑みを見ているととても注意する気にはれなかった。

 結局何も服を買わずに店を出ると次に訪れたのはペットショップ。もちろんここも購入目的ではない、ガラス越しに見た子犬の姿にルナが我慢できずに入っていったのだ。すぐに店員が接客に出てくるが購入目的じゃないことを告げて店内を見せてもらうだけにする。様々な種類の子犬や動物を彼女は抱き上げたりなでたりして楽しんでいたが、最後ごろには本気で涙まで流しそうになりつつも手を振って子犬たちに別れを告げた。

 その次に訪れたのは映画館。放映中の映画はあいにく自分が見たいものはないようであったが、彼女はアクション物の映画が見たいと大はしゃぎ。大きなポップコーンと飲み物片手にいざ見始めたのはいいが、結局半分と見ないうちに横で寝息を立て始めてしまったのだった。起こしてあげようかと顔を覗き込むのだが、その無邪気な寝顔についついかわいそうになってそのままにしておくことにする。映画が終わった頃に丁度目を覚ました彼女は起こしてくれなかったことを少しだけ怒った。

 その後しばらくは怒って余り口をきいてくれなかったが、お詫びに昼食をおごると話した瞬間には笑顔で腕に飛びついてきた。ずいぶんと心変わりが早いものだと思ったが、とりあえず機嫌が直ったとほっとする。しかし腕に当たるのを感じる柔らかい胸らしい感覚に少しだけ鼓動が早くなった。とりあえず手ごろな店に入ると彼女は好物のビックハンバーグなる大き目のものを注文し、自分はサンドイッチとコーヒーを注文する。

 運ばれてきたハンバーグはかなりのもので10個分はありそうなものであり、それを注文した彼女にウェイトレスの人も少しだけ驚いていた。後で知った話だが、そのビックハンバーグなるものは大食い選手だって少し手こずるほどのものだったとか……。しかし彼女はそれを何の問題もなく数十分で食べ終わると満足げに笑顔を浮かべるのだった。

 そうして行く場所も特に思いつかなくなった頃、昼食休みも兼ねて近くにあった公園へと足を運んだ。公園内には鳩に餌をやったり、遊んで走り回っている子供達の声が聞こえてくるがそれほど多いわけではなく、空いている芝生を見つけるとそこに腰を下ろして休むことにした。

「はぁ〜……お腹一杯で動けないや。」

「それはアレだけのものを食べればそうでしょうね。その前にポップコーンも食べてましたし……。」

 芝生に寝転がって大の字になる彼女に苦笑を向けつつ、ふと空を眺めた。今日はとてもよく晴れた青空が見えている。こうして遊びまわったり、ゆっくりと空を眺めるなどずいぶんと久しぶりなような気がした。

「……ソイル、少しは気晴らしになった?」

「え……?」

「だって、ほら。空眺めて気持ち良さそうに笑ってるし。」

 気がつけば彼女は体を起こし、空を眺めていたこちらの顔を眺めていたらしいく。ルナの声を聞いてそちらへと顔を向ければ直ぐ傍に彼女の顔があった。

「ソイルはここのところずっと忙しかったし、ACのことばっかりだったでしょ?……一つの目標を見つけて頑張るのはいいけど、なんだか磨り減っちゃいそうで……。」

「……その気晴らしに、今日のお出かけだったわけですか?」

 迷惑だった?と聞きたそうな苦笑交じりに、彼女は小さく頷く。確かにそうだったかもしれない。もし彼女がこうして誘わなければ寝て起きたらまたACをいじっていたかもしれないからだ。ほかのことは何もせずに……それは彼女に心配させることであったようで、少しだけ悪いことをした気分になる。

「……すみません、ルナ。そしてありがとう……。」

 いまだ苦笑を浮かべていた彼女の頭に手を伸ばすとそっとなでる。一瞬きょとん、とした表情を見せる彼女だったが直ぐにどこか照れくさそうに頬を赤く染めて頭をなでられるのを堪能しているように首を前にかしげた。

「僕はソイルと今日……デートできて楽しかったよ。」

 小さく彼女はそういうと立ち上がり、集まっている鳩のほうに歩き出した。それを追って自分も立ち上がると歩き出す。丁度餌をつまんでいた鳩たちの中心に行ったところでルナは勢いよく振り返って見せた。同時にそれに驚いて一斉に飛び立つ鳩たち。

「僕はね、ソイルのこと結構本気で好きだからね〜!」

 数十羽の鳩の羽ばたく音の中、彼女はそれに負けないくらいの声で告白しながらこちらに少しだけ頬を赤く染めた笑顔を向ける。それに自分は、答えるように笑顔を見せると空から舞い落ちてくる鳩の羽の中、彼女を抱きしめるのだった……。


あとがき

恋愛物は苦手であることが判明、まだまだ修行不足でしょうか・・・。(汗
ちなみにルナの愛機は私の愛機でもあります。ミサイルばっかりですが、結構強いので、障害物が少ない場所だったら使ってみると面白いかもです。

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